久々に本の感想です。
不思議な感覚・味わいの作品でした。かつて吉田修一の「パーク・ライフ」を読んだときも不思議な作品と感じたのですが、不思議さの中身は別として似たような感覚を覚えました。
佐藤正午作品では、かつて読んだ「Y」や「ジャンプ」が比較的すんなりと入ってきたのに比べて、この作品は読後もピンとこず。しかし、感想を書こうと思い、途中気になってメモパッドを貼っておいた箇所を中心にざーっと再読すると、おー、最初読んだときには理解できていなかったことが少しずつ分かりはじめました。また、筆者の複雑かつ計算されたたくらみ(?)に、うーーむ、そうなのか・・・いや、こういうことかも・・・。さすがは佐藤正午、なかなかやるなと唸りました。
佐藤正午はあまり一般受けせず、玄人好みというか、かなり読者を選ぶ作家のような気がします。本好きの人でも名前を知らない人はかなりおられるのではないでしょうか。特にこの作品はびっしり約500ページあるのですが、”読後即大感動”といった感じではなく、ボディブローのように後からじわーっと効いてくる感じですね。
~単行本の帯より~
出会った頃の情熱は今どこにありますか
結婚八年目の記念にバリ島を訪れた中志郎と真智子。
二人にとって、意味のない発言のやりとりにこそ意味のあった時代は、
遥か昔に過ぎ去っていた。そんな倦怠期を迎えた二人だったが、
旅行中に起こったある出来事をきっかけに、志郎の中で埋もれていた
かつての愛の記憶が甦る。
本当の愛を探し求める孤独な魂たちへ。新感覚の大人の恋愛小説。
へえーっ、この作品は恋愛小説なのか。ちょっと時空を超える物語風のスパイスもあってSF的側面もあるし、”新感覚の大人の恋愛小説”との位置づけはピンとこないです。まあ私の感覚がずれているだけかもしれませんが。
【★注意:以下、内容についてかなり言及&ネタバレあり】
中志郎と真智子、そして手袋をした謎の女性。旅行中に起こったある出来事。このシーンは非常に印象的。
「いや気分は悪くない。でも」
「何?」
「いや薬はいらない。ただ」
「何?」
「ねえ、何なのよ」
「ふたりきりになりたい」
「えっ?」
記憶術という不思議な能力を持った石橋。その能力はとある儀式で一時的に転移する。中志郎の場合は過去の愛の記憶を思い出したのだが、津田伸一の場合は、未来を思い出せるという。ここが秀逸。未来を予測できるといった表現ではなく、”未来を思い出せる”や”未来の記憶”という表現が面白い。記憶に関するちょっとしたエピソードというか話も散りばめられています。
作家・津田伸一。出会い系にうつつを抜かし(?)、そこでは一度も会ったことがない恩師・小板橋(コイタバシ)を名乗る。一体この人は何をやってるんやろ?そこに、長谷まり、石橋といった魅力的な女性がからみ、更にロコモコ、サクラバ、シイバといった女性も登場する。作家としてはどんどん堕ちていく津田伸一。そんな彼を救うことができる女性は?
終盤は印象的なシーンが続く。
お寺・墓地で出会った年配の女性と若い娘。過去の記憶と未来の思い出の錯綜。ここもうまい!
長谷まり「でも先生が行くなと言うならあたしは日本に残る」
シイバこと椎葉さちがもちかけた話・・・。ナオエさんとは?
「あたしじゃだめなの?」石橋の言葉が悲痛。
しかし、津田にはとあるシーンが見えていた。ちょっぴり切なくてちょっぴり温かいシーンが・・・。
ラスト。かつての同級生への想いを甦らせ再婚した中志郎だったが、やはりその愛
情が醒めてきて・・・。「あたりまえなの。スープが冷めるのは、自然なことなのよ」
佐藤正午の一風変わった仕掛けに80点以上の点をつける考えもあるのですが、私は物語はストレート好みなので75点にしておきます。しかし、うまいなあ佐藤正午。私はこんな作品、絶対に考えつきません。
さーて、読了済みで感想を書けていない本がいーっぱいたまっていますが、どうしようかな・・・。これ一つだけでかなり時間がかかったしなあ。。。
◎参考ブログ
ざれこさんの”本を読む女。改訂版”(2007-11-7追加)