私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ、モスル、ラッカ、アレッポ、トランプ

2016-11-19 21:47:58 | 日記・エッセイ・コラム
 トランプで世界中が大騒ぎのようですが、アメリカの本質が変わらない以上、アメリカ以外の力が世界を変えることを始めなければ、世界は今の道を進むだけでしょう。それにしても、何という無様な騒ぎ方でしょう。世のおえら方(pundits)の混迷ぶりも驚きです。今まで、彼らは物事の真実、真相を把握してはいるけれど、それを言えば、お声がかからなくなるから言わないのだ、と思っていましたが、そうではなさそうだと今回痛感しています。NYタイムズにコラムを書いているクルーグマンがその好例です。初の非白人大統領オバマが実現した時、感動の涙を流した(流さなかった者はどうかしている)というクルーグマンの言葉に、私は大いに驚かされましたが、今度のトランプ大統領について、トランプ現象についてのクルーグマンの判断、反応も、目も当てられない情けなさです。
 現時点での最重要の世界的事件はシリア戦争です。シリア戦争にとっての最重要課題は「クルド人たちをどうするか」ということです。IS(イスラム国)をどうするかは二次的問題です。こちらの方は、ISのテロを最も有効に使うにはどうすれば良いか、という問題です。
 米国が目指しているのは、イラク北部とシリア北部を一体としたクルド人の独立国を作ることだと私は考えています。今はバルザニ大統領の下にあるイラク・クルディスタン自治区をシリア北部(ロジャバ)に拡大して、クルド人の独立国を名乗らせるわけです。勿論、出来上がった独立国は米国が実質的に支配することになります。
 一方、トルコでは、今年7月15日のクーデター未遂事件の直後からの4日間に、軍2839人、内務省8777人(このうち警察が7850人)、国民教育省職員1万5200人、宗務庁492人、家族・社会政策省393人、財務省1500人、裁判官2745人が罷免や訴追の処分を受けました。何としても、これは手回しが良すぎます。政権側は直ちにフェトフッラー・ギュレン師という、すでに米国に亡命していたイスラム指導者を黒幕と名指しし、クーデターはギュレン師の支持者によるものと断定して、ギュレン師の引き渡しを米国政府に要求しましたが、その後の話は立ち消え模様です。今回のクーデター未遂事件が本物だったか、偽旗だったかの詮索は他の人々に任せますが、肝心な所は、これを機に、トルコ政府が数万人の規模に及ぶクルド人とクルド人に同情的な人々の逮捕投獄、職場追放に踏み切り、クーデター以前から始めていたトルコ東部のクルド系住民に対する武力行使を格段に激しくして、もはや、クルド人の組織的虐殺の始まりとみなされる事態になっている点にあります。実際、世界の幾つかの都市で行われているトルコ政府弾劾のデモ参加者たちは、これはクルド人大量虐殺の行為であると声を上げています。トルコ東部の情勢は重大であるにも拘らず、西側のマスコミはほぼ完全に無視を続けています。西側お得意のR2Pは一体どうなっているのか! 皮肉を言うのもバカバカしくなります。現象論的あるいは結果論的に言えば、7月15日のクーデターはトルコ国内、特に、トルコ東部のクルド人を猛烈に迫害して、出来るものならば、シリア北部、イラク北部に追い出してしまう目的で仕組まれたと見ることが可能です。米欧のシリア戦争に便乗して、トルコのエルドアン大統領は、約100年前のアルメニア人虐殺追放の生き写しのような、クルド人問題の解決法を企てているように思われます。
 シリア戦争の現状はマスメディアの報道を追っていると混乱を極めているように見えますが、クルド人問題という視点に立てば、大して複雑ではありません。シリア北部(西クルディスタン、ロジャバ)とイラク北部(クルディスタン地域、KRD)を含む地域にクルド人の国を作って“クルド問題”の解決を図るのは、米欧にとってもトルコにとっても乗り気の方向ですし、ロシアにとっても受け容れ可能と考えられます。
 しかし、問題の核心は、すでに幾度も指摘したように、シリア北部のクルド勢力とイラク北部のクルド勢力の間に殆ど敵対に近い分裂があることです。シリア北部で築き上げられつつあるロジャバ革命をトルコのエルドアン大統領は嫌悪し、その進展を恐れています。ロジャバ革命軍(YPG/YPJ、クルド人防衛隊/クルド女性防衛隊)は士気軒昂たる戦闘集団です。武器弾薬さえあれば、バルザニ大統領の率いるペシュメルガ軍団とは比較にならない強さを発揮します。ペシュメルガ軍団の強さに関する報道や解説には誤りが沢山あります。
 シリア戦争の現情勢は次の通り。三つの重要地域は、イラク北部のモスル、シリア北部のラッカとアレッポです。いわゆるモスル奪還作戦は開始以来すでに一ヶ月、戦果は着々と上がり、IS(イスラム國)側の戦死者は既に数千人と報じられていますが、IS戦力のモスルからラッカへの移動は着々と行われている模様です。ロシア空軍はそれを少しでも阻止しようとしていますが。モスルの“解放”はまだだらだらと続くでしょう。では、イスラム国の首都ラッカの攻防はどうなるか? 「ユーフラテスの怒り」と名付けられたラッカ攻略作戦の主力は米国が強力に後押しするロジャバ革命軍(YPG/YPJ)の精鋭ですが、総勢はせいぜい3万人というところでしょう。簡単に言えば、米国は彼ら、彼女らをイスラム國軍と戦わせて、出来るだけ殺し、ロジャバ革命勢力を弱体化し、シリア北部をバルザニ大統領あるいはそれに似たり寄ったりのクルド人政治家の統率下に繰り込みたいのです。バルザニ大統領は既にトルコのエルドラン大統領と良好な関係にありますし、エルドアン大統領は、もちろん、YPG/YPJの殲滅を何よりも望んでいる人物ですから、この米国の陰険残忍極まる作戦計画に全面的に賛成です。実際、トルコ軍は、直接、公然とYPG/YPJに攻撃を仕掛けています。つまり、ラッカの戦闘では、ロジャバ革命軍はイスラム国軍とトルコ軍を相手に死闘を繰り返して、兵力の消耗を強いられることになります。
 では、現在行われているアレッポの熾烈な攻防戦の本質は何か? それは、シリアのアサド大統領のシリア國軍とロシア軍がラッカの戦いに参加して、本気でイスラム國軍の殲滅を始めると、米国とトルコが画策する一石二鳥のクルド問題解決の妙案が壊されてしまいますから、アレッポのテロリスト軍団には可能な限りの兵員と兵器を供給し、あらゆる非人道的手段(虚偽宣伝を含む)を動員して、アサド大統領のシリア國軍のラッカ戦線への参入を阻止しなければならないという事です。
 以上が、シリア戦争の、現時点での、私の見解です。専門の方々の見解とだいぶん異なりますが、記録として書き留めておきます。
 次回には、私として、事態が今後どのように展開して欲しいか、について書き留めるつもりです。

藤永茂 (2016年11月19日)
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