語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】保育危機 child care crisis ~保育費が大学授業料を超える~

2016年06月06日 | 社会
 (1)ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」をめぐって議論百出となった日本。
 だが、深刻な保育園問題を抱えているのは日本だけではない。
 11月に大統領選を控える米国では、保育危機(child care crisis)が争点として浮上してきた。

 (2)米ケンタッキー州の予備選を控えた5月10日、民主党最有力候補のヒラリー・クリントン候補は同州を訪れ、保育危機の克服を公約として打ち出した。具体的には、自分が大統領になった場合には、保育費(child care cost)を世帯収入の10%以内に抑えると表明した。
 米ワシントンポスト紙によれば、集会で次のように語っている。
 <子育ては私たちにとって一番重要です。だから誰もが不安なく子育てできなければなりません。でも現実は違います。子育てはとんでもなく大変ですし、莫大なお金がかかります>

 (3)クリントン氏が指摘するように、米国では保育費が急騰し、多くの世帯にとって負担できない水準に達しつつある。
 主要都市部では、0歳児と4歳児2人の合計保育費は平均世帯収入の2~3割に達している【米シンクタンクの経済政策研究所(EPI))】。
 結果として、米国の州の半数近い23州で、4歳児の保育費が18歳大学生の学費を上回るようになった。そのうち保育費が特に高い州を見ると、いずれも自宅の家賃とほぼ同水準だ。
  (a)マサチューセッツ州
    4歳児の年間保育費:12,781ドル(約140万円)/大学授業料を20%上回る。
  (b)首都ワシントン
    4歳児の年間保育費:17,842ドル/大学授業料の2倍以上

 (4)EPIは昨年10月、次のような指摘を含む報告書を出した。
 <質が高くて信頼でき、利用料が手頃な保育園がかつてないほど必要とされている。大多数の世帯にとって共働きが必須条件になっているからだ>

 (5)保育危機を引き起こしている要因としては、保育費の急騰のほか、保育士(day care worker)の低賃金もある。この点では、日本と同じだ。EPIの調べでは、平均的時給は10ドル強にとどまり、他業種平均の17ドルを4割近く下回る。保育士の9割以上が女性で、しかも大多数が有色人種である点も問題視されている。

 (6)牧野洋の2013年までの5年間の米国生活(ロサンゼルス近郊)では、
   小学校の長女:学童保育
   長男と次女:保育園
で現在の為替レートで計算すると、毎月の保育費は20万円に達し、家賃とそんなに変わらなかった。それでも米国の基準では比較的安かったのだが、公的補助が出る日本の認可保育園では保育費は毎月数万円だった(日本でも無認可の保育園の利用料は高い)。

 (7)ブログ「保育園落ちた」が象徴するように、日本では保育園不足がなかなか解消に向かわない。認可保育園の「手頃な利用料」に注目すれば、米国よりずっと恵まれているとはいえ、「保育園落ちた」は就労を難しくして収入減を招く。子育て世代が大きな経済的負担を強いられているという点で見れば、日米は同じ保育危機に直面していると言える。 

□牧野洋(ジャーナリスト兼翻訳家)「child care crisis ~Key Wordで世界を読む No.95~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月4日号)
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 【参考】
【米国】トランポノミクス ~ドナルド・トランプの経済政策~
【IT】米IBMはもはや「コンピューターの巨人」ではない ~Medium Blue~