アメリカ少年がぐるぐる回った理由


大湾は学校の行き帰りに古堅の外人住宅モーガンマナーの中を通った。別の道路もあるのだが、毎日同じ道を通るのはおもしろくないから時々モーガンマナーの中を通った。モーガンマナーに入るとアメリカ人が歩いているわけで、アメリカ人とすれ違う。
グループの時は、グループの中の誰かが、アメリカ少年へ、「ファイトミー」と言った。アメリカ少年へ「ファイトミー」をいうことは他の少年に勇気を見せる行為であった。一人がいうと他の少年も調子に乗って「ファイトミー」といった。私たちは喧嘩をする気はないし、アメリカ少年も聞きなれた言葉なので無視した。私たちの「ファイトミー」は「ヤー」と同じくらいの挨拶代りの言葉だった。「ファイトミー」の意味も知らないでアメリカ少年にいう生徒もいたくらいだ。一人の時は本当に喧嘩になってしまうと怖いから言わなかった。
これもアメリカ人が隣りに住んでいたから出てくる話である。

アムロは自転車屋の子どもだった。彼は大湾に住んでいたので時々モーガンマナーの中を通る時があった。彼が中学三年生の時の話だ。「ファイトミー」をいうのは小学生の時で中学生になると「ファイトミー」はいわない。アメリカ少年とすれ違う時は「ヤー」とか「グッドアフタヌーン」というくらいだ。
ある日、学校帰りにモーガンマナーの中を歩いていると、アメリカ少年がアムロに話しかけてきた。アムロは英語が全然ダメだったから、アメリカ少年の話は全然分からなかった。「ソーリー、I cannot speek inglish」さえも言えないアムロは「分からん」と言った。それも英語の調子で「ワカラーン」と言った。
するとアメリカ少年はアムロのまわりをぐるぐる歩き回った。アムロはアメリカ少年が自分の周りをぐるぐる歩いたものだから、頭が混乱し怖くなって逃げた。
この話はつくり話ではない本当にあった話だ。アムロはなぜアメリカ少年が自分の周りを歩いたのか英語の先生である砂辺先生に聞いた。砂辺先生はその理由がわかった。アムロが「ワカラーン」と言ったのをアメリカ少年は「walk around」
に聞こえたのだ。
砂辺先生は授業でアムロの体験談を私たちに話した。英語の発音と似ているのが多い沖縄の方言では、「ワッタームン」(私の物)を「what time」と勘違いしたことや、「nine three」を「ナーヒン トゥリ」(もっと取れ)に勘違いした話はあったが、共通語の「わからん」が英語の「歩き回れ」に勘違いされたというのはあの時に聞いただけである。
アメリカ人と隣り合わせに住んでいたから出てきた話である。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )