①薮中三十二『世界に負けない日本国家と日本人が今なすべきこと』(PHP新書 780円)
②産経新聞政治部『日本共産党研究 絶対に誤りを認めない政党』(産経新聞出版 1,300円)
③黒木登志夫『研究不正』(中公新書 880円)
(1)①は、元外務事務次官による優れた指南書だ。
<ロジックというのは、世界共通語のようなものである。異なる文化、異なる社会の人々が話し合う時、共通の理解に達するためには世界共通語が必要であり、ここでいうロジックは、ものの考え方としての共通語である。「自分が、なぜ、このことを主張するかといえば、それは、かくかくしかじかの理由があるからだ」ということを説明しなくてはいけない>
外交官のロジックの力を鍛えることが、日本の外交力強化に直結する。
(2)②を読めば、安倍政権が共産党を警戒する理由がよく分かる。
<公安当局は共産党の主張が気に入らないから監視しているのでえはない。破防法の調査対象団体という明確な法的根拠が存在するからだ。政府は、めったにこの事実を公表してこなかったが、安倍内閣は2016年3月22日、共産党について「現在においても破壊発動防止法に基づく調査対象団体である」とする閣議決定を行った。
1952年の破防法施行以来、共産党は一貫して対象だったとはいえ、閣議決定で明示するのは、政府関係者が「聞いたことがない」というほど異例の対応だった。
無所属の衆院議員、鈴木貴子の質問主意書に答えた形の答弁書では、共産党について《警察庁としては、「いわゆる敵の出方論」に立った「暴力革命の方針」に変更はないものと認識している》と明記したのだ。「敵の出方論」とは、共産党が唱えている「権力側の出方によっては非平和的手段に訴える」との理念を指す>
公安調査庁や警察庁の主張は、史実に照らして説得力がある。
(3)③は、研究不正の事例研究と構造分析について踏み込んだ優れた作品だ。
<不正の定義に「悪意」「意図的」などの概念を加えると、法的に争うのが困難になる。説明責任は訴える方にあるため、「悪意」を証明できないと、裁判で負けてしまうことになる。理研がSTAP細胞事件の解明に及び腰だった理由の一つは、法律的に「悪意」を証明することの難しさがあったのではなかろうか。(中略)ねつ造、改ざん、盗用のような重大な研究不正は、無条件に研究不正として取り扱うことが基本である>
と著者は記すが、その通りだ。
大学や研究機関の事なかれ主義により、悪質な研究不正を行ったものに対して相応のペナルティーが加えられないような状態が続けば、今後も研究不正が起きる。
研究不正が起きるシステムを脱構築するために、研究者、政府関係者、科学記者たちの職業的良心に従った行動が要請される。
□佐藤優「研究不正が起きるシステム ~知を磨く読書 第152回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月11日号)
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【参考】
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「【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞」
「【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学」
「【佐藤優】何が個性で、何が障害か」
「【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~」
「【佐藤優】英才教育という神話」
「【佐藤優】資本主義の内在的論理」
「【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源」
「【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学」
「【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」」
「佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本」
「【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論」
「【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落」
「【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺」
「【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~」
「【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書」
「【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~」
「【佐藤優】社会の価値観、退行する社会」
「【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体」
「【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~」
「【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発」
「【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治」
「【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学」
「【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!」
「【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~」