ハラレとアスマラ、どちらもアフリカの国の首都の名前ですが、よほどアフリカに強い関心を持った人からでなければ、即答は得られますまい。ハラレはジンバブエの首都、アスマラはエリトリアの首都です。
北朝鮮の核軍備についてのブログを準備中ですが、なかなか筆が進みません。昨日、どなたかが私の古いブログ記事『ジンバブエとムガベ』(2010/12/22)を読んで下さったようなので、急に話題を変えてみる気持になりました。その主な理由は、日常、我々に世界についての情報を与えている政府機関の発表、大新聞やテレビのニュース、そして世界情勢についての諸権威者の発言などが如何に頼りにならず、むしろ真実をひどく曲げているものであることを、いよいよ益々痛感させられるこの日頃だからです。「そんなことは大昔から分かり切っている。大馬鹿者だけがテレビや新聞を見続けている。」とおっしゃる人も少なからずおいででしょう。しかし、現実としては、私を含めて大馬鹿者たちが圧倒的な大多数を占めていると思われます。例えば、個人的な経験から何とはなしにアメリカに好感を抱いている多数の人々が、依然として、NYTやWPの記事を漠然とした信頼感を持って読んでいるに違いありません。そうした人々には、私の書くことが、何につけても反米反オバマで明らかに偏向しているように思えるでしょうが、感情的な反撥を少し押さえて、少し気長に私の言う事につきあう努力をして下さるようお願いします。
2008年から既に5年経ちましたが、世界のあらゆるマスメディアとそれを通じて喧伝されてきたいわゆるアフリカ通の殆どすべての見解に正反対の立場を、ジンバブエについて、5年前から取って来た私としては、ただ一介の市井の老人が見当をつけていた状況のほうが真実に近かったことが、結局のところ、確かめられた事には重大な意味があると考えざるをえません。極めて限られた個人的情報源(つまりネット上でのろのろと手探りするだけ)しか持たない私が、他のほぼすべてのジャーナリストや専門学者が達し得なかった真実を把握することが出来たと考えるのは全く無理な話です。ですから、ここで生起していることは、それらの人々が自分の知っていることを直接そのまま一般大衆に伝えていないという困った事態でなければなりません。「そんなことはとうの昔から分かっている」と嘯くだけでは済まされない問題です。私は古いブログ記事『ジンバブエとムガベ』(2010/12/22)の前半に次のように書きました。:
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ジンバブエについては2008年に5回続けて取り上げたことがありました。:『ジンバブエをどう考えるか』(1)~(5)(2008年8月20日最終回)これを書いたのは、週刊朝日の7月18日号に「84歳の独裁者[ジンバブエ]ムガベ大統領の悪逆非道」という記事があるのを広告で見て、内容を読んだのがきっかけでした。内外多事多難の現在、殆どの方はアフリカの小失敗国家ジンバブエの事など忘れてしまったでしょうが、今度のウィキリークスで漏洩したアメリカの外交関係の秘密文書の中に、私としては見逃す事の出来ない事柄も含まれていました。アメリカの意向に従わない小国の独裁者を引き倒したいと考えた場合にアメリカがどのように振る舞うかを実証的に観察する貴重な機会の一つを、ジンバブエは提供していると私は考えます。他の類似例として、近過去にはユーゴースラビア、現時点では北朝鮮が考えられます。?週刊朝日の「84歳の独裁者ジンバブエムガベ大統領の悪逆非道」という記事は、“肥沃な土地と豊富な資源で「アフリカのパンかご」と呼ばれた國を“くずかご”に転落させたのは、ムガベ大統領である。なぜ、「独立の英雄」は愚か者に堕落したのか”と、先ず、設問します。
?■(ムガベは)首相を経て、87年に大統領に就任。当初は農地や工場の急激な国有化を避けるなど白人社会との協調を基盤とした緩やかな社会主義による国づくりを進める一方、教育など福祉政策に力を注ぎ、識字率をアフリカ最高レベルの9割に導く“善政”を敷いた。?それが今はどうか。? CIA(米中央情報局)発表などによると、ジンバブエのインフレは08年2月時点で16万%で紙幣は紙くず同然となり、失業率は80%(07年)。成人のHIV感染率は24・6%(01年)で、平均寿命は約39歳(08年)に過ぎない・・・・。生活苦から国民約1300万人のうち、約400万人が職を求めて、国外へ流出しているとされる。20年以上の(ムガベの)君臨が、「南部アフリカのオアシス」と言われた國を壊したのだ。■?
これで見ると、ムガベ大統領の初めの10年は模範的な善政、後の10年は典型的な暴政。この記事の読者は、ムガベの治世の中間点、つまり世紀の変わり目の2000年前後に、何か大変な事が起ったのではないか、転機となるような重大事態が生じたのではないか、と思うのが当然ではありますまいか。この記事の筆者中村裕氏は、(ムガベは)「なぜ変節したのか」と問い、ムガベ個人の変節として問題と捉えます。この問いに対して、アフリカ取材経験が豊富な朝日新聞元編集委員の松本仁一氏は「変節ではなく、もともと権力志向が強いのです。権力を維持するため、國を食いものにしてきた男です」と答えています。要するに、この記事のタイトル通り、「84歳の独裁者ムガベ大統領の悪逆非道」が「ジンバブエの悲劇」の理由であり、「なぜ、「独立の英雄」は愚か者に堕落したのか」という設問の答えは、「途中から堕落したのではない。もともと言語道断のひどい野郎だったのだ」となっているわけです。
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私が今回のブログで注意を喚起したいのは、中村裕氏も松本仁一氏にしても、上に表明されている見解からはみ出る諸事実があることも先刻ご承知であったに違いないということです。私のようなアフリカの現場に一度の足を踏み入れたことのないズブの素人さえもが、拙い努力の報酬として垣間みることの出来た事柄をご両人が見なかった筈はない、ということです。もっとはっきり言えば、2008年の時点で、週刊誌の記事としてすんなりと受け入れられるような物の書き方や発言のモードがあったからそれに従っただけのこと、ということになるのでしょう。そしてこの状況は、その後も、あらゆる時点で、成立しているということです。極言すれば、これは支配権力に対するコンプライアンスの問題であり、支配権力とのコンプリシティの問題です。歌えるステージを与えられなくなった歌手には歌手ではなくなる苦痛と悲しみが訪れます。ポール・ロブスンもハリー・ベラフォンテもそれを味あわされました。ジャーナリストや評論家についても同じ事なのでしょう。
ところで、ムガベのジンバブエはその後どうなったでしょうか?先頃、ジンバブエの首都ハラレの現状を伝える面白い
リポートを見つけました。筆者はレニングラード生れのAndre Vltchek という人で、私はこの人の書いたものを十分沢山読んでいないので、全面的に信頼しているわけではありませんが、このハラレ探訪記事が、ムガベのジンバブエについての一つの貴重な真実を伝えている事を疑う理由はありません。タイトルは『Harare: Is It Really the Worst City on Earth?』で、要するに、米欧のマスメディアによれば、世界中で一番ひどい都市ということになっているジンバブエの首都ハラレが、報道とはまるで裏腹に、結構綺麗で、安全で、清潔で、居心地の良さそうな町だという見聞記です。
http://www.counterpunch.org/2013/03/15/harare-is-it-really-the-worst-city-on-earth/
興味深い写真も6枚含まれています。医療施設についての具体的な記述も含まれていますので、興味のある方は是非ご覧ください。
ハラレの有様がこれほど良いとなると、2000年以降、ムガベのジンバブエについて悪口ばかりを言い続けて来た側も、少しは言葉を濁す必要がありましょう。そこで皆さんお馴染みの我が国の「外務省海外安全ホームページ」
の
「ジンバブエ」の項を覗いてみましょう。:
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=106
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1.概況?(1)現在ジンバブエの治安情勢は,首都ハラレをはじめ地方都市においても比較的平穏であり,体感治安は良好です。しかしながら一見平穏に見える街中でも,強盗,窃盗をはじめとする凶悪事件が発生していますので,常に緊張感を持ち,犯罪に対して警戒を怠らないことが重要です。?経済情勢は比較的安定しており,食品,ガソリン等の生活必需品も十分供給されています。
(2)政治情勢においては,現在,新憲法制定に向けた準備が行われるとともに,その後実施予定の大統領選挙等を巡る様々な動きがあり,政治的に不安定な状況にあります。政治的暴力が散発的に発生しているものの,これが大規模な暴動に発展する可能性は低いと考えられますが,政治集会やデモが開催されている場所には近づかない,公共の場での政治的な言動を控える,大統領官邸や空港等の公共施設周辺での写真撮影は控える等の注意は必要です。渡航・滞在に際しては,現地の情勢に関する最新情報を入手するよう心掛けるとともに,常に慎重な行動をとることが重要です。
??2.地域情勢?(1)首都ハラレ市:「十分注意してください。」
?ハラレ市内は,武装強盗,スマッシュ・アンド・グラブ(交差点等で停車している車の窓ガラスを割り車内に手を伸ばして荷物をひったくる手口)等の凶悪事件やスリ,置き引き等の窃盗事件が多発していますので,犯罪全般に対して常に注意を払う必要があります。? 渡航・滞在に際しては,夜間外出を控える,車両を利用した移動を徹底する等の注意が必要です。? また,整備不良車の増加や交通マナーの悪さ,信号機の故障等,劣悪な交通環境のため,交通事故件数及び交通事故死亡者数が増加傾向にあり,車両運転の際は十分に注意してください。■
上の文章で、
「体感治安は良好です。しかしながら一見平穏に見える街中でも」という辺りはなかなかの傑作です。近頃の状況から判断すると、89歳の独裁者ムガベ爺さんが今亡くなっても、アメリカとヨーロッパが急にジンバブエを滅ぼしてしまうことは、多分ありますまい。しかし、私が心配し続けているエリトリアについてはその恐れは十分あります。現在、アフリカの北朝鮮と呼ばれる北アフリカの小国エリトリアを米欧がいじめ抜いている有様は、かつてのジンバブエの場合に劣りません。人権擁護NGOのHRWのやり方も目に余ります。エリトリアの
首都アスマラについての「外務省海外安全ホームページ」には次のような記事が出ています。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=139
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(6)首都アスマラ市? :「十分注意してください。」
? 犯罪件数は少なく、外国人が被害に遭ったケースも余り報告されてい?ませんが、夜間は外出を控え、裏通りは歩かない等、犯罪・事故に巻き?込まれないよう十分注意してください。?また、近年、エリトリアの経済状況悪化及び飢饉等により、これまで?なかった侵入強盗等の被害など治安状況の悪化が報告されており、滞在?に当たって対策を講じるなど十分な注意が必要です。■
つまり、もっと悪口が言いたいのだが、アスマラは結構平和で居心地のよい町で残念、というわけです。そして
「近年、エリトリアの経済状況悪化及び飢饉等により」というのは嘘っぱちです。もしその状況があるとすれば、それは米欧による制裁措置の結果にほかなりません。更に、「外務省海外安全ホームページ」の「エリトリア」の項のはじめに、看過できないことが書いてあります。
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本情報は2013年03月22日現在有効です。
エリトリア:首都アスマラ市内における一部国軍兵士による反政府行動に関する注意喚起 2013年01月23日
1.エリトリアの首都アスマラでは,1月21日午前10時頃(現地時間),南部州デケムハレから移動してきたと見られる軍兵士(戦車数台を含む)が,国営放送局を敷地内に擁する情報省(アスマラ市内)を占拠の上,同国唯一のメディアであるテレビ・ラジオ放送を中断しました。
2.行動を起こした兵士の数は100人を超えると見られます。さらに,この軍隊はアスマラ国際空港を掌握しつつあるとする報道があった一方で,大統領に近い軍の一部が反撃に出るとの報道もありました。
3.22日現在,事態は収束していますが,エリトリアに滞在している方は,上記情報を考慮して最新の治安情報の入手に努めてください。また,アスマラ市内においては,鎮圧軍と反乱軍との攻防戦が起こった場合,これに伴う流れ弾が最も危険であることから,情報省のみならず大統領官邸,軍本部,警察本部,その他の軍・警察の関連施設,陸・海・空路に関わる重要施設は避けるよう行動し,不要不急の外出を控えてください。■
このクーデターの緊急報道は、私が判断する限り、殆ど全く虚偽に近いものです。私の判断には、それなりの根拠がありますが、こまごまとは申し上げますまい。ただ、ここで強調したいのは、我々の身辺に溢れている情報には事実確認の努力の欠除による誤報ではなく、一定の意図の下に行なわれる人心操作を目的としたものがある事を絶えず明確に意識する必要があるという事です。何故エリトリアについてこれほどまでに意地の悪いことを言い続けるのか、その理由を問うことです。
ハラレとアスマラという聞き慣れない町の治安状況の話題を取り上げたのは、コントロールされたマスコミ的情報の虚偽がうっかり尻尾を出しているところの実際例をお目にかけたかったまでですが、そんな事より遥かに深刻な大嘘はシリアについての情報操作です。今年の1月15日にシリア第二の都市アレッポの政府軍支配地域にあったアレッポ大学が爆破され、80人以上の死者が出る事件がありました。シリア政府側の暴挙であったことを匂わす立場を米欧側はとっています。3月19日には同じくアレッポで政府軍が化学兵器を使用したのではないかという報道がなされました。シリア政府が直ちに(20日)国連による独立の徹底調査を要求したのに対して米欧側は始め躊躇を示したのですが、オバマ大統領はイスラエル訪問で時間を稼ぎ、必要な根回しがすんだのでしょう、22日には、国連による調査に同意しました。一番恐ろしいのは、国連の“調査”で「シリア政府が有罪である可能性がないではない」といった結論が出されることです。事実上アメリカが牛耳っている国連がリビアのカダフィ政権の行為について何を結論したかを良く思い出して下さい。私の判断ははっきりしています。大学爆破も化学兵器使用も、両事件とも、米欧が支持する反政府勢力が行なった事です。私の確信の最大の拠点は、これまでの2年間、これだけ恐ろしい外圧がかかってもシリア政府が瓦解しないことです。アサド政権の治世に必ずしも好意を持っていなかったシリアの大衆も、国外勢力に支持された反政府軍の残忍きわまりない暴挙を憎んでいるのです。現地の住民にはそれがじかに分かるのです。そうでなければ、アサド政権はとっくの昔に瓦解していた筈です。アメリカはWMDの存在という大嘘の下にイラクという国を破壊してしまいました。今度は、アサド政府が化学兵器を使用する可能性を口実にして、シリアという国を滅茶滅茶にするつもりなのでしょう。ひどい話です。もし天誅というものがあるのなら、それが下されることを祈るばかりです。
藤永 茂 (2013年3月22日)