私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

米国知識層の堕落(FALL)(2)

2018-11-16 00:17:33 | 日記・エッセイ・コラム
 2014年10月27日、カナダのCBC(日本のNHKに相当)は、CBC切っての人気キャスター、ジアン・ゴメシを突然解雇し、その理由を「最近CBCに寄せられた情報に基づいた決断」と発表しました。ゴメシ側は、恋愛沙汰でゴメシに振られた元ガールフレンドと彼女と組んだフリーランス作家のでっち上げた偽のセクハラ糾弾だと反論し、彼の荒っぽい性行為は合意に基づいていたと主張しましたが、その数時間後に、有力新聞トロント・スターが「合意に基づいていなかった」とする女性側の主張を取り上げました。10月29日には、CBCの報道番組で「10年前にゴメシから同様のひどい仕打ちを受けた」と匿名の一女性が証言したことを報じ、トロント・スターは8人の女性がジアン・ゴメシの暴力を糾弾する声をあげていることを報じました。31日には、二人の女性の告訴に基づいてトロント警察署が犯罪捜査に踏み切り、これに対して、ゴメシは刑事事件弁護士としての有能さで知られるMarie Heneinを弁護人に選びました。このエジプト人女性はこの事件で重要な役を担います。2016年2月1日、オンタリオ州の裁判所で裁判が始まり、8日間続きましたが、2016年3月24日、証拠不十分として、ジアン・ゴメシに対する告訴の全てについて無罪の判決が下されました。
 ジアン・ゴメシのセクハラ事件の経過、特に裁判の詳細は、カナダの代表的女性誌シャトレーヌに出ています:
https://www.chatelaine.com/news/the-jian-ghomeshi-trial/
ここには、男性の性的暴行の犠牲者としての女性の立場からの、ジアン・ゴメシという人物に対する声高の非難の声が満ち満ちていて、それは無罪判決を下した法廷(裁判官)と、ゴメシの弁護人にも及び、マリー・ヘネンは「女性でありながら、女性を裏切った」と攻撃されています。
 ジアン・ゴメシの「Reflections from a Hashtag」が掲載されたNYRB(2018年10月11日-24日号)の編集長はイアン・ブルマですが、次の号(10月25日-11月7日号)は編集長代理Michael Shaeとあり、ブルマの名はもうありません。この号の Letters to the Editor 欄は、ゴメシに関する37の投書で独占されています。そのうち34がゴメシと彼の文章を掲載したブルマに対する声高の非難の内容です。しかも、これが投書の全てではなく、代表的なサンプルだとしてあります。このほか囲みの中にNYRBの常連寄稿者107名が連名でブルマの解雇に対する遺憾の気持ちを表明する文章が記載され、それに対するNYRB側の弁明を読むことができます。詳しく検討なさりたい方は、以下をご覧ください:

https://www.nybooks.com/articles/2018/10/11/reflections-hashtag/
https://www.nybooks.com/articles/2018/10/25/responses-to-reflections-from-a-hashtag/
https://www.nybooks.com/articles/2018/10/25/letter-from-contributors/

 ジアン・ゴメシの3400語のエッセーを掲載したイアン・ブルマの編集者としての考えは、次のインタビューで知ることができます:
https://slate.com/news-and-politics/2018/09/jian-ghomeshi-new-york-review-of-books-essay.html
これまで私はイアン・ブルマの書いた文章を数多く読んできました。特別この人のファンではありませんが、上のインタビューで示されている彼の考えを私は一つの真っ当な考えだと思います。強姦は厳しく断罪されなければなりません。しかし、ゴメシは強姦者として処罰されたのではありません。人と人との性的関係という問題は複雑なものです。ゴメシ事件の場合、強姦と暴力行為の刑事告発については無罪となりましたが、ゴメシのセクハラ行為に対する処罰は、社会的に、十分に行われたように思われます。ゴメシの弁護を担当して、無罪判決をもたらしたマリー・ヘネンは、裁判の締めくくりに、「I have never had a client be the subject of such an unrelenting public scrutiny and focus.(私は、今まで、世間からのこれほどまでの容赦ない詮索と集中的関心の的になった依頼人を持ったことはありませんでした)」と発言し、さらに、カナダ人一般がこの事件を乗り越えて、カナダにとって同じように重要な事柄に関心を向けるべきだと呼びかけました。私はこのマリー・ヘネンという女性の言葉に賛同します。家庭内暴力を始めとして、男性が恣意的に女性に加える暴力は許すべからざる行為です。しかし、ジアン・ゴメシの事件をこれほどまでに騒ぎ立てるカナダや米国のマスコミの姿勢と現在進行中の「#MeToo」運動の傾向に、私は危惧を抱きます。筋金入りのフェミニストとして知られていたマリー・ヘネンは、ゴメシを無罪にしたことで、女性全体を裏切ったと非難されていますが、これは間違っています。ヘネン弁護士は女性の原告の証言が信憑性に欠けることを立証しました。男性の暴力の犠牲者に強いられる心理的苦悩の理解と、事実を事実として認識することとは区別しなければなりません。「フェミニストとしての私に何の変化もない」とマリー・ヘネンは言い切っています。
 この騒ぎを契機として、私の関心は、むしろ、NYRBそのものの変貌、その背景としての米国知識層の堕落に向けられます。それはまた米国の大学が支配権力機構の中にしっかりと組み入れられ、大学教育現場の環境も腐敗堕落してしまったと私は感じています。今のNYRBの所有者はRea Hedermanで、1984年に5百万ドルで買い取ったとされています。この人はミシシッピー州の保守的新聞チェーンを経営していた家族の出身で、興味深い経歴の持ち主ですが、今は取り上げません。NYRBを買い取った時に抱いていた初心を、支配権力からの締め上げに直面して、ヘダーマンが次第に失いつつあるというのが現状でしょう。私はシリア情勢に強い関心を持っていますが、2016年12月から今日までにNYRBに掲載されたシリア関係のいくつかの記事のどれもがひどく偏向した、虚偽報道的な内容です。特に最近の記事、「Why Assad and Russia Target the White Helmets」:
https://www.nybooks.com/daily/2018/10/16/why-assad-and-russia-target-the-white-helmets/
は劣悪なもので、本来ならば、ジアン・ゴメシのメア・クルパにも増して、NYRBの編集部として、掲載の可否について真剣な議論が戦わされるべきであった内容ですが、こちらはフリーパスです。
 幸い、この悪質の記事に対する詳細な批判がRick Sterlingというサンフランシスコ在住のジャーナリストによって発表されました:
https://syria360.wordpress.com/2018/10/24/western-media-attacks-critics-of-the-white-helmets/
「Western Media Attacks Critics of the White Helmets」というタイトルですが、その理由は、NYRBのホワイトヘルメット擁護賞賛の記事が、ホワイトヘルメット神話の虚偽性を明らかにしたジャーナリストやアサド政府を支持する側にあると思われる人々を、名指しで非難していることにあります。非難の矛先はVanessa BeeleyやEva Bartlettといった人々だけでなく、私が信頼するJohn PilgerやRobert Fiskにも向けられています。Rick Sterlingが指摘する通り、NYRBのホワイトヘルメット記事はひどく杜撰なものです。こうした品質品格の記事がNYRBに掲載される実際のプロセスを知りたいものです。同様の事情、類似の状況が、他の出版記事(日本の新聞、雑誌を含めて)の採用不採用の決定にも存在するのでしょう。どのような圧力が、どのような形でかかってくるのか?
 ブルマがヘダーマンから解雇された直後、オランダの雑誌のインタビューで語ったこととして次のようなことが伝えられています:
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The day after his departure, a Dutch magazine published an interview with Buruma that had taken place in the uneasy purgatory between a difficult conversation with Hederman and his formal resignation. Buruma spoke with detached fatalism of how he’d been “convicted on Twitter,” a victim of the Review’s “capitulation to social media and university presses.” He said Hederman had told him university press publishers, driven by campus politics, were threatening a boycott.
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ブルマは、ツイッター上で吊し上げられて世論から有罪判決を受け、NYRBがソーシャルメディアと諸大学の出版局に降伏したことの犠牲者となったと語っているわけです。ヘダーマンは、諸大学の出版局の人たちが、大学内の政治に駆り立てられて、NYRB誌に広告を出さないかも、と脅しをかけてきている、つまり、 MeToo運動の最中にゴメシの寄稿を採用するような編集長を留めておけば、NYRB社の必須の財源である諸大学の出版局からの広告収入が途切れる恐れがあるとヘダーソンはブルマに話したということです。ここで、「driven by campus politics」という文句に注意しましょう。ここに、私がイアン・ブルマ/ジアン・ゴメシ事件を米国知識層のFALLとして捉える理由があります。MeToo 運動の隆盛さは、いわゆる、アイデンティティ・ポリティクスの範疇の現象です。アイデンティティ政治の問題は、学問的テーマとして、最高学府で大いに論議されるだけの重要性を持った問題です。そして、そこでの主張は、学問的に真摯でフェアな形でなされ、ポストモダン的な曖昧さ(obscurantism)で主張の内容の空虚さを隠すようなことがあってはなりません。ましてや、自分の主張に逆らう発言を、学内政治的に圧殺するようなことは論外であるべきです。ところが、米国の大学では、そうしたことが実際に起こっているのです。米国の大学で「男性と女性は生物としてはっきりした相違がある」と発言をすると、それだけで糾弾されるという話があります。
 米国知識層の堕落(FALL)については、私のもう一つのブログ『トーマス・クーン解体新書』でも論じています。MeToo運動に対する私の想いは、正直なところ、かなり批判的です。今の世の中の枠組みをそのままにして、男性が占めている地位に女性を据え、白人が占めている地位に黒人を据えても、この世は本当に良くはなりますまい。今の米国、今のルワンダを見ればわかります。
私のお気に入りのウェブサイトであるLibya360 に興味深い論考が出ていますので、覗いてみてください:

https://libya360.wordpress.com/2018/11/08/patriarchy/


藤永茂(2018年11月16日)
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米国知識層の堕落(FALL)(1)

2018-11-08 22:52:05 | 日記・エッセイ・コラム
 10月23日付のニューヨークタイムズによると、「私も(MeToo)」運動によるセクハラ告発で、これまでに201人の有力な社会的地位にあった男性がその権力の座から引きずり降ろされ、その後釜の半数は女性によって占められたそうです。
https://www.nytimes.com/interactive/2018/10/23/us/metoo-replacements.html?mtrref=www.nytimes.com&gwh=76F7CEF52C377C5E2CD4AB198BC7BA51&gwt=pay
 11月1日付のヤフー!ニュースJAPAN:
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20181101-00102661/
には、次のような記事が出ました。記事のはじめの部分だけコピーします:
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みんなのために機能しない職場文化
[ロンドン発]米ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏のセックス強要疑惑が発覚、ソーシャルメディアを使ってセクハラを追放する「#MeToo」運動が世界中に広がって1年。グーグルでセクハラ追放の一斉蜂起が始まりました。
「私はデスクにはいません。なぜならグーグルの同僚と取引先の人たちと一緒に、セクハラと不適切な振る舞い、透明性の欠如、そして、みんなのためには機能していない職場文化に抗議して職場を離れます」
検索エンジンの巨人、米グーグルに蔓延するセクハラ、パワハラ文化に抗議して11月1日午前11時(現地時間)、世界中のグーグル社員らがこんな紙切れを机の上に残して一斉にストライキに入りました。
スマートフォン用OS(オペレーティングシステム)「アンドロイド(Android)」を開発した元グーグル副社長アンディ・ルービン氏が2014年、セクハラを理由に同社を去ったにもかかわらず、9000万ドル(101億円)も受け取っていたことが発覚。・・・
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 世界中に広がっているとされる「#MeToo」運動については、私も大きな関心を寄せていますが、ここでは、私が長い間住んでいたカナダでのセクハラ事件と、それに関連して起こった米国の著名な書評誌NYRB(The New York Review of Books)の編集長更迭騒ぎのことを考えてみたいと思います。
 「#MeToo」運動が始まる前の2014年10月26日、カナダ放送協会(CBC)の花形キャスターであったジアン・ゴメシ(Jian Ghomeshi、1967生まれ)という男性がセクハラ事件でCBCから解雇されました。CBCは国営企業で、政府資金が7割、広告収入3割、受信は無料です。テレビもラジオも充実した番組内容で知られ、特にCBCラジオは米国でも広く受信されています。
 ゴメシとその人気の絶頂からの転落については次の二つの記事を上げておきます:
http://akitsuneonthewaves.blogspot.com/2014/10/blog-post_26.html
https://thegroupofeight.com/2016/03/01/95%の沈黙/
 米国には充実した内容で知られる隔週刊の書評誌NYRB(The New York Review of Books)がありますが、残念ながら、今は、「ありました」と書くべきかもしれません。カナダで生活した約40年間、私は随分熱心にNYRBを読み続けました。日本の老人ホームで暮らしている今も定期購読を続けていて、二週に一度の到着を楽しみにしている次第です。ベトナム戦争の時代には、一貫して強い反対の論陣を張り、イラク戦争に対しても、ニューヨークタイムズ(NYT)やニューヨーカーが支持に回る状況の中で、断固として反対の姿勢を貫きました。しかし、残念なことに、シリア戦争については、アサド大統領を、自国民を大量殺戮する戦争犯罪者と扱う記事を2016年年末に掲載して、NYTなどと協調してしまいました。NYRBのことを詳しく知りたい方は、
https://en.wikipedia.org/wiki/The_New_York_Review_of_Books
をご覧ください。
 良識ある米国知識人たちの牙城であった筈のNYRBにジアン・ゴメシのセクハラ騒動が激震を与えました。1963年2月の創刊以来の編集長Robert Silvers が2017年3月に亡くなった後、その9月からイアン・ブルマ(Ian Buruma)がNYRBの編集長に就任しました。ウィキペディアには
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イアン・ブルマ(Ian Buruma, 1951年12月28日 -)はオランダの著作家・ジャーナリスト。オランダ人の父とイギリス人の母の間に、オランダの首都ハーグで生まれる。
ライデン大学で中国文学を学ぶ。在学中に、アムステルダム公演の寺山修司の「天井桟敷」に出会って衝撃を受け、日本に留学し、1975年~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。
その後、東京、香港、ロンドンなどでジャーナリストとして活躍する。2003年よりアメリカバード大学教授となり、現在はニューヨーク在住。2008年エラスムス賞受賞。
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とあります。1980年代からこの人の書いた記事がしばしばNYRBに掲載されています。2017年5月11日-24日号はなくなったロバート・シルバーズの記念号として出版されましたが、その号にも「Beautiful Japanese Youths」という見出しのイアン・ブルマの寄稿があります。ローマ字で「shudo」と書いてあるのが、恥ずかしながら、分かりませんでした。広辞苑で:「衆道(しゅどう)」(若衆道の略)、男色の道、と知りました。このほかにも、1984年、ロナルド・キーンについての論考を、若いブルマがNYRBのシルバーズ編集長に売り込んだ時の思い出が語られています。
 イアン・ブルマが編集長になってから1年後の2018年10月11日-24日号の表題は「THE FALL OF MEN」となっていて、普通は「人類の堕落」つまり、原罪を意味する言葉です。この号の中に、「Reflections from a Hashtag」と題するジアン・ゴメシの文章が掲載されていました。おそらく、ほぼイアン・ブルマ編集長の独断で掲載が決定されたこの文章の内容に対して、そして、それを掲載したNYRBの判断に対して猛烈な批判、非難の声がまき上り、イアン・ブルマは僅か一年そこそこでNYRB編集長の地位から追放されてしまいました。この事件については、日本でも既に報じられています。例えば、
https://hon.jp/news/1.0/0/14273
次回には、この事件が意味するところを、私なりの角度から論じたいと思います。

藤永茂(2018年11月8日)
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アサド大統領は残忍暴虐な独裁者か?

2018-10-22 22:34:21 | 日記・エッセイ・コラム
 ノーム・チョムスキーのことを取り上げた私のブログ記事に対して、まず、海坊主さんから、続いて、箒川 兵庫助さんとHitoshi Yokoo さんから、私にとって大変読み応えのあるコメントをいただきました。どうか皆さんも読んで下さい。こうした語調で、私に見えてなかった事柄を指摘して、議論に乗ってきて頂けるのは有難いことです。初めから自分の意見を一方的に相手に押し付けるのでは議論というものが成り立ちません。学べる所がなく、面白くもありません。「アサド大統領は残忍暴虐な独裁者ではない」と私は判断しています。アサド大統領はひどい野郎だと考えているチョムスキーさんが多分間違っていると思います。「弘法にも筆の誤り」と昔から言いますから。もし、チョムスキーさんに、アサド大統領についての私の言い分を聞くだけの暇な時間ができれば、彼は私の話を初めから拒否し、却下するようなことはしないでしょう。議論に乗ってきてくれる筈です。
 このブログ『私の闇の奥』の他に、私はもう一つ、『トーマス・クーン解体新書』という名のブログを細々と書き続けています。電子書籍として既に出版した同名の単行本の続編のようなものです。科学哲学者トーマス・クーンを話の中心に置いた自然科学論のような内容ですが、昨夜ほぼ2ヶ月ぶりにブログ記事を更新しました。見出しは『今度の「ソーカル事件」は何が狙いか?(1)』です。近頃、米国の大学で、極端な思想を持った学生が、自分たちの考えに反することを口にする教授を問答無用に吊るし上げ、果ては暴力沙汰にまでなるといった事態が多発しているようです。上掲のブログ記事はそれに連関して起こった擬似論文投稿事件を取り上げたものですが、書いているうちに、米国の大学事情についてのノーム・チョムスキーの過去の発言を思い出しました。それは『ポストモダニズム:権力の道具』と題する5分足らずのスピーチ(動画)です:

https://zcomm.org/zvideo/postmodernism-an-instrument-of-power/

チョムスキーさんは、大学人の間ではポストモダニズムが流行っていて、「真実(Truth)とか歴史的事実(Historical Fact)などというものはない」と主張することで強引に自分の主張を押し付けてくる人が多い、と知識階級の人々を批判しています。今度の二度目の「ソーカル事件」はまさにこの状況の産物です。米国の大学もひどいことになったものです。
 私が「アサド大統領は残忍暴虐な独裁者ではない」と判断する根拠は、シリア紛争の勃発以降のアサド大統領の発言の総体に基づいています。特に、いろいろの機会に行われてきた十分長い時間をかけたインタビューのtranscript(筆記録)の多数をよく読み込むことで、私の中に出来上がったアサド大統領の人間像が私の判断の根拠です。講演や会見の、抄録でないトランスクリプトは日本のマスメディアには殆ど全く現れませんが、英語になったものは、よく探せば、結構たくさん見つかります。
 では、アサド大統領に対するチョムスキーさんの見解、つまり、「何十万というシリア自国民を容赦無く殺戮した戦争犯罪人」という判断は何処からきたのでしょうか? 私は、これについて、割にはっきりした推測を持っています:それは、大の親友であるRichard Falkという人物からだと思います。この名に見覚えがなければネットで調べて下さい。この人のシリア紛争についての考えは次の記事にはっきり出ています:

https://richardfalk.wordpress.com/2017/11/13/failing-the-people-of-syria-during-seven-years-of-devastation-and-dispossession/

私のようなズブの素人、まるっきりの門外漢が、Richard Falkのような大物に盾突くのは滑稽千万かもしれません。しかし、リビアのカダフィの前例があります。私はカダフィが惨殺される前に、彼について正しい判断を下していました。アサド大統領の本性についての私の判断も間違っていないと思います。

藤永茂(2018年10月22日)
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ノーム・チョムスキーのこと

2018-10-05 22:48:16 | 日記・エッセイ・コラム
去る5月3日付の記事『チョムスキーさん、これはいけません』で、私はシリア北西部のロジャバ革命を擁護する公開書簡への賛同署名を求める呼びかけ人の中にノーム・チョムスキーの名があったことについて、私なりの危惧を表明しました:
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 ロジャバ革命を守ろうという呼びかけには私は大賛成ですが、問題はこのロジャバ防衛の公開書簡の内容です。こんなことが書いてあります:
While the attack on Afrin is a violation of international law comparable to those of the Assad government, the Trump administration has made only feeble protests against President Recep Tayyip Erdoğan’s depredations.
「アフリンに対する攻撃はアサド政府の所業に匹敵する国際法違反だが、トランプ政府はエルドアン大統領の略奪行為に対して弱々しい抗議を行っただけだ。」
これは一体何のことか! シリアに関して、最も重大な国際法違反を行なっているのは、米国政府そのものです。アサド政府はどのような国際法違反(those、つまり、複数の)をしたというのですか?こんな言い方したくありませんが、例えアサド政府が自国民を虐殺しても国際法違反にはなりません!米国の警官が国内の無辜の黒人たちを如何に多数ガンダウンしても、国際法違反にはならないのと同じです。
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 シリア戦争(内戦ではありません)の見方に関して、チョムスキーが誤った認識を抱いているという私の心配はこの「アサド政府の国際法違反」問題に限りません。以前から、「シリアのアサド大統領は許すべからざる戦争犯罪人だ」という立場をチョムスキーは公言して来ましたし、ごく最近のインタビューでも彼はその点を改めて強調しています:

https://theintercept.com/2018/09/26/trump-united-nations-noam-chomsky/

この読み応え(聞き応え)のある長いインタビューでチョムスキーが表明している見解や判断は大いに元気をもらえるものが多いのですが、シリア戦争については、「チョムスキーさん間違っている!」というのが私の見解です。
 この私の危惧と関連して、海坊主さんから重要なコメントをいただきましたので、以下に転載します。
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ノーム・チョムスキー氏が自由に活動出来るその理由 (海坊主)
2018-09-19 07:00:07
『マスコミに載らない海外記事』で最近紹介されたポール・クレイグ・ロバーツ(PCR)氏の下記記事に色々と考えさせられました。

アメリカの偽りの歴史
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/post-60bc.html

現在、『マスコミに載らない海外記事』ではPCR氏の記事に対するコメントを受け付けて居ないため、場違いとは重々承知しておりますが、コメントを投稿させていただきます。

 グリフィン氏を讃える一方でチョムスキー氏を鋭く非難するPCR氏の今回の記事ですが、今まで私が抱いて居た違和感が晴れた気がして、読了感はスッキリでした。これまで、チョムスキー氏の言動を厳しく非難するペトラス教授の記事などを拝読するものの、いまひとつ歯切れが悪かったというか覆われているベールを剥がせずに居てもやもや感が残ったのですが、PCR氏がJFK暗殺に対するチョムスキー氏の立場を浮き彫りにしてくれたおかげで、彼が何を守り何を隠して居るのかについて考えさせられました。
 チョムスキー氏はある意味で米帝支配者層に利用されている面を感じる事ができました。

 チョムスキー氏がベトナム戦争に拘る理由、ケネディにこだわる理由。今後、じっくり考えさる必要がありそうです。
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 このチョムスキー問題、皆さんはどうお考えですか?

藤永茂(2018年10月5日)
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いまシリアのイドリブは世界の中心

2018-09-16 22:10:20 | 日記・エッセイ・コラム
 世界の中心は今シリアの北西部のイドリブ県にあります。イドリブをめぐる状況の故に、ロシア、中国、米国、英国、フランス、イスラエルの核ミサイル発射基地は最高のアラート状態にあると思われます。双方とも、先制攻撃を慎む気などありません。
 9/11以来、アルカイダは、米国によって、その国際的戦略上の事実上の傭兵勢力として巧みに操られてきましたが、表面的には、もちろん、米国は、国際社会の先頭に立ってアルカイダを含む国際的「テロ」撲滅作戦に邁進していることを喧伝してきました。ウィキペディアで少し復習すると
「ウサーマ・ビン=ラーディンはアル=カーイダの精神的指導者であり、財力を用いて初期の反米闘争の組織を起ち上げた。アル=カーイダのナンバー2とされていたアイマン・ザワーヒリーはイスラーム神学者。1986年、二人はサウジアラビアのジッダで初めて会ったとされる。組織作りや資金集め、組織の代表として声明などを出す役割はビン=ラーディンが担い、テロに関する宗教的な理論面や作戦面は、学識のあるザワーヒリーが担っていたとされる。2011年5月にビン=ラーディンがアメリカ軍によって殺害されると、翌6月、アル=カーイダは、ザワーヒリーが新たな指導者に選出されたと発表した」
とあります。
 シリアのアサド大統領がテロ勢力に占領されているイドリブを解放する作戦を始めると宣言すると、米国は猛烈な脅しをかけてこれを阻止しようとしています。トランプ大統領は、9月4日、
「President Bashar al-Assad of Syria must not recklessly attack Idlib Province. The Russians and Iranians would be making a grave humanitarian mistake to take part in this potential human tragedy. Hundreds of thousands of people could be killed. Don’t let that happen!」(シリアのアサド大統領は結果を顧みずにイドリブ県を攻撃してはならない。ロシアとイランがこの人間悲劇になりうる攻撃に参加するとすれば、重大な人道的過誤をおかすことになるだろう。何百万人もが殺されるかもしれない。そんなことは起こさせてはならない!)とtweetしました。

https://www.rt.com/usa/437551-trump-assad-idlib-warning/

その2日前には、ポンペオ米国国務長官は “The 3 million Syrians, who have already been forced out of their homes and are now in Idlib, will suffer from this aggression. Not good. The world is watching.”とtweetしました。これでは、反政府のシリア国民三百万が家から追い立てられ、流れ流れてイドリブに追い詰められたように聞こえますが、そんなことではありません。ほぼ一年前の2017年7月27日、米国政府のテロ対策特命使節 Brett McGurk が“Idlib provice is the largest al-Qaeda safe-haven since 9/11, tied to directly to Ayman al Zawahiri, this is a huge problem.” (イドリブ県は9/11以来アルカイダの最大の安全な避難場所になっていて、彼らはアイマン・アル・ザワヒリに直属している。これは大問題だ。)として言明しているのです。

https://southfront.org/the-truth-about-idlib-in-the-state-departments-own-words/

つまり、イドリブに住む三百万のシリア市民はアルカイダを主力とする(多分総勢2万前後の)テロ勢力軍団に支配されて生きているのです。住民達は事実上テロリスト達の人質です。
 前回に取り上げたニューヨークタイムズの記事:

https://www.nytimes.com/2018/09/02/world/middleeast/syria-idlib-assad.html

の中に、「H.T.S. has controlled much of Idlib since 2015, acting as de facto governmental authority, facilitating trade across the long border with Turkey and organizing aid deliveries.」という文章があります。H.T.S. とはアルカイダと思ってよろしい。つまり、米国の仇敵テロ集団がいつの間にか温情深い行政機関になってしまっています。米国政府のお先棒を担ぐにしても程があるというものです。私が調べた限りにおいて、イドリブ県の行政の責任は依然としてダマスカスのシリア政府が担当していて、それにはイドリブ市内の公営病院や学校の運営も含まれています。
 要するに、米国はイドリブに追い詰められたアルカイダを保護したいのです。イスラム國テロリストたちを米国が方々で依然として温存しているのと同じことです。もし、米国が本当にシリアの一般市民に多数の死者が出ることを避けたければ、アルカイダ軍団とシリア政府軍との決戦を県都であるイドリブ市の外で行わせればよいのです。イドリブ県はそれに十分な広さがあります。あるいは、イドリブ市内の住民に、戦火を避けて市外に脱出移動する自由を十分に与えるようにしても、トランプ大統領の言う大規模な惨劇、人間悲劇は避けられます。


藤永茂(2018年9月16日)
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