急展開を見せるシリア情勢について、中東情勢に詳しい専門家諸賢の発言が数多く出ています。その例を一つだけ挙げておきます:
http://www.unz.com/tsaker/revisiting-the-win-win-win-win-outcome-in-syria/
10月22日にロシア南部のソチで行われたロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の会談は6時間に及び、両国間で極めて重要な合意が達成されました。プーチン大統領の外交的手腕に対しては、deftという形容を超えて、exquisitという褒め言葉まで使われています。ロジャバ革命の将来を占うために、この双方合意の内容をしっかりと読んでみましょう:
https://thesaker.is/putin-and-erdogan-hold-joint-press-conference-in-sochi/
トルコとロシアの間の了解事項覚書
報道陣に対する声明 2019年10月22日
ロシア大統領ウラジミール・プーチン:
エルドアン大統領、ご列席の皆様
我々は、トルコの大統領が、最近の電話会談で提案した我々の申し出を受け入れられたことを感謝する。本日、彼とその使節団が、シリア・アラブ共和国における情勢の展開について、ユーフラテス河東岸のシリア北東部を含めて、討議するためにソチ市に到着した。
エルドアン氏はシリア国境沿いのトルコの軍事作戦の目標について詳細な説明を行った。我々は、トルコがその国家的安全を保証する処置をとることを強く望んでいることを理解していることを重ね重ね表明した。
我々は、その地域でのテロリズムと民族的、宗教的紛争の増大する脅威についてのトルコの懸念を共有する。それらの紛争と分離主義的心情は外部から人工的に煽られていると我々は信じている。
クルドの軍事勢力によって捕虜とされたISISの戦闘員たちのような、テロ組織のメンバーがトルコの軍隊の活動を利用して、脱走を企てることを防止することは重要である。
シリアは不法な外国軍隊の存在から解放されなければならない。 我々は、シリアが堅固な永続的安定性を得る唯一の道はシリアの主権と領土的一体性を尊重することであると信じる。これは我々の原則的立場であり、それについて我々はトルコ大統領と討議した。
この進路をトルコ側と分かち合うことが重要である。トルコ人とシリア人は国境沿いの平和を一緒に守ることが必要であろう。平和は両国間の相互尊重の協力がなければ不可能であろう。
これに加えて、シリア政府と北東部のシリアに居住しているクルド人たちの間の広範な対話が開始されなければならない。シリアという多民族国家の不可欠の一部としてのクルド人のすべての権利と利益は、そのような包括的な対話を通してのみ十分に考慮されるであろう。
言うまでもなく、トルコ大統領との会見中、我々は、シリアが国連と協力してシリアの憲法委員会の中で行う、シリア国内での平和的な政治過程を促進するための追加的手段も討議した。
アスタナ方式の保証人たちは、そのことについて、長年にわたって、注意深く努力を続けてきた。
我々は、現地での状況が、長く待たれてきた来週10月29日〜30日のジュネーブでの憲法委員会の発足を阻止することがあってはならないと信じる。
当然のことながら、我々は人道的諸問題も討議した。我々は、シリアの避難民の帰国を援助することが必要と考える。それによって、シリア難民の受け入れに合意した国々が担った社会的経済的負担は大幅に軽減されるであろう。このことは第一に、そして、最大にトルコ共和国に当てはまる。
我々は、国際社会、とりわけ関係のある国連の諸機関が、帰国するすべてのシリア人に人道的支援の手を、何らの差別、政治問題化、前提条件なしに、差し伸べることを要請する。我々は、また本日の会合を両国間の現在の懸案の論議にも利用した。
我々は両国間の貿易の増大に満足の意を表した。昨年度は16%増大した。我々は近未来について何をなすべきかについて意見を交換し、また、10月初めに調印した国家通貨による決着支払いについての合意の実施がより一層の貿易増加を容易にするであろうことに確信を表明した。
我々は、単にルーブルとリラのより積極的な使用のみならず、ロシアのMIRカードのトルコでの使用とトルコの銀行や会社のロシアのメッセージ・システムへの連結についての重要な文書についても談合を行った。私は、これは両国間の旅行者の交流を拡大するステップの一つと、私は考える。
我々は、積極的に成功裏に進展している大型プロジェクトを含む我々二國関係全般についても話し合った。我々は、また、軍事的、技術的協力も深化させている。ロシアとトルコにおいて長年の文化と旅行の交流が成功裏に行われていることを、私は指摘したい。
最後に、私は、実務的な真摯な会話ができたことを、トルコ大統領と我々のすべての友人同僚に感謝したい。我々は、隣国であることとお互いの利益に対する敬意の原則の上に、すべての分野での協力を発展させたいと考える。
長時間にわたる徹底的な討議の結果として、この我々の声明の後に両国の外務大臣が言明する決定事項に漕ぎ着けたことを、私は喜ばしく思う。
私は、これらの決定事項は、歴史的とは言わずとも、大変重要であり、シリア-トルコ国境についてかなりはっきりした決着をもたらすものと考える。
ロシアとトルコの大統領が報道陣向けの声明を行なった後、両国の外務大臣がロシア-トルコ会談に従って採択した覚え書きを読み上げる。
了解事項の覚え書き 2019年10月22日
トルコ共和国大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンとロシア連邦大統領ウラジミール・プーチンは以下の諸点について合意した:
1.双方はシリアの政治的統一性と領土的無欠性の保存とトルコの国家的安全保障の公約を反復確約する。
2.双方はあらゆる形と表現のテロリズムと戦い、また、シリア領内での分離主義的政策を崩壊させる決意を強調する。
3.この枠組み内で、テル・アビヤドとラス・アル・アインを含む、国境から32キロメーターの深さの地域は目下の平和の春作戦が確立した現状そのままに保持されるであろう。
4.双方はアダナ合意の重要性を再確認する。ロシア連邦は現在の状況下でのアダナ合意の実施を促進する。
5.2019年 10月23日正午を期して、ロシア軍警察とシリア国境防衛隊はトルコ-シリア国境のシリア側、平和の春作戦が実施された地域外の地帯に入るであろう。それは、150時間内に終了すべき、トルコ-シリア国境から30キロメーターの深さの地帯からのYPG要員とその武器の排除、を促進するためである。その時点において、ロシアートルコ合同パトロールが、平和の春作戦が実施された地域の西側と東側で、カミシュリ市を除き、10キロの深さで開始されるであろう。
6.全てのYPG要員とその武器はマンビジュとタル・リファトから除去されるであろう。
7.双方はテロリスト要員の潜入を防止する必要手段を取る。
8.避難民が安全かつ自発的な避難民の帰還を容易にする合同の努力が開始されるべきである。
9.この覚書の内容の実施を監督し、調整するための合同の監視、確認の仕組みを設立する。
10. 双方はアスタナ・メカニズムの枠内でシリア紛争の永続的な政治的解決を見出すための努力を続け、憲法委員会の活動を支持する。
クレムリン
<トルコとロシアの間の了解事項覚書おわり>
上の覚書には重要な事項が多数含まれていますが、私の関心事である「ロジャバ革命」の命運は合意点の第2項で尽きているようにも見えます。念のため、英語原文を引きます:
2. They emphasize their determination to combat terrorism in all forms and manifestations and to disrupt separatist agendas in the Syrian territory.
この内容はロジャバ革命に引導を渡すものではないと私は考えます。次回にはその理由を詳述します。
藤永茂(2019年10月31日朝)