29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

洗練度を高めるも商業的には不発だった新感覚ソウル

2017-03-10 20:29:31 | 音盤ノート
Jiva "Day Into Night" Solunari Music, 2007.

  R&B。Khari Simmons率いる米アトランタのソウル・バンドの二作目。洗練された人力グルーヴを作りだすバンド演奏で、ボーカルも数人入れ代わり立ち代わりで飽きさせない。けれども売れなかったみたいで、その後しばらく活動停止している。

  前作Sun & Moonに比べると、ボサノバ感は後退している。代わってシンセサイザーが目立ち、よりフュージョンに近づいたという印象。どの曲もクオリティが高いけれども、これぞというキラーチューンが無いのは前作と同じ。鮮やかで巧いのだけれどもインパクトがない。上品過ぎるのかもしれないなあ。

  P-Vineによる日本盤解説ではインコグニートが引き合いに出されているが、確かにUKソウルっぽい。なお日本盤にはボートラが一曲付されている。昨年、バンド名をKhari Cabral & Jivaに変えての三作目を発行しているが、Amazon.co.jpでの扱いがない。日本盤も出ないみたいだし、日の目をみないままこのまま埋もれてゆくのだろうか。
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研究室を引越した。さようなら配電設備

2017-03-08 23:34:05 | チラシの裏
  先月末、研究室を引っ越した。棟は同じだが、西北の部屋から、一つ下の階の南東の部屋に移動した。建物の改築といった物理的な理由以外では、あまり無いことだろう。旧研究室の階の他の研究室は、外国語を専攻する教員が埋めていた。来月4月から3人の新任教員(いずれも外国語の先生)が赴任するのだが、同階の空き研究室は二部屋しかない。新任の一人だけ別の階に研究室を設置するのはかわいそうだ、ということになり、同階で浮いていた図書館情報学専攻の僕が部屋を空けることとなった。

  引越しは面倒ではあったが、メリットもあった。旧研究室は棟の最上階の最北部にあって、いったい誰がこういう設計にしたのか、部屋の北側の壁は配電設備があった。正確には配電設備を覆う三つの扉があり、年に数回、点検のために施設担当者や業者が訪れる。そのため北壁には本棚を置くことができず、収納スペースが制約された。さらに酷いのは、配電設備を覆う扉が、風の強い日になると音を立てて動くことである。どうやら外気が屋上から配電設備のある扉の向こう側に吹き抜けてくるようなのだ。冬や春先の風の強い日などは、ギーギーを音を立てて扉が膨らみ、風が止むとバタンと音を立てて閉まる。これが本当に気持ち悪い。おまけに冬の西北の風を建物の中で最初に受ける位置にあるし、扉から外気が入ってくるしで、エアコンをかけてもなかなか部屋が暖まらず、非常に寒かった。

  これらにもう慣れたとはいえ、研究室移動の機会を常々うかがっていたところだった。そういうわけで、今回の引越しは渡りに船だった。新研究室は東向きで、中には余計な設備がないので、南北どちらの壁にもモノが置ける。僕の旧研究室に入ることになってしまった新任の先生は不運である。旧研究室の唯一のメリットは、空気の澄んだ冬の晴天の日ならば、西向きの窓から遠く彼方に富士山を拝むことができたことである。そんな日は年にそうそうなく、また学内にそのような研究室も多くないので、富士山を目にした瞬間だけはうざい配電盤を許せる気分になる。
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公的機関はデフォルトルールを設定して人々を誘導すべし

2017-03-06 22:36:09 | 読書ノート
キャス・サンスティーン『選択しないという選択:ビッグデータで変わる「自由」のかたち』伊達尚美訳, 勁草書房, 2017.

  選択アーキテクチャ論。『実践行動経済学』を一歩先に進めて、公的機関が消費者を誘導してもよいケースと駄目なケースを峻別することを試みている。その答えは、選択するのが難しくて時間がかかる場合で、かつ選択することが面白くも楽しくもない場合で、かつ判断を委ねる専門家を信頼できる場合だという。原書はChoosing not to choose: Understanding the value of choice (Oxford Univ. Press, 2015)である。

  上に示したケースでは、政府はデフォルトルールを設定することによって社会福祉を増進させることができるというのが骨子。そのケースとは?選挙の投票のような学習や反省が必要な機会において誘導はよろしくないが、年金や保険プランの選択の場合はデフォルトは効果を発揮する、と。法的に自動車の左側通行を決定するというのもそのケースだが、ちょっと特殊。予想される反論に対しては、デフォルトからは離脱できるのでこれは自由の侵害ではない。デフォルトを設定せずに、能動的選択に任せるのも、選択しないという選択に任せるのも、一種のデフォルトの設定であり、すでに世の中にはデフォルトが満ちている、などと議論を展開してゆく。解説の大屋雄裕も指摘しているが、デフォルトを設定する専門家についての議論は不十分である。「試行錯誤を通じて権限移譲のバランスを決めよ。正しい答えなどない」というのが著者の立場なのだろう。

  政府介入に対して懐疑的な人には新鮮な議論だと思う。ただし、JSミルの『自由論』で定義されるような自由の理解──他者危害がないならば愚行もOKである──が無ければ、その新しさがわからないかもしれない。しかし、まだ理論的には完成途上という印象であり、読んですぐに雌伏させられるというわけではない。一見するとおぞましい「行動を管理されることの安楽と幸福」について考えさせられる。
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ボサノバ要素ありジャズ要素ありのアトランタ産ソウル音楽

2017-03-03 21:45:06 | 音盤ノート
Jiva "Sun & Moon" Giant Step Records, 2005.

  R&B。ソウル・ミーツ・ボサノバだという話なので聴いてみたが、かなりソウル寄り。裏打ちリムショットぐらいが目立つボサノバ的要素で、初めて聴いたときは英国1980年代のブルーアイドソウル──スタイル・カウンシルとか──を思い出した。とはいえ、こちらの方がソウル度が濃い。爽やかながらも地味で、ジャズ要素もあり、洗練された大人の音楽となっている。

  米アトランタで活躍するKahari Cabral Simmonsをリーダーとするプロジェクトとのことだが、この人のことをよくは知らない。1980年代以降のブラック・コンテンポラリーに典型的だったシンセ+打ち込み、大甘なバラード曲は排されている。代わりに、1970年代初頭のニューソウル的なバンド演奏が展開されており、ベーシストがリーダーなのに予想よりファンキーさが抑えられているのと、エレピの音が目立つ点が耳をひく。曲もミドル・テンポのものが中心で、メロディも情感を抑えめである。渋いというほどではないが、キャッチ―でもないので、慣れないととっつきにくいかもしれない。

  コンセプトが面白い。よく練られたアレンジをすっきりと聴かせる手際は見事であり、かなり良い。しかしながら、キラーチューンが無くて、アルバム全体があっさり流れ過ぎてしまうのが難点。その点だけがとてももったいない。なお、日本盤がP-Vineから発行されており、4曲のボートラが収録されている。英国盤だとボートラ6曲なので、英国Expansion盤を入手したほうがお得である。
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因果関係をどう検証したらよいかについて簡単に説明

2017-03-01 22:37:00 | 読書ノート
中室牧子, 津川友介『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』ダイヤモンド社, 2017.


  統計分析のための実験または調査デザインについて解説する入門書。正確には、統計的仮説検定を実施するための「統制群」をどうやって作るかについての本である。もっと分かりやすく言えば、「比較用のデータの集め方」である。検定自体の説明はないので、本書だけで分析手法は完結しないが、潔い論点の絞り方だという評価もできる。

  相関関係と因果関係の違いから説き起こして、因果関係を検証できる実験法・調査法について解説する。理想としては「ランダム化比較試験」が実施できればよい。だが、それができない場合はどうするか。次善の策として「自然実験」「差の差分析」「操作変数法」「回帰不連続デザイン」「マッチング法」「回帰分析」が挙げられて、解説されている。それぞれの事例も興味深い──学力の高い高校に自分の子どもを行かせたいという親の期待とは裏腹に「勉強のできる友人に囲まれて高校生活を送っても、子どもの学力には影響がない」など。分析手法の詳しい説明は置いておいて、とにかく手法を通覧したいという向きには良い本である。

  なお、タイトルにあるような「経済学」の本ではないことは強調しておきたい。統計を使う文系領域で、世間の期待に冷水を浴びせるような実証結果を示すのが「経済学」だというイメージでもあるのだろうか。代わりに「社会学」と銘打っても捉えきれない内容だが、正確を期して「調査あるいは研究法」とという語を加えたら本書は売れないだろう。タイトルは苦心の産物なのだろうな。

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