語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~

2016年03月25日 | 社会
 (1)高市早苗・総務大臣は、2015年11月の衆院予算委員会でも停波に言及している。そもそも、安倍政権は、2006年に発足した第一次から放送法を政権に都合よく解釈し続けてきた(当時の総務大臣は菅義偉)。
 <例>第一次安倍政権の看板政策とも言われた北朝鮮による日本人の拉致問題に関して、NHKのラジオ国際放送で重点的に取り上げるよう命令した。それまで放送の自由に配慮し、形式的だった命令内容に初めて個別具体的な政策を命じたのだ。

 (2)放送番組に対する総務省(旧・郵政省を含む)の行政指導は、記録がある1985年から2009年までに31件。このうち8件がわずか1年ほどの第一次安倍政権時代に集中している。
 2012年以降の第二次安倍政権では、衆院選前にTBS「NEWS23」に出演した安倍首相自身が街頭インタビューにクレームを付け、自民党もアベノミクスをめぐるテレビ朝日の報道に対して「公正中立」を求める文書を出している。
 自民党は、各放送局に選挙報道に対する「公正中立」を求める文書も出している。
 さらに、テレビ朝日「報道ステーション」のゲスト・コメンテーター・古賀茂明氏が、自らの番組降板の背景には官邸の存在があることを番組内で暴露すると、この「古賀発言」とNHK「クローズアップ現代」のやらせ演出問題に関して、自民党は責任者を呼んで事情を聴取。高市氏もNHKに行政指導を行った。

 (3)放送法4条を根拠にした行政指導や停波問題では、この条文の性格付けが繰り返し議論になってきた。
  (a)研究者解釈・・・・放送事業者が自律的に番組を編集する際の基準である「倫理規範」。
  (b)政府解釈・・・・行政処分の根拠となる法規範。
 高市氏はじめ安倍政権は、総務大臣による放送局への行政指導はあたかも当然のことだと見なしているようだが、全くの誤りである。

 (4)日本のように放送行政を大臣が直接所管する仕組み自体が世界的には異例なのだ。
   ①米国・・・・「連邦通信委員会」(FCC)
   ②英国・・・・「放送通信庁」(オフコム)
のように、政府から一定の独立性を持った機関が担っている。これは時の政権による放送支配を排除しようとする発想が背景にあり、日本も1950年に連合国軍による占領下に放送法が成立した時点では、電波監理委員会が放送行政を担っていた。しかし、1952年に占領が終わると即座に廃止し、旧・郵政省が所管することになった。
 そうした経緯から、長らく郵政省は、「番組の内部に立ち至ることはできない。放送法違反という理由で行政処分することは事実上不可能」という方針を貫いてきた。

 (5)郵政省の(4)の方針はしかし、1993年にテレビ朝日の報道局長が日本民間放送連盟の会合で「非自民党政権を成立させる手助けとなるような報道をした」と発言したことが政治問題化して大きく転換する。実際には報道局長が発言したような内容の報道ではなかったのだが、政府による放送への関与が強まることになった。

□神保太郎「メディア批評第回」(「世界」2016年4月号)の「(1)高市氏・電波停止発言と「抜かずの宝刀」」
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【メディア】政治的公平とは何か ~「NEWS23」への的外れな攻撃~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【保健】先進国では認知症が... | トップ | 【小林照幸】宝飾品を大衆化... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

社会」カテゴリの最新記事