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改革で高校国語から文学の比重が下がるという危機

2020-01-31 07:58:20 | 読書ノート
紅野謙介『国語教育 混迷する改革』ちくま新書, 筑摩書房, 2020.

  国語教育改革批判。共通テストのコンセプトを批判した『国語教育の危機』の続編である。前半1/3は2018年に行われた第二回プレテストの分析で、残りの2/3が高校国語の新しいカリキュラム編成に対する批判となっている。作問レベルの低さを指摘するプレテスト分析の箇所は、著者の辛辣さが小気味良いものの、『国語教育の危機』の延長線上にある。本書は、後半を読むべきものだろう。

  2022年から適用される新しい学習指導要領では、高校国語は、必修で「現代の国語」「言語文化」、選択で「論理国語」「国語表現」「文学国語」「古典探求」という編成となる。しかし、多くの高校は選択科目をすべて設置するわけではない。共通テストで扱われる実用的文書を重視する「論理国語」がほとんどの学校で採用されるはずだ。一方で、高校国語における文学や古典の比重がこれまでより低いものとなると予想される。なお、図書館情報学者として僕は改革に期待する派で、著者とは考えが異なる。

  以上のことを前提に、文科省関係者が執筆した「新学習指導要領の先生向け解説書」を取り上げて、新しい高校国語がどのような教育をするのか検証するというのが、本書の後半である。そして、取り上げた解説書で展開される授業内容は、「トピックを詰め込み過ぎているがために指導が浅くなり、目標を達成できない」「10代半ばの若者にすべてやらせるには過大すぎる」「執筆者はそもそも文学をわかっていない」などといった批判が展開される。読解力は下がるとも暗に予想されている。

  うーむ、解説書がダメだから新しい国語教育改革はダメだと言えるかどうかだが…ちょっと苦しいかな。本書は読者に支持を求めるための論証方法が適切ではないと思う。不確定な改革の結果を予想するよりも、むしろ現状の高校国語が本当にダメなものなのか、論理的思考力や表現力を育成できていないものなのか、これらを検証してみるほうが生産的だろう。「PIACC国際成人学力調査において日本は読解力で参加国中第一位であり、現状の国語教育で成功している部分も認識する必要がある」とかね。
コメント
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