29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

冒険的な試みながら、その結論には不満

2013-05-17 17:58:55 | 読書ノート
苫野一徳『どのような教育が「よい」教育か』講談社選書メチエ, 講談社, 2011.

  タイトル通りのモノグラフ。それによれば、現在の教育哲学は価値相対主義に陥り、公教育において何が「良い」ことなのかを判断できなくなっているという。規範なしには教えることができない。著者のこの問題意識には大いに共感させられるところである。こうした混迷に対して、現象学やヘーゲル哲学を参照しながら万人に許容できる教育の「良さ」の理論を打ち立てるというのが本書の試み。

  しかしながら、その説得はうまくいっていないように思う。結論として、教育は社会の参加者の「自由の相互承認」を実質化するよう行われるべきだということが主張される。だが、その答えはかなり抽象的なレベルにとどまったままで、公教育の具体的な方向性を得るには至らない。というか、教育哲学が価値相対主義に陥るのは「自由が相互承認された状態」についての意見の一致をみないからであり、そこをクリアできないと前進とはいえないだろう。

  以上のような不満はあるものの、著者の今後の理論構築次第というところだろうか。手堅い学説史研究とは異なる、一から理論構築を目指した大胆で冒険的な試みであり、そこは評価したい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アコギとベースのヴィルトゥ... | トップ | 前作よりややベース少なめギ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事