私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロシアと核

2015-06-24 22:57:12 | 日記
 2015年6月21日(日)の朝日新聞に
     『ロシアと核  冷戦思考を捨て去れ』
と題する驚くべき社説が掲載されました。全文を読んでいただきたいのですが、以下に最初から5分の一ほどを書き写します。
「核兵器の脅威を振りがざす態度は、断じて認められない。ロシアのプーチン大統領が、新型の大陸間弾道ミサイル(ICMB)40基を年内に配備する計画を明らかにした。ウクライナ危機を機に対立を深める欧米諸国に対し、核戦力で牽制する意図を示したと受け止められる。
 核兵器は、どんな場合も使ってはならない非人道的な兵器である。前世紀の核抑止論を踏襲するかのように暴言を放つ大統領は、時代錯誤の冷戦思考を捨て去らねばならない。欧米と日本は、大統領に対し核の脅しを容認しない明確なメッセージを送るべきだ。・・・・・」
 書き写しながら、あらためて、この社説が行っている事実の捻じ曲げ(誤認では断じてありますまい)に開いた口がふさがりません。米ロ間の新戦略兵器削減条約についての知識を物知り顔に見せびらかすところからしても、この社説の筆者は核武装問題に詳しい人物でしょう。だとすれば、核抑止論のみならず、核先制攻撃論も、米国やイスラエルの政治家たちの頭の中で、alive and kicking であることを良く知っているはずです。また歴史的知識として、1962年のキューバのミサイル危機事件の以前、1960年の選挙戦でケネディが叫んでいた米ロ間の“ミサイル・ギャップ”が真っ赤な嘘であったこと、又、核による威嚇と脅迫を行っていたのは既にイタリアとトルコに核ミサイルを配置していた米国側であったことを、この著者が知らないはずがありません。
 そうなると、この社説について注目すべきは、核問題そのものよりも、どういう力が働いて、プーチンとロシアを一方的に非難糾弾するような社説が書き上げられたのか、という問題の方でしょう。ジャーナリズムの悲惨ここに極まれり、と言わざるを得ません。
 米国にベクテルという企業体があります。日本でもいろいろな事をやっていますのでご存知の向きもあるとは思いますが、すこし誇張して言えば、米国の核軍備はこの一私企業が掌握しています。

藤永茂 (2015年6月24日)
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なぜエリトリアだけを(3)

2015-06-17 20:21:25 | 日記・エッセイ・コラム
 ある意味で、米国の対エリトリア政策の目的は実に単純明快です。現在のアフェウェルキ政権を打倒して、米国の言いなりになる国にしたい。その為には、どんな嘘をつくことも平気です。オバマ大統領は稀代の嘘つきですが、誰にしても、語るに落ちるということはあります。私が嫌悪するクリントン財団が主宰するクリントン・グローバルイニシアティブ(CGI)の会合で、オバマ大統領は、2012年9月25日、エリトリアをめぐるhuman trafficking (国境を越える人身売買)について、次のような発言をしました。:
I recently renewed sanctions on some of the worst abusers, including North Korea and Eritrea. We’re partnering with groups that help women and children escape from the grip of their abusers.
「私は最近、北朝鮮、エリトリアを含む最悪の虐待行使國の幾つかに対する制裁を更新しました。虐待を受ける女性や子供たちがそれらの国から脱出するのを援助する諸団体と我々は協力関係を結んでいます。」
よく気を落ち着けてオバマ大統領が言っていることを読み取ってください。女子供(women and children)という彼の言葉遣いも気に入りませんが、エリトリアの場合は十代の子供たちを意味しています。米国は、あらゆる手段を動員してエリトリアの有為な若者たちを国外に吸い出して、エリトリアの国力、特に軍事戦闘力を弱体化しようとしているのです。そのためには、極めて悪質の人身売買仲介者のパートナーになって憚るところがありません。エリトリアの人々は、エチオピアからの独立をめざす激烈な独立武力闘争の末、1993年4月の国民投票で99%を越える支持率で独立を表明し、5月24日にエチオピアからの独立を宣言、5月28日には正式に国連への加入も承認されました。エリトリアの人口は約500万、エチオピアは人口約1億、アフリカで第2の大国、今は米国に操られる国の一つで、武器も十分供与されています。独立心が極めて旺盛で米国の言いなりに全くならないエリトリアのアフェウェルキ政権の打倒を企てる米国は、エチオピアを使ってエリトリアに軍事的圧力を加えることでエリトリアに常時国民皆兵的な緊張状態を強い、同時に過酷な兵役や国家奉仕の労働を嫌うエリトリアの若者のエチオピア側への越境を誘致しています。上掲のオバマ大統領の言葉の意味がここに露呈しています。エリトリアに対する制裁については、2009年、エリトリアがソマリアの反政府武装勢力に支援を行っているという大嘘をでっち上げて国連(つまり米国)が制裁を議決し、2011年には更なる制裁が追加されましたが、昨年2014年になって、流石の米国もエリトリアのソマリア援助が事実無根であったことを認めました。しかし、エリトリアに対する諸々の制裁措置はまだ取り消してはいません。しかも、前の大嘘に替わって、今度は、「凶悪な独裁者アフェウェルキによって痛めつけられているエリトリアの国民を救ってあげなければ」という真にR2P的お題目のもとにエリトリア潰しの野望を実現しようとしているのです。
 エリトリア国民に対するアフェウェルキ政権の恐怖政治に関する今回の国連報告書(500頁)の内容は文字通り“読むに堪えない”ものですが、具体的な内容よりも、このようなものを押し出してくる真の悪(evil)とそれに魂を売った人たち、それに寄り添う人権擁護団体の面々、この悪の曼荼羅こそ我々が凝視すべきものでしょう。
 幸いにも、この悪のlitanyの毒消しをしてくれる文書が存在します。デンマークの入国管理当局によるエリトリア国内事情の調査報告書(79頁、2014年)です。:

Eritrea – Drivers and Root Causes of Emigration, National Service and the Possibility of Return

http://www.nyidanmark.dk/NR/rdonlyres/B28905F5-5C3F-409B-8A22-0DF0DACBDAEF/0/EritreareportEndeligversion.pdf

デンマークがこの調査を始めた原因は、エリトリアからの亡命希望者数が2014年の7月に飛躍的に増加したことでした。それまで、月平均10人ほどだったのに、7月には突然510人に飛び上がったのです。
 冒頭に調査報告書の目的が書いてあります。「2014年の夏を通して、デンマークはエリトリアからの亡命希望者数の突然の目覚しい増加を経験した。他のヨーロッパ諸国も同様の増加を経験した。エリトリア市民は、それ以来、ヨーロッパ全体の亡命希望者数の大きな部分をなしている。・・・・」この異常事態に直面したデンマークの当局は、エリトリア人のデンマークへの亡命希望者の受け入れ政策を立てる為の判断材料として今回のエリトリア人大量国外脱出の背景事情を自分たちの手で調査することにしたのでした。あとは以下の原文を読んでください。:
During the summer of 2014, Denmark experienced a sudden and significant increase in the number of asylum seekers from Eritrea. Other European countries also experienced a similar increase. Eritrean citizens have since constituted a substantial part of the overall number of asylum seekers in Europe.
The majority of Eritreans seeking asylum in Denmark state as reasons for leaving Eritrea the National Service, the condition and duration thereof, and the fact that they have left Eritrea illegally. Therefore, they fear reprisals from the Eritrean government upon return to Eritrea.
The available country of origin information relevant for the Danish caseload was published by stakeholders with no or little direct access to Eritrea. Consequently, the hitherto available reporting on the conditions in Eritrea to a large extend seems to be based on information obtained from sources that were not present in Eritrea or on interviews with Eritrean refugees abroad. In addition, some of the available information appears not to be obtained recently.
Therefore, the need for more updated and first-hand description of the conditions on the ground in Eritrea arose.
2014年の夏からの突然の顕著な増加は、勿論、人為的、つまり米国のなせる技です。上掲のオバマ大統領の話の通りです。あれこれ策を弄して、次代のエリトリアの国家的戦力を担う若者たちを誘惑して国外に脱出させてエリトリアを弱体化し、同時に、その数の急激な増加がアフェウェルキ政権の恐怖による支配の一段の悪化を示すかのように宣伝するという、一石二鳥の効果を狙ったものであります。
 米国は今回のエリトリアに関する国連報告書を振りかざしてアフェウェルキ政権潰しを正当化しようとするでしょうが、国連の報告書とデンマーク政府の報告書を合わせ読む労を取りさえすれば、真実がどのあたりにあるかを看破することは決して難しくありません。多くの方々がそうして下さることを祈っています。
 独裁的にエリトリアを統治するイサイアス・アフェウェルキ(1946年生まれ)という男、これは注目に値する人物です。もし暗殺による死や、NATO/米国の空爆による死を免れ、目指す政治的目的(エリトリアという紅海南岸の小国の独立を守り通す)を何とか果たすことが出来れば、アフリカの歴史、いや、世界の歴史に名を残すことになること必定です。
 
藤永 茂 (2015年6月17日)
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なぜエリトリアだけを(2)

2015-06-10 22:14:59 | 日記・エッセイ・コラム
 時間的に遅れをとったのが残念です。前回のブログの終わりに書きましたように、「今回の地中海での難民大量溺死事件を報じる米欧のマスコミが、エリトリアからの母国脱出希望者たちの問題を特別扱いしている」のは何故かという疑問の答を今回のブログで書くつもりだったのですが、その先を越して、今週月曜(6月8日)に、国連報告書の形で、はっきりと打ち出されました。米国のエリトリア潰しがいよいよ具体的に始まります。
 国連のニュースセンターの公式記事
New UN report details litany of human rights violations, ‘rule by fear’ in Eritrea

http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=51085#.VXeLuWBuGkl

には、エリトリアの人権侵害状況がどんなにひどいものかが粘りつくような筆致で描いてあり、
“Rule by fear – fear of indefinite conscription, of arbitrary and incommunicado detention, of torture and other human rights violations – must end.”
「恐怖による支配 - 期限なしの徴兵、恣意的に行われ、外部との通信不能の拘束、拷問、などなどの人権侵害の恐怖 - は終わらねばならない。」
とあります。この must end は「終わらせなければならない」と訳したほうがよい強い言葉遣いです。この不吉な言葉遣いは、私に、あのリビアの悲劇の幕開けの頃を思い出させます。米国は、今度は、どのような嘘の積み上げをしてエリトリアを潰しにかかるのでしょうか。
 前回に取り上げた事件、去る4月19日、リビアからイタリアに向けて地中海を渡っていた不法移民満載の船が転覆して850人が溺死した事故の話に戻ります。この惨事直後のUnited Nations High Commissioner for Refugees (UNHCR、国連難民高等弁務官事務所)からの第1報には、“there were Syrians, about 150 Eritreans, Somalians. (死者はシリア人、約150人のエリトリア人、ソマリア人” とあり、その続報では、“among those on board were some 350 Eritreans, as well as people from Syria, Somalia, Sierra Leone, Mali, Senegal, Gambia, Ivory Coast and Ethiopia.” となっていて、ここでも具体的数字が与えられているのはエリトリア人だけです。この特別扱い、実に奇妙ではありませんか。
 上掲の国連ニュースによると、2014年中にイタリア当局に地中海で救助されたエリトリア人の数は3万2千、国連当局によると、これまでに国外に逃れて難民となったエリトリア人は35万7千人に上ります。2013年のエリトリアの人口は633万ですから、国外に脱出する人の数としては少々異常な大きさと言わなければなりません。
 このエリトリ人の大量国外脱出の問題を考える時、現米国大統領バラク・オバマについて、彼の2008年の大統領選挙運動中から、早くも彼を「稀代のコン・マン」と判断した頃の胸苦しさが私の胸に蘇ってきます。あの時と同様に今回も、世の中の殆どすべての人々の意見に逆らって、私はアフリカの小国エリトリアを弁護する役に回りたいと思います。英語で言えば“against all odds”というやつです。もっとも、私のエリトリア贔屓は今に始まったことではありません。この『私の闇の奥』というブログでこれまで幾度もエリトリア贔屓の見解を披瀝してきました。次回には、この新しい国連報告書が、エリトリアのアフェウェルキ政権の打倒(いわゆるregime change )を目指す米国の策動の一環であることを明らかにするつもりです。
 なお、今回の国連報告書に関する国連の人権委員会からの詳しい発表は次のサイトを御覧ください。

UN Inquiry reports gross human rights violations in Eritrea
- See more at: http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=16054&LangID=E#sthash.rweNWZb2.dpuf

この記事の最後に今回の報告書全文へのリンクがあります。この報告書は来る6月23日にジュネーブで国連人権理事会に公式に提出されることになっています。この報告書に対するエリトリア外務省の堂々たる反論は次のサイトに出ています。

http://www.tesfanews.net/coi-report-cynical-political-travesty/

藤永 茂 (2015年6月10日)
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なぜエリトリアだけを(1)

2015-06-03 22:30:43 | 日記・エッセイ・コラム
 去る4月19日、リビアからイタリアに向けて地中海を渡っていた不法移民満載の船が転覆して850人が溺死しました。その少し前には550人乗っていた船が沈んで400人以上が死にました。その後も北アフリカから小舟に溢れるように乗って海を渡りヨーロッパ側の岸辺にたどり着こうとする人々の溺死の悲劇は続いています。それでも2万数千人の不法入国者がイタリアにたどり着いて強制収容所に入れられている模様です。
 ヨーロッパの反応は冷酷無残なものです。端的に言って、非白人はヨーロッパに来てもらいたくない。どんどん溺死するのは、良い ‘deterrence’ になるだろう。渡って来ないようにするには、不法移民を載せるボートをアフリカ側の岸辺で、つまり、主にリビアの港で見つけて、破壊撃沈してしまえば、それが一番良かろう、人の命も助かるし、という着想です。またしてもR2P という奴、人道主義からの発想だとか。
 米欧の人道主義者、人権主義者、あるいはその団体は、自国の悲惨を逃れてヨーロッパに渡ろうとする難民たちから法外な金を巻き上げて、怪しげな密航船に詰め込む悪辣な業者の存在に大量溺死の責任を押し付けようとします。空爆によって彼らの商売を潰してしまえば、ヨーロッパへの難民の流入は止まるという論理です。
 もちろん、米欧の政治家たち、人道主義者たちは、何が原因で、この悲惨が生じているのかを知っています。アフリカの岸辺からヨーロッパの岸辺に何とかして海を渡ろうと必死に試みる人たちの国籍は20にも及ぶとされていますが、最も多いのはリビアとシリアからの出国を試みる人たちです。
 忘れもしません。2011年3月、オバマ政府はリビアの狂人独裁者カダフィがその圧政に反抗して立ち上がったベンガジの大衆を大量虐殺しようとしていると世界に呼びかけて、国連のお墨付きを取り付け、米欧(US/NATO)空軍による猛爆を開始し、地上軍としてはイスラム原理主義組織の軍団を傭兵として国土西部に侵略を進め、同年10月にはカダフィが惨殺されて、リビアという国は八つ裂きにされて滅びました。米欧の意図は初めからカダフィ政権の打倒にありました。シリアのアサド政権打倒の戦争もリビア侵略と同じ頃始められたのですが、シリアの場合には、国連の抱き込みがリビアの時のようにうまく行かず、空爆が思うように開始できなくなり、窮した米国はアサド側がサリンガスを使ったというでっち上げをして、空爆にあわや踏み切ろうとしたのですが、ロシアが介入して阻止されてしまいました。しかし戦乱による一般市民の死者と難民の数ではリビアを遥かに上回り、国内は全くの荒廃状態に陥っています。最近ではISと称する‘外人部隊’の育成に成功し、それを巧妙な口実にして米空軍によるシリア国土の空爆も実行し、アサド政権打倒の目的をいまや果たそうとしているかに見えます。
 米欧がリビアでやった事、シリアでやっている事が、どんなにひどいことであるか、私たちの認識はあまりにも浅すぎます。その歴史的意義、国際的意義、そして、日本にとっての意義は、いま日本で大騒ぎしている長江での客船転覆などとは比較にならない大きさなのです。米欧勢力が自分たちの気に入らない国の政権に対して、如何に冷酷無比な行動に出るか、それを見極めるか否かの問題がここに露呈しているからです。
 今回のブログのタイトル『なぜエリトリアだけを』は、その問題が露呈している場所として、私が何度も取り上げている北アフリカの小独裁国エリトリア(あるいはエリトレアと呼ぶべきか?)に注目したいと思っての選択です。実は、自国の悲惨を逃れてヨーロッパの岸辺にたどり着こうとする不法渡航者の中に多数のエリトリアの若者たちが含まれているのです。私がこのブログで注目したいのは、今回の地中海での難民大量溺死事件を報じる米欧のマスコミが、エリトリアからの母国脱出希望者たちの問題を特別扱いしているという事実です。これまで繰り返し書きましたが、エリトリアの国内事情はリビアやシリア、また、他のすべての不法渡航者の母国のそれと違います。つまり、私が判じる限り、エリトリアの人々は貧しいながらも平和な毎日の生活を送っています。それだのに、なぜ多くの若者たちが、悪徳仲介人に大金を払い、難破溺死の危険まで冒して、母国を脱出しようとするのか。そして、米欧のマスコミは、難民大量溺死の根本的な責任問題をさておいて、エリトリアからの難民流出を熱心に取り上げるのか? 私なりの回答を次回に書きます。

藤永 茂 (2015年6月3日)
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