花の四日市スワマエ商店街

表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

胸の泉に

2015年09月03日 | わたくしごと、つまり個人的なこと

“通勤電車で読む詩集”小池昌代編 NHK出版 生活人新書より

胸の泉に  塔 和子

かかわらなければ

  この愛しさを知るすべはなかった

  この大らかな依存の安らいは得られなかった

  この甘い思いや

  さびしい思いも知らなかった

人はかかわることからさまざまな思いを知る

  子は親とかかわり

  親は子とかかわることによって

  恋も友情も

  かかわることから始まって

かかわったが故に起こる

幸や不幸を

積み重ねて大きくなり

くり返すことで磨かれ

そして人は

人の間で思いを削り思いをふくらませ

生を綴る

ああ

何億の人がいようとも

かかわらなければ路傍の人

 私の胸の泉に

枯れ葉いちまいも

落としてはくれない

 

一言で言って貪欲な詩だ。この貪欲さを美しさにまで高める人が、塔和子という詩人である。若くしてハンセン病に罹患。詩作がこの人を支え続けた。「枯れ葉いちまい」の、なんというデリケイトな重さ。軽くて明るい言葉が並ぶ。しかし読後、その言の葉は水を吸い込んで、不思議な重みを増し、わたしたちの胸の泉に沈む。

 

ハンセン病を患った父親について放浪する子供。野村芳太郎監督の“砂の器”が思い起こされます。塔さんの詩を読むと、いつも胸があつくなります。ふうつなら閉じこもってしまう人が、ふれあいの大切さをうたう。強い方です。