私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

クルド人は蚊帳の外

2015-12-30 21:50:55 | 日記・エッセイ・コラム
 12月18日、ニューヨーク国連安全保障理事会の外相会合で、5年目に入ったシリア内戦の政治的解決を目指す初めての決議案が全会一致で採択されました。その工程表によると、2016年1月初旬に、アサド政権と反体制派の交渉、停戦を実現、1月18日、国連事務総長が停戦監視方法を報告、6月中旬に、挙国一致の統合機構の設立、2017年6月中旬、国連の監視下で公正な選挙の実施、となっています。シリア問題の政治的解決に関連した国際会議は、2014年初頭以来、ジュネーブ、ウイーン、リヤド(サウジアラビアの首都)で開催されてきましたが、表面的には、現在、最大の問題である「イスラム国」軍に対して最も有効な地上勢力として戦果を上げてきたクルド人の代表は、これらシリア紛争に関する国際的会合には、受け入れられていません。単に蚊帳の外に出されているだけでなく、蚊ではなく獰猛なスズメ蜂の猛攻に晒されています。トルコの独裁者エルドアン大統領は、自国トルコ東南部のクルド系住民に理不尽な弾圧を加え、過去数カ月間に、その数百人を殺傷しています。しかも、世界のマスメディアはほとんど完全なダンマリを決め込んでいるのです。パワー米国国連大使のお得意な“R2P”は一体どうなったのでしょう。
 今回の国連決議案をまとめるために米国のケリー国務長官は東奔西走の活躍ぶりでしたが、ケリー氏は決議採択後、「この場にいる誰も、輝かしい道が開かれているとは思っていない」と述べ、前途の困難さを認めたことが報じられました。(毎日新聞) 米欧側は何を求めているのか? 勿論、彼らが第一に求めているのは、シリア国民の苦難に終止符を打つことではありません。ロシア空軍の支援のもとでアサド政権軍が決定的な勝利を収めるのを何とか阻止することです。このままロシア空軍の空爆を許すことは出来ません。1日も早く実効性のある空爆をやめさせなければなりません。このまま推移すれば、2、3ヶ月のうちにアサド・ロシア側の勝利が決定的になってしまうだけでなく、一万回に及ぶ対IS空爆を行ってきたと言いながら、同時に、IS退治には数年はかかると言い続けてきた米欧側の欺瞞の正体が明らかになってしまいます。それが来年初頭に、とにかく戦闘停止を打ち出した理由です。
 これまで私はこのブログで、何度となく、「米空軍は一体何を爆撃しているのか?」という疑問を呈してきました。今この時点から振り返るといろいろなことがはっきり見えてくるような気がします。まず2015年8月5日のブログの記事『クルド人を生贄にするな』を少し長く再録します。:
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 シリア問題は、国外勢力のシリア国土侵略の問題、外国勢力が自分たちの気に入らないシリア現政権を打倒しようとして行っている侵略戦争がその本質です。一番基本的なことをはっきり言えば、世界一のテロ支援国家アメリカ合州国がテロリスト傭兵を送り込み、それらを操って行っている侵略戦争です。シリア人400万の難民はその故に生じた地球規模の悲劇です。もう一度、前回のブログに引用したパレスチナ人たちの声に耳を傾けてください。:
 「我々には、外からやってきた強奪者たちに我らの土地と我らの所有物を強奪されることが何を意味するかがよく分かる。我々には、何百万という同胞が、彼らの住処から追い出され、帰ってくることが出来ないということが何を意味するかがよく分かる。我々には、我らの権益と我が国の国家的権利がこの世で最も強大な国々の遊び道具になることが何を意味するかがよく分かる。我々には、我らの国家主権と人権を擁護するために苦難を受け、生を捧げることが何を意味するかがよく分かるのだ。」
 シリアは北部でトルコと接しています。国境に近く位置するシリア側の町コバニ(アインアルアラブ)の名を憶えておいでですか? 去る2月4日と11日日付のブログ『ロジャバ革命』で紹介した町の名です。『ロジャバ革命(1)』の始めの部分を再録します:
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 日本人人質とその殺害の事件をめぐって、イスラム国について、マスメディアに多数の専門家が登場して盛んに語っていますが、彼らが知っていることをそっくり我々に告げてくれているわけではありません。ある筈がありません。
発表媒体である新聞、テレビ局、雑誌などに応じて、その道の専門家たちは、情報伝達の自己規制を見事に行っています。それは、自分に“お声が掛からなくなる”ことを避けるための心がけに発します。「それを言っちゃあおしまいよ」にならないための処世術です。
 「ロジャバ革命」と呼ばれる政治的状況の展開はその顕著な一例です。それを、その事実と意義をはっきり詳しく我々に告げようとする専門家は一人も見当たりません。
 シリア北部、トルコとの国境に近いコバニの町とその周辺で、イスラム国はその発祥以来初めての決定的な軍事的敗北を喫しました。コバニの死闘をスターリングラードの死闘と並べる声さえ聞こえてきます。そして、その勝利の原動力は女性戦士たちであったのです。イスラム国の軍隊に立ち向かったクルド人部隊に女性兵士も多数加わったというのではありません。男性部隊(YPG)と女性部隊(YPJ)が肩を並べて共々に闘ったのです。コバニの勝利に象徴される「ロジャバ革命」が女性革命だとされる一つの理由がここにあります。もし、「ロジャバ革命」のこの重要な本質が、専門家たちによって広く世に伝えられたならば、世界中の本物のフェミニストたちは歓呼の声を上げるに違いありません。
 いまイスラム国を称する勢力は2013年から特にイラクで活動を顕著にしてきましたが、それが激化したのは2014年に入ってからで、私たちの意識もこの辺りで急に高められます。米国の傭兵であるイラク政府軍は烏合の衆で大して役に立たず、米国は、2014年の夏以降、イラク内でイスラム国に対して空爆を開始しましたがあまり効果が上がらず、イスラム国の支配地域は拡大を続けています。イスラム国がシリアの東北部のラッカ県を制圧した後は、シリア国内でもイスラム国に対する空爆を始めました。イスラム国はイラク北西部の大部分を支配下に収めていましたが、首都バグダッドの占領には向かわず、その矛先をクルド系住民の多いシリア北部のトルコとの国境に近いコバニ(アインアルアラブ)の町(人口約4万5千人)に向けました。それにははっきりした理由があったのです。シリア北部のトルコとの長い国境線あたりに住むクルド系住民を壊滅させてシリア内のイスラム国支配地域とトルコとの交通を確保すれば、トルコからの武器やイスラム国軍隊に参加する外国人の流入が容易になるからです。2014年9月、対「イスラム国」で米国との共闘を約束した中東諸国の中に、ヨルダン、エジプトとともにトルコも含まれていたのですが、トルコの対「イスラム国」政策は極めて自己中心主義的です。もともとシリアのアサド政権を快く思わないトルコのエルドアン首相の政権は2011年4月に始まったシリア騒乱で一貫して反シリア政府勢力を支持し、武器などの供給を盛んに行って来ました。その支援がイスラム国の急激な成長を促したことに否定の余地はありません。さらにエルドアン政権は国内のクルド人もシリア内のクルド人も居なくなってしまえば良いと考えていましたから、コバニでイスラム国軍隊と闘うクルド系住民を軍事的に助けるなどもっての外で、むしろ、トルコ国内のクルド人がシリア側にある同胞に軍事的援助を与えることを厳しく阻止していました。それにも関わらず、クルド系住民の軍隊が4ヶ月の死闘に耐えて遂にコバニの町から凶悪なイスラム国軍隊を追い出した最大の理由は、どうしても彼らが理想として掲げる新しい世界を実現したいという、そのためには死をも恐れない熱い思いに燃えていたことにあります。
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 このコバニと国境を挟んだトルコ側の町スルチの文化センターの庭で、7月20日、爆発があり、32人が死亡、103人が負傷しました。この文化センターの施設には、戦火でひどく破壊されたコバニの町の復興支援プログラムに参加する300人以上の青少年が滞在していました。ロジャバ革命に夢を託す、主にクルド人の若者たちが犠牲になったのです。
 トルコのダウトオール首相によれば、イスラム国の自爆テロだということで、トルコ国内でイスラム国がテロ行為に及んだので、それまでアメリカ主導の対イスラム国打倒の作戦への参加に不熱心だったトルコも、とうとう重い腰を上げてアメリカとの同調に踏み切った、というふうに伝えられることがありますが、これは、とんでもない誤報です。いや、誤報ではなく、為にする真っ赤な嘘です。
 いったいIS(イスラム国)の正体は何か? あらゆる説が世上に流れています。イスラムの宗教についても、アラブの言語についても、一次的な知識のない私には、ISの本質、正体について、透徹した判断を下す力がありません。しかし、物理学で言う現象論的レベルの観察から、イスラム国(IS)の特性についての可成り明確な措定を行うことが出来ると考えています。一番肝心な点は、ISは米国、トルコ、幾つかのアラブ諸国、イスラエル、などの外国からの武器弾薬と資金の供給によって保たれていて、これが絶たれるとなると忽ちISは弱体化するだろうと思われることです。つまり、ISの戦闘力を利用している外国勢力は、ISをコントロールするON-OFFスイッチを手元に持っているということです。この措定には直ちに反対の声が挙がるでしょう。「米国は国際社会を動員して何とか凶暴なISを撃滅しようと努力しているではないか。そして、今度のスルチの自爆テロを契機にトルコもIS打倒作戦に本格的に引き込んだではないか」と。また、次のような反論も聞こえてきます。「ISの戦闘員たちは原理主義的なイスラム教の狂信者たちだ。彼らの行動を外部からON-OFF出来ないに違いない。」
 しかし、インターネットを通じての現象論的観察に基づいて、私は可成りの確信度を持って「ISの戦闘員たちは真の宗教信者ではない」と断定します。彼らはテロリストとしてリクルートされ、訓練された凶暴なハウンド・ドッグ集団で、シリアのアサド大統領を追い詰め、クルド人たちにも残忍な歯をむいて襲いかかることでしょうが、もし、飼い主の手に噛み付く事態が発生すれば、ただちにスイッチをオフに出来るでしょう。この点については、以前5月27日付のブログ記事『ISに金融制裁を』で論じました。 自国の地上軍団派遣の代わりに、このハウンド・ドッグ集団を育成した外国勢力の頭脳の冴えは全くたいしたものです。現米国国防長官アシュトン・カーターのタイプの秀才には事欠かないのでしょう。
 一方、IS叩きの戦列に参加したはずのトルコは、ISに対する空爆はほんの言い訳程度で茶を濁し、クルド人に対してはイラクやシリア内の拠点に対する激しい空爆を実施し、トルコ国内では、危険分子と見做されるクルド人の大量逮捕投獄に踏み切りました。「ロジャバ革命」の全面的危機の到来です。
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 2015年8月5日のブログの記事『クルド人を生贄にするな』をこのように結びましたが、現在(2015年12月27日)、暗い予感に心がうちひじかれます。
 もう一度、トルコ東部、トルコ・シリア国境沿いの東西に延びるシリア内の地帯、イラク北部、イラン北西部にまたがる、いわゆるクルディスタンのことを復習します。他のサイトから写させてもらった二つの地図も参照してください。日本語表示の地図に北クルディスタン、東クルディスタン、南クルディスタンとなっていますが、一番の問題は、「南クルディスタン」となっているイラク北部地域です。我々一般の日本人がクルド人をはっきり意識したのは、2003年イラク戦争が始まった時に、イラクのサダム・フセインがクルドという“少数民族”を毒ガスで大量虐殺したので、クルド人は米軍の側についてイラク軍と戦っているというニュースによると思われます。サダム・フセイン政権が打倒され、米国のイラク統治が始まってからは、イラク北部のクルド人地域はクルド地域政府(KRG, Kurdistan Regional Government)が収める自治区となり、イラク国内で一種独立国的な地位を獲得し、ペシュメルガと呼ばれる独自の軍隊も持っています。サダム・フセイン軍と戦ったのもペシュメルガです。


出典cdn-ak.f.st-hatena.com

クルド人の居住地域(黄色)

地図を二つ入れるつもりでしたが失敗しました。後日やり直します。



英語表示の地図ではクルディスタンはシリアの北部、イランの西部をべったりとカバーしていますが、日本語表示の地図ではシリア北部のクルド人地区は飛び地風になっています。現在のトルコとシリアの国境の状況は中間で、アレッポの北東のトルコ・シリア国境東西100キロほどがトルコとイスラム国(IS)との筒抜けの出入り口になっています。この部分を除けば、今はロジャバ革命を目指すクルド人たちが国境線地帯(ロジャバ地域と呼ぶことにします)を占めています。このシリア国内のクルド人地域(ロジャバ地域)の北のトルコ内のクルド人地域とは、地図に「北クルディスタン」となっているように、地理的には一つです。しかし、政治的な事情は少し複雑です。トルコ内のクルド人を代表する政党はHDP(国民民主主義党)と PKK(クルディスタン労働者党)ですが、HDPは一応合法的政党として認められていますが、PKKの方は非合法のテロリスト勢力とみなされ、トルコ政府の熾烈な武力弾圧に曝されています。トルコ政府の自国民に対する攻撃は、2015年6月の選挙でHDPが躍進してエルドアン大統領の与党AKPの一党独裁体制が崩れると、あらゆる口実と術策を弄して、HDPとPKKとの壊滅排除に猛進します。それが功を奏して、12月に行われたやり直し選挙では、またAKPの一党独裁を回復したのですが、トルコ国民であるクルド人(北クルディスタン住民)に対する弾圧殺戮行為をますます拡大しています。戦闘的なPKK党員数百名と巻き添えになった一般市民数百名がすでに殺されていると推定されます。これは、カダフィやアサド大統領が殺した自国民の数の一桁上の人数です。サマンサ・パワーのR2Pはどうなっているのでしょうか!?
 エルドアン大統領は自国領内のPKKの拠点だけでなく、イラク北部のクルド地域政府(KRG)の自治区内に入り込んだPKKの拠点にも空爆を加えています。
 KRGの立場は微妙です。今KRGを代表する顔はマスード・バルザーニで、クルド民主党(KDP)の党首でもあります。そしてマスード・バルザーニは,おそらくほぼ完全に米国とイスラエルの思惑のままに動かされていて、その上、トルコの機嫌も損ねないように振舞っています。理由はまたしても石油です。イラク北部のクルド人地域は石油の産地なのです。イラク北部のクルド人地域の経済はそこで産出する石油をトルコ経由で輸出しなければ成り立ちません。ですからイラク北部のクルド地域に入り込んできたクルド人過激派のPKKをトルコ空軍が爆撃しても、トルコ政府に抗議するよりもPKKを自治区内から追い出そうとするのです。12月に入ってから、トルコは、空爆だけでなく、タンクを含む重装備の陸軍部隊をイラク北部のクルド自治区に侵攻させました。おそらくマスード・バルザーニは了解済みだったのでしょうが、バグダッドのイラク政府には無断でこの行為に出たのですから、イラク政府は激しくこれに抗議し、国連にも訴えたので、トルコ政府は渋々クルド自治区の別の場所に陸軍部隊を移しました。その直後、このトルコ陸軍部隊駐屯地に IS(イスラム国)軍から砲弾が撃ち込まれたことが報じられ、トルコ政府はこれに便乗して「トルコ軍はISと戦うために進駐した」と言い始めています。おそらく例の偽旗作戦の一つでしょう。ISがイスラエル内でテロを行う予告をしたようですが、これもその一つのような臭いがします。
 ところで、12月25日のRT(ロシア・トゥデイ)は、アレッポの北東のトルコ・シリア国境の抜け穴をロシア空軍によって塞がれたISとトルコは石油の密輸出ルートを北イラクのザフ(Zakho)を通るルートに切り替えて、1万2千台のオイルタンカーを動員している、と報じています。上の地図では「ザホ」となっています。エルドアン大統領は「証拠が上がれば辞職する」と断言したはずですが、それどころか、いよいよもって無謀な誇大妄想狂に成り果てようとしています。

https://www.rt.com/news/327063-russian-intelligence-oil-tankers-turkey/

 私が前に予想したことですが、ロシアとシリアにIS打倒の手柄を与えることは、米国としては絶対できないので、当面シリアとイラクでのIS勢力は急速に縮小され、リビアのシルトなどに拠点を移すだろうと思われます。近頃、米欧(NATO)でリビアにもう一度実力介入して政治的秩序を回復しようという動きがあります。その時、シルトのISはどうなるのか? 私は、この問題を深甚な興味をもって見守ることになりましょう。


藤永茂 (2015年12月30日)

ISの役割:代理地上軍と石油泥棒

2015-12-09 21:06:38 | 日記・エッセイ・コラム
 まず去る12月2日に世界に向けて公開されたロシアテレビの動画
『Russian military reveals new details of ISIS funding(ロシア軍部がISISの資金調達の新しい詳細を明らかにする)』

https://www.rt.com/news/324252-russian-military-news-briefing/

をご覧ください。これを見ると、今まで2年近くの間、IS(イスラム国)あるいはISIS(イラクとシリアのイスラム国)と“我々”との戦いについて、つまり、いわゆる「テロとの戦い」について、あれやこれやと思い悩んできたことがすっかりアホらしくなってしまうこと必定です。
 上の動画は23:27分の長さで、大空の下、ISの大型石油輸送トラックの大集団がシリアの油田とイラクの油田から盗みとった石油をトルコ内へ運び込む有様が詳細明瞭な動画像、静止画像で示され、画面上を動くポインターで適切な説明が行われます。具体的な数字としては、32の精油コンビナート、11の精油工場、23の石油輸送基地、1080台の石油タンカートラックがロシア空軍機によって破壊されたと報告されています。巨大な石油タンカートラックの大集団が蝟集し、蠢き、長蛇の列をなして、シリア、イラクからトルコ国内に流れ込み、逆方向に、武器や物資を運ぶと思われるトラックの大行列を見るのは、誠にショッキングな経験で、どうしようもない虚脱感に見舞われます。一つの映像は、蝟集した3000台のタンカートラックを示します。ISのこの石油輸送に8500台のタンカートラックが動員されているのだそうです。WHAT? WHAT IS THIS!! –– 正気な米国人というものがいるのなら、こう叫ぶに違いありません。
 一方、12月4日のワシントンからのロイター通信によると、有志連合の対IS空爆作戦の総攻撃回数は8605回に達したそうです。彼らの攻撃目標にこの約1万台のタンカートラックが流れるISの大動脈が含まれていないという事実ほど、文字通りグラフィックに「ISとは何か」という問いの直裁な答えを与えているものはありません。シリアとイラクから石油を泥棒して軍資金を調達し、その金で世界中の死の商人からたんまりと武器弾薬を購入し、世界中の若者たちを駆り集めて洗脳し、アサド政権打倒の米欧地上軍の代理傭兵軍隊としてアサド政権の打倒を目指す。この独立採算システム、敵ながら、誠にあっぱれ、実に卓抜なアイディアです。
 12月8日のテレビの朝と夕のニュースで、「ISの財源の第一は占領地域の市民からの税収、第二は石油の密売。この第二の資金源は最近の米国空軍などの空爆で圧迫されているが、市民からの税の取り立ては防ぐ方法がない」と伝えていました。米国側は、あくまでも、この巨大な嘘で押し通すつもりなのでしょう。
 仏空軍と英空軍は今から何を爆撃するのか。これも興味津々の見世物です。もし、彼らが本当にISという怪物の頸動脈を断ち切って殺してしまいたいのなら、事は簡単、残る数千台の輸送トラックを爆撃し、破壊し尽くせばよろしい。しかし、それは決して実行されますまい。
 日本では殆ど報道されてないようですが、注目すべきニュースがあります。第一は米軍機がシリア政府の地上軍を爆撃したというニュースです。米国空軍機は、これまで、ISを攻撃するという名目のもとに、シリア国のインフラの壊滅を行ってきましたが、シリア政府の地上軍を直接攻撃することはしませんでした。今回の爆撃について米軍は「我々はしていない。おそらくロシア空軍機による誤爆だろう」と嘯いています。第二は、私が特に注目しているロジャバ革命を推進しているクルド人の住む地域に米軍が、シリア政府の合意を得ないままで、飛行場を建設しているというニュースです。国際法から言えば、大変な違法行為ですが、世界でダントツに一番の国際法違反国家は米国ですから、あえて驚くに値しません。私が心配するのはクルド人たちの命運です。第三は、トルコ軍がイラク北部に勝手に侵入してきたことに対して、イラク政府が撤退を要求しているというニュースです。
 トルコの独裁者エルドアン大統領の皮算用は、ISを利用して、石油密売で一稼ぎし、同時にアサド政権を倒しクルド人も抑え込む、その上、NATOからも褒めてもらう、という余りにも虫の良い一石四鳥の夢と言わなければなりません。ISと結託して、シリアとイラクから石油を盗んで金儲けをしていることが立証されれば、大統領を辞任すると公言したエルドアン大統領ですが、今回ロシア国防省が提出した圧倒的な確証を前にしても、彼の背後に控える米国からの指示がない限り、辞職に踏み切ることは絶対にないでしょう。
 しかし、エルドアン大統領の個人的な去就などよりも遥かに重要な問題があります。今この世界を動かしている大小のモンスターたちにとって、世界のあちらこちらで、散発的に、数十人、数百人の一般市民がテロ行為によって生命を失うことなど、実は、何の感興にも値しない些事だということです。

藤永茂 (2015年12月9日)

イスラム国の正体-一つの陰謀仮説

2015-12-02 21:52:48 | 日記
 昨日、「トルコとISの石油商売」について、マスメディアの報道が規制されている問題を取り上げましたが、驚いたことに、一夜明けたら、突然、報道規制が解除された模様なので、なおさら驚いています。解除された理由は、やがて、はっきりしてくるでしょうが、今後、米国政府とマスコミが、「ISから石油を買っているのはアサド政権だ。もし、それがトルコだと証明されたら、大統領をやめる」と言ってしまったエルドアン大統領を如何にして弁護救出するのか、オバマ大統領のお手並み拝見と決め込むことにしましょう。大統領当選以前から、私が(私だけではありません)稀代のコンマンと呼んできた人物ですから、こちらがアッと驚くパフォーマンスが見られるかもしれません。
 ここで、少し昔のことを思い出してみます。イラクの首都バグダッドには巨大な米国大使館があります。大使館として世界一の飛び抜けた大きさで、2009年1月に公式に開館した当時は、職員1万6千人、その中に2千人の外交官が含まれていました。駐留アメリカ軍は2011年の年末に撤退したことになっていますが、もともと大使館職員の数千人は当時まだブラックウォーターの名の傭兵会社に属する警備員であったと考えられます。この悪名高い“民間軍事会社”は、その後、Xe 社、次にAcademi 社と名前を変えています。先頃、気になる記事をASIA TIMESのウェブサイトで読みました。タイトルは、
BLACKWATER FOUNDER ERIK PRINCE ON HOW TO DEFEAT ISLAMIC STATE
というもので、ブラックウォーター社の創立者エリック・プリンスがイスラム国を打ち負かす方法を説いている内容です。エリック・プリンスは、現在、アフリカに焦点を置いた新しい民間警備軍事会社であるFrontier Services Group を率いて仕事をしているのだそうです。

http://atimes.com/2015/09/blackwater-founder-erik-prince-on-how-to-defeat-islamic-state/

https://www.washingtonpost.com/news/checkpoint/wp/2014/10/09/let-contractors-fight-the-islamic-state-blackwater-founder-erik-prince-says/

 このエリック・プリンスという人のことを読んでいると、一つの陰謀話を組み立てたくなる誘惑を感じます。私は、もともと、いわゆる陰謀説というものが好きでなく、9.11のニューヨークの世界貿易センターの爆破についても、米国政府の公式説明にまだ引きずられているような私に呆れた「平和のピアニスト」さんから、きついお叱りをいただいたこともありました。その私が素晴らしい陰謀説を思いつきました。それは、「IS(イスラム国)はエリック・プリンスの天才的な着想に基づいた傭兵地上軍隊で、シリアのアサド政権の打倒とイラクの再軍事占領のために元来必要な米国地上軍(boots on the ground)の代理(proxy)として作戦に従事していて、その作戦中枢はバグダッドの米国大使館の中に設置されている」というものです。私の“ユリーカ”の瞬間は、エリック・プリンスの現在の仕事場がアフリカだと知った時でした。今、リビアの都市シルト(Sirte,Sirt,Surt)は無残な状態に陥っています。シルトはカダフィの生地で、また、2011年10月20日に、彼が暴徒民兵によって惨殺された場所でもあります。ところが、今はシリアやイラクからやってきたIS勢力によって掌握されています。ロシア空軍のIS攻撃が始まって、旗色が悪くなり始めてから、特に、ISのシルトへの勢力移動が顕著になっているようです。私の陰謀理論によれば、「イスラム国」という擬似国家をシリア/イラク地域に設立して、イスラム世界を牛耳るという世界戦略が、ロシアの予期しないような強力な介入によって、その巨大な嘘に思わぬ綻びを生じてしまったので、その嵐を凌ぐために、シルトに遷都を試みている、ということになります。
 まあ、私の陰謀理論の当否などは、リビアの人々、シリアの人々、イラクの人々の苦難を思えば、どうでもよいことです。
 この数日、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストには「米国空軍によるIS石油輸送に対する痛撃で、急に ISの旗色が悪くなってきた」という記事がしきりに出ています。その中にロシア空軍による攻撃のことは殆ど出てきません。一体、どこまで我々一般大衆のインテリゼンスを馬鹿にするつもりでしょうか。下に、関係する記事を二つだけ挙げておきます。

http://www.nytimes.com/2015/12/02/world/middleeast/isis-promise-of-statehood-falling-far-short-ex-residents-say.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=first-column-region®ion=top-news&WT.nav=top-news

http://www.nytimes.com/2015/11/29/world/middleeast/isis-grip-on-libyan-city-gives-it-a-fallback-option.html


藤永茂 (2015年12月2日)

トルコとISの石油商売

2015-12-01 11:11:33 | 日記
 日本の報道産業が外資の支配下にあるという話は私も何度か読みました。それでもしかし、私には、シリア情勢について語っている日本のニューズキャスター、ジャーナリスト、その道の専門家と称する人々が、トルコとISの石油商売について語ろうとしないのは何故か、理解に苦しみます。近頃、分かりやすいニュース番組、ニュース解説番組がはやっているようで、面白くしようとして、簡略化が過ぎて歪曲に陥る場合もあります。少々の不正確さや歪曲もOKというのでしたら、トルコによるロシア空軍機の撃墜の背景のニュース解説で、一番面白いプレゼン方法は、ISがトルコを通じてシリアとイラクで産出されている石油を売り払って巨大な軍資金を得ていること、その石油の輸送に1000台を超える(数千台とも報じられています)タンカートラックが列をなしてシリアとトルコの間を行き来しているのだと解説することでしょう。それに加えて、エルドアン大統領の身内にも、この闇石油商売で大儲けをしている者がいるかも、といった風評も付け足せば、なおさら面白さが増そうというものです。「なるほど、それをロシア空軍機が攻撃して数百台のトラックを炎上させたとなれば、エルドアン大統領の癇癪玉が破裂したのももっともだ」ということになりましょう。
 トルコとISの石油商売の事実は秘密でも何でもありません。プーチン大統領が何度も公に言及していることです。インターネット上でも関連報道記事が多数出ています。日本の報道関係者も夙に承知のはずです。それにもかかわらず、これだけの“だんまり”が日本で行き渡っていること、この事実のほうが、 IS
による日本でのテロ行為の発生憶測などよりも、はるかに重大な問題です。

藤永茂 (2015年12月1日)