「Ⅱ-1.4」 日本の木造建築工法の展開

2019-03-26 10:15:36 | 日本の木造建築工法の展開

(Ⅱー1. 3より続きます。)

4.屋根のつくりかた・・・・又首(さす)組・合掌造、和小屋・束立組、(洋小屋・トラス・・・)

 掘立て式の頃の屋根の架け方は、礎石建てになってからの架構法から推察されます。

 新薬師寺古井家も、の上に二等辺三角形に材が組まれています。これは又首(さす)と呼び、屋根をかたちづくる架構(これを小屋組こやぐみと呼びます)の古い時代の代表的なつくりかたで、竪穴住居を継承していると考えられます(世界各地域でも同じ架け方が普通です。43頁参照)。 なお、又首(さす)扠首(さす)とも書き、また合掌(がっしょう)とも呼びます。

 又首(さす)が大きくなり、斜めの材が下に曲がるのを避けるため、中途を支柱で支える場合があります。下左の図は、長野県の塩尻市にある小松家の例ですが、斜めに支柱を立てています(なお、この建物は上屋だけで下屋は設けていません)。

 また、支柱を立てる代りに又首(さす)の間にAの字型に横材:を何段か設けても曲がりを避けられますが、この横材の部分を床として使ったのが、下右の図の白川郷合掌造です。

  

長野県塩尻市 小松家断面図 (日本の民家2 より)        岐阜県荘川村 若山家 小屋組分解図 (滅びゆく民家 より)

  時代が経つと、小屋組のつくりかたが変ってきます。下の図は、住宅に見られる小屋組のいろいろです(川島宙次著 滅びゆく民家より)。

 ①              ②              ③

古井家に見られる方法。

扠首(さす)組に似ていますが、扠首(さす)状の部分は垂木だけです。これは、真束(しんづか)真束柱)で支えた棟木(むなぎ)と両側のとの間に垂木(たるき)を架ける方法です。

 古井家にも真束がありますが、これは又首(さす)の上にのっている細い棟木を支えるための束柱(つかばしら)です。なお、束柱とは「短い柱」という意味です。註 「短い時間」を言い表す「束(つか)の間」という言葉があるように、には「短い」という意味があります。 

は、現在も普通に使われている方法で、屋根面に平行する横材:母屋(もや)=母屋桁(もやげた)の上に立てた束柱で支え、棟木~母屋~桁垂木を掛ける方法です。多くの場合、母屋=身舎の小屋組に設けられる横材であることから母屋桁と呼び、それが簡略化され母屋と呼ぶようになったと考えられます。

 この方法は束立(つかだて)と言いますが、一般には和小屋(わごや)と呼ばれています(下註参照)。束立和小屋組では、まずの上に束立て母屋母屋桁等高線上に配置します。そして、母屋垂木を掛ければ屋根の概形ができあがります。

 下の写真は、雁行形をした桂離宮の全景です。屋根だけ取り出した図が下図です。この図の網掛けをした部分の母屋垂木の配置を上から見ると、右側の図母屋・垂木伏図のようになっています。

 束立(つかだて)は、このように屋根を自由につくることができるのが特徴です。                               

 

俯瞰写真  原色日本の美術(小学館)より           屋根外郭  左の写真から作成  

   母屋・垂木伏図  桂離宮御殿整備記録(宮内庁)より

 

註 和小屋と洋小屋という呼称について

和小屋(わごや)という名称は、明治のころ西欧からは伝えられたトラス組:洋小屋(ようごや)に対して生まれた。左はトラス組:洋小屋の一例。

 

束立組和小屋)では、水平のだけが屋根の重さを受けるため、の長さや重さに応じて太い材料が必要になるが、トラス組では、細い部材でつくられた三角形の全体が梁の役目をしていて、長い距離を掛けることができ、重さにも耐えられるので、講堂や校舎の屋根などに使われることが多い。

また、積雪の多い地域では、細い材料で屋根が架けられるので、会津地域では住宅にも使われている。写真左は喜多方の煉瓦造の蔵の小屋組。幅が4間(7.2m)、横材(陸梁(ろくばり))は15×12cm。下は熊本の小学校の講堂の小屋組。幅が4間(7.2m)、横材(陸梁)は12×12cm。 

 

5.礎石建ての特徴・・・・軸組の形を安定させなければならない 

 掘立柱は、穴を掘り、垂直を確かめながらを埋め、のまわりに土や石を埋め戻して突き固めればが自立します。が安定していますから、の上に横材:梁・桁を載せ架ける仕事も容易でした。世界のどの地域でも、木造の建物を最初は掘立柱でつくるのも、仕事が簡単だからと考えられます。 

 ただ、掘立柱方式の欠点は、Ⅰ-5で触れたように(34頁)、の根元が腐りやすいことです。建てる場所の状況にもよりますが、普通のでは10年も経たないうちに腐り始めます。

 そこで考えられたのは、柱の足元:柱脚を地面から離すことでした。そのために、地面に石:礎石(そせき)を据え、その上にを立てる方法が編み出されます。礎石(そせき)建て、または石場(いしば)建てと呼ばれる方法です。礎石には自然石をそのまま用いる場合と、上面を平らに加工した石を使う場合があります。石の加工は大変ですから、加工した礎石は、主に寺院など上層の建物で使われています。

 礎石建てになると、掘立柱のようにが自立しないため、を立てる作業が難しくなります。が4本立ち、横材:梁・桁が架けられて最小の直方体の輪郭:軸組ができあがるまでは、何らかの方法でを支えなければなりません。

 本体をつくるための補助的な仕事を仮設工事といいますが、一番簡単な方法は、石の上に立てた柱を二方あるいは三方から地面から斜めに支柱をあてがい固定する方法です。斜めの材を一般に筋かいと呼びますが、この場合は仮筋かいと呼んでいます。本体が無事に立ち上がると、はずしてしまいます。 また、寺院などの大規模な建物の場合は、できあがる建物のまわりに足場(あしば)をつくり、立てたを足場とつないで固定する方法もとられています。 

 最初の直方体の輪郭:軸組が仕上がると、あとの柱・梁・桁はそれに接続していけばよいので、比較的仕事は容易になります。

  軸組ができあがるとその上に屋根の下地になる小屋組をつくります。この仕事は、掘立柱のときと変りありません。ただ、小屋組ができて屋根が葺かれ、壁や出入口、窓などが仕上がるまでは、ぐらぐら揺れたにちがいありません。なぜなら、掘立柱方式と大きく違い、が地面に固定されていないため、軸組のつくる直方体の形が、ちょっとした横からの力で容易に歪んでしまうからです。そのため、礎石建ての抱える大きな問題は、どうしたら軸組の形を安定させることができるか、ということでした。

 この問題の解決策として、いろいろの工夫がなされていますが、主な方法は次にまとめられます。

① 柱への横材:梁・桁の取付け方・載せ方の工夫 ② 上屋+下屋方式を採用し、上屋を下屋が支えるようにする工夫 ③ 軸組の四周を構成する柱列に、たがのように、横材を打ちつけて歪みを防ぐ工夫 これは、他に例を見ない日本の建物づくり特有の長押(なげし)を設ける方法です ④ 長押に代り、貫(ぬき)という材を、柱を貫いて通して柱列を固める工夫  ⑤ 通し柱、土台、貫、差物の活用・・・・技術体系の確立  以下、順にこの方策を見てゆきます。

参考 西欧の木造建築の軸組安定化策 スイスの例    Fachwerk in der Schweiz(Birkhauser)より

 

 

 木造部は、日本と同じく、基礎の上に置かれているだけである。日本では一般に、斜め材を筋かい:筋違と呼ぶ(日本建築辞彙による)。一方、この図のような柱を脇から支える斜め材、あるいは横材を支えるために柱上部に取付ける斜め材は方杖(ほおづえ)と呼ぶ。 頬杖:庇、小屋組ナドニアル傾斜セル支柱。(日本建築辞彙) 筋かい方杖の区別は、横材相互を結ぶかどうかによるようである。建て方時の仮筋かいも、通常、土台~柱~梁・桁を結ぶ。

参考 スイスの木造軸組工法 16世紀末~17世紀   Fachwerk in der Schweiz(Birkhauser)より  

 

 

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