語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】弾圧 ~国連の「記者クラブ」廃止論を隠す大新聞~

2016年06月01日 | 社会
 (1)日本における表現の自由について調査した国連特別報告者、デービッド・ケイ米カルフォニア大学教授(国際人権法)は、4月19日、暫定的な調査結果を報告した【注】。
 ケイ氏は、
 <特定秘密保護法と政府による「中立性」と「公平性」への絶え間ない圧力が、自己検閲を生み出しており、報道の独立性は重大な脅威に直面している>
と表明した。また、
 <自民党が憲法21条について、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」とする憲法改正草案を出している。これは国連の「市民的及び政治的権力に関する国際規約」19条に違反している>
と警告した。

 (2)ケイ氏は、19日に日本外国特派員協会で会見した際、最初に、
 <私に会ったジャーナリストの多くは冒頭から「匿名でお願いします」と言った。異例のことだ。彼らの多くが、有力政治家からの間接的な圧力によて、仕事から外され、沈黙を強いられた、と訴えている>
と語った。

 (3)ケイ氏はまた、政治的公平を定めた放送法4条を根拠に電波停止に言及した高市早苗・総務相発言を取り上げ、
 <政府は放送法4条を廃止し、メディア規制から手を引くべきだ>
と提言した。

 (4)ケイ氏が、
 <記者クラブ制度は廃止すべきだ>
と断言したのは画期的だ。ケイ氏は、記者クラブを“press club”ではなく“kisha club”と英語表記していて、日本にしかない排他的な情報カルテルと正確に捉えている。
 ケイ氏は、
 <記者クラブ制度は調査報道を妨げ、メディアの独立性に対する障害になっている>
と指摘。また、
 <クラブと閣僚や高官とのオフレコ懇談によって、情報はオープン化しているように見えるが、人民はそれにアクセスできない。懇談やレクチャーのメモはメディア内部で広範囲に回覧されている。しかし、記者クラブ外では不透明さがある。同制度は情報へのアクセスを抑止するツールになっており、人民が、政府が何をしているかを知ることができなくなっている>
と強調した。

 (5)ケイ氏は、自民党が2014年11月にテレビ各局に威圧文書を送り、その1週間後にテレビ朝日の「報道ステーション」へ文書を送ったと指摘。その上で、
 <オフレコ懇談メモが広く配られ、特に放送関係者は圧力を感じている。例えば、15年2月24日には、菅義偉官房長官がオフレコ懇談で、番組名は言わず、自分の放送法の解釈に合わない番組があると繰り返し批判し、そのメモが記者の間で回し読みされたと訊いた>
と述べた。

 (6)ケイ氏はまた、政府の影響力に抵抗できるジャーナリストの横断的な幅広い職業的な組合組織をつくるべきだと延べ、報道評議会の設置を奨励した。

 (7)4月20日の主要紙の取り扱いは、
  (a)「東京新聞」だけ、ケイ氏の記者クラブ廃止提言を正確に伝えた。
  (b)「朝日新聞」は、「記者クラブの排他性も指摘した」とだけ報じた。
  (c)「毎日新聞」は、ケイ氏の会見を載せたが、記者クラブに関する発言には25日のメディア面の要旨で触れただけだ。
  (d)「読売新聞」は、ベタ記事で放送法改正を訴えたとだけ書いた。
  (e)「産経新聞」は、会見記事を載せず、25日にweb版で<国連特別報告者とは一体何者なのか?>などの見出し記事を載せた。
  (f)沖縄の二紙は、21日の社説でケイ氏を明確に支持した。
   ①「琉球新報」は、<氏が提言したように、放送法4条は廃止すべきだ>と主張。
   ②「沖縄タイムス」も、<ケイ氏は「公平か公平でないかを政府がコントロールしてはならない」と強調する。自由民主主義の核心を言い当てた言葉だ>と評価した。

 【注】「【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~

□浅野健一(同志社大学大学院教授)「国連の「記者クラブ」廃止論を隠す大新聞」(「週刊金曜日」2016年5月13日号)
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 【参考】
【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~
【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問
【メディア】への政治家による圧力は犯罪とならないのか ~停波問題~
【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
【メディア】高市総務相は「脅し」の政治家、報道は「健忘症」
【メディア】総務大臣には、停波命じる資格はない ~放送電波停止発言~ 
【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【メディア】政治的公平とは何か ~「NEWS23」への的外れな攻撃~
【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~


【メディア】弾圧 ~国連「表現の自由」調査官が懸念を表明~

2016年06月01日 | 社会
 (1)デイビッド・ケイ氏は、国連人権理事会に任命され、各国の「表現の自由」を調査している特別報告者だ。
 ケイ氏は、4月中旬、調査のため来日した。特に報道の自由について報道関係者や政府関係者、市民団体などに聴取し、中間報告書をまとめた。そこには、特定秘密保護法や放送法への危惧、そして「電波停止」発言をした高市早苗・総務相が面会に応じなかったことも指摘されている。

 (2)ケイ氏が今回の来日で特に強い関心を持ち、その問題を指摘したのが、安倍政権下で2013年末に強行採決され、成立した特定秘密保護法だ。そもそも、ケイ氏が来日したのは、彼の前任者であるフランク・ラ・ルー特別報告者が、特定秘密保護法に「深刻な懸念」を表明していた、という経緯がある。
 今回の来日調査を経て、ケイ氏は4月19日に東京都内で開いた会見で、こう指摘した。
 <何が秘密にあたるのかが、あまりに曖昧かつ広範囲です。日本の安全保障政策や原発に関する報道など、日本の人々が高い関心を示すであろう重要なトピックが、情報を既成されうるトピックでもあるという状況です。ですから、秘密とは何なのかについて、透明性の高いかたちで規制を設け、明確に定義をする必要があると思います>
 この法律によってジャーナリストが処罰されうる可能性が完全に排除しきれない点にも、ケイ氏は懸念を示した。
 <特定秘密保護法は実施の初期段階ながら、重大な社会的関心事について、メディア報道を萎縮させる影響をすでに生んでいまっています。関連して、内部告発者を保護する目的の公益通報者保護法についても、ジャーナリストや内部告発者を守ろうとする力が非常に弱いと言えます。この二つの法律について、「これを報道してしまうと法律的に罰せられるのではないか」とか「記事の書き方によっては刑事罰を被るのではないか」というような懸念が出てくるわけです。そういった危険性を排除していく必要があります>
 特定秘密保護法第22条第2項には、報道関係者の取材について「法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」と定められているが、ケイ氏は<何をもって『不当な行為』と判断されるのか>と、中間報告書の中で疑問を呈している。また、秘密の漏洩を「共謀し、教唆し、又は煽動した者は、五年以下の懲役に処する」などとする同法第25条も改正すべきだと指摘している。

 (3)ケイ氏が会見の場で、「法改正すべき」と踏み込んだ見解を示したのが、放送法だ。
 <放送法第4条には、「政治的に公平であること」と書かれているのですが、この条文はジャーナリストの職業的義務を謳っているようでありながら、放送免許の取り消しを行う政府権限とも混同されています。第4条の法律違反があれば、業務を停止させたり、電波停止を命じられると読めることは大きな懸念です。実際、さまざまな放送メディア関係者は、過去に処罰された例がないとしても、やはり脅威であると話していました。その脅威によってメディアが弱体化させられているという話を聞きました>
 その上で、ケイ氏は「第4条を削除するなど、放送法は改正する必要がある」と勧告した。
 ここまで強い意見を表明した背景には、やはり高市早苗・総務大臣の一連の発言があるのだろう。
 高市大臣は、2016年2月8日、衆院予算委員会で、「テレビ局が政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合、電波停止を命じることができる」との趣旨の答弁を行い、翌9日にも同様の見解を示した。
 このため、ケイ氏は何度も面会を求めたものの、結局、高市大臣は面会に応じなかったことも会見で明かした。
 そのことを高市大臣は、4月22日の総務省で開かれた記者会見で質問されると、「国会会期中だった」「九州の地震発生の対応もあり14日以降、外務省が面会の申し出を伝えてくれなかった」とぐちぐち言い訳をした。
 だが、ケイ氏のスケジュールを調整した関係者によれば、「いくら地震があったとはいえ、外務省が総務省にケイ氏の意向を伝えなかったとは考えづらい」「今回のケイ氏の最優先事項のひとつが、高市総務大臣との面会だった。予定が合わないから合えなかった、というのは無理があるのでは」とのこと。
 国連人権理事会に提出されるケイ氏の最終報告書がまとめられるのは来年で、ケイ氏が追加調査のため再来日する可能性もあり得るので、そのときも逃げ腰であるようでは高市氏も総務相を辞任するしかあるまい。

 (4)夏の参院選で大勝できれば、安倍政権は会見を目指す、としている。
 自民党の改憲案にもケイ氏の厳しい視線が向けられた。
 <自民党の改憲草案では、表現の自由を保障する憲法第21条「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」や結社を着せ宇刷る文言があります。日本人が誇りに思うべき素晴らしい21条を、改変しようというのは大きな問題です。それは、日本が批准した、市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条とも矛盾することになります。同規約の第19条は、政府がこうした市民の政治的権利を制約することに、大変厳しい姿勢をとっています。21条が改悪されると、市民運動への弾圧もより強力になるのではないかと懸念しています>
 ケイ氏の指摘どおり、自民党の改憲草案では「表現の自由」を含め、個人の権利が「公益」「公の秩序」によって制限される色合いが濃い。現在の憲法でも個人の人権が制限されることがあるが、それは政府の都合ではなく、個人と個人の人権が衝突した際の、調整機能にすぎない。そもそも現在の憲法は立憲主義に基づき、公権力の暴走から個人の権利を守るところに重点が置かれている。
 ケイ氏は、自民党の改憲草案が報道の自由や市民運動を弾圧するものになり得るとみているのだ。

 (5)表現の自由への弾圧の具体例として、ケイ氏は沖縄県辺野古沖での米軍基地建設反対運動への弾圧、自民党勉強会での百田尚樹氏の「沖縄二紙は潰さないと」発言を指摘。
 <日本政府に対しても懸念を伝えています。たとえば基地建設予定地周辺の海上での抗議活動、そして陸上での抗議活動に参加している人たちへの過剰な圧力などについて、警察庁、海上保安庁などと具体的に話をする機会がありました。両庁に対して、これからも問題を追及し、監視していきたいとつたえました>
 <とくに沖縄のメディアbなどに対する圧力は、非常に重要な問題と認識しています。沖縄のコミュニティの皆さん、そして日本政府とも対話を続けていきたいと思います>

 (6)シリア取材を計画していたフリーカメラマン杉本祐一氏が昨年2月、外務省にパスポートを強制返納させられた問題についても、<不適切な処置だと外務省に申し入れた><自らリスクを負い、紛争地で取材しようというジャーナリストがいるならば、彼らが自由に取材できるようにすべき>と批判した。
 
 (7)ケイ氏の会見直後の4月20日、ちょうど国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)の「世界報道の自由度ランキング」が公表された。日本は72位となり、先進7ヵ国では最低レベルという評価だった。
 民主党政権の鳩山由紀夫・首相(2010年)の時の11位からの凋落ぶりは、まさに危機的状況だ。
 憲法に保障された「表現の自由」、そして人々の知る権利を保障する「報道の自由」は、民主主義国家の土台を支えるものだ。それが、安倍政権の下で奪われようとしている。 

□志葉玲(フリージャーナリスト)「安倍政権の下で奪われつつある「報道の自由」 国連「表現の自由」調査官が懸念を表明」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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 【参考】
【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問
【メディア】への政治家による圧力は犯罪とならないのか ~停波問題~
【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
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【メディア】や高市発言にみる安倍政権の「表現の自由」軽視
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
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【NHK】をまたもや呼びつけた自民党 ~メディア規制~
【テレビ】に対する政権の圧力(2) ~テレ朝問題(9)~
【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~