アラン・B.クルーガー『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』望月衛訳, ダイヤモンド社, 2021.
大衆音楽産業についての経済学。著者は1960年生まれの米国の著名な経済学者で、最低賃金を引き上げると雇用が本当に減少するのかどうかを調べた実証研究で知られている。オバマ政権時に政府顧問も務めた。本書のオリジナルはRockonomics: a backstage tour of what the music industry can teach us about economics and life (Currency, 2019)で、邦訳としては『テロの経済学』(2008)に続く二冊目となる。なお、著者は原著が出版される三か月前に自殺しているが、理由はわかっていない。
ストリーミングとライブコンサートの時代の大衆音楽を俎上にのせている。「ネットビジネスにおいてはロングテール領域でも収益になる」なんて話がかつてあったが、全然そういうことにはなってはおらず、ストリーミングでもライブでも上位の一握りのアーティストに人気が集中し、寡占化が進んでいるという。レコードやCDが主力だった時代に存在していた中堅どころのアーティストは食っていけなくなり、ビッグネームとその他大勢というように分化しているとのこと(ただしパイの大きさは拡大しているからその他大勢の側にあっても楽観していい、とも)。このほか、バンド内の収益配分、コンサートツアーやストリーミングにおける関係者のそれぞれの取り分、ヒットは運次第、アーティストの平均的な収入は低い、中国の動向、人はローティーンの時にハマった音楽を一生聴き続ける、などのトピックが並んでている。
著者がビッグネームにしか関心を寄せていないのは気にかかった。レディオヘッドとかテイラースウィフトの動向が音楽産業に大きな影響を与えることはもちろんわかる。が、報道ですでに知ってたという話も多い。むしろ、副業で音楽やっている人と、プロとしてなんとか食っていける人の境界を教えてくれたほうが後学になっただろう。インディーズ好きとしては、好みのアーティストをどう支援したら効果的か、たまに考えることがあるからだ。そもそも著者の好みはブルース・スプリングスティーンとかアバのようで、「ああ1960年生まれにもかかわらずパンクを聴いてこなかった人なんだ」という感慨がある。パンクの洗礼を受けた人間なら、リスナーも含めて雇用や学歴との関連をみた文化資本論的なトピックも加えるだろう。
というわけで、面白くないとは言わないけれども、痒いところを掻いてもらったという感覚もない。「ウィナー・テイクス・オール」が実態で、たぶん今後もそれが続くことが暗に示されている。これを踏まえて考えるべきことがある(多様性の維持とか)と思うのだが、「音楽は人を幸せにする」という話で終わってしまう。そうじゃなくてさあ、と言いたいところだが、著者はもうおらず次の展開はないのか。音楽産業の話は参考になるので、日本の出版関係者の方々にはお勧めしたい。
大衆音楽産業についての経済学。著者は1960年生まれの米国の著名な経済学者で、最低賃金を引き上げると雇用が本当に減少するのかどうかを調べた実証研究で知られている。オバマ政権時に政府顧問も務めた。本書のオリジナルはRockonomics: a backstage tour of what the music industry can teach us about economics and life (Currency, 2019)で、邦訳としては『テロの経済学』(2008)に続く二冊目となる。なお、著者は原著が出版される三か月前に自殺しているが、理由はわかっていない。
ストリーミングとライブコンサートの時代の大衆音楽を俎上にのせている。「ネットビジネスにおいてはロングテール領域でも収益になる」なんて話がかつてあったが、全然そういうことにはなってはおらず、ストリーミングでもライブでも上位の一握りのアーティストに人気が集中し、寡占化が進んでいるという。レコードやCDが主力だった時代に存在していた中堅どころのアーティストは食っていけなくなり、ビッグネームとその他大勢というように分化しているとのこと(ただしパイの大きさは拡大しているからその他大勢の側にあっても楽観していい、とも)。このほか、バンド内の収益配分、コンサートツアーやストリーミングにおける関係者のそれぞれの取り分、ヒットは運次第、アーティストの平均的な収入は低い、中国の動向、人はローティーンの時にハマった音楽を一生聴き続ける、などのトピックが並んでている。
著者がビッグネームにしか関心を寄せていないのは気にかかった。レディオヘッドとかテイラースウィフトの動向が音楽産業に大きな影響を与えることはもちろんわかる。が、報道ですでに知ってたという話も多い。むしろ、副業で音楽やっている人と、プロとしてなんとか食っていける人の境界を教えてくれたほうが後学になっただろう。インディーズ好きとしては、好みのアーティストをどう支援したら効果的か、たまに考えることがあるからだ。そもそも著者の好みはブルース・スプリングスティーンとかアバのようで、「ああ1960年生まれにもかかわらずパンクを聴いてこなかった人なんだ」という感慨がある。パンクの洗礼を受けた人間なら、リスナーも含めて雇用や学歴との関連をみた文化資本論的なトピックも加えるだろう。
というわけで、面白くないとは言わないけれども、痒いところを掻いてもらったという感覚もない。「ウィナー・テイクス・オール」が実態で、たぶん今後もそれが続くことが暗に示されている。これを踏まえて考えるべきことがある(多様性の維持とか)と思うのだが、「音楽は人を幸せにする」という話で終わってしまう。そうじゃなくてさあ、と言いたいところだが、著者はもうおらず次の展開はないのか。音楽産業の話は参考になるので、日本の出版関係者の方々にはお勧めしたい。