「在来工法」はなぜ生まれたか-5 の補足・続・・・・ホールダウン金物の使用規定が示していること

2007-02-20 03:14:31 | 《在来工法》その呼称の謂れ

少し見にくいかも知れないが、2000年に出された告示第1460号「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」について、「改正建築基準法令集」「改正建築基準法(二年目施行)の解説」から表、図を抜粋、筆者が編集、解説したもの(網掛けおよび*印)。
いわゆるホールダウン金物(図の[へ]~[ぬ])の使用規定である。

   注 ホールダウンとはhold down、つまりhold upの逆。
      hold upは、「押上げる」「支える」の意。
      hold downはその逆で、「引寄せる」「引きつける」の意。
      つまりホールダウン金物とは、二材を引寄せる金物のこと。

網掛けしたのは[へ]~[ぬ]のいずれかを使えと指示された箇所。
解説に記したように、全部で11箇所あるが、内9箇所は「何らかの筋かい」を入れた軸組。

ところで、表二の「上階および当該階の柱が共に出隅の柱の場合」とは何だ?
これは、「基準法施行令第43条5項」の「階数が2以上の建築物におけるすみ柱又はこれに準ずる柱は通し柱にしなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上の耐力を有するように補強した場合においては、この限りではない」の但し書き部分への具体的方法を示したものだ。
しかし、二階建ての隅の柱を管柱で、つまり上下2本の柱で仕事をする人は、先ずいない。難しくて(面倒で)仕事にならないから、通し柱にするのが常識・常道。よってこの5箇所の場面は現実には存在しないのが普通だから残るのは6箇所。

表二の「上階の柱が出隅の柱で、当該階の柱が出隅の柱でない場合」とは何か?これは平屋建てに、奥行は同じで間口の小さな2階を載せた場合のこと。
このような場合、仕事を大事にする人なら、当該箇所を通し柱にする。その方が仕事もしやすい。

そうなると、法令上どうしてもホールダウン金物が要るのは、*印を付けた3箇所のみとなる。いずれも何らかの「たすきがけ筋かい」を入れた場合である。これ以外は不要ということ。
そして、「面材耐力壁」にした場合、該当箇所がないことに注目してほしい。これはすなわち、先回の「補足」で触れた、「筋かいと面材を入れた軸組の挙動の違い」、「筋かいは怖い」ということを如実に示している。

しかしながら、現実には、多くの木造建築の現場では、いまやホールダウン金物のオンパレード。「入れてあれば文句ないだろう」という態度の表れと見てよいだろう。実際の話、確認申請を審査する側も杓子定規、出隅の通し柱の2階胴差の上下をホールダウン金物でつなげ、という審査官がいたという。「何のためだ」と訊いたら、「規則だから」と言われたそうだ。つまり「入れてあれば文句は付けない」ということ。
大体、柱の足元あるいは頭部に、ボルト孔を数個一列に木目に沿って開けるなどというのは、いわばミシン目、「割れてくれ」と頼んでいるようなもの。
 
しかし、どうしてここまでして《怖い》「筋かい」に拘るのか。
一言で言えば、「数字で表したい」「数字にしないと分かった気がしない」という呪縛にとらわれている、としか言いようがない。

昨年11月25、28日に書いたが(下註参照)、「scientific:科学的であるということ」=「何でも数値化すること」と思う人が多い。
つまり、数値化できないとscienceでないと考える人びとだ。
世の中には数値化できないものがある、この事実を認められないのならば、それはscientificではない。

   註 「『冬』とは何か・・・・ことば・概念・リアリティ」
      「東大寺・南大門・・・・直観による把握、《科学》による把握」

そして、現行の木造に関する法令を支えている「理論」は、数値化できないものを、あるいは、数値化できないのに、あえて数値化するために編み出された論であって、現場の必然として生まれたものでないのである。
もしも、そうではない、立派な理論だ、と言うなら、わが国の古来の建築を、その理論で解説できなければ嘘である。ところが、理論の支持者は「・・(それらが)現代科学技術とは無縁に発展してきたものであるだけに、(その評価・・)はいまだ試行錯誤の状態であり・・」と言う。

真にscientificならば、ここで立ち止まらなければならない。私たちの目の前に厳然としてある古来の木造建築を無視して(分からなくて)、なぜ木造建築の理論が成り立つのか?

以上見てきたように、「耐力壁依存工法」:在来工法は、つまるところ、リアリティに即していない理論に拠った工法、ということになる。

  註 私は「筋かい」を否定しているのではない。
     もしも「筋かい」を使うのならば、西欧の木造建築のように、
     全面的に「筋かい」を入れればよいのである。
     「筋かい」:「斜材」を多用している西欧の木造建築を、
     近日中に紹介する。
     そして、西欧にも「継手・仕口」があることも。
      
コメント (8)
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