私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

卑劣極まる犯罪

2019-09-28 22:15:38 | 日記・エッセイ・コラム

 サウジアラビアは、イエメンの反政府側に対して空爆を続け、多数の一般人が犠牲になり、イエメンは深刻な人道的危機状況下にありますが、反政府側は、今回、それに対する反撃的報復行為としてサウジアラビアの国内深部に達するドローン攻撃でその主要石油施設に痛烈な損害を与えました。

 9月24日の国連演説で安倍首相は「サウジアラビアの石油施設に加わった攻撃は、国際経済秩序を人質にする卑劣極まる犯罪でした」と発言しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2019/0924enzetsu.html

手元の辞書には、「卑劣」とは「品性や行動が卑しく、下劣なこと(さま)」とあり、形容詞としては英語で【さもしい】mean; 【軽蔑すべき】contemptible; 【汚い】dirty; 【意地の悪い】nasty. と出ています。

荒れ狂う戦乱の中で、サウジアラビアとそれを支持する米国に対する反政府勢力側の乾坤一擲の反撃であり、戦闘行為として卑劣さはありません。国際的に卑劣極まる犯罪をいうならば、それは現在米国が強行しているベネズエラ国民に対する卑劣極まりない“食糧攻め”です。

 R2P(Responsibility to Protect) という標語をご存知でしょう。この「保護する責任」は、前にも問題にしましたが、再度、ウィキペディアを引用すれば「自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意志のない国家に対し、国際社会全体が当該国家の保護を受けるはずの人々について「保護する責任」を負う」ことを意味します。この概念の発祥の時点では、何がしかの善意が含まれていたかもしれませんが、現実には、リビアの場合に最も明白に示されたように、米欧による独立国の政権変換(regime change) の口実に化してしまいました。その化けの皮が剥がれて、醜悪極まりない正体が露呈されているのが、米国の対ベネズエラ政策です。

 無能で非道な独裁者マドゥロ大統領の下で苦しめられているベネズエラ国民を救うために、R2Pの錦の御旗を掲げてレジーム・チェンジをやり始めた米国は、ワシントンでお膳立てしたクーデターが見事に失敗して手詰まりになると、厳しい経済封鎖、貿易封鎖を行って、一般国民の生活状況を極端に悪化させることを始めました。日常雑貨のみならず、医薬品、必需的な食糧の輸入まで阻止することを試みています。これは、ベネズエラ国民一般に対して、「マドゥロを支持していると病気や飢餓で死んでしまうぞ」と脅しをかけているという事です。これがR2P政策の成れの果てです。医薬品や食糧の不足で失われた人命は、すでに数万人に及ぶと推定されています。

 米国の、この“卑劣極まる犯罪”に対して、ベネズエラはワシントンにドローン攻撃を仕掛ける選択肢はありません。しかし、その代わりに、ベネズエラには、国内での食糧自給を目指して懸命の努力を行っている何百という自治的な農民コミューンが存在して、それぞれに民兵組織を持ち、国外からの侵入勢力から国土を守る意識を高揚させています。もし米国の権力層がベトナムの記憶を喪失して、ベネズエラに対する直接の軍事侵略行動に出れば、第二のベトナム戦が南米で展開されることになるでしょう。

 藤永茂(2019年9月28日)

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「地獄へ落ちろお ーーー !!!!!」

2019-09-23 22:56:43 | 日記・エッセイ・コラム

 この記事はyomodalite さんのブログ『マイケルと読書と、、 』の記事「マイケルが「地獄へ行け」と言った女とその娘、そしてワインスタイン」

https://nikkidoku.exblog.jp/30787260/

の中の唱和の呼びかけに、私なりに、呼応するものです。

 マイケル・ジャクソンは2009年6月25日に50歳の若さで没した天才的芸術家です。今回の騒ぎは『ネバーランドにさよならを』(原題:Leaving Neverland)と題する映画に発します。イギリスの監督ダン・リードによるドキュメンタリー映画で、イギリスの国営放送局BBCのChannel 4とアメリカ合衆国の衛星放送局HBOによる共同制作。2019年1月25日のサンダンス映画祭で初公開され、同年3月にHBOでも放送されました。

 上掲のyomodalite さんのブログは次の文章で始まります:

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悲報!『ネバーランドにさよならを』がエミー賞を受賞しました(作品賞ではなく、注目されない小さな部門ですが)。最近の米国のインフルエンサーの態度から予想はしていたものの本当に酷い事態だと思います。 

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悲報!とは誰にとってなのか? これは単にマイケル・ジャクソンのファンにとっての悲報ではありません。セインな心を持つ我々すべてにとっての悲報です。yomodalite さんのブログをよく読めば分かります。

 マイケル・ジャクソンが「Go to hell(地獄に行け)」という言葉を投げかけたのは、グロリア・オールレッド(Gloria Allred)という米国の高名な女性弁護士です。2018年2月、『Seeing Allred』と題する彼女についてのドキュメンタリー映画が放映されて話題になりましたが、サンダンス映画祭でのポスターには THE POWERFUL HAVE SECRETS. THE POWERLESS HAVE A WEAPON. とあります。権力者の秘密を暴くことで弱者を助ける正義の味方Allredが居ることを意味するのでしょう。つまり、「強気を挫き、弱きを助く」任侠女性弁護士ここにあり、というわけです。しかし、サリンジャーのホールデンの口を借りれば、グロリア・オールレッドは“a phony”です。権力者の性的秘密を暴くことで、弱きを助ける進歩的任侠としての社会的セレブの地位に自己満足を見出している女性です。ヒラリー・クリントンと同類の忌むべき人間の一人です。

 yomodalite さんのブログに含まれている18秒の動画で、 マイケル・ジャクソンがリポーターに「彼女に「地獄に行け」と言っておいて」と発言するそのトーンをよくお聞きください。これは、自分の罪悪を指摘されて苦し紛れに叫び返している声ではありません。私には、グロリア・オールレッドというフォニーな正義の味方に対するマイケル・ジャクソンの disdain がはっきりと聞き取れました。彼は潔白です。

 

藤永茂(2019年9月23日)

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誰がアマゾンの森に火を放っているのか?

2019-09-13 23:18:59 | 日記・エッセイ・コラム

 カリフォルニアの豪邸地帯の森林火災とアマゾンの熱帯雨林の火災とは根本的に違います。アマゾンを焼き払って、広大な農地を、牧場を開拓し、合わせて、熱帯木材の伐採を狙う農林畜産資本、また、地下に眠る膨大な資源の発掘を目指す鉱業資本がその主犯です。extractive industry という語があります。採取産業とか抽出産業とか訳されますが、企業利潤の最大化を駆動力としてあくまで自然を搾取する人間の所業を意味する言葉です。

 昔、1970年代に、北米で流行った成句があります:

WE HAVE MET THE ENEMY AND HE IS US (我等は敵に出会った、敵は我等だ)

この成句は、一説によると、1970年の「地球の日(Earth Day)」のポスターに用いられ、米国の漫画家Walt Kellyが続き漫画『Pogo』の主人公オッポッサム(大きなネズミのような動物)のポゴ(Pogo)にこの台詞を言わせてから有名になったようです:

https://humorinamerica.wordpress.com/2014/05/19/the-morphology-of-a-humorous-phrase/

地球環境を破壊しているのは、消費文明にどっぷり浸って、ひたすら消費生活を享楽している我々自身だという自覚を促す警句です。しかし、この言い回しには大きな危険性が潜んでいます。敵、HE or THEY, は確かに我等なのでしょうか?

 アマゾンの先住民たちが“THEY ARE KILLING US”と叫んで、彼らに襲いかかる暴力に必死に抵抗する状況を目の前にして、私たちはきっぱりとした選択をしなければなりません。選択を求められているのです。ポゴの意識のレベルを超えて、殺している側から、いま殺されている側に自覚的に身を移さなければなりません。「アマゾンの先住民たちが気の毒だから、できるだけ守ってやらなければ」と生ぬるい同情心を抱くことだけで済むことではないのです。

 アマゾンの大火を前にして、中南米の多くの人々の心に、27年前のフィデル・カストロの警告が生々しく蘇っているようです。1992年6月12日のこと、ブラジルのリオデジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議で、キューバの首相フィデル・カストロは、このまま環境破壊の開発を続ければ人類は滅亡するという強烈な講演を行いました。その全文は、例えば、下の記事に含まれています:

https://libya360.wordpress.com/2019/08/26/when-the-amazon-is-burning-return-to-fidel/

カストロの発言の英訳文を断片的に和訳します。(原語はスペイン語):

#It is necessary to point out that consumer societies are fundamentally responsible for the brutal destruction of the environment. They arose from the old colonial powers and from imperialist policies which in turn engendered the backwardness and poverty which today afflicts the vast majority of mankind. (消費者社会というものが環境の凄まじい破壊に基本的に責任があることを指摘する必要がある。それは古い植民地体制から立ち上がり、帝国主義的政策が、引き続き、後進性と貧困を生み出して、それが、今日、人類の大多数を苦しめている。)

#Population pressures and poverty trigger frenzied efforts to survive even when it is at the expense of the environment. It is not possible to blame the Third World countries for this. Yesterday, they were colonies; today, they are nations exploited and pillaged by an unjust international economic order.  (人口膨張の圧力と貧困は、環境を犠牲にしてでも、生き残るための凶暴なまでの努力を引き起こしている。このことに対して第三世界の国々を責めることは出来ない。以前には、それらの国々は植民地だった;今日では、不公平な国際的経済体制によって搾取され、略奪されている。)

#If we want to save mankind from this self-destruction, we have to better distribute the wealth and technologies available in the world. Less luxury and less waste by a few countries is needed so there is less poverty and less hunger on a large part of the Earth. We do not need any more transferring to the Third World of lifestyles and consumption habits that ruin the environment. (もし我々がこの自己破壊から人類を救いたければ、世界で入手可能の富と技術をもっと公平に配分すべきである。少数の国々が奢侈と浪費の度を減らすことで、この地球の大部分での貧困と飢餓を今より減らすことが必要である。環境を荒廃させるライフスタイルと消費の習慣を、これ以上、第三世界に移植する必要はない。)

この発言に続くカストロの講演の締めくくりの部分の英語トランスクリプトを以下にコピーします。けだし、歴史的至言です。今回のアマゾン熱帯雨林火災に関しての現ブラジル大統領 ボルソナーロの言動と比べてみて下さい。

# Let human life become more rational. Let us implement a just international economic order. Let us use all the science necessary for pollution-free, sustained development. Let us pay the ecological debt, and not the foreign debt. Let hunger disappear, and not mankind.

Now that the alleged threat of communism has disappeared and there are no longer any more excuses for cold wars, arms races, and military spending, what is blocking the immediate use of these resources to promote the development of the Third World and fight the threat of the ecological destruction of the planet?

Let selfishness end. Let hegemonies end. Let insensitivity, irresponsibility, and deceit end.

Tomorrow it will be too late to do what we should have done a long time ago.

Thank you. (終わり)

 今の米国に残存するほんの僅かな数の真のジャーナリストの一人であるクリス・ヘッジズは2014年6月に『我等は全てサパティスタスにならなければならない』と題する名記事を書きました:

https://www.truthdig.com/articles/we-all-must-become-zapatistas/

この呼びかけを今のアマゾンの大火について適用すれば、アマゾンに火を放っているのは誰なのか、つまり、真の敵は誰であるかを見据えて、その“彼等”に対して戦いを挑むことが“我等”に要請されているのです。この呼びかけは前回のブログ『THEY ARE KILLING US(彼等は我等を殺しに殺す)』の末尾に掲げたアルンダティ・ロイの呼びかけと同じです:

「企業の目指す革命は、彼等の売っているもの、つまり、彼等の考え方、彼等が捏造した歴史、彼等の戦争、彼等の武器、彼等が不可避だと考えること、などなどを買うことを、もし、我等がきっぱり拒否したら、崩壊するだろう。・・・肝に銘じておこう:我等が多勢で、彼等は無勢なのだ。我等が彼等を必要とする以上に、彼等には我等が必要だ。・・・もう一つの別の世界は可能であるだけではない、もうそこまでやってきている。静かな日には、彼女の息吹が私の耳には聞こえる。」

「The corporate revolution will collapse if we refuse to buy what they are selling – their ideas, their version of history, their wars, their weapons, their notion of inevitability… Remember this: We be many and they be few. They need us more than we need them…Another world is not only possible, she is on her way. On a quiet day, I can hear her breathing.」

 

藤永茂(2019年9月13日)

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