私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

シリアの惨劇は続く

2016-07-27 22:13:36 | 日記
 私が信頼するジャーナリストとして、ロバート・フィスクの名をあげました。1946年7月12日生まれの真のベテラン記者です。出来れば、
Wikipedia のRobert Fisk の項を見てください。次のインデペンデント紙掲載の記事は、この記者にしては異常とも言える激しい怒りのこもった筆致のものです。

http://www.independent.co.uk/voices/i-read-the-chilcot-report-as-i-travelled-across-syria-this-week-and-saw-for-myself-what-blairs-a7123311.html

私はこの記事をPaul Craig Robertのウェブサイトの客員寄稿の欄の
Washington’s Attempted Murder Of Syria「米国政府によるシリア国謀殺未遂」と題する記事の中から拾いました。

http://www.paulcraigroberts.org/2016/07/12/washingtons-attempted-murder-of-syria/

そこには
「Virginia state Senator Richard Black describes Obama’s attempt to murder Syria as “extremely reckless, an insane policy.” The straight-speaking Senator said: “We have never done anything more loathsome or despicable than what we’re doing in Syria.”」
とあり、“我々がシリアでやっていること以上に忌まわしくも卑劣なことを、我々は今まで何もしたことがない”というブラック上院議員の言葉は、米国がシリアで行っていることの言語道断の酷さをよく反映しています。

http://www.fort-russ.com/2016/07/us-senator-we-have-never-done-anything.html

 このFort Russの記事には、シリア政府の招待で今年の5月にシリアを訪問したブラック上院議員と、それとは別に、シリアの一般住民とインターネットで密接な関係を結んで同じ頃にシリアを訪れたジャニス・フィアリングというアメリカのキリスト教会関係の一女性が一緒にインタビューされて、一時間半ほど、あれこれとシリアでの見聞を語るビデオが含まれています。私が最も強い印象を受けたのは、アサド大統領夫妻の人柄と夫妻に対するシリア一般住民の敬愛の情の深さについての二人の語り口でした。Fort Russ News というサイトの性格から、このインタビューはロシアの情宣活動の一部と見るべきでしょうが、我々はこのビデオからプロパガンダ以上の真実を汲み取れると思います。
 7月14日に米国のメディアNBCが発表したアサド大統領のインタビュー(44分)も我々がシリア戦争とアサド大統領について判断するのに極めて有用なもので、多くのことが論じられていますが、

http://axisoflogic.com/artman/publish/Article_74660.shtml

その中から一つだけ選べば、米国とイスラム國(ISIS)との関係についてのアサド大統領の発言です。彼の見解と私の推測とは驚くほど完全に一致します。自慢をしているのではありません。卓上のパソコンだけを覗き穴にしてシリア情勢を理解しようと試みている市井の一老人にとってこれは大きな慰めであると同時に、マスコミの表面で活躍する専門家諸賢が、本心を語らずに、如何に売文用の嘘をついているかが、改めて確認されます。IS爆撃のためと称して米軍機が何千回、何万回と出撃しても、本質的にはISを痛めつけてはいないのです。IS は大切な手先であり、その意味で味方なのですから。
 イスラム国の“首都”はシリア北部の都市ラッカです。ロシア空軍の介入を野放しにしておけば、シリア国軍がラッカを奪還するのは必至ですが、これは米国にとって何としても避けたいところです。そこで、他国の住民の命など本当は何も気にならない残忍な米国の支配勢力は、シリア北部のロジャバのクルド人戦士たちを強引に駆り立ててIS“討伐”の最前線に押し出して死闘に従事させています。今までに何度もお話ししましたように、ロジャバ革命の達成を願って戦ってきたクルド人たちは、シリアという国の枠内で、シリア政府、米国政府、ロシア政府のいずれからも距離をとって、平和な自治制度を獲得することを目指してきたのですが、ここに来て、米国によって、シリアのアサド政権の打倒を掲げる反政府勢力に組み込まれ、しかも、ISとの死闘の最前線に押し出されてしまいました。言うなれば、米国は右手でISというパペットを、左手でクルドというパペットを操ってphony な戦闘を演じさせているわけですが、戦いの現場では、勿論、本物の血が流されます。兵士たちの血だけではありません。ラッカの北西に位置する要衝マンビジュ市での両者の戦闘で、IS側を空爆するはずの米軍機が一般市民多数を殺傷したので、その停止をクルド側が要請したというニュースも流れました(7月26日)。これは、これまでの米国空軍機によるIS空爆の本質を暴露している象徴的な事例だと私は考えます。米国機から投下された膨大な量の爆弾はシリア国土のインフラ破壊にもっぱら向けられてきたのです。
 私はロジャバのクルド人たちのことが心配でなりません。私が毎朝見ているクルド関係のサイトがあります。

https://syria360.wordpress.com/category/africa/world/middle-east/kurdistan/kudrish-defense-forces/

ロジャバのクルド人防衛軍関係のニュースを報じるサイトで、今年の2月27日に発効した停戦から4月中旬までは、毎日のようにシリア北西部の状況が詳しく報じられていたのですが、それ以後は途絶えるようになり、5月に入ってから、ロジャバのクルド人防衛軍とイラク北部のクルディスタン地域政府(KRG、大統領バルザーニー)の軍隊(ペシュメルガ)との間の軋轢が報じられ、それからまた空白の日々が続いた後、ロジャバ地区のクルド勢力の独立性を再確認するような内容の記事が出たので、私としてはホッと一息ついたのですが、その数日後、この二つの記事は削除されて、日付的に最近のものとしては4月14日付の記事が掲載されたままで、それより古いものは遡及して読むことができますが、新しいエントリーは現れません。何かよくないことが起こったのはたしかですが、わかりません。米国に強制されて、ロジャバのクルド人たちがアサド政権の打倒を目指す“シリア民主勢力軍”に組み込まれてしまい、その上、ISとの死闘という役割を担ってしまったことが、このニュース・サイトの死の根本の原因であろうとは推測できます。とにもかくにも、米国は酷いことをするものです。そのむごさを体現するような女性が米国の大統領になった後の世界の運命が大いに気になります。

藤永茂 (2016年7月27日)