私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

シリアと北朝鮮-ウソから始まる戦争、ウソが煽る戦争-(3)

2017-04-18 18:34:34 | 日記・エッセイ・コラム
北朝鮮は、金正男氏の暗殺の「黒幕」と叩かれていますが、韓国の次期大統領が保守系から革新系に変わり強硬路線から融和路線に変わるだろうと見られている時に、あえて韓国世論を刺激する動機はなんなのでしょうか。しかも、衆人環視の空港ロビーで、素人の女性を使い、カメラの前でわざわざ一部始終が収まるようにするとは。マスコミに登場する解説者たちは「理屈で説明できないのが北朝鮮だ」という一言で片づけていましたが、そんな説明で済むのなら国際政治のアナリストなど誰にでも務まります。マスコミからは納得できる説明が得られませんが、ネット上では、以下のサイトが、この事件を批判的な目で追っておられます。

時事解説「ディストピア」
http://blog.goo.ne.jp/minamihikaru1853

外国要人の暗殺を繰り返し実際に計画・実行してきた国は確かにあります。他ならぬ米国です。例えば、以下に見るフィデル・カストロ氏の暗殺計画など、その執拗さ、偏執ぶりは凄まじいものです。

Myriad ways CIA tried and failed to assassinate Fidel Castro
https://www.rt.com/news/368298-castro-assassination-attempts-cia/

以下のような資料からも、暗殺国家・アメリカの常軌を逸した無法と残忍性を思い知ることになります。

The CIA has Attempted to Assassinate 50 Foreign Leaders Including Chavez
http://www.globalresearch.ca/the-cia-has-attempted-to-assassinate-50-foreign-leaders-including-chavez/5326864

A Timeline of CIA Atrocities
http://www.globalresearch.ca/a-timeline-of-cia-atrocities/5348804

アメリカの暗殺者学校
http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-1004-8n.html

現在、過去最大規模の「米韓合同軍事演習」が例年どおり2カ月にわたって実施されており、今回は、マスコミも取り上げているように「金正恩委員長暗殺」まで想定しています。

米韓演習に米特殊部隊参加 暗殺など任務、北朝鮮へ圧力
http://www.asahi.com/articles/ASK395VXBK39UHBI020.html

以下の記事などには、「朝鮮戦争」において米軍による無差別絨毯爆撃がなされ、当時の北朝鮮の人口の3分の1(一説には4分の1)、100万のケタの犠牲者が出たとあります。これはまさに地獄です。その恐怖は想像を絶します。

America’s War against the People of Korea: The Historical Record of US War Crimes
http://www.globalresearch.ca/americas-war-against-the-people-of-korea-the-historical-record-of-us-war-crimes/5350591

北朝鮮への空爆では、在日米軍基地が重要な拠点となり、東京大空襲などの本土爆撃や原爆投下、のちにはベトナム北爆にも関与したカーチス・ルメイ空軍大将が指揮しました。ルメイはその後、航空自衛隊育成に貢献したとして、小泉純一郎元首相の父親・小泉純也(防衛庁長官)の推薦をうけ佐藤栄作政権下で「勲一等」の最高位を贈られます。

藤永先生がかつて指摘されたように、私たちは「朝鮮戦争」の歴史にあまりに無知なのでしょう。学校教育において私自身、史実を教わった記憶がありません。日本人が受けた被害は「拉致問題」ですが、朝鮮人が受けた被害は、過去の植民地支配と戦争、その間に起きた経済的搾取と民族的差別、強制連行(拉致!)、強制労働、従軍慰安婦、そして、日本敗戦後の民族分断、在日米軍が関与した「朝鮮戦争」(人口の3分の1が殺される大虐殺)などです。日本が朝鮮人民に与えた被害の期間と規模は凄まじいものです。日本人拉致被害者の問題解決ももちろん重要ですが、一方的に北朝鮮の拉致だけを断罪するのではなく、日本の側が過去の未清算の罪をみつめ、真摯な謝罪と償いをすることで、関係を正常化するしかないのではないでしょうか。そうすることでしか前に進まないのではないでしょうか。

過去、米軍の無差別爆撃による大虐殺に遭い、現在、米国が敵視する国が次々と軍事攻撃を受けているのを見れば(イラク・リビア・シリア…)、しかも、毎年大規模な米韓合同軍事演習(在日米軍基地も重要な中継拠点なので実質的に日本も参加)が長期にわたってなされ、そのなかで金正恩氏の暗殺計画まで盛り込まれているとなれば、北朝鮮として身構えるのも当然のことでしょう。「ミサイル4発の試射」など釣り合いがとれないほどです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E3%81%AE%E6%9E%A2%E8%BB%B8

それでも、日本のマスコミは「北朝鮮の度重なる挑発」と大騒ぎし、衆参両院も「全会一致」で北朝鮮非難決議を採択しました。いったいどちらが威嚇・挑発をしている側なのかが倒錯しています。たとえて言えば、「いじめっ子」にかつて瀕死の目に遭わされ、今も威嚇・挑発を執拗に受け続けている「いじめられっ子」が、身構えて必死になって抵抗したとします。このとき、「いじめられっ子」の行為だけを取り上げて、「なんて粗暴な奴だ。けしからん!」と𠮟りつけるなど、許されることでしょうか。

国際社会において最も大切なことは、宗教・民族・文化・価値観・政治経済の制度・体制の互いの違いをのりこえて、「平和共存」を図ることでしょう。「独裁」「民主」という言葉をわかったかのように振り回す人たちが目立ちますが、日本は「民主的な国」と本当に言えるのでしょうか。米国は「民主的な国」と本当に言えましょうか。一部の特権階層、政官財界の癒着、軍産複合体などが支配する体制ではありませんか。日本人、米国人のどれほどが、政治に自分たちの意見・思いが反映されている、政治家や官僚は自分たちのために働いている、と胸を張って言えるでしょうか。「民が主」とはそういう状態の国を言います。「日本や米国は民主」、「シリアや北朝鮮は独裁」だと二分法で断罪するのではなく、大事なのは、すべての国が「民が主」の状態をつくる不断の努力をしていくことでしょう。「独裁国家打倒」と銘打って、他国を武力で威嚇したり、叩いたりすることなど、思い上がった許されぬ行為であり、測り知れない不幸と混乱を逆に招くだけの行為です。「平和共存」「武力不行使」という大原則を堅持することが最優先です。今回の米国のシリア攻撃をうけて、安保理の15カ国のうち英・仏・伊とウクライナ(親欧米クーデター政権)、それに日本の5カ国だけは米国側につきましたが、その他の国々からは厳しい批判や慎重な意見が相次ぎました。「国連憲章・国際法の遵守を」「武力不行使・政治的解決を」「国連・安保理を尊重せよ」「単独行動はやめよ」「公正な事実調査を優先せよ」といった意見です。

日本では常に悪者扱いされる「ロシア」と「中国」ですが、この2カ国が欧米の横暴を食い止める「防波堤」になってくれていることに、安堵・尊敬・感謝の念を禁じえません。また、藤永先生のブログにかつて登場した、エボ・モラレスの「ボリビア」とホセ・ムヒカの「ウルグアイ」、この2カ国も実に立派でした。小さな国でも、大国アメリカに向かって、堂々と勇気をもって筋を通しました。

https://www.un.org/press/en/2017/sc12783.doc.htm

今回、「サリン」の言いがかりでシリアに攻撃を加えた米国ですが、当の米国はこれまでにどれだけ残虐な兵器で罪なき人々に犠牲を出してきたことでしょう。その最たるものは「原爆」ですが、ベトナム戦争の「枯葉剤」の被害なども悲惨なものでした。その影響は現在、三世代目、四世代目にまで及んでいるといいます。

Effects of Agent Orange on the Vietnamese people
https://en.wikipedia.org/wiki/Effects_of_Agent_Orange_on_the_Vietnamese_people

枯葉剤被害者のために引き続き支援を進め、正義を求める
http://synodos.jp/article/17868

「核兵器禁止条約」を目指す史上初の国連会議で、米国は真っ先に反対を表明し、日本もそれに追随しました。戦争被爆国・日本が、世界で唯一リーダーシップを発揮できるこの分野で、本当にもったいない、情けないことです。高見沢将林(のぶしげ)軍縮大使は「concrete」「actual」という単語を、岸田外務大臣は「現実的」という単語をしきりに使いましたが、あまりにも「現実」という概念を狭くとらえすぎています。

高見沢大使の演説
https://www.youtube.com/watch?v=SRvswR7SF6A

岸田外務大臣の会見
https://www.youtube.com/watch?v=Ca_uWrCcJQw

会議には115カ国が参加しましたが、これだけ多くの国々が核兵器禁止条約の実現に向けて集結できたというのも、一つのまぎれもない「現実」ですし、その現実をさらに展開していく努力こそ、被爆国日本の役割のはずです。高見沢大使も岸田外務大臣も「核保有国と非核保有国の溝を広げてはならない」という趣旨の発言をしましたが、その溝を埋める橋渡し役として必死になって奔走することこそが日本の使命であり、その努力いかんでは、さらに別の「現実」が開けることになるのです。両者の発言は、こうした「現実のダイナミズム」に目を閉じ、「現実」を静的・固定的にとらえるものでした。

ここで述べたことは、政治学者・丸山眞男氏の「「現実」主義の陥穽」という一文(1952年)から学んだ視点でありますが、病床から書かれた手紙であるこの一文は、すっきりと無駄がなく、それでいて、心のこもったものであり、今読み返しても本当に隅から隅までうなずける内容で、時代を超越した普遍的価値にあふれたものです。『現代政治の思想と行動』(未來社)という本に収められています。まだ読まれていない方は、ぜひ一度お読み下さい。

今回、被爆者の代表の一人として、ヒロシマの生存者、サーロー節子さんがスピーチをされました。彼女は、前日の高見沢大使のスピーチに対して、「祖国に裏切られ続け、見捨てられ続けているという被爆者の思いが、これでさらに深いものになりました。大使は、外国の高官を広島に招き原爆の惨禍を理解してもらうことをとおして、核軍縮における重要な役割を果たしていくと語りました。しかし、これは空疎な、ごまかしの活動です。そうした活動を、米国の核の傘に入りながら行うのですから。核の傘から抜け出た独立のポジションに立つべきです」と批判しました。高見沢大使のスピーチは、日本人として聞いていて本当に恥ずかしいものでした。その内容もさることながら、早口で無機質にただ読み上げるだけのしゃべりからは、とても被爆国・日本としての熱意など感じられるものではありませんでした。

サーロー節子さんは、会議に参加する道を選んだ国々の代表に対して、「皆さんにはどうか、核兵器禁止条約が実現したときにその恩恵を受ける未来の世代の存在を想像するだけでなく、ヒロシマ・ナガサキの死者の魂がこの会議の行方を見つめているということも感じ取っていただきたい。死者の記憶と残影がこれまで常に私を支え、導いてきました。このようにして、多くの生存者たちは、愛する者の死が無駄にならぬようにと生き続けてきたのだと思います。皆さんもどうか、こうした死者の魂の存在と支えを感じ取ってください。会議を成功させてください。私たちヒバクシャは、この条約は世界を変えることができる、変えることになるだろうと心から信じています」と、涙ながらに訴えました。

サーロー節子さんのスピーチ
https://www.youtube.com/watch?v=xnwzXXSy9ec

サーロー節子さんの日本への失望
https://www.youtube.com/watch?v=yqYDhlXfM5U

サーロー節子さんの壮絶な体験談(以下)は、核兵器について語るうえで大前提となる「必聴」のものと感じます。

"We Learned to Step over the Dead": Hiroshima Survivor & Anti-Nuclear Activist Recalls U.S. Bombing
https://www.democracynow.org/2016/5/27/we_learned_to_step_over_the

"I Want the World to Wake Up": Hiroshima Survivor Criticizes Obama for Pushing New Nuclear Weapons
https://www.democracynow.org/2016/5/27/atomic_bomb_survivor_setsuko_thurlow_on

ところで、核兵器と同様に放射能被害をもたらすものとして「劣化ウラン弾」がありますが、こちらはすでに実戦で使用され続けています。シリア紛争でも、米国は「使用するつもりはない」という前言をひるがえして大量に使用しました(対イスラム国と称して)。湾岸戦争・イラク戦争での人的・環境的被害も深刻ですが、米国はまったく反省しておらず、シリアでの大量使用に踏み切ったわけです。このような国が、「化学兵器でかわいい赤ん坊が殺されることは許せない」などと、よく言えたものです。

The Pentagon said it wouldn’t use depleted uranium rounds against ISIS. Months later, it did — thousands of times.
https://www.washingtonpost.com/news/checkpoint/wp/2017/02/16/the-pentagon-said-it-wouldnt-use-depleted-uranium-rounds-against-isis-months-later-it-did-5265-times/?utm_term=.07dac77cc4fb

Iraqi Doctors Call Depleted Uranium Use "Genocide"
http://www.truth-out.org/news/item/26703-iraqi-doctors-call-depleted-uranium-use-genocide

北朝鮮の核開発は「脅威」だとされ、日米の軍備増強の根拠とされていますが、これはまったく為にする議論です。安倍政権は明らかに「戦争への道」を進んでいますが、国民世論説得の道具に「北朝鮮の脅威」なるものが利用されている状況です。教育基本法改悪(愛国心)、道徳の教科化、教育勅語の再評価、戦争法制、秘密保護法、そして今回の「共謀罪」(戦前の治安維持法)、任期中の「憲法改悪」まで目論んでいます。すべてが「戦争」につながるものです。

昨年の時点で、北朝鮮は核兵器禁止条約の交渉開始に賛成していました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-10-29/2016102901_01_1.html

今回、その北朝鮮を後ろ向きにさせたのは、もっぱら米国の態度です。以下の朝鮮中央通信の記事でも、そのことが中心に書かれています。

http://www.kcna.co.jp/item/2017/201703/news24/20170324-20ee.html

朝鮮戦争は平和条約が締結されず「休戦状態」ですが、対立する双方、互いに銃口を向け合う双方のうち、一方にだけ「銃を捨てろ」と迫るのは無理な話です。朝鮮半島の非核化は、六者協議の原則だった「約束対約束、行動対行動」にもとづき、両者同時履行で達成していくべきものです。北朝鮮だけを責め、北朝鮮だけに核の放棄を迫るのは、あまりにも自己中心的なのです。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/6kaigo/ks_050919.html

私は、北朝鮮の核問題について、浅井基文先生(元外務省中国課長、元広島市立大学広島平和研究所所長)のご論考から多くを学ばせて頂きました。多数ご論考のうち以下に三つほどご紹介します。

北朝鮮の核兵器問題
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2008/204.html

朝鮮半島の非核化の条件:朝鮮の立場
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/268.html

北朝鮮の対シリア核協力に関するブッシュ政権の発表
http://www.ne.jp/asahi/som/pojke/test/thoughts/2008/217.html

シリアでのこの6年間を見てもわかるように、いまの世界を動かしている米国中心の権力支配層にとって、「人間の命」など虫けら同然であること、自己の目的のためとあれば、和平の妨害、戦争の継続、偽旗作戦に赤ん坊の命を利用することなどに、微塵のためらいもないことがわかりました。私たちは、自分の身にまさか戦争の惨禍は降りかからないだろうと高を括りがちですが、これはまったく甘い考えです。私たちの命など、こうした権力支配層にとっては「虫けら」同然なのです。平和への脅威、平和の破壊者は、シリアや北朝鮮ではなく、彼らにそうしたレッテルを貼り、自国本意の対外戦略と威嚇・侵略を推進している側です。(桜井元氏寄稿 終)

藤永茂(2017年4月18日)

シリアと北朝鮮-ウソから始まる戦争、ウソが煽る戦争-(2)

2017-04-17 10:07:18 | 日記・エッセイ・コラム
「サリン」といえば、2013年に、シリアの首都ダマスカス郊外のグータで起きた事件が有名ですが、これについては、国連の報告書の中でも、「調査員が着く前に、現場には人々が出入りしており、調査の最中にも疑わしい弾薬を運び込む者の姿があって、証拠が運ばれ捏造された可能性がある」という記述があります(25頁)。バートレットさんも批判していることですが、国連という組織も、西側メディアやNGOなどと同様に偏向があり、本当に中立・公正な調査がなされているのか疑問ではありますが、そうした国連の報告書においても、このような一節を挟まざるを得ない現場の状況があったわけです。

https://disarmament-library.un.org/UNODA/Library.nsf/780cfafd472b047785257b1000501037/5f61477d793185d285257be8006b135a/$FILE/A%2067%20997-S%202013%20553.pdf

グータの事件ついては、ジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏が鋭い調査報道を発表しました。複数の情報機関にいた人たちの証言をもとにした記事で、米国の情報機関は、事件以前にヌスラ戦線がサリンの大量生産に着手した事実を把握し、報告書まで作成していたとあります。ハーシュ氏は、トルコ(エルドアン政権)の事件への関与も指摘しています。こちらは、複数の大手メディアも報じましたが、トルコの高官たちが、シリア領内から自国に向けて自作自演の攻撃をしかけシリア侵攻の口実にしようと話し合う会話が流出したことがありました。また、トルコ南部の警察に逮捕されたヌスラ戦線のメンバーは、警察発表ではサリン2キロを所持していたということです。10人以上の逮捕者のうち5人はすぐに釈放され、残りの者たちもすべて裁判中に保釈されます(リーダーには懲役25年が求刑されていましたが)。彼らの所在は結局わからないそうです。

ベトナム戦争でのソンミ村虐殺事件、アブグレイブ刑務所での虐待事件など、輝かしいスクープを連発してきた敏腕記者のハーシュさんですが、シリア・サリン疑惑に関する大スクープは、どのメディアも取り上げてくれなかったそうです。

The Failed Pretext For War: Seymour Hersh, Eliot Higgins, MIT Rocket Scientists On Sarin Gas Attack
http://www.mintpressnews.com/the-failed-pretext-for-war-seymour-hersh-eliot-higgins-mit-professors-on-sarin-gas-attack/188597/

今回のサリン疑惑についても、すでに多くの批判が出されていますが、例えば以下の記事では、軍の爆弾処理の専門家だった人物が「こんなに早くサリンと特定されたことにまず驚いた(訳注:サリンと特定したのは反政府側を支援するトルコの病院でした)。映像を見てすぐにこれはサリンではないと思った。もしそうなら救助する人たちも死んでしまうからだ。症状からして窒息剤だろう。軍の化学兵器ではない」という見解が述べられています。

シリアは、イスラエルの核兵器に対抗するため化学兵器を保持してきましたが、シリア紛争の過程で国連・OPCWの査察・監視の下、廃棄を完了しています(反政府テロリスト側が化学兵器を使用するなかで、これは思い切った決断だったはずです)。今回、政権優勢の状態で和平への道のりが見えてきたところで、なぜ「軍事的に不要」かつ「政治的に不利」となる化学兵器などを使用する意味がありましょうか。しかも、サリンと特定されるまでの不自然な早さ、米国のミサイル攻撃までの異常な早さ、習近平氏の訪米と合わせたタイミング(対北朝鮮威嚇)を考えれば、これは事前にシナリオが書かれていたものと見るのが合理的でしょう。

Syria Chemical Weapons Red Flags and False Flags
http://www.globalresearch.ca/syria-chemical-weapons-red-flags-and-false-flags/5583616

4月10日のテレビ朝日・報道ステーションで、中東政治が専門の内藤正典氏は、「確証はないがアサド政権がサリンを使用したと思う」と語りました。「確証」がないのに犯人にしてはいけません。安保理で米国のヘイリー国連大使が示したのは「殺害された犠牲者の写真」であり、テレビニュースに流れたホワイト・ヘルメット発の映像も、被害の状況を示すものであって、犯人を示す証拠ではありません。殺害現場の写真を示して、お前が犯人だろうといきなり責め立て、確たる証拠も法的手続きも経ずに、一方的に制裁を課す者などがいたとしたら、一般の社会では許しがたい行為です。今回、米国がしたことは、そうした蛮行です。

内藤氏は、確証はないとしつつも、「イスラエルが最も恐れるのはイスラム国やアルカイダであって、イスラエルは実は世俗派のアサド政権に対しては信頼を置いている。そのイスラエルが、アサド政権の犯行だと断定した以上、実際そうなのだろう」という趣旨のことを語り、アサド政権の犯行とする根拠として、イスラエルの判断というものを挙げました。

しかし、イスラエルとシリアとの関係をこのように見てよいものでしょうか。イスラエルは、イランやヒズボラとつながるシリアを敵視しており、シリア紛争の最中にもシリア領内への空爆を何度も実施しています。

Israeli jets strike inside Syria; military site near Palmyra reportedly targeted
http://edition.cnn.com/2017/03/17/middleeast/israel-jets-syria-strikes/

また、以下の記事には、イスラエル情報機関に詳しいジャーナリストによるものとして、イスラエルとヌスラ戦線の関係や、イスラエルがシリアを分断国家にすることを望んでいる事実などが示されています。スンニ派、シーア派、少数派などのイスラム勢力同士を戦わせることが西側にとって賢明であり、シリアの紛争を継続させることが得策であるという「戦略」も語られています。ウィキリークスが公開したヒラリークリントンの流出メールも挙げられており、そこには「核開発能力を高めるイランに対抗してイスラエルを支援する最良の方法は、シリア国民がアサド体制を転覆するよう支援することだ」とあります。

イスラエルは、シリアの反政府派のための宿営地を、イスラエル・シリア国境付近で提供しているほか、イスラエル軍のコマンド部隊が国境を越えてシリア領内に入り反政府派と合流している事実も明らかになっています。ゴラン高原の停戦ライン付近でイスラエル軍とヌスラ戦線の兵士が接触している写真も、記事には掲載されています。国連UNDOFの報告書にも、そうした事実に触れている部分があります。また記事では、イスラエルのネタニヤフ首相が、シリアの負傷兵を野戦病院に見舞っている写真も見ることができます。

The Enemy Of My Friend Is My Friend: Israel Accepts Billions From The US, But Maintains Ties With Al-Nusra
http://www.mintpressnews.com/israel-accepts-billions-from-the-us-but-maintains-ties-with-al-nusra/219124/

さらに、イスラエルとイスラム国との関係を指摘しているのが以下の記事になります。

UN Report Reveals How Israel is Coordinating with ISIS Militants Inside Syria
http://21stcenturywire.com/2015/02/19/un-report-reveals-how-israel-is-coordinating-with-isis-militants-inside-syria/

Twenty-six Things About the Islamic State (ISIS-ISIL-Daesh) that Obama Does Not Want You to Know About
http://www.globalresearch.ca/twenty-six-things-about-the-islamic-state-isil-that-obama-does-not-want-you-to-know-about/5414735

米国最大のイスラエル・ロビー団体AIPACも、シリアのアサド政権を敵視しています。

http://www.aipac.org/learn/issues/issue-display?issueid=%7BF534C71D-D4CF-478E-89FF-190900F0C6A8%7D

こう見てきますと、「イスラム過激派を恐れ、世俗派のアサド政権を信頼するイスラエル」「そのイスラエルがいち早く、アサド政権がサリンを使用したと言うのだから、実際そうなのだろう」という内藤氏の議論は事実に反するものではないでしょうか。

内藤氏は、「アサド政権は、自国民に樽爆弾を落とすような政権だ」とも非難していましたが、このアサド政権の残虐性の象徴とされる「樽爆弾」については、以下の記事が鋭い検証を展開しています。エヴァ・バートレットさんと同じく、シリアの現地を丹念に取材して、西側のウソを見事に暴き続けている記者ヴァネッサ・ビーリーさんによるものです。

Consign “Barrel Bombs” to the Propaganda Graveyard
http://21stcenturywire.com/2017/01/17/syria-consign-barrel-bombs-to-the-propaganda-graveyard/

ホワイト・ヘルメットもヒューマン・ライツ・ウォッチも、アサド政権の樽爆弾は「マグニチュード8の威力だ」、「ヒロシマ原爆並みの衝撃だ」というウソを白々しくついています。「ヒロシマ」の持つメッセージ性が、皮肉なことに侵略者や戦争屋に悪用され、プロパガンダの道具にされてしまっています。被爆者を愚弄する許しがたい行為です。メディアも見え透いたウソの拡散に手を染め、英国インディペンデント紙は「アサド、2016年に1万3000発もの樽爆弾を落とす」という見出しの記事を掲載しました。情報源は「ウォッチ・ドッグ」グループ、英国に拠点を置く「シリア人権ネットワーク」というNGOで、このNGOが長期にわたり「樽爆弾」というウソを拡散し続けました。この団体は、反アサド・プロパガンダ・キャンペーンを仕切るジョージ・ソロス財団、フォード財団、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などと提携しています。ここでは便宜上「NGO」と表記しましたが、その実態は西側諸国とつながっているので「非政府」とは言えません。以下のNGOの表記も同様なのでご注意ください。

樽爆弾が投下されたというシリアの各地に年間1万3000発も投下するには毎日大量のヘリを飛行させねばなりませんが、一日に飛行可能な時間的制約、ヘリのメンテナンスの必要性、ヘリの基地と投下されたとされる各地域との距離、経済制裁による燃料不足などを考えれば、物理的に不可能であることが指摘されています。また、証拠だとされるヘリの映像も、政府側が通常の戦闘過程で過激派の拠点に攻撃を加えたシーンであり、通常使用される爆弾に「樽爆弾」などというレッテルを貼ったものだと批判しています。もしも、主張されるように大量の樽爆弾の投下が事実だとすれば、証拠映像も多く残るはずなのに、同じヘリの映像が何度も使いまわされている点も不自然だとされています。

「シリア人権監視団」(これもイギリス拠点のNGO)が発表する市民の犠牲者数もいい加減なウソであることは明らかになっており、反政府側の戦闘員やテロリストたちの死者数を市民の死者数に入れたり、大幅に水増ししたりしている事実が報じられています。

市民の犠牲者数の問題は以下の記事が参考になります。

The Dirty Numbers Game in Syria
https://mideastshuffle.com/2013/02/22/the-dirty-numbers-game-in-syria/

問題は「誰が殺しているのか? 誰が死んでいるのか?」ということであり、これを無視して、乱暴にシリアのアサド政権を責めるのはおかしいとあります。記事は、「シリア人権監視団」が国連の報告以上に水増ししている点を指摘していますが、その国連にも問題があり、こうした問題のあるNGOのデータを報告の際に参照したことや、アサド政権を責めるメッセージを国連人権高等弁務官が無責任に発信した姿勢などには、強い批判が向けられています。国連人権高等弁務官も、シリア紛争の実態を見ておらず、「誰が殺しているのか? 誰が死んでいるのか?」が分かっていないようで、こうした責任ある立場の人たちの無責任な発言が紛争の火に油を注いでいるのだ、という趣旨の批判です。

記事によると、国連の犠牲者数統計プロジェクトを担うのは、メーガン・プライスという女性が運営するBenetechという非営利組織ですが、その算定・統計方法の問題もさることながら、米国国務省からも資金を受け取っているというガバナンス上の問題点も指摘されています。メーガン・プライスとは以下の動画の人物です。

https://www.youtube.com/watch?v=P_6TqnWEwoE

笑えないのは、記者がかつてこのシリア人権監視団の代表ラミ・アブドル・ラーマンにインタビューした際、ラミ・アブドル・ラーマン自身が「国連は「政治的」な機関だ。我々以外の組織からの間違ったデータを「証拠」として使うことがある」と話したというエピソードです。シリア人権監視団が挙げる数字とは違う数字を出してくる組織もあって、そうした者同士での対立というものがあるようです。シリアでは様々な組織が怪しい水増しをしている実態が語られており、「犠牲者数の水増しゲーム」という表現をしています。記者が、市民の犠牲者数の多さを突っ込むと、この人物は「市民の犠牲者リストに反政府派兵士も含まれていることは確かだ。犠牲者の身元を特定するのは難しいのだ。現地で「これは反政府派の兵士ですよ」と教えてくれる者などいない。みな隠そうとするからね」と語っています。

現在、リビア政府は、反カダフィ派とカダフィ支持派の死者数は結局それぞれ5千人ほどであった、と引き下げる修正をしました。「当時、カダフィが何万もの市民を虐殺しているということでNATOが軍事介入したことを思い出してほしい。NATOの空爆による死者は5万人に上ったという声もある」と記者は語りますが、ウソが引き起こした戦争によって、おびただしい数の命が奪われました。

以上のように、「樽爆弾」なる存在も、それによって殺されたとされる市民の犠牲者数も、すべてが反政府側とそのプロパガンダ手段である「シリア人権ネットワーク」や「シリア人権監視団」などによる捏造であることは、独立したジャーナリストたちの調査報道によってすでに明らかにされていることです。犠牲者数を膨らませ、「市民の死だ」「アサド政権による犠牲だ」と非難し、反政府側を武装化する正当化理由としたわけです。

内藤氏のツイッターの「こちらもおすすめです」欄には、イスラム国と関係のある中田孝氏や常岡浩介氏のツイッターが挙げられています。中田氏は、「異教徒(ヤズディ)が奴隷にされるのは当たり前」、「異教徒ほど罪深い者はない」、「カリフの旗の下で異端として殺されるのは悪くない死に方」などと語る人物です。

今回のシリア攻撃に対して、日本国内のシリア人(クルド人も含む)からは、米国の行動に批判的な意見が出ましたが、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、そうした状況に対して、「日本のシリア関係者の皆様、本当にこう言ったんですかね」と揶揄したうえで、「アサドが今後も化学兵器使いまくったほうがいいということになるのですが」と批判しました。なぜ、米国の軍事行動を批判することが、「化学兵器を使いまくったほうがいい」と言うことにつながるのでしょうか。米国の行動を批判すること、化学兵器の使用を批判すること、この二つは「両立可能」なものでしょう。黒井氏のような論法はよく見られる悪質なもので、例えば、北朝鮮の拉致問題に対して対北朝鮮強硬論が高まったとき、「軍事的緊張を高めるな」という意見を述べるとします。これに対して「それでは、北朝鮮の拉致を野放しにしていいと言うのか」と切り返すのと同じ論法です。これは、言い方は悪いですが、インチキ論法ですね。「軍事ではなく外交で」と「拉致問題の解決を」は両立可能なのですから。両立可能なものを両立不可能のように決めつけ、「それではお前は〇〇でもいいと言うのか」と相手を批判するのは、とても卑怯なやり口です。

https://twitter.com/BUNKUROI/status/850379462776504320

番組の中で、内藤氏は、アサド政権への恐怖のあまり難民たちは帰還できないなどと語りましたが、「アサド政権は独裁者、アサド政権は残虐」という固定観念で情報を取捨選択し、結論を導いてしまっています。

しばらく前に、NHKが、シリアの隣国ヨルダンでシリア難民の支援を続ける田村雅文さんという方を取り上げました。紛争以前に、青年海外協力隊としてシリアで活動した際、シリアの人々のやさしさに感銘をうけた田村さんは、自分を心から受け入れてくれた人々への恩返しをと、難民支援を続ける決意をされました。田村さんが支援している難民の一人が、「シリアでは少しのお金でたくさんの野菜を買うことができた。シリアに帰りたい」と漏らしていました。「難民たちは、アサド政権への恐怖から帰還できない」という内藤氏のような見方は、偏見に基づくもので、事実をとらえきれていないと思います。紛争前には、本当に美しい国土で、やさしい人々が何不自由なく暮らし、外国人をあたたかく迎え入れ、穏やかな日々が過ぎていたのでしょう。

シリアに帰る日まで~難民支援・田村雅文~
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/4231/2396594/index.html

内藤正典氏がテレビで語った内容の問題点について述べてきましたが、中東・イスラムの専門家の中には、このような誤った見解を発信している人たちが結構いるようです。内藤氏は、自分が間違っているにもかかわらず、正しい分析をされている研究者を「アサド政権に洗脳されている」と貶めるツイッターまで発信しています。

https://twitter.com/masanorinaito/status/850172176120532992

以下も、異論を述べる研究者たちに「アサドべったり」というレッテルを貼る声の一つです。

https://twitter.com/masataka_ishida/status/849576085863841792

批判されどおしの高岡豊氏ですが、中東調査会のサイトには今回の事件について以下の高岡氏の論考が出ていました。一読すればわかりますが、事実に基づいて冷静かつ客観的に分析されているものであり、しかも、紛争当事者が発信する情報にはいずれもバイアスの危険性があるので注意が必要とも書かれています。この方のどこが「アサドべったり」なのでしょうか。

シリア:イドリブ県で化学兵器使用の疑い
https://www.meij.or.jp/kawara/2017_002.html

西側メディアはさっそく「化学兵器で苦しむシリア国民を見て米国の堪忍袋の緒が切れたのだ」という言説を流し始め、米国の行動を正当化しています。では、そのように語る人たちは、米国CIAが積み重ねてきた犯罪の年表(以下)を見ても、米国がそのような人道の国だと言い切れるのでしょうか。ジョン・ピルジャー氏の映像ドキュメンタリー「The War On Democracy」(以下)を見ても、そう言い切れるのでしょうか。

A Timeline of CIA Atrocities
http://www.globalresearch.ca/a-timeline-of-cia-atrocities/5348804

The War On Democracy
http://johnpilger.com/videos/the-war-on-democracy

シリアへの攻撃は、習近平氏の訪米と合わせるようになされ、北朝鮮への威嚇、中国への揺さぶりを意図したものと見られていますが、そのような目的のために無辜の人命を奪うシナリオを練り実行するなど、正気の沙汰ではありません。(桜井元氏寄稿 続く)

藤永茂(2017年4月17日)

シリアと北朝鮮-ウソから始まる戦争、ウソが煽る戦争-(1)

2017-04-16 21:05:28 | 日記・エッセイ・コラム
とうとう7年目に入ったシリア紛争。この長い年月、反政府側が流してきた数々のウソはすでに露見していますが、そうした重要な暴露情報はネット上にとどまり、新聞・テレビ等のマスコミはいまだにそうしたウソを「事実」として扱い、それに依拠した報道・解説を続けています。今回の「サリン」(サリンではなく窒息剤だという見解も出ていますが)も、そうしたウソの焼き直しであることは間違いないでしょう。アサド政権の優勢で事態が進展しているなかで、反転攻勢をかけるために仕組んできた巨大なウソ、赤ん坊の命など「虫けら」のように扱う悪魔的な所業です。

「和平協議の前夜に、しかも、ホワイトハウスが『シリアのリーダーを選ぶのはシリア国民自身だ』と述べたその直後に、アサド政権がわざわざ毒ガス攻撃をして全世界を敵に回すようなことをしたと信じる者がいるだろうか? 我々をイラク戦争へと追いやったのと同じウソの繰り返しだ。我々は、プロパガンダを疑うということを学習できないのだろうか」というロン・ポール氏の言葉がすべてです。

https://pbs.twimg.com/media/C8w_yj4XoAAU9XF.jpg

ネット上、次のような画像がアップされていました。「米国は、イラクでウソをつき、リビアでウソをつき、今度はシリアでウソをついている」というものです。中東・北アフリカの混乱、死と破壊、あふれる難民、蔓延するテロ…、これらの元凶はまぎれもなく米国の傲慢、向こう見ずな軍事行動です。

https://pics.onsizzle.com/they-lied-about-irao-they-lied-about-libya-they-re-18575497.png

遡れば、1970年代末から80年代にかけて「アフガニスタン戦争」というものがありました。日本では「ソ連のアフガン侵攻」と呼ばれました。この史実を詳細に正確に把握している日本人はどれほどいるでしょうか。シルベスター・スタローンが演じる無敵のランボーが、イスラム・ゲリラ(ムジャーヒディーン)と組んでソ連をやっつけるというハリウッド映画が当時ありました。ベトナムで拷問を受ける米兵捕虜を救い出すといういかにも米国の勝手なストーリーの「ランボー第二作目」に続く「第三作目」でした。少年時代の私は、米国への批判的視点などまったく無く、NHKで放送されていたドラマ「大草原の小さな家」やその他のホームドラマ、ハリウッド映画などを観ては、自由であたたかく開放的なアメリカ、悪をたたく正義のアメリカという像を結んでいきました。

しかし、その後、当時のNHKの特集だったと思いますが、アフガンから帰還したソ連兵の証言を集めた番組を見て衝撃を受けました。イスラム・ゲリラの捕虜となったソ連兵には、「シャツ脱ぎ」と称して、胴体の周囲に刃物で切れ目を入れ、上半身の生皮を剥がすという壮絶な拷問が課されたというのです。拷問に遭った兵士はそのまま打ち捨てられ、凄まじい激痛のなかで死んでいったそうです。仲間の変わり果てた姿、苦しむ姿を見せつけて、ソ連兵の戦意を落とすのが目的だったようです。「ソ連が悪い悪いと言われるけれど、相手の側もずいぶんとむごいことをするものだ」と感じたのを、何十年も経った今でもよく覚えています。この反共イスラム・ゲリラを全面的に支援したのが米国とサウジアラビアでしたが、今や首切りや火あぶりで世界を震撼させているイスラム過激派の源流には、もともと米国の姿があったわけです。

イスラム過激派とアメリカとの関係、源流としてのアフガニスタン戦争については、以下の記事でも触れられています。

Twenty-six Things About the Islamic State (ISIS-ISIL-Daesh) that Obama Does Not Want You to Know About
http://www.globalresearch.ca/twenty-six-things-about-the-islamic-state-isil-that-obama-does-not-want-you-to-know-about/5414735

藤永先生が先日、風刺漫画をご紹介くださいましたが、ネット上には次のようなものも見られました。事の本質を突いている漫画です。米国支配層の頭の中には、「シリア国民の命」も「対テロリズム」も実は微塵もなく、自分たちの中東戦略の目的である「シリアの政権転覆」だけがあるということです。

https://pbs.twimg.com/media/C80TMWRXUAEvbHA.jpg

今回の「サリン」の映像には、またもや「ホワイト・ヘルメット」のメンバーが複数映っていました。彼らが、「中立・不偏の民間レスキュー」というのは真っ赤なウソで、すでにその化けの皮は剝がれています。以下の記事の中ほどには、シリア政府軍兵士の遺体を車にのせ「Vサイン」を送るホワイト・ヘルメットの画像があります。さらにその下の方には、4分割の画像と動画があり、処刑の場に控えていて処刑後すぐさま遺体の運搬に取り掛かるホワイト・ヘルメットが映っています。彼らは、中立・不偏ではなく反政府側・テロリスト側にくみする連中であり、人命を救うレスキューではなく殺人の手助けをしている連中です。

Syria’s White Helmets: War By Way of Deception
http://21stcenturywire.com/2015/10/28/part-ii-syrias-white-helmets-war-by-way-of-deception-moderate-executioners/

以下は、ホワイト・ヘルメットが瓦礫に埋まった男性を救助するシーンを「捏造」するところが流出したものです。撮影のスタンバイ中は全員が無言で、24秒経過のところでとつぜん男性が叫び始めます。

https://www.youtube.com/watch?v=3HCFol7g-FU

以下の記事の一番最後の画像(4分割)には、足を負傷し激痛に叫び声をあげるという「熱演」をした男性が、芝居を終えた後にホワイト・ヘルメットと一緒に記念撮影をしているところが写っています。

Why Is Sweden Giving the “Alternative Nobel Prize” to Syria’s ‘White Helmets’?
http://theindicter.com/why-is-sweden-giving-the-alternative-nobel-prize-to-syrias-white-helmets/

以下の病院のシーンでもウソが露見しています。短い動画の最後に映る男性が、白い歯を見せておどけたような表情でいるのですが、カメラに気づいたとたん急に表情を変え、負傷者を演じるのです。反政府側が流す病院の映像では、こうした「エキストラ」がどれほど使われていることでしょう。

https://southfront.org/al-jazeera-releases-fake-footage-from-bombed-hospital-in-eastern-aleppo/

一躍、世界中の注目の的となったツイッターの少女、バナ・アベド。反政府側支配地域の住民として、ツイッターを使って英語でメッセージを発信したというのですが、以下の映像には彼女の英語というものがいかなるものかが露見しています。「(亡命先トルコの)イスタンブールの食事は好きですか。何が好きですか」という質問をされると、「Save the children of Syria.(シリアの子供たちを救って)」という刷り込まれたセリフを返したのです。彼女は、自分の意思や感情を世界に発信していたのではなく、あたかも森友学園の園児たちが「安保法制国会通過よかったです」と言わされているように、大人たちのプロパガンダにうまく利用されただけでしょう。

https://twitter.com/walid970721/status/827528526165372928

今回の米国のシリア攻撃をうけて、彼女はまたもやプロパガンダに利用されました。「ドナルド・トランプさん、大歓迎」というメッセージの送り主として。

https://twitter.com/ShoebridgeC/status/850616309251547136

こういう類のウソ(戦争プロパガンダ)が、マスコミをとおしていまだに「事実」として流され続けています。先日のNHKスペシャル「シリア 絶望の空の下で-閉ざされた街 最後の病院-」もそうでした。

http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170319

藤永先生が以前にブログでご紹介くださった、リック・スターリング記者から「国境なき医師団(クドゥス病院)」へ宛てた「公開質問状」ですが、いまだにまともに答えられた形跡がありません。

Open letter to MSF: About Bias and Propaganda on Syria
https://off-guardian.org/2016/05/07/open-letter-to-msf-about-bias-and-propaganda-on-syria/

「アレッポの最後の病院・クドゥス病院へのシリア政府による残忍な攻撃」というストーリーのウソについては、以下の記事が詳細です。シリアの地に何度も入っているフリーランス記者のエヴァ・バートレットさんが、実際にシリアのアレッポ医療協会の医師たち(協会トップも含む)に取材した結果です。

War on Syria: Manufactured Revolution and Fake Media Narrative
http://www.globalresearch.ca/war-on-syria-manufactured-revolution-and-fake-media-narrative/5577303

医師たちの証言から、クドゥス病院、国境なき医師団のウソが見事に暴かれています。クドゥス病院への攻撃で死亡したという医師の名前は協会の名簿には存在しないというのです。クドゥス病院自体も登録されている病院ではなく、急ごしらえの病院のようです。非常に怪しい存在です。西側メディアがクドゥス病院のウソを垂れ流している時、アレッポの政権支配エリア(150万の市民)には連日、反政府側からの無差別攻撃があり、そのなかで多くの医師たちが活動していたのですが、そうした被害や活動は無視され続けた、という怒りの声です。クドゥス病院が存在したのは過激派のヌスラ戦線の支配エリアでしたが、「病院を標的にするアサド政権、残された唯一の病院、最後の医師」というウソのストーリーがメディアによって拡散された一方、アレッポのその他の政権支配エリアの大勢の市民の犠牲(1万人超)や医師たち(4000人近く)の懸命な活動は、まったく見向きもされずにいたわけです。

アレッポ医療協会に所属する病院では日々の死傷者を記録していたにもかかわらず、トルコその他の外国に拠点を置きウォール・ストリート(経済界)からの支援を受ける「人権団体」や西側メディアは、匿名の活動家やシリア国内のアルカイダ、ホワイト・ヘルメットの情報を引用してばかりいた、とも批判されています。取材したアレッポの多数の人たち、アレッポ医療協会の会長でさえもが、ホワイト・ヘルメットなるレスキュー隊の存在など聞いたこともないという反応で、このことは、ホワイト・ヘルメットという団体がテロリスト支配地域にのみ存在し、テロリストのためにのみ活動していることを意味している、とバートレットさんは断言します。

NHKスペシャルでは、アレッポ包囲戦で物資を遮断し反政府支配エリアの人々を窮乏させたと、アサド政権や北部クルド人を批判していましたが、バートレットさんが取材した医師の証言では、アレッポの政権支配エリアこそ、反政府側の封鎖によって食糧・水・燃料・電気などの欠乏状態を強いられていたということです。

NHKスペシャルでは、医師が不足したため看護師や理学療法士が手術を代行したともありましたが、いくら緊急事態であってもそのようなことは可能なのでしょうか。知識や技術の点で可能かも問題ですが、手術のリスクからして、そのような行為が医療倫理上、認められるものなのでしょうか。放置すれば命に関わるとはいえ、医師以外の人間が危険な手術に臨めば、それはまた命に関わるリスクを生じさせるわけですから。バートレットさんが取材した医師の証言では、アレッポの政権支配エリアには、殺傷能力を増すよう細工された迫撃砲やガスタンク爆弾が一度に何十発も降り注ぐ無差別攻撃が、文字通り連日あったそうですが、一度に大勢がかつぎこまれる病院では医師が不足して追い付かず、人々はそのまま死んでいったとあります。やはり、いくら緊急事態であっても、医師以外の人間に手術を任せるなど、普通は無いのではないでしょうか。

NHKは、「クドゥス病院」、「ホワイト・ヘルメット」、「バナ・アベド」などのウソをてんこ盛りにして、一つの特集番組を作り上げました。取材リサーチャー2人、取材コーディネーター1人の名前(いずれも外国人)が最後に出ましたが、おそらく反政府側の人間がすべてをお膳立てしたのでしょう。反政府側が提供した映像をつなぎ合わせ、トルコに亡命した病院関係者(正体不明)やバナ・アベド親子にスタッフが取材した映像を付け足し、あとはアレッポ包囲戦のCG画像でそれらしく仕上げたという代物です。ジャーナリズムに必要な、対立する双方の中に入り、「取材(証拠の収集)」と「検証(証拠の照らし合わせ)」を積み重ねるという作業がなされたものではなく、以前にご紹介した「アムネスティ・インターナショナル」の「人間場」報告書と同質のものと言えます。アムネスティも、対立する一方の主張に基づく粗雑な推論で報告書を構成し、確かな「証拠」や綿密な「検証」の欠如を、精巧な「CG映像」などを作成してごまかす、という同じようなことをしていました。(桜井元氏寄稿、続く)

藤永茂(2017年4月16日)



『おかめ作戦』の即刻開始を

2017-04-07 22:42:19 | 日記
 『おかめ作戦』>『オペレーション・おかめ』>『オペ・おかめ』は拙作電子本小説のタイトルで、遠隔操縦小型ロボットによる架空の要人暗殺作戦を意味します。
 小学館の国際情報誌「サピオ」の5月号の広告を見ると、
   米国の金正恩暗殺に協力するしかない  佐藤優
という記事があります。今年度の米韓合同軍事演習にはっきり謳ってありましたが、米国は金正恩暗殺を公然と目標に掲げているのです。トランプ大統領は、北朝鮮を懲罰するためには、核兵器による先制攻撃を含めて、あらゆるオプションが on the table だと明言しています。私としては、米国の暴虐行為をこれ以上許すことは出来ませんので、トランプ大統領の名前を『オペ・おかめ』の Kill List に加えなければなりません。このKill Listにはトランプ大統領の近親や政権の閣僚、ジョン・マケイン上院議員、CIAの幹部、エリック・プリンスなどの名も含まれています。リストの中には殺さなくてもよい人も含まれているでしょうが、あまり気にすることもありますまい。何しろ、米国には、コラテラル・ダメージ(collateral damage) という誠に便利な響きの言葉があって、まあやむを得ない犠牲ということで済まされます。遠隔操縦殺人ロボット機ドローンの犠牲者などに関して、皆さん先刻ご存知のことでしょう。
 トランプ大統領を『オペ・おかめ』の Kill List に加えたのは、彼が彼のリストに金正恩の名を加えたからだけではありません。4月4日のシリア北西部イドリブ県で生起した毒ガスによる大量殺人事件を口実にして、トランプ大統領が突然シリアのアサド大統領に対する政策を180度転換したことで、私は、まさに怒り心頭に発し、血圧が180を超えて、頓死の覚悟を強いられたのが、トランプ大統領を『オペ・おかめ』の暗殺対象にしたいと思った第一の理由です。

<昨夜(4月6日)ここまで書きましたが、本日、米国がシリアのアサド政権に対して直接の武力行使に踏み切ったことを知りました。>

 私の血圧が急上昇した直接の原因は、4月5日ホワイトハウスのローズガーデンでの訪問者ヨルダン国王アブドゥラ二世と共同の記者会見で、トランプ大統領が今回の毒ガス事件について語るのを聞いたことでした。初めはNHKのニュースで聞き、ワシントンポストでもっとよく聞き直しましたが、色々なサイトでも聞けると思います:

https://www.washingtonpost.com/world/national-security/trump-and-his-america-first-philosophy-face-first-moral-quandary-in-syria/2017/04/05/ec854e20-1a21-11e7-bcc2-7d1a0973e7b2_story.html?utm_term=.6b9012c1fe64&wpisrc=nl_headlines&wpmm=1

シリアのアサド政権が “innocent people, including women, small children and even beautiful little babies” を惨殺したと糾弾するトランプ大統領の不潔極まる語り口を聞いてみてください。吐き気を通り越して、胃の腑が煮えくりかえる思いがします。この毒ガス事件は米国側の自作自演の芝居であることは火を見るより明らかです。シリア情勢のこの時点で、アサド政権が、自分側にとって百害あって一利もない愚行を犯す理由は完全にゼロです。しかもこの芝居では多数の生身の人間が殺されました。効果を上げるために、いたいけな幼児たちまでが犠牲になりました。これは断じて許せません。
 2013年8月21日シリアの首都ダマスカスの近くの反政府軍の支配地区Ghouta で今回と酷似の毒ガス事件が起こりました。私は、10日後の8月30日『もう二度と幼い命は尊いと言うな』と題するブログ記事で問題を論じました。出来れば全体を読んでいただきたいのですが、以下には、結語の部分だけを再録します:
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 今回の化学兵器使用に就いて、上のFP掲載の記事にあたる「シリアの毒ガスは、実はCIA(あるいはイスラエル)が用意した」という暴露記事が出るのはいつのことでしょうか。10年後? 20年後? 間もなく降り注ぐ米欧軍のミサイルの雨に打たれて死んで行くシリアの老若男女にとって、それこそ後の祭りというものです。
 しかし、私の心に最も重くのしかかって来るのは、虚々実々の政治的暗闘への嫌悪感ではありません。今度の毒ガス使用のむごたらしい映像を見つめながら、心の底に重く重く沈殿してくるのは、この宣伝映像が幼き者たちの苦悶と死に重点を置いて編集されているという事実に対する怒りです。こうした映像を利用する政治的意図こそ、痛々しい幼き者たちの魂に対するこの上ない冒涜であります。つい二三日前のこと、あるテレビニュースでアメリカの慈善団体がシリア難民キャンプで子供たちのために学校バスを運営していることが報じられていました。文字通りの“スクールバス”で、内部の各座席に一台のパソコンが付いていて、子供たちは嬉々としてお勉強に励んでいました。What is this! と私は叫んでしまいました。なんと不必要に贅沢な学校、ここに明白にディスプレーされているのは米欧の毒々しい偽善の醜悪さであって、幼きものたちに対する愛情とは何の関係もないどころか、彼らの喜ぶイメージを自己宣伝に利用する許し難い背信行為です。もしこんなことをする金があるのなら、例えば、ハイチの子供たちにせめて安全な水道の水を飲ませてやって欲しい。川の泥水を飲んでコレラに罹って死なないように。私の脳裏には、またしても、例のマドレーン・オルブライトの発言が浮かびます。以前にもこのブログで取り上げたことがありますが、今日はウィキペディアから少し引用します。:
■1996年、60 Minutesに出演して、レスリー・ストールから対イラク経済制裁について“これまでに50万人の子どもが死んだと聞いている、ヒロシマより多いと言われる。犠牲を払う価値がある行為なのか?”と問われた際「大変難しい選択だと私は思いますが、でも、その代償、思うに、それだけの値打ちはあるのです」(“I think that is a very hard choice, but the price, we think, the price is worth it. ”)と答えた。なお、オルブライトのこの発言を腹に据え兼ねた国連の経済制裁担当要員3名(デニス・ハリデイ、ハンス・フォン・スポネック、ジュッタ・バーガート)が辞任。このうちハリデイは「私はこれまで(対イラク経済制裁について)“ジェノサイド”という言葉を使ってきた。何故なら、これはイラクの人々を殺戮することを意識的に目指した政策だからだ。私にはこれ以外の見方が出来ないのだ」とコメントを残している。■
そうなのです。幼い子供たちの苦しみを政治宣伝の具に供する狡猾さこそあれ、幼い命の尊重などは、米欧の支配権力にとって、極めて低いプライオリティしか与えられていません。彼らのプライオリティの真の序列を見据えることが我々にとって喫緊の要事です。
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 この有名なグータのサリン事件が反アサド勢力側の芝居(偽旗作戦)であったことは、現在では、確立されていると言えます。文献は多数ありますが、ここでは趣向を変えて、二つの興味深い事実を指摘しておきます。一つは、今回のイドリブ事件についてのおびただしい米欧の報道記事や公式的な言明で、グータ事件への言及が、主にオバマ批判の関係から、行われている場合に、よく注意して読んでみると、グータの毒ガス攻撃がアサド軍によるものであったという確言が含まれていないという事実です。偽旗作戦だったのですから当然のことですが。もう一つの事実は、私が見つけた小さな宝石です。
 ロジャバのクルド人の重要な指導者にサレフ・ムスリム・モハメド(Salih Muslim Muhammad) という人がいます。ロジャバ革命のレニングラード戦とも呼ばれるコバネの死闘を勝ち抜いた英雄の一人です。私は、偶然のことから、2013年のグータ事件の直後にサレフ・ムスリム・モハメド氏が「これはアサド側ではなく、反アサド側がやったことだ」と断言していたことを発見ました。
 ついでに、私が見つけた小さな宝石をもう一つ。4月5日ホワイトハウスのローズガーデンでの訪問者ヨルダン国王アブドゥラ二世と共同の記者会見で、トランプ大統領の無責任な発言に同調するつもりのヨルダン国王は、トランプがISISについて語った直後に“Terrorism has no border, no nationality, no religion”とうっかり本当のことを言ってしまいました。ISIS は宗教団体ではないのです。宗教信仰を悪用して若者を暗殺者に仕立てる国際的傭兵組織です。北朝鮮に与えられているような国際的制裁を与えれば、すぐにもしぼんでしまう組織です。

藤永茂 (2017年4月7日)

福島雅典氏の『科学者に与ふるの文』

2017-04-04 22:12:58 | 日記
岩波書店発行の雑誌「科学」の4月号に巻頭エッセイとして『科学者に与ふるの文 軍民両用研究を憂ふ』と題する科学者宛の檄文が掲載されています。
筆者は京都大学名誉教授福島雅典氏。科学者の皆さん、ぜひ読んで下さい。その冒頭と末尾の部分だけをコピーさせていただきます:
**********
君知るや、今、科学者、否国民一人一人に科学とは何か、科学者のあり方、大学のあり方が深刻に、問われていることを。今、人類が未曾有の科学・技術の革命期にあることを。
・・・・・・・・・・・・・・・
君よ、今こそ我らは、日本の科学者の誓い、日本学術会議声明を、朝日に匂う桜が如く心に蘇らせるのだ。『軍事目的のための科学研究を行わない』そして、『戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない』。
**********
一風変わった、古風な、そして、胸がすくような文章です。多額の研究費を獲得して自分のグループの研究の成果を挙げようとする有力な研究者たちすべてが、この檄文に耳を傾けてくれることを願っています。医学研究者としての福島雅典氏の物の考え方については次の記事が参考になります:

http://www.hhk.jp/hyogo-hokeni-shinbun/backnumber/2016/0605/070001.php

 私は、自然科学研究者としての生涯を通じて、軍部あるいは軍事に関連のある如何なる資金源からも、一文たりとも金を頂戴せずに、一生を全うすることが出来ました。それは一人の恩人のお蔭です。まあ話を聞いて下さい。
 1958年、私は、シカゴ大学物理学教室のロバート・マリケン教授から突然招待を受けて、研究員として渡米することになりました。問題は渡米の方法で、マリケン教授からの手紙では、旅行にはMATS(Military Air Transportation Service) の飛行機に乗れるように手配するから、ということでした。私はMATSのことは全く何も知りませんでしたが、MATSはベルリン空輸(1948-1949)や朝鮮戦争(1950-1953) で既に大活躍していた米国の軍事空輸組織でした。米国政府と関係のある民間米国人も利用していたようですが、私がMATSに乗りたくなかったのは、反軍反戦の思想からでは全くなく、MATSの輸送機が発着する米空軍基地がどこになるかは、民間機と違ってその日になってみないとはっきりしないことなどを知らされて、すっかり怖気付いてしまったからでした。当時の私は国内の民間機(日本航空)にも乗った経験がなく、ましてや、米国の輸送機で米国軍人や軍属民間人に混じって初の海外旅行などとても出来そうに思えなかったので、私はマリケン教授のオファーを断り、民間航空会社の便で渡米しました。ところがマリケン教授は私の謝絶を私の抱く反軍、あるいは、反占領米軍の思想の故と思い込んでしまったのでした。
 当時、マリケンの率いる研究チームは創成期のコンピューターを使って分子の物理的化学的性質を計算によって解明するというComputer Chemistry の最前線にあり、マリケンのグループにはシカゴ・ギャングという物騒な響きを持ちかねないニックネームが与えられていました。その研究の内容は純粋に理論化学的で、軍事研究とは全く結びつきのないものでしたが、この研究活動は主に米国海軍からの出資で賄われていました。しかし、マリケンは、私のシカゴ着任直後に、私の給料は軍と関係のない資金から支出されることを、ただ単純に、通告してくれました。これがMATS利用謝絶の結果だと私が悟ったのはしばらく後のことでした。
 「瓢簞から駒が出る」という言葉をここで使うのは不適切かもしれませんが、私は、マリケン教授の好意を一生無にしてはならないと考え、それ以来、意識的に軍部と結びつきのある資金源から研究費をもらうことを一切避けて自然科学研究者としての生涯を終えることができました。これが敬愛する恩人ロバート・マリケンのお話です。
 福島雅典さんの驥尾に付して、私も日本の科学者に反戦反軍の檄を飛ばしたいと思います。戦争はやめましょう。

藤永茂 (2017年4月4日)