語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【スウェーデン】の実験 ~1日6時間労働 six-hour workday~

2016年06月15日 | 社会
 (1)先進的なフレックスタイムや育児休暇制で世界をリードしてきたスウェーデン。
 1日8時間労働から6時間労働(six-hour workday)へ移行する実験を始めたことで、ふたたび世界から注目を集めている。
 この実験について、欧米のマスコミは次のように伝えている。
   「効率向上、離職率低下」【2015年秋、英紙「ガーディアン」】
   「労働時間短縮で大きな成果」【2016年春、米有力紙「ニューヨーク・タイムズ」】
 ここから想像できるポイントは、「6時間労働=生産性アップ」だ。

 (2)実験の主舞台となったのは、スウェーデン第二の都市イエーテボリの公営老人ホーム(nursing home)「スバルテダーレンス」だ。2015年2月、同老人ホームの介護職員は週30時間労働(six-hour workweek)を義務づけられ、1日6時間の勤務体系で働いている。従来の給与水準を維持したまま。
 狙いは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を意味するウェルビーイング(wellbeing)の向上だ。
 これまでのところ、「スバルテダーレンス」では職員が活力を取り戻す一方で、入居者が介護サービスの向上に喜ぶなど、大きな成果が確認されている、とのこと。
 アン・カルロッテ・ダールボム・ラーソン・「スバルテダーレンス」責任者は、「ガーディアン」紙上で、「1990年代以降、仕事が増えているというのに、人が減っている。こんな状態は続けられない」と語り、ワークライフバランスの改善が何よりも重要だと指摘している。
 <過労のため介護職員のストレスが高まり、病欠が頻発するようになりました。ワークライフバランスが崩れると誰も得しません>

 (3)「スバルテダーレンス」の実験に刺激され、スウェーデンでは6時間労働を採用する職場が相次いでいる。
 <例>病院としては欧州最大級の「サルグレンスカ大学病院」。整形外科所属の医師や看護師を対象に、6時間労働を取り入れた。
 新興IT(情報技術)企業などの間でも6時間労働の人気が高い。

 (4)6時間労働の有効性を示す研究も出ている。
 ジョン・ペンカベル・米「スタンフォード大学」教授が2014年にまとめた研究では、
   <労働時間を減らすと生産性が高まる>
という結果が明らかになった。逆に言えば、長時間労働は欠勤や離職につながって生産性低下を招くというわけだ。

 (5)実は、6時間労働のパイオニアとして知られるスウェーデン企業は、イエーテボリでトヨタ車の販売やメインテナンスを手がける「トヨタ・サービス・センター」だ。十数年前に、6時間労働へ移行している。「ガーディアン」紙でも「ニューヨーク・タイムズ」紙でも成功例として取り上げられている。
 「過労死(karoshi)という言葉が英語として定着していることが象徴するように、海外では長時間労働の国として知られる日本。かつては「エコノミックアニマル」として恐れられた。
 その日本で生まれたトヨタ車を扱うディーラーが、6時間労働のパイオニアというのは、何かの巡り合わせだろうか。

□牧野洋(ジャーナリスト兼翻訳家)「six-hour workday/1日6時間労働 ~Key Wordで世界を読む No.96~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月11日号)
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 【参考】
【米国】保育危機 child care crisis ~保育費が大学授業料を超える~
【米国】トランポノミクス ~ドナルド・トランプの経済政策~
【IT】米IBMはもはや「コンピューターの巨人」ではない ~Medium Blue~

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