私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

Jean Bricmontの最近の発言: NATOを解体すべし

2023-06-11 21:53:58 | 日記・エッセイ・コラム

ジャン・ブリクモンを覚えていますか?『「知」の欺瞞』(岩波現代文庫)のブリクモンです。以前、このブログでの記事『ジャン・ブリクモン(Jean Bricmont)』(2016年6月29日)でこの人のことを取り上げたことがあります:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/m/201606

 『「知」の欺瞞』(岩波、2000年)の原著は1997年フランスで発行され、英語版は1998年の出版です。フランス語原題はImpostures Intellectuelles(インテリ詐欺師達)で明快辛辣、これはジャン・ブリクモンの発言の持ち味と言えます。

 昨年2022年11月5日付の下掲の記事で、ジャン・ブリクモンはNATOの解消を求めています。日本のNATO加盟が取り沙汰されている今、一読に値しますので、この記事の翻訳から始めます:

https://libya360.wordpress.com/2022/11/05/jean-bricmont-we-must-dissolve-nato/

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ベルギーのルーバン・カトリック大学名誉教授でベルギー王立アカデミー会員のジャン・ブリクモンは、「大西洋同盟は建設的な用途がない」から、解散しなければならないと断固として主張している。「欧米人は、世界の他の国の内政に干渉する、まるで神聖な権利を持っていると考えている」と、彼はこのインタビューで語っている。

Mohsen Abdelmoumen: 現在、ウクライナで展開されている紛争をどのように見ていますか?

ジャン・ブリックモン  これは21世紀の最も重要な紛争であり、今のところ、問題になっているのはウクライナやウクライナ東部ではなく、すべての南北関係に関わるものです。その証拠に、人類の大多数(80%以上)を占める国々は、アメリカの対ロシア制裁の適用を拒否しました。一方、「特別軍事作戦」は、南の国々から見れば神聖なものである国際法の明確な違反です。国連で特殊作戦を非難したのは必要最低限のことで、その後は何もしなかった。

ソ連崩壊後、自分たちだけが一極世界を主導すると決め、イラク(2回)、ユーゴスラビア、リビア、シリア、アフガニスタン、そして制裁を通じてキューバ、ベネズエラ、イラン、ニカラグアなどを何の咎めも受けずに攻撃できたアメリカにとって、ロシアがそれに抵抗していること、そして南の国々がこの抵抗を見て同情しているという事実は、ひどい衝撃で、おそらく驚きでもあるでしょう。

しかも、この紛争とそれに伴っているアメリカの傲慢さは、ロシアと中国(さらにはインド)を隔てるどころか、彼らを接近させており、これまた、アメリカにとって極めて不愉快なことです。

もちろん、紛争の結果がどうなるかを知るには時期尚早です: NATOは自軍の大部分を投入しているが、ロシアも、そうせざるを得なくなれば、そうするでしょう。この結果次第で、世界の未来は大きく変わるでしょう。

欧州はすでにウクライナに190億ユーロを供与しており、今後も毎月15億ユーロを供与する予定です。ヨーロッパの人々が最も不安定な生活を送っているときに、欧州委員会がウクライナ政権にこれだけの資金を提供するのは、ウクライナが欧州連合に加盟していないことをどう説明するのですか?

ヨーロッパ、つまりEU(ヨーロッパ連合)ということですが、これには民主主義的なところが何もなく、全然ヨーロッパの民意に依存していません。だから、彼女は自分の好きなように、一般的にはアメリカの政策に従います。

プーチンは、欧米は "自力で人類を導くことはできないのに、必死にそうしようとしているが、世界のほとんどの国は、もはやそれに我慢する気はない "と断言しています。私たちは、アメリカの覇権の終焉と新しい世界秩序の到来を経験しているのでしょうか。

私はその考えに傾いていて、長期的には避けられないことだと思いますが、ウクライナでロシア軍が敗北する可能性は常にあるので、そうなるとこの時期ははかなり遅れるでしょう。

欧米を支配する少数派のオリガルヒが、ロシアに戦争を仕掛けて完全に狂ってしまったのではないでしょうか。

失敗したらイエス、成功したらノー。すべては、ウクライナという地上での戦いの結果次第です。

あなたは、大西洋主義のプロパガンダを支持しない特定の声が受ける検閲をどのように説明しますか?

あらゆる権力システムの検閲者がそうであるように、彼らは自分たちに抵抗する意見を出来る限り検閲する傾向があります。

NATOは解散すべきでしょうか?

そうです。しかし、建設的な目的が役立たないというまさにその理由から、この組織で生活している官僚たちは、この組織が解体することを望んでいないし、そのような事態に反対するためのプロパガンダの手段もかなり潤沢に持っています。

アルジェでパレスチナの諸派閥が集まり、「アルジェ宣言」が生まれた。パレスチナの人々をレジスタンスとして再活性化させたこの会合をどのように見ていますか?

これらの派閥が団結するのは良いことです。しかし、力のバランスは依然として不釣り合いにイスラエルの方に有利です。アラブ諸国からの有効な支援はほとんどなく、イスラエルに有利なアメリカからの大規模な支援、親イスラエルのロビーの側からの西側での非常に有効な情報検閲があります。

サハラウィ民族の正当な闘争は、欧米では知られていません。サハラウィ民族の独立を取り戻すための正当な闘いに関する問題なのに、この問題を隠蔽しようとする欧米の偽善を、あなたはどう説明しますか。

西側諸国の政府は、闘争が妥当かどうかなど、本当はどうでもいいのだと思う。サハラウィの人々の大義名分など西側にとっては些細なことで、モロッコとの良好な関係のほうが彼らにとっては重要なのは明らかです。

アルジェリアがロシアの兵器を購入していることを理由に制裁すると脅したアメリカの代表者に続き、ベルギーのユーグ・バイエ副代表も、サハラウィの人々の闘いを支援していることを理由に、アルジェリアを各国から追放すると脅しました。欧米の支配層特有のこの傲慢さを、あなたはどう説明しますか。

これは人道的干渉のイデオロギーです。何世紀にもわたって、欧米人は、世界の他の国の内政に干渉するほとん神聖な権利があると信じてきました。ここに新しいことは何もない。

ヨーロッパの人々を不幸と危険な不安定に陥れたこの寡頭政治に対するヨーロッパで大規模な社会運動に立ち会うことはないのでしょうか。

私はそう望んでいますが、そうなるかどうかわかりません:一方では、弾圧が非常に強く、危機が自然な現象、あるいはもっと悪いことに、完全にロシア人のせいだと提示されることもあります。社会運動が成功するためには、状況を明確に把握した指導者がいなければなりません。しかし、私の知る限り、この危機と反ロシア制裁の間に明確な関連性を持たせた運動は存在しません。

欧米におけるロシア恐怖症の波について、どのようにお考えでしょうか。

それは、プーチンが西側の覇権主義的な意思にあからさまに異議を唱えていることもあるし、旧ロシア帝国の住民たちの子孫(ポーランド人、バルト人、ウクライナ人、ユダヤ人)から来る民族的憎悪のせいでもあります。また、はっきりそうと口には出さないドイツの報復主義もあります。

ノーム・チョムスキーと共著で本を出されていますね。チョムスキーとハーマンの『マニュファクチャリング・コンセント(合意の捏造)』での分析は、常に的を射抜いていて、必読の書ではないでしょうか?

もちろんそうです。しかし、まさにその故に、現システムの批判者を自認する人たちの間でも、ほとんど無視されているのです。

<訳者注:以上で、2022年11月に行われたインタービューは終わり、続いて、ジャン・ブリクモンその人の紹介が続きます。この部分は原文のままコピーしておきます。なお、次回もジャン・ブリクモンを取り上げます。>

Jean Bricmont is a Belgian physicist. He is Emeritus Professor of Theoretical Physics at the Catholic University of Louvain (Belgium) and is a member of the Royal Academy of Belgium. He obtained his doctorate in 1976 at the Catholic University of Louvain. He worked as a researcher at Rutgers University and later taught at Princeton University, USA. His research earned him two distinctions: the J. Deruyts prize from the Royal Academy of Belgium in 1996 and the five-year FNRS prize (A. Leeuw-Damry-Bourlart) in 2005. Member of the scientific sponsorship committee of the French Association for scientific information (AFIS), he was its president from 2001 to 2006 and has since been one of the two honorary presidents

Jean Bricmont is also known as a rationalist activist who associates himself with American intellectuals such as Noam Chomsky, Alan Sokal, etc. He is the author of several works including: “  Intellectual Impostures  ” (2003) with Alan Sokal; Humanitarian imperialism: Human rights, right of interference, right of the strongest? with Francois Houtar (2005); Making Sense of Quantum Mechanics  (2016); Chomsky Notebook  (2010) with Julie Franck and Noam Chomsky;  Hidden Worlds in Quantum Physics  with Dr. Gérard Gouesbet (2013); Occupy  with Noam Chomsky (2013); Reason versus power: Pascal’s bet  with Noam Chomsky (2009); The world that could be: Socialism, anarchism and anarcho-syndicalism  with Bertrand Russel (2014); In the Shadow of the Lights: Debate between a Philosopher and a Scientist  with Régis Debray (2003), etc.

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藤永茂(2023年6月11日)


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