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今世紀における日本の中小企業の苦闘の報告

2018-03-02 23:21:04 | 読書ノート
関満博『日本の中小企業:少子高齢化時代の起業・経営・承継』中公新書, 中央公論, 2017

  タイトル通り日本の中小企業の現状レポート。中身は雑誌記事やシリーズ本のために著者が取材した内容を元にしている。工業や農業などのモノづくり系から、サービス業やIT系までさまざまな企業を紹介してくれる。ただし、企業を紹介する際の切り口はあるけれども、そこでの考察は簡単なもので、深い分析があるわけではない。あくまで、各企業の奮闘をエピソード的に伝えるのが主眼である。

  日本の事業所は1991年をピークに減少しており、現在では起業より廃業のほうが多い状態だという。よく知られているように、東アジアとの競争や後継者不足などが原因である。こうした中、比較的うまくやっている中小企業数十社が紹介される。「初期投資額が小さく、専門技能がある」「既存のビジネスを維持しつつ売り先を変える(アジア市場や高齢者など)」「能力のある後継者がいる(家族以外の継承は制度的に難しいらしい)」など、生き残りのポイントはさまざまである。

  著者としては、中小企業が減少する中で希望のともしびを見つけようという趣旨なのだろう。しかし、読んでいる方はやはり暗くなる。「このビジネスモデルでこの先も続くのだろうか」と。事業継承をめぐる制度的問題は解決策は見えず、国内需要は先細りである。ただ、これはバランスよく各業種を見ようとしすぎた結果かもしれない。現在でも廃業より起業のほうが多い唯一の領域、サービス業の記述を厚めに報告してもよかったかもしれない。
  
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