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児童生徒の学習を上手く導くための教師の知識とスキル

2020-11-07 11:52:54 | 読書ノート
ジョン・ハッティ, グレゴリー・イエーツ『教育効果を可視化する学習科学』原田信之訳者代表, 北大路書房, 2020.

  教育方法学。邦訳が552頁のハードカバーで刊行されているので学術書と見紛うが、中身は現役教師や教職志望者向けの一般書籍である。全31章あって分量は多いけれども、ソフトカバーで発行されたハッティ著『教育の効果』より読みやすい。原書はVisible learning and the science of how we learn (Routledge, 2013.)である。

  生徒の理解を促進するような教師の教育的態度を解説するという内容である。科学的知見を参照しているものの、証明に頁が割かれているわけでないという点が一般向けであるという理由である。また、細かい教授テクニックを教える内容ではない。熟達者は初学者のつまづきの石がわからないことがある(けれども知識に欠ける教師は生徒に尊敬されない)という話から、教師主導の復唱型授業(アクティブラーニングと対比される)のメリットとデメリット、適切なほめ方、知識の獲得とはどういうことか、などの話が前半である。

  後半は「べからず集」として面白い。個々の生徒の学習スタイルの違いがあるというのは幻想だ(正確には、違いがあっても理解の仕方は同じなので過大評価すべきではない)、マルチタスクは理解を妨げるので音楽を聴きながら勉強してはダメ、根拠なき自尊心は円滑な社会生活を妨げる恐れがあるけれども個々のタスクをある程度処理できるという自己効力感は学習においては重要である、学習者の努力を折り込んだ成果のフィードバックを心掛けるべきだ、などなど。モーツァルト効果や笑顔の作り方の話もある。

  以上。教師の態度や心がけは効果的な学習の形成の重要な要因となるということだ。もちろん、学びには生徒側の態度や心構えも影響する。端的に言えば、そうした生徒側の態度や心構えを教師がコントロールするための知識やスキルについて解説しているのが本書だ。誰かを教える立場にある人には大いに役に立つだろう。
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