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世界は良くなっている、格差拡大も悪いことではない、と。

2020-01-03 10:26:41 | 読書ノート
スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙:理性、科学、ヒューマニズム、進歩 / 上』橘明美, 坂田雪子訳, 草思社、2019.

  スティーブン・ピンカーの新著の邦訳だが、いつものように長い!!(上巻464p, 下巻509p)。人類の行く末を悲観するインテリぶった輩に騙されないように、市井の人々に近代啓蒙主義の輝かしい成果をお見せしよう、という内容である。原著はEnlightenment now : the case for reason, science, humanism, and progress (Penguin, 2018.)である。

  上巻を読んだ限りでは、基本的な主張は前著『暴力の人類史』と変わらない。世界は昔よりもどんどん良くなっており、平和かつ安全になって、生活水準も改善した、というものだ。前著から新たなに加わった話として、貧困や事故死の減少、食糧事情や自然環境の改善、民主主義や平等主義の普及、などがある。これらについて、因果関係を推測しつつ、いろんなところからデータを引っ張ってきた大量のグラフで証明するというパターンで議論が展開されている。

  意見が割れそうなところは第9章である。著者は、経済上の不平等は過度に問題視されていると訴える。所得格差は幸福感に影響すると言われているけれども、国別にみるとやはり平等度よりも所得の高い国のほうが幸福感も高い。グローバル化で先進国の中間層が破壊されたといわれているが、データを見る限り彼らはは上層に階層移動したと推定できる。さらに、シャイデル著を参照しながら、格差の拡大は平和時には定常的な傾向である、格差をめぐる真の問題は不公正な配分であって結果の不平等ではない、などという。

  説得力はある。けれども、上巻を読んだ限りでは、著者自身が言うように、マット・リドレー『繁栄』やハンス・ロスリング他『FACTFULNESS』と同じ路線の内容であり、衝撃度は低い。本書のオリジナリティは、扱う領域の広さと、ピンカーの文才(論敵をクサすときの巧みさといったら‼)、ということになるだろうか。 
  
コメント
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