私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

残忍性(Cruelty)

2019-02-06 18:32:12 | 日記・エッセイ・コラム
 2015年2月18日付けのブログ記事『もっとも残酷残忍な国は?』で、同年2月12日に行われる筈だったベネズエラのマドゥロ大統領に対するクーデター計画が阻止されたことを報じ、それを操っていた米国という国の残忍性を論じました。同じ『残忍性』の問題を再び取り上げます。
 シリアをめぐる「残酷物語」は2011年の春に始まり、現在も続いています。国際的政治抗争の残忍性は、アフリカ大陸で最も内政的にうまく行っていたリビアが米欧の毒牙に食い荒らされて、あっという間に壊滅してしまった歴史的事実が雄弁に語っています。これを主導したのはバラク・オバマ大統領と国務長官ヒラリー・クリントンであったことを忘れてはなりません。
 オバマ/クリントンはシリアもリビアと同じように血祭りにあげることが出来ると考えていたのでしょうが、米国がリビアに対して行ったことがあまりにもひどかったので、ロシアと英国の議会が米国のシリアへの直接武力侵略を阻止しました。それでオバマは、アサド政権を打倒する手段として、 ISIS(IS、イスラム国)勢力を米国の代理地上軍としてシリアに侵攻させたのでした。これは、2012年から2014年までオバマ/クリントンの下で国防情報局長官を務め、トランプの側近にもなったマイケル・フリン元陸軍中将が、テレビで、はっきりと明言しています。
 もう3年ほど前のことですが、ISISが如何にも凶暴そうな猛犬として描かれ、頑丈な首輪につけられた長い綱はその飼い主によって握られている漫画がシリア政府筋の広報誌に出ていました。ISISの本質を見事に突いています。ISISの旗のもとに残忍暴虐な行為を繰り返す若者たちの正体についてはイスラムの原理主義的狂信者という宗教的テロ集団という見方がもっぱらですが、私はそうは思いません。それについては過去に何度か取り上げました:
IS(Daesh)はやはり守られている(2017年8月28日)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/4a172b6e129d3219d5219e2b79f91d8a
ISの最後の謎が解けた(2)(2017年6月25日)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/525e60d882af2e0e925c641a6db56cc9
ISの最後の謎が解けた (1) (2017年6月25日)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/1f862c600578c679781fdb67d573795c
ISの戦闘員たちの残忍性について、私の考え方に決定的な影響を与えたのは、以前に何度も言及したクルド人女性ディラール・ディリクで、彼女の考えは上のブログ記事ISの最後の謎が解けた(2)の中で要約しましたが、それよりもっと短くまとめると「世界中の何千という若者たちが自ら進んでISISに参加するのは、金がもらえるからという理由があるとしても、根本的には、現在の極めて閉鎖的な社会では、まっとうな人間になる機会を奪われ、人生に積極的意義を見つけることができず全くの無力感に苛まれる結果、殺人、性暴力に象徴される残忍な権力の行使が個人的に可能になるISの組織に魅力を感じるようになるからだ」ということになります。私が要約した部分の英語原文は、次の場所でも読めます:
https://roarmag.org/magazine/dilar-dirik-kurdish-anti-fascism/
There have been many attempts to explain the phenomenon of ISIS and its appeal to thousands of young people, especially considering the brutality of the organization’s methods. Many came to the conclusion that those who live under ISIS often serve the group because of fear or economic rewards. But clearly thousands of people worldwide voluntarily joined the atrocious group not despite, but precisely because of its ability to commit the most unthinkable evils. It seems that it is not religion, but a cruel, merciless sense of power — even at the cost of death — radiating from ISIS that attracts people from across the globe to the extremist group.
Single-factor theories generally fail to consider the regional and international political, economic, social context that enables an anti-life doctrine like that of ISIS to emerge. We must acknowledge ISIS’ appeal to young men, deprived of the chance to be adequate, decent human beings, without justifying the group’s mind-blowing rapist, genocidal agenda or removing the agency and accountability of individuals who commit these crimes against humanity. It is crucial to contextualize the sense of instant gratification in the form of authoritarian power, money and sex that ISIS offers in a cancerous society under patriarchal capitalism, which renders life meaningless, empty and hopeless.
これは、ISの若者たちの残忍性の根源についての議論ですが、私は、むしろ、この獰猛な狂犬に長い綱をつけて操る主人の凶悪な残忍性の方に目を凝らしたいと思います。
 そもそも9・11に象徴される『テロとの戦い』が、終わりのない戦争状態の継続を求める軍産複合体が推進する巨大な偽旗作戦であることは今や明白ですが、米国は、今もなお、この虚偽の大芝居をうち続けようとしています。現在、その立役者はISIS(イラク・シリア・イスラム国)です。シリアの騒乱の機会をとらえたISは北部のラッカを制圧してISの首都としますが、そこからシリアの首都ダマスカスに向けて南下侵攻するのではなく、シリア政府に対する反対勢力の一翼を担っていたシリア北辺のクルド人の小都市コバニに対する猛攻を開始します。ことの初めには、このISの軍事行動について「ISがクルド人民防衛隊(YPG, YPJ)を殲滅するだろう」という見通しと了解がトルコ政府と米国政府にあったに違いありませんが、予想が完全に外れて、それまでシリア国内で連戦連勝の勢いだったISがクルド人民防衛隊によって最初の決定的セットバックを喫します。クルド人がコバニの戦いをかのレニングラードの戦いになぞらえるのも尤もです。この死闘の奇跡を目の当たりにした米国は、実に残忍なことを思いついたのです。このクルド勢力というもう一匹の勇敢な犬の首にも短い綱のついた首輪を付け、長い綱をつけて操っているISという獰猛な狂犬と本気で戦わせて『テロとの戦い』という偽りの大芝居を一段と盛り立てようと考えたのでした。クルドの「レニングラードの戦い」の決着の兆しが見えた途端に、米国空軍がIS軍に対する空爆を開始します。私はその時点の前後のことを今でもよく憶えています。コバニ攻防戦の目処がまだついていなかった時に、米軍機がIS側にパラシュートで物資を投下したという報道を私はネット上で確かに見ましたし、そのことをこのブログのどこかにも書いたと思います。現在も、「コバニの勝利は米空軍の爆撃開始の以前に我々の力で勝ち取っていた」と発言するクルド人はいくらでもいます。米国はYPG, YPJを主力とするシリア民主軍(Syria Democratic Force, SDF)なる米国の代理地上軍を編成し、潤沢に武装させて、シリア政府軍の先を越して、ISの首都ラッカに猛攻をかけます。空からは米軍機が猛烈な爆撃を行い、ラッカ市街は廃墟と化しました。写真で見ると、こんなにまで破壊しなくてもよかったのではないかと思われるほどです。
 私がここで強調したいのは、SDF、つまり、クルド人兵士男女の兵士達とISの兵士たちの戦闘では勿論本物の血が流され、それぞれに数千人の犠牲者が出ているということです。戦闘の巻き添えになった多数の一般市民のことも忘れてはなりません。
 一昨日2月4日、米国の国防総省は米軍がシリアから撤退すればISISがたちまち勢いを盛り返す可能性があるとの報告書を発表し、マスメディアが広く報道しました。日本語の記事を一つ引いておきます:
http://news.livedoor.com/article/detail/15976609/
ISISに付けられた長い丈夫な手綱はしっかりと握られています。「報告書はまた、ISISが引き続きイラク、シリア両国で新たな外国人戦闘員を誘い込んでいるとも指摘した。米主導の有志連合軍によれば、外国人戦闘員は毎月50人のペースで増えているとみられる。」とあります。生贄は今もリクルートされているのです。
 このISIS偽旗大芝居の残忍さを一番身にしみて感得しているのはロジャバのクルド人たちだと私は思います。今、米国がつけた短い綱に引き回されていますが、彼らの怒りと怨念は、いつの日か、爆発するでしょう。そしてクルド人たちがクルド人たちにふさわしい勝利を勝ち取る日が必ず来るに違いありません。

藤永茂(2019年2月6日)
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