私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

侵略する側・戦争を起こす側のウソにだまされるな!

2019-05-24 22:29:20 | 日記・エッセイ・コラム
 シリアの政府軍と反政府軍の戦闘の激化が始まっているシリア北西部で政府軍側が化学兵器を使用したらしいというフェイクニューズが、またまた、世界中に流されています。少し落ち着いて考えれば、今になって、シリア軍が化学兵器を使用する理由がありえないことは明々白々なのですが、米国側は世界中がマスメディアの垂れ流す大ウソを易々と鵜呑みにするものと踏んでいるようです。我々はすっかり舐められているのです。
 この状況を厳しく批判する論考を櫻井元さんが書いて下さったので、以下に掲載します。引用されている英文の原記事を読むのが気重な方も、最後のパラグラフだけはしっかり読んでください。
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「シリア政府軍が化学兵器を使用した疑い」というニュースは以前から世界中をかけめぐり、日本でもそのたびに大きく報道されてきました。洗浄のための水をかけられる子供たちの姿、酸素マスクをつけられる子供たちの姿、そんな衝撃的な映像が流され続けてきました。いずれも「反体制派」と呼ばれる武装勢力、シリアという独立国家の転覆を図る欧米やサウジなど外国勢力の手先・傭兵たちが発信する映像で、彼らのプロパガンダ手段である偽装レスキュー隊「ホワイト・ヘルメット」の姿が映っているものでした。そうしたなかで特に注目を集めた一つが、2018年4月、首都郊外・ドゥーマへの化学兵器使用疑惑で、米・英・仏の三国は疑惑浮上から間を置かず、シリア政府軍によるものと断定し、一方的にミサイル攻撃を行う暴挙に至りました。

藤永先生は早い時期から、シリア戦争は「内戦」ではなく「諸外国による侵略」であると看破され、政府軍による化学兵器使用疑惑についても侵略側による「捏造」であると批判されてこられましたが、最近になって上記ドゥーマ事件につき「捏造」を裏付ける重要文書が表になり、またもシリアをめぐるウソが露呈するところとなりました。

重要文書とは、化学兵器禁止機関(OPCW)の「Engineering Assessment」という内部文書で、現地を調査した専門家による検証結果が記されていました。以下の「Moon of Alabama」というサイトでは、国際問題についての鋭い論考が展開されていて、藤永先生のブログでもよく引用されてきました。そちらの5月13日の記事に、当該文書についてわかりやすい解説がありましたので、ご紹介します。

Syria - OPCW Engineering Assessment: The Douma 'Chemical Weapon Attack' Was Staged
https://www.moonofalabama.org/2019/05/syria-opcw-engineering-assessment-the-douma-chemical-weapon-incident-was-staged.html#comments

なお、化学兵器禁止機関(OPCW)の「Engineering Assessment」は以下で読むことができます。
https://www.moonofalabama.org/images8/Engineering-assessment-of-two-cylinders-observed-at-the-Douma-incident-27-February-2019-1.pdf

反体制派は、問題のシリンダーはシリア軍がヘリから投下したものだと言うのですが、現地を査察したOPCWの専門家によると、鉄筋コンクリートの建物を貫通したというわりにはシリンダーの損傷が軽微にすぎ、建物の損傷具合とシリンダーの損傷具合とが符合していないそうです。そして、建物にできた穴は通常の迫撃砲などによるもので、シリンダーは「人の手によって」その穴の近くに置かれた可能性が高いと結論づけられています。つまり、「捏造」が示唆されているわけです。

この捏造の問題については、以下のサイトの記事もご参照ください。

Further Evidence US Attacked Syria Based on False Flag
https://syria360.wordpress.com/2019/05/14/further-evidence-us-attacked-syria-based-on-false-flag/

New Report by OPCW Expert Proves Official Conclusions on Chemical Attack in Douma Contradict Facts
https://syria360.wordpress.com/2019/05/17/new-report-by-opcw-expert-proves-official-conclusions-on-chemical-attack-in-douma-contradict-facts/

上の記事には次のような言葉がありましたが、まったくそのとおりと思います。

「米国が戦争に向けて相手国の挑発行動を捏造するのは、なにもシリアのドゥーマの件だけに限られない。2003年のイラク侵略は、完全に捏造証拠にもとづく意図的なウソによってなされ、いまなお米国は、ウクライナで、ベネズエラで、そしてイランに向かって戦争の挑発を続けており、シリアにおいても、もし政府軍がイドリブの奪還を始めれば再び同じことを繰り返してくることだろう。2018年、米国が支援する武装勢力がドゥーマの化学兵器攻撃をいかに捏造したか、欧米のメディアが欧米諸国の軍事介入を後押しするウソを世界中の人々に向けていかについたか、そして、査察に入った人たちが、偽旗作戦としての化学兵器攻撃が捏造された事実をあばく証拠をいかに示したか―。こうしたことを理解しておくことは、将来、偽旗作戦を使った戦争の挑発が起きた際に、その影響力を軽減する方向に役立つことだろう」

いまの日本では、ご高齢の方々を狙った詐欺がはびこるひどい状況となり、マスコミ各社は「詐欺集団のこうしたウソにだまされないで!」と啓発活動を盛んに展開しています。その同じマスコミが、米国の懲りない戦争をめぐるウソについては、ウソの発信者の情報をそのままに大々的に垂れ流し、日々の報道と解説を通して視聴者に刷り込み続けています。大いなる矛盾を感じます。戦争の口実となるウソ、戦争を煽るウソ、終戦を遠のかせるウソにより、どれだけ多くの人的・物的被害が出てきたことか、どれだけ多くの人たちが悲しみ苦しんできたことか、そして、国際の平和と経済の安定とに対してどれほどの危機を招いていることか、その自覚はあるのでしょうか。シリアの国民と政府に対して、日本の視聴者に対して、すみやかにそして真摯に、事実に反した過去の報道と解説を訂正し、謝罪し、正しい報道と解説に切り替えることはもちろんのこと、こうした同じ過ちを二度と繰り返さないよう、徹底した各社ごとの検証とマスコミ界全体での検証が必要でしょう。くわえて、マスコミからお呼びがかかり毎回ウソの解説をしてきたコメンテーターや有識者たちも、同様に真摯な身の処し方が必要でしょう。戦争をめぐるウソは、誠実な人間であれば重い自責の念から職を辞すくらいの罪深いウソです。
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今回のこのブログの見出しは櫻井元さんの論考のタイトルをそのまま借用しました。論考の最後の部分はとりわけ重要な発言です。櫻井元さんがこのようにはっきりと声をあげて下さったことに感謝します。

藤永茂(2019年5月24日)
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サパティスタは強くなり大きくなりつつある(5)

2019-05-22 23:24:49 | 日記・エッセイ・コラム
 これまで数多くのベネズエラ関係の記事に接した結果、米国は直接の軍事介入に踏み切ることが出来ず、操り人形による内政干渉も、他のあらゆる制裁措置も、マドゥロ政権の打倒に成功しないだろうという判断に、私は到達しました。ベネズエラの“サパティスタ”、つまり、ベネズエラのコミューン民主主義勢力が米国に対して勝利を収めるということです。もしこの勝利が実現すれば、それは世界史的な意味を持ちます。Another World、今のようでない世界、「じゃなかしゃば」に向けての第一歩が踏み出されるということです。 
 前回のブログに引用した三つの記事の二つはロシア政府の国営チャンネルだと見做されているRT(Russia Today) から取りました。このRTのニュースの信頼度をどう考えるかという質問を含むコメントを出張勝也さんから頂きました。国際的事件の報道がプロパガンダの戦いになってしまった現状では、RTの信頼度についてもこの角度から考えるのは当然でしょう。しかし、エバ・バートレットというジャーナリストへの私の肩入れは諸大国の報道プロパガンダ戦の問題から少しずれています。彼女はロシア政府やシリア政府の手先として悪名さくさくですが、ジャーナリストとしての出発点はガザのパレスティナ人の苦難への共感でした。ウィキペディアには、彼女の職業はブロガーとなっています。そのブログはhttps://ingaza.wordpress.com、興味のある方はその[ABOUT ME]を読んでみてください。
 反米的にベネズエラの情勢を伝える記事はRTの他にも、勿論、沢山あります。
Federico Fuentes という人の多数の記事から我々は多くを知ることが出来ます。前回の終わりにその一つを紹介しました:
「ベネズエラのコレクティーボとは何者か」
https://zcomm.org/znetarticle/who-are-venezuelas-colectivos/
「なぜ米国のクーデターは失敗に終わりつつあるか」
https://zcomm.org/znetarticle/venezuela-why-the-us-coup-is-failing/
「コミューンからの展望」
https://zcomm.org/znetarticle/venezuelas-crisis-a-view-from-the-communes/
「我々の問題は我々で解決する」
https://zcomm.org/znetarticle/venezuelans-we-want-to-resolve-our-problems-by-ourselves/
ベネズエラのコミューンについてはRobert Hunziker の「ベネズエラのコミューンは国を守る」:
https://dissidentvoice.org/2019/05/venezuelan-communes-protect-the-state/
という記事も読み応えがあります。この記事の最後に紹介してあるChris Hedges による約26分のビデオも見てください。クリス・ヘジズは私が最も信頼する論客の一人です:
https://www.youtube.com/watch?v=23H-HNYmDnc
 この度の失敗クーデターとコミューンの人たちの頼もしさについては、以上の他にも色々の記事があります:
https://libya360.wordpress.com/2019/05/16/communal-endurance-in-the-23-de-enero/
https://zcomm.org/znetarticle/defending-chavezs-project-today/
https://zcomm.org/znetarticle/venezuela-up-close/
http://axisoflogic.com/artman/publish/Article_84562.shtml
 最後にまたベネズエラ情勢に関する記事の偏向と信憑性の問題に戻ります。5月21日のニューヨークタイムズには、
「経済学者曰く、ベネズエラの崩壊は、戦争を除けば、この数十年間で最悪」
(Venezuela’s Collapse Is the Worst Outside of War in Decades, Economists Say)
と題する長い記事が掲げられ、その副題には
Butchers have stopped selling meat cuts in favor of offal, fat shavings and cow hooves, the only animal protein many of their customers can afford.
と嫌みいっぱいの汚らしい嘘が書いてありました。
https://www.nytimes.com/2019/05/17/world/americas/venezuela-economy.html?nl=todaysheadlines&emc=edit_th_190518
この新聞記事の虚偽性と米国政府の戦争指向支持に対する激烈な抗議がPeter Koenig によってなされましたのでご覧ください:
https://dissidentvoice.org/2019/05/venezuela-in-misery-lies-and-deceit-by-the-media/

藤永茂(2019年5月22日)
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サパティスタは強くなり大きくなりつつある(4)

2019-05-15 22:19:07 | 日記・エッセイ・コラム
 先ず訂正:前回の終わりに「米国の凶悪強盗的な制裁による医薬品の欠乏で死んだベネズエラの子供の数はすでに4万人に達している」と書きましたが、<ベネズエラの子供>は<ベネズエラ人>と訂正します。
 ベネズエラの“サパティスタ”運動、ベネズエラに多数存在するコミューンについては、不思議なほどマスメディアでの無視が続いていますが、ネット上には多数の記事が出ています。新しい所では、私の贔屓の女性ジャーナリストの一人であるEva Bartlettの『ベネズエラはシリアではない・・・しかしアメリカの戦術は同じ』:
https://www.rt.com/op-ed/459333-syria-venezuela-same-tactics-america/
の一読をお勧めします。
 シリアのアサド政府悪魔化の手立ての一つに「シャビーハ」という政府お抱えの殺し屋集団の残虐行為の宣伝があります。シャビーハは、アサド政権に少しでも恭順でない人々を、政府から金をもらって迫害し殺しまくるというのです。米国に反抗する政府の悪魔化(demonization)だけでなく、その政府の支持を表明する人民達をも悪魔化するプロパガンダ行為です。上掲の記事によると、シリアの「シャビーハ」と同じように悪魔化されているのが、ベネズエラの「コレクティーボ(colectivo)」です。言葉としては英語のcollective と同じで、ある一定の目的を達成するために組織化された集団、共同体を意味します。その目的は、先住民の土地擁護でも、女性解放でも、医療保障でもよいのですが、ベネズエラの場合は、ベネズエラでウゴ・チャベスが始めた革命運動の成就を目的として組織された多数の具体的集合体を意味しているのです。コレクティーボの人たちは自らをチャビスタと呼びます。つまり、ベネズエラの“サパティスタ”です。これについてはバートレットさんの記事にも引かれている
https://www.rt.com/news/455603-venezuelans-colectivos-defending-revolution-redfish/
をご覧ください。ここにドキュメントされているチャベス革命支持のコレクティーボには総計で百万人以上の、主に低所得層の、ベネズエラ人が組織化され、米国軍による直接の軍事介入を意識して、男女共平等に民兵としての訓練を受けています。これらのコレクティーボの人たちの祖国防衛の意気はまさに軒昂、もし、米軍が直接のベネズエラ侵攻に踏み切るとすれば、20万余の正規国軍に加え、200万に近い民兵勢力と戦うことになります。米國がベトナム戦争の記憶を失っていないとすれば、躊躇をするのは当然です。
 コレクティーボについては次の記事も大いに参考になります:
https://zcomm.org/znetarticle/who-are-venezuelas-colectivos/

藤永茂(2019年5月15日)
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サパティスタは強くなり大きくなりつつある(3)

2019-05-08 23:38:23 | 日記・エッセイ・コラム
 自習のつもりでサパティスタ運動の歴史を辿る予定でしたが、ベネズエラに対する米国の仕打ちが眼に余るひどさなので今回はそれを取り上げます。
 4月30日の早朝に起こったことは典型的なクーデターの企てで、それは直接に米国が立案計画し、実行したものであり、その失敗は30日中に明白になりました。これが単純な事実です。
 しかし、マスメディアに接している限り、この明白さはボヤけてしまいます。 例えば、ニューヨークタイムズやBBCは大量の報道を流しますが、米国が仕掛けたクーデターが無残な挫折に終わったことをはっきりと読み取ることはできません。報道の饒舌さもプロパガンダ戦争の一つの戦術ということでしょう。以下にその例を挙げておきますので、興味のある方は読んで見てください:
https://www.nytimes.com/2019/05/01/us/politics/trump-venezuela-maduro-guaido.html?emc=edit_th_190502&nl=todaysheadlines&nlid=681465930502
https://www.nytimes.com/2019/05/01/world/americas/venezuela-protests-guaido-maduro.html?action=click&module=RelatedCoverage&pgtype=Article®ion=Footer  
https://www.bbc.com/news/world-latin-america-48137781
しかし、報道の饒舌さに加えて、さりげない誤報や断定も問題です。その一例:5月1日の朝日新聞朝刊の記事は「独裁支配を強めるマドゥロ大統領と反マドゥロ派の対立で政情不安が続く南米ベネズエラで30日、暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長が首都カラカスの空軍基地に入り、兵士らに反政権に決起するよう呼びかけた。政権側は鎮圧する構えだ。軍はマドゥロ氏の有力支持基盤。呼びかけに応じて離反が進めば、同氏には大打撃となる」と始まります。まず“グアイド国会議長が首都カラカスの空軍基地に入った”というのは誤報です。寝返りをした少数の軍幹部に騙されて空港付近に集まった下級兵士の数は約百人、空港警備の国軍は彼らがカルロータ空軍基地内に入るのを難なく阻止し、寝返りした幹部二十人ほどは、これはやばいと早々にブラジル大使館に逃げ込みました。“独裁支配を強めるマドゥロ大統領”という断定は全くホワイトハウス・ラインです。叛乱分子に対する追求処罰の手緩さだけを見ても、マドゥロ大統領は世界中に幾らも見かける独裁的指導者にはとても及びません。マドゥロ大統領はその支持勢力から突き上げられるような煮え切らない面さえ持っています。一方、米国側の「ウソ・ニュース」攻勢は凄まじいものです。
 米国の操り人形グアイドは4月30日朝5時頃クーデターの行動を始めましたが、同日、米国のマイク・ポンペオ国務長官は「マドゥロ大統領は今朝キューバへの亡命を試み、飛行機も用意したが、ロシア政府によって引き止められた」と公言しました。また悪名高きジョン・ボルトン米大統領補佐官は「キューバは衛生医療要員と称してして2万5千人の軍人や情報機関要員をベネズエラに送り込み、マドゥロ政権とベネズエラ軍をコントロールしている」という途方も無い嘘をばら撒いています。キューバがベネズエラを牛耳っているという馬鹿馬鹿しく、毒々しい主張に対する清涼剤として次の記事の一読をお勧めします:
https://libya360.wordpress.com/2019/05/06/cuban-troops-saving-lives-in-venezuela/
表題は「キューバ“軍”ベネズエラで人命救助」です。冒頭にはベネズエラの山岳寒村を背景に衛生医療要員らしい三人の女性の写真があり、キャプションには「2万人を超えるキューバ人協力隊員、その61%は女性、がベネズエラにとどまって、この姉妹国家の人々の人命を救い、その福祉の確保に努めている」とあります。記事本文の最初と最後の部分を訳出します:
「米国大統領ドナルド・トランプは最近、“完全完璧な”封鎖と“最高レベルの経済制裁”を組み合わせて、キューバに脅しをかけ、ジョン・ボルトンはキューバがニコラス・マドゥロの政府を“コントロール”していると非難を浴びせてきた。この虚言は、羞恥心のかけらもなしに、ヤンキー政府の高官たちによって繰り返され、ドナルド・トランプは“2万人のキューバ軍兵士をベネズエラから撤退させよ”とキューバに命令した;キューバがベネズエラから“手を引く”なら、米国とキューバの新しい関係が開けるぞ、との約束を掲げながら。」
「キューバの衛生医療協力隊員はベネズエラの24の州、335の自治体に分布されている。彼らはあらゆる共同体に住み込み、1500以上のヘルス・センターでサービスを提供し、そのサービスを最も必要とする人々と毎日の生活を共にしている;それが貧しい山村であれ、上流階級の地区であれ。患者は政治的な所属や宗教信仰について質問されることもなければ、サービスに対する支払いを求められることもない;誰もが同等に取り扱われる。・・・・・・・・これらが我々の武器であり、ベネズエラにおいて、生命と平和を保証する我が“軍”なのである。そして、我々は、人間の福祉を思いやるそうした努力に着手しようとする人々の断固たる味方である。」
こうしたことを遂行するキューバという国の存在は、まさに、現代の奇跡であり、米国という巨悪に対する貴重なantidote です。イラク戦争の時、米国の制裁措置で医薬品が欠乏し、イラクの数十万人の子供達がこの犠牲となって死亡したことはよく知られています。現在、米国の凶悪強盗的な制裁による医薬品の欠乏で死んだベネズエラの子供の数はすでに4万人に達しているという報告があります:
https://dissidentvoice.org/2019/04/40000-dead-venezuelans-under-us-sanctions-corporate-media-turn-a-blind-eye/
 ところで、ポンペオやボルトンは、米国国軍の直接侵攻によるマドゥロ政権の打倒の可能性をしきりにほのめかしていますが、米国の介入躊躇の本当の理由は、ベェネズエラ国軍の戦闘能力の評価にあるのではなく、ウゴ・チャベスがタネを蒔いたベネズエラの“サパティスタ”の大きな成長にある、というのが私の推測です。

藤永茂(2019年5月8日)
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サパティスタは強くなり大きくなりつつある(2)

2019-05-01 20:39:04 | 日記・エッセイ・コラム
 1994年1月1日、メキシコ最南部のチアパス州で、数千人の先住民が武装反乱に立ち上がって世界を驚かせました。サパティスタの反乱です。武装蜂起の先頭に立った組織の呼び名はサパティスタ民族解放軍(Ejército Zapatista de Liberación Nacional)、 広くEZLNと略記されます。単にサパティスタとすることもよくあります。かつてのメキシコ革命の英雄エミリアーノ・サパタの志を継ぐ者たちとしての自覚から発します。反乱の雄叫びは「YA BASTA!」(もうたくさんだ!)、過去500年間、先住民に加えられた無数の暴虐行為に対する抗議の叫びでした。
 チアパス州はメキシコで最も貧しい州で、蜂起した先住民たちはグアテマラとの国境に近いラカンドン森林(密林)一帯に住み、手に携えた武器は小銃、木製の模造銃も混じっていました。それでも一時は州の古都サン・クリストバル・デ・ラス・カサスをはじめ、6つの町を制圧しました。メキシコ政府は国軍を派遣して、反乱の鎮圧にかかります。国軍の武力を持ってすれば、貧弱な武装の反乱先住民を徹底的に粉砕撲滅することもできたでしょうが、過剰な暴力行使に対する国内国外からの批判の声に直面したサリナス大統領は、12日かけて、反乱を一応封じ込めた時点で、停戦を提案して話し合いを始めるジェスチャーを示し、EZLN側もこれに応じました。突然の出来事としてサパティスタ反乱に驚いた世界の方が間違っているのであり、「どっこい、おいらは生きているぞ」と声をあげて先住民の存在をメキシコの国内外に知らしめただけでも、反乱の収穫はあったのです。1994年元旦のサパティスタ反乱が“忘却に対する戦い(a war against oblivion)”と呼ばれるのも尤もです。
 チアパスの先住民たちは中央政府の腹黒さを十分承知の上で“平和交渉”にのぞみ、その一方で、非階層制的で水平的な(horizontal)政治的社会的組織を形成する努力を続けました。そして、武力抗争の姿勢を崩さないまま、インターネットなどのオールタナティブ・メディアを積極的に利用して盛んな情宣活動を展開し、世界にサパティスタの存在意義を訴える極めてユニークなゲリラ勢力として、広く共感と支持を集めることになったのです。その魅力ある発言の主役がマルコス副司令官と名乗る人物です。彼を含めたサパティスタ革命運動が、その後、どうなったか、その努力がどのように実を結んでいるかが、私の関心の中心であり、これまで、シリアやベネズエラの情勢と結びながら、私が学び、考え続けてきたことの話を続けていきたいと考えています。
 ちなみに、サパティスタ反乱が勃発した1994年1月1日は、NAFTA(North American Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)が発効する日でした。ウィキペディア(日本語)には「NAFTAの規定にはエミリアーノ・サパタが主導した1910年から1919年の革命の記念碑的存在だったメキシコの憲法27条の廃止が含まれていた。歴史的な27条によって、先住民の共用地は売却や私有化から守られていた。しかしNAFTAによって、この保証は投資する際の障壁であると定義された。27条の廃止によって、先住民族は彼らに残された土地の喪失の脅威にさらされ、またアメリカからの安い輸入品が洪水のように押し寄せた。こうして、サパティスタたちはNAFTAが先住民族に対する「死刑宣告」であるとみなすようになった。NAFTAが発効した1994年1月1日にサパティスタ民族解放軍はメキシコ国家との戦争を宣言した。」とあります。
 サパティスタ革命運動については、興味深い日本語の記事がネット上に沢山あります。読みやすく比較的新しいところでは:
「メキシコ雑貨店のブログ」(2017-11-21)
https://mexico-market.net/archives/297
があり、現地訪問記には
http://sekaishinbun.net/2016/11/20/ezln/
があります。

藤永茂(2019年5月1日)
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