語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【EU離脱】嘘の「公約」で多数派を勝ち取った政治家たち

2016年06月29日 | 社会
●「公約」の誤りを告白するファラージ英独立党党首

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□「EU離脱派、投票後悔 造語流行、公約に誤りも」(日本海新聞 2016年6月29日)

 *

●「公約」を反故にする離脱派政治家 ~英国独立党党首、元保守党首~

 国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国で、離脱派が語っていた「バラ色の未来」が急速に色あせている。旗振り役の主な政治家が、投票に向けた運動で語ったことの誤りを認めたからだ。「公約」を反故(ほご)にするような動きに、残留派からは不満が噴出している。

 離脱派は運動中、EUを離脱した場合、英国がEUに拠出している負担金が浮くため、財政難にあえぐ国営の国民保健サービス(NHS)に「週当たり3億5千万ポンド(約480億円)を出資できる」としていた。離脱運動の公式団体の宣伝バスに大きく印刷され、スローガンとなった。
 指導者の一人、英国独立党(UKIP)のファラージ党首は24日に英メディアで、負担金の予算が浮くと主張したが、その使途は確約できないと語った。このスローガンは「離脱派の過ちだった」とも発言した。
 保守党のダンカンスミス元党首も26日、出演した英BBCの番組で「自分は言ったことはない」と発言。NHSのほか、教育予算や研究助成金に上乗せできるとした主張は「あくまでも可能性の話」と述べた。
 こうした動きに、親EUで若者の支持率が高い自民党のティム・ファロン党首は、「離脱派キャンペーンはうそによって人々の怒りをあおった」と批判した。
 残留派のハモンド外相は26日に英メディアで、「英国民に矛盾した約束をした」と離脱派を批判。離脱派がEUからの移民の抑制と単一市場への完全アクセスを同時に求めている点について、「一方を追求すれば、他方を犠牲にせざるを得ない関係にある」と指摘した。
(中略)
 離脱派の公式団体「ボート・リーブ(離脱に投票を)」の公式サイトは27日現在、「ありがとう」というメッセージだけが表示され、EU離脱でかなえられるとした事柄を羅列したキャンペーン資料へのリンクがなくなっている。
 国民投票の再実施を求める英議会の請願サイトには、27日午前10時(日本時間27日午後6時)現在で、360万以上の署名が集まった。英メディアによると、請願の発起人とされる男性は離脱派で、投票日前に国民投票で残留派が勝つと予想して始めたものだった。

□「EU離脱、バラ色のはずが…旗振り役が「公約」を反故」(朝日新聞デジタル 2016年6月28日)


 *

●本気でEUから離脱させる気はなかったジョンソン次期首相候補

 欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国の国民投票は、多くの移民が暮らす英国社会や、「連合王国」を形づくる4地域の間に深い亀裂を生んだ。英国の与党・保守党内の政争の具とされた国民投票は、民意を刺激し、国内に癒やしがたい傷を残した。

 「望んだ結果ではなかった」。国民投票で残留を訴え、敗北したデービッド・キャメロン首相(49)。27日、英下院での緊急演説で唇をかんだ。
 議場に、次期首相の最有力候補と目される保守党下院議員、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長(52)の姿はなかった。
 2人とも、名門私立イートン校からオックスフォード大学に進んだエリート。ジョンソン氏が先輩だ。
 ジョンソン氏は、離脱派の旗振り役として「主権を取り戻せ」と訴えた。
 かつて英紙のブリュッセル特派員として、欧州統合の機関の官僚主義を酷評してきたジョンソン氏。「非民主的で、無駄が多く腐っている」など、これまでもEU批判の発言はあった。
 だが今年2月下旬、人気政治家のジョンソン氏が、EU改革にとどまらず、さらに過激な離脱の主張を始めたのは人々を驚かせた。
 背景には、自らの存在感を高め、政敵を出し抜こうという思惑があったとみられている。
 ジョンソン氏本人は、国民投票で離脱派が敗れると予想していただろう――。保守党閣僚は、英紙にそう語った。敗れてもEU懐疑派が多い党支持層の間で株が上がれば、次の首相への可能性が増す。そんなシナリオを描いていたようだ。
 一方のキャメロン氏がEU離脱を問う国民投票の実施を打ち出した上で、残留を訴えたことにも政治的な思惑があった。
 2013年、国民投票の実施を表明。15年の総選挙の公約にも掲げた。
 13年当時、保守党内ではEUに権限が集中する状況に「EU懐疑派」の不満が募り、キャメロン氏の求心力を脅かしていた。また移民規制を掲げる英国独立党(UKIP)が保守党の支持層に食い込んでいた。
 「国民投票」を掲げることでUKIPを抑えられ、EUからも有利な条件を引き出せると踏んだ。EUから得た条件を手に国民投票で残留を勝ち取れば、EU懐疑派を抑え込めるとの計算もあったとされる。
 15年の総選挙は勝った。だが国民投票は敗れた。
 政治家たちの「賭け」と「誤算」は国論を二分し、国民の暮らしと世界経済を危機にさらした。
(後略)

□「「政争の具」で王国に深い傷 英保守党、国民投票の誤算」(朝日新聞デジタル 2016年6月29日)
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【雇用】定年後の再雇用、給料引き下げは違法 ~東京地裁判決~

2016年06月29日 | 社会
 (1)再雇用時の給料引き下げは違法である。・・・・2016年5月13日、東京地裁で再雇用の労働条件に関する興味深い判決が下った。
 訴えたのは、定年後、1年契約の嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3人。仕事は定年前と同じ。ただし、給料は変わった。嘱託社員に係る就業規則に基づき、定年前の正社員時代比べて3割減の年収となった。
 これに対し、「特段の事情がなければ、同じ業務内容で正社員と再雇用後の嘱託社員の間に賃金格差があってはならない」と、東京地裁は、会社側に、定年前の正社員時代の給料との差額分(400万円)を支払うよう命じた。

 (2)何が興味深いかというと、定年後の再雇用の給料引き下げで「労働契約法」20条違反が認められた初めての判決だったからだ。
 「労働契約法」20条は、2012年改正で追加された条文で、有期契約労働者と期間の定めのない労働者(いわゆる正社員)の間の「不合理な労働条件の違い」を禁止している。
 不合理かどうかの判断のポイントは、
   ①業務の内容と責任の重さ
   ②配置転換や転勤の有無
の二つ。さらに、
   違いを設けるだけの特別の事情
を加え、総合的に判断する。

 (3)かつては、60歳の定年でリタイアするのが当たり前だったが、今は定年後も働き続ける人がたくさんいる。「高年齢者雇用安定法」が改正され、65歳まで雇用する制度の導入が義務づけられたからだ。
 65歳まで雇用する制度は、
   ①定年の廃止
   ②定年年齢の引き上げ
   ③再雇用(継続雇用)
の三つの方法があり、多くの会社が③を選択した。
 なぜか。
 ③は、定年で退職した会社、あるいはグループ会社に再就職する制度だ。つまり、正社員時代の労働契約は定年でいったん終了するというのがミソ。再雇用時には新たな労働契約を結び直すことができるため、再雇用制度を選んだ会社が多かったのだ。そして、多くの会社が「1年契約」などの有期契約で、定年前よりも低い給料水準で再雇用後の労働契約を結び直している。

 (4)「労働契約法」20条は、(3)の改正「高年齢者雇用安定法」の後にできた。
 「再雇用後の有期契約は、高年齢者雇用安定法の65歳までの雇用を確保するための特別な有期契約だから、労働契約法20条で不合理な労働条件の違いが禁止されている有期契約とは別のもの」
 こう考えて、給料だけ下げて定年前の正社員時代と同じポスト・業務内容のままで再雇用する会社がたくさんあった。
 (1)の東京地裁の判決は、
 「再雇用後の有期契約は特別な有期契約だ」という会社の言い分は通用しないことをハッキリと突き付けたわけだ。

 (5)労働者にとっては心強い判決ではなるが、再雇用後の給料が定年前と同じになるのが一般的になるか、と言うと、それは怪しい。
 あえて定年前とは違う業務で再雇用することで、「労働契約法」20条違反を回避する動きが出てきている。
 今までは、
 「仕事は同じなのに、給料が下がった」
という不満をこぼす人が多かった。しかし、今後は、
 「慣れない仕事に変わった上に給料も下がった」
という切実な不満を抱く労働者が増えそうで、(1)の東京地裁判決は複雑な反響を招く。

□稲毛由佳(社会保険労務士、ジャーナリスト)「定年後の再雇用、給料引き下げは違法と東京地裁で初の判決下る」(「週刊金曜日」2016年6月24日号)
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