私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

キューバの科学と技術

2021-12-27 23:25:23 | 日記・エッセイ・コラム

 下に掲げた二つの記事は、キューバでのコロナ対策が、米国の厳しい経済封鎖と内政干渉にも関わらず、米国やヨーロッパに比較して目覚ましい成果を上げている理由を論じています。自然科学者として、私が最も強い感銘を受けたのは、キューバという国での科学と技術の地位、そして、科学者と技術者が担っている役割の正当さです。少し大袈裟な言い方をすれば、ここには最善の「科学技術論」が示唆展開されています。コロナ対策の問題を遥かに超えた重要なテーマが論じられています。はじめの記事だけを訳出しますが、2番目の記事も明快な内容ですので一読をお勧めします。

Why Cuba Does Not Have an Anti-Vaccine Movement

https://libya360.wordpress.com/2021/12/16/why-cuba-does-not-have-an-anti-vaccine-movement/

Cuba Defeats Covid-19 with Learning, Science, and Unity

https://www.counterpunch.org/2021/12/16/cuba-defeats-covid-19-with-learning-science-and-unity/

 

何故キューバでは反ワクチン運動がないのか

マルク・ヴァンデピット、トゥーン・ダンヒュウ

(2021年12月16日)

ヨーロッパでは、人口の大きな部分が政府のCOVID-19対策への不信感を、日増しに、公然と表明するようになってきている。米国ではそれほどではないが。これまでの政府筋の反応はパニック的で、ワクチン接種の一般的な義務の押し付けや移動の自由の制限など、父権主義や抑圧が目立つ。これでは、国民の支持を得ることはできない。そのためには、少なくとも、ワクチンを受けていない人々の不安や懸念に耳を傾けることが必要だ。しかし、それ以外の要素も働いている。こうした点、キューバと比較してみると興味深い。

政府への不信感 

ワクチン未接種の人々の多くは、できるだけ早くすべての人にワクチンを接種しようとする政府の能力や誠意を当然のように疑っている。それは大して理解しがたいことではない。

2020年3月このかた、欧州各国は間に合わせの態度で動いている。COVID-19パンデミックを攻略するための政策に統一性や論理性がない。同じような伝染率でも、国によって対策は大きく異なっている。

私の住むベルギーでも、ヨーロッパの他の国々と同様、その場当たり性は理解しがたいものだ。ベルギー政府は、3月中旬まで待ってから行動を起こした。1ヵ月半も遅すぎた。もし、もっと早く手を打っていれば、感染拡大のスピードはもっと遅くなり、COVID-19による何千人もの死者を出さずに済んだはずだ。そして、彼らはその失敗から学ぶ様子はない。COVID-19の新しい波が来るたびに、対応が遅すぎる。

専門家が何年も前から警告していたにもかかわらず、ベルギー政府はパンデミックに対する備えをしていなかった。最初は、生産管理の手落ちで(まだ)十分の数量が無いのでマスクはしなくてよいと言っていたのに、突然、着用が義務化されたのである。

2021年9月には、ベルギーでは数値が悪化したのに対策が緩和され、オランダでは数値が改善しても対策は強化された。これをどう説明するのか。ベルギーでは、政府が新しい政策を実施するためには7人の保健関連大臣の同意が必要である。同時に、知事や市長は、より厳格な、あるいは、より寛容な規則を導入し、政党の党首たちは公衆衛生を犠牲にして、自分たちのイメージに磨きをかけようとするのである。

その不信感が街頭やソーシャルネットワークに広がると、極右勢力はそれをうまく逆手にとる。政府に対する不信感に共感を示すことで、正当な不満を持つ人々を自分たちの側に引き寄せるのだ。もちろん、彼らの目的は声なき人々のために民主化を要求することではない。極右の目的は、こうした人々を完全に締め出し、1%によるあらゆる形の搾取を極限まで推し進める権威主義政権の形成を早めることであることは、歴史が教えてくれている。

欧州各国で行われたCOVID-19対策は、以前も今も大混乱である。しかし、現実には、不信感はもっと深いのだ。前回の大きな危機、2008年の銀行危機でも、その代償を払ったのは市民だった。我々のお金で投機していた銀行が逃げ切り、助かったが、そのツケを払ったのは、我々一般市民だった。政府の危機管理能力にこれほど不信感があるのは、当然のことであり、それなりの理由があるのだ。

キューバでは?

ヨーロッパの政治家たちが行動に移る約2カ月前の2020年1月、早くもキューバ政府はコロナウイルス対策の国家計画を立ち上げた。労働者階級が住む地域やテレビで大規模な情報キャンペーンが展開された。矛盾する政府も、同意しなければならない7人の保健関連大臣も、マスクの義務化についての議論もなかった。

キューバ政府は断固として行動し、ウイルスの芽を摘み取るためにあらゆる手段を講じた。ワクチンのおかげで「自由の王国」を取り戻せるなどと安易な約束はせず、選挙目当てや政治的勇気の欠如の故に、早々に手綱を緩めることもせず、しっかりとした対策を講じたのである。その一例を紹介しよう。主な収入源である観光業は、伝染病の発生源であるとして直ちに閉鎖された。6歳からの子供にはマスク着用が義務づけられた。学校も重要な伝染病巣であることが明らかになると、キューバは家庭教育に切り替え、とりわけ、学校テレビからのサポートが非常に充実されつつある。

「健康リスクについて国民にきちんと伝えることで、キューバ人は家にいることの大切さを理解するようになっている。病気の感染経路を知り、自分自身や親戚、隣人の健康に責任を持つようになった」と、ハバナの医師、アイサ・ナランホは話す。

キューバの医療は主に予防に重点を置き、高度に分散化されている。各地域に総合医療クリニックがあり、地域住民と医療従事者の間には強い信頼の絆がある。2020年3月以降、約3万人の「コンタクトトレーサー(接触捜索者)」が島の隅々まで行き、家族の誰かが感染していないかどうか、一軒一軒チェックして回っている。このスクリーニングを支援するために、大学生が動員された。ベルギーでは、コールセンターで匿名の人が検出を行ったが、これは必ずしも信頼感を与えるものではない。

その間、キュバはコロナウイルスに対するワクチン開発に全力を集中した。2021年3月には、すでに3種類のワクチンが試験段階に入っていた。キューバは現在、独自に5種類のワクチンを保有しており、そのうちの1種類は2歳の幼児にも使える子供用である。

キューバでは、2020年末のCOVID-19による死亡者数は146人だったが、同じ住民数のベルギーでは、2万人近くになっていた。これはデルタの亜種が出る前の話で、キューバはこのデルタ型に遅れをとった。自国のワクチンが完成したのは、デルタ型が増殖し始めてから3カ月後だった。一方、ベルギーでは2020年後半からの迅速なワクチン接種により、少なくとも初期段階では、デルタ変種による死亡者数が大幅に減少した。

キューバでは、デルタ型の到着があまりにも急速で、当時はワクチンもなかったので、7月にはその感染のピークに達した。多くの死者を出し、キューバの医療体制を揺るがした。この不安定な健康状態に加え、米国の経済封鎖による深刻な経済問題、観光客の激減、食料価格の高騰が重なった。その結果、人々の間に多くの不満が生まれたが、その不満をソーシャルネットワークを通じてかき立て、抗議行動を大きくしようとする試みが米国から行われた。しかし、この試みは失敗に終わった。

キューバでデルタ型に対するワクチン接種キャンペーンが始まると、その成果は目を見張るものがあった。キャンペーンが始まった9月20日時点では、まだ毎日4万人以上の新規感染者と69人の死者が出ていたが、現在では、1日あたり約60人が新たに感染し、1人が死亡している。キューバでは、2歳児からワクチン接種を受けることができる。12月2日には、90%のキューバ人が1回目の接種を受けたという。これはアラブ首長国連邦に次いで世界で2番目に高い割合であり、ラテンアメリカでは最も高い割合である。ベルギーでは75%。

大手製薬会社に対する不信感

ヨーロッパでは、ワクチンを接種していない人の多くが、政府がワクチンを無料で提供することを不審に思っている。彼らは他の薬には随分とお金を払わなければならないのだ。医療費は毎年どんどん増えているのに、突然、全員が無料でワクチンを接種しなければならなくなった。その背景には何もないのだろうか?この質問をする人は、陰謀論者だということになるのか?

大手製薬会社は収益だけを追求し、人々の安全を必ずしも真剣に考えないことを人々は知っている。1940年から1980年にかけて、何百万人もの妊婦が流産防止のためにDES(ジエチルスチルベストロール)を服用し、1960年代には妊娠中の目まいの治療にソフテンが処方された。これらの投薬が何千人もの奇形児を生み出したのである。米国では、富豪のサックラー一族が所有するパーデュー製薬会社が、最近まで強力な鎮痛剤オキシコンチンを販売していたが、この薬は非常に中毒性が高いことを十分知っていたのである。

パーデュー社は、何千人ものアメリカ人の死と何百万人もの中毒に責任がある。フェンタニルは、ベルギーの同名の製薬大手(現在はジョンソン・エンド・ジョンソンの一部)のポール・ヤンセンが発明したもので、中毒性の高い鎮痛剤で、米国では自由に入手でき、盛んに宣伝されていた。この事件でジョンソン・エンド・ジョンソン社は責任を問われ、有罪判決を受けた。

また、製薬会社がCOVID-19ワクチンで不当に高い値段を付け、国から多額の補助金を受けて、何十億もの利益を確保することが許されていることも、人々は知っている。このような製薬会社が、さらに追加接種が必要だと言えば、たとえその必要性がたとえ科学的に正しくても、当然ながら、人々は疑念を抱くことになる。

キューバでは?

キューバには民間の製薬会社はない。COVID-19に対するワクチンはすべて政府所有のバイオメディカル研究所で製造されている。国内の予防接種プログラムで使用されるワクチンの80%は国内産である。法外な値段や不当な利益は見当たらない。

ヨーロッパと同じように、キューバ国民全員が乳幼児期からさまざまな病気の予防接種を受けている。これが、ここ数十年でキューバの平均寿命が非常に急速に伸びた主な要因の一つである。キューバの平均寿命は米国よりも高く、乳児死亡率低い。ここ数ヶ月で、キューバ製のワクチンも非常に効果的であることが明らかになっている。だから、キューバ人なら誰でも、自国の製薬会社を信頼するだけでなく、誇りに思うのは当然であろう。

科学に対する不信感

ここヨーロッパでは、食料サプリメント、完璧なおむつ、育毛剤、超速携帯電話・・・など、あらゆる種類のもの宣伝に本物の科学と疑似科学がよく使われる。その結果、多くの人々にとって、科学はその地位を大きく落としている。頻繁に起こる研究や技術上の大規模な不正行為(ディーゼルエンジン事件など)は、人々をさらに疑心暗鬼にさせる。

また、統計とその論文での表現が理解できるようにならないままで中等教育や高等教育を卒業してしまう人も少なくない。なぜ大勢の人々が怪しげな理論に惹かれ、それを真実として受け入れようとするのか、それは「彼ら」、つまり、政治家、専門家、メディアの集合体が、COVIDパスポート、予防接種、などなどを強制的に押し付け、その必要性を信じさせようとしていると考えるからだ。

キューバでは?

キューバでは、人々はごくまれにしかこのような広報活動に直面しない。科学は、質の高い教育や非商業的なメディアを通じて人々に届く。最初の感染が起こる前から、テレビでキューバ人全員に、COVID-19とは何か、どのように世界的に大流行しているのか、それに対して何ができるのか、その結果、どのような対策が必要なのかが説明されていた。

キューバの人々は、科学者がキューバの公益のために働いていることを知っている。例えば、世界最高水準の自国の気象学者によって予告されたハリケーンの通り道にあたる町や都市での予防的避難のように、国民はほぼ毎年それを実経験しているのである。また、HIVが予防への強いコミットメントによって迅速に封じ込められたこと、デング熱やジカ熱が科学的、効率的かつ透明性の高い方法で治療され、最小限の犠牲者しか出さなかったことを目の当たりにして来たのである。

連帯への不信感

広域流行伝染病の効果的マネジメントは、連帯感を前提にしている。個人的には病気をほとんど恐れることのない大多数の人々が、少数派の(非常に)高齢者や身体的弱者に連帯感を示す必要がある。ワクチン接種は、普通の男性や女性、そして子供たちにとっても重要であり、できるだけ早く地域社会でのウイルスの循環を減らし、弱い人たちに有利になるようにしなければならない。ヨーロッパを含めて、殆どの人が、それを参加する十分な理由と考えている。これは、安全対策の遵守についても同様だ。

ヨーロッパで、"私は健康で体力もあるからワクチンはいらない、あとはそれぞれの責任 "という人がそれほど多くないのは、むしろ驚きだ。この国の商業・新自由主義文化全体が、毎日のように、自分を発展させ、より良い人生を求め、つまり、もっともっと金持ちにならなければならないと人々を唆す。理想は絶対的な自律性であり、他人に依存しないこと、「国家」に依存するなどもってのほか、頼れば「たかり屋」だという事なる。そして、労働組合はそうした「たかり屋」の保護者と見なされる。国家は縮小され、社会保障費と医療保証費は削減されなければならない。これは、とても連帯を育む文化ではない。

キューバでは?

キューバの人々は、競争社会、「誰もが自分だけのために」という状況の中に生きてはない。キューバの人々は、経験から、一緒に力を合わせなければこの国の大きな問題に立ち向かえないことを知っている。一緒に問題を克服することは、これまでずっとやって来たことであり、その必要性は、今、これまでに無いない大きさになっている。隣人を助け、一緒に近所を清掃し、職場で会議を開き、一緒に意思決定を行う・・・、これが彼らの生き方なのである。連帯感は彼らのDNAの一部だ。何十年もの間、医師、看護師、教師を世界に送り続けている。人口1,100万人の小国で、資源はベルギーの十分の一もないのに、遠くイタリアまでCOVIDと戦うために医師を送り込んでいる。

この態度と生き方が、キューバにワクチン接種に反対の人々が殆ど全くいないもう一つの理由である。(翻訳終わり)

藤永茂(2021年12月28日)


ホンジュラス、エチオピア

2021-12-10 21:50:22 | 日記・エッセイ・コラム

 山椒魚さんから

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「マスコミにのらない海外記事」というブログに、ホンジュラスに関するWSWS.orgの記事が載っていましたが、シオラマ・カストロについてのWSWS.orgの見方は懐疑的なような内容のように見受けられました。

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というコメントを頂きました。引用されている『マスコミにのらない海外記事』

http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2021/12/post-518bf1.html

の後にも、WSWS.ORGの主筆ビル・ヴァン・アウケンはシオラマ・カストロ新政権が米国の意向に沿って台湾政府との関係をこれまで通り維持することを表明したことを取り上げて、新政権の弱腰を、むしろ体質的なものとして、手厳しく批判しています:

https://www.wsws.org/en/articles/2021/12/07/hond-d07.html

この記事の後半には次のような文章があります:

The capitulation of Xiomara Castro to Washington’s pressure campaign to continue Honduran recognition of the regime on Taiwan is the clearest indication that her government will represent no break from the century-old subordination of Honduras to US imperialism.

It is likewise a damning refutation of pseudo-left elements attempting to cast her election as a victory for the workers and oppressed of Honduras, chief among them Jacobin magazine, the semi-official organ of the Democratic Socialists of America (DSA).

In a December 3 article, Jacobin proclaimed the Honduran election “a defeat for the US.” Describing Castro as a “socialist,” it declared her win part of a “dramatic change currently sweeping Latin America,” citing the recent election of Pedro Castillo in Peru.

This is a deliberate falsification. Castro’s victory was no “defeat” for the US. Washington directly intervened to prevent the rightist Hernández regime stealing the election as it did four years ago. Hernández, whose brother was sentenced to life in prison in the US for drug trafficking, had become a serious liability for US interests.

山椒魚さんもご指摘のように、今回のホンジュラス政変に対する私の期待は甘すぎるのでしょう。

『マスコミにのらない海外記事』と同様に、WSWS.ORGも私がほぼ毎日訪れるサイトでアウケン氏も私が頼りにしている論客の一人です。このサイトの馴染み客として私は古株に属するだろうと思います。私はこの数十年間トーマス・クーンという米国の科学哲学者に興味を持ち続けていまして、このブログ『私の闇の奥』の他に『トーマス・クーン解体新書』というブログも時々書いていますが、丁度10年前ほどにこの政治的なサイトWSWS.ORGでクーンのことが取り上げられてびっくりした事がありました:

https://www.wsws.org/en/articles/2011/10/kuhn-o28.html

 前回、私が訳出したシオラマ・カストロ・デ・セラヤ関係の記事は、これまた私の贔屓のウエブサイトの一つ:

https://libya360.wordpress.com

から取ったもので、少し脇が甘い傾きがあるかもしれません。しかし、このサイトに出る記事には、人間世界の将来に希望を持たせてくれるようなものが多いように私には思われます。この世での持ち時間が少なくなったせいか、人間について絶望ではなく、何か明るい希望のようなものを持ちたい気持ちがこの日頃とりわけ強くなってくるような感じです。それが物事をやや皮相的に捉える傾きをもたらしているのかも知れません。先日(2021年11月8日)のこのブログの記事「エチオピアとエリトリアが危ない」ではエチオピアのアビイ・アハメド首相とエリトリアのイサイアス・アフェウェルキ大統領の側に立つ発言をしましたが、『マスコミにのらない海外記事』に訳出されたF. William Engdahl 氏の記事「エチオピア・ティグレ戦争で利益を得るのは誰か」(12月5日)を読むと、私の判断は偏向しているのかもと思わざるを得ません。エングダール氏も常々教えられるところの多い論客です。しかし、上に述べた理由から、私はやはりウェブサイトhttps://libya360.wordpress.comの記事の方に心を惹かれます。このサイトの記事によると、エチオピアの首都アディスアベバに迫る勢いを示していたティグレ(TPLF)軍の進撃は阻止されて形勢は逆転しているようです。次の3つの記事を見て下さい。

https://libya360.wordpress.com/2021/11/13/tplfs-war-on-ethiopian-government-a-us-eu-ploy-to-thwart-cooperation-in-the-horn-of-africa/

https://libya360.wordpress.com/2021/12/07/civil-war-in-northern-ethiopia-turns-in-favor-of-federal-government-reversing-last-months-advances-by-tplf/

https://libya360.wordpress.com/2021/12/09/ethiopans-march-against-tplf-and-us-intervention-in-their-country/

2番目の記事にはエチオピアに対する米国の干渉に抗議する#NoMore 運動のことが詳しく出ています。その終わり近くには、東京でも12月6日にデモが行われたと報じられています。驚きました。

3番目の12月9日の記事は短いので訳出します:

「アディスアベバに住む数千人のティグレ人が、連邦政府を支持し、米国が支援するティグレ人民解放戦線(TPLF)に反対する集会を開催した。デモ参加者は、“ティグレ人とTPLFは同じではない”というスローガンを掲げ、エチオピア政府にティグレ人をTPLFから解放することを求めた。世界的に、エチオピアのディアスポラ(国外移住者)を中心とした#NoMore運動の拡大により、米国の介入に対する抵抗が高まっている。」

なお、この記事には3分ほどのYouTube 動画がありますので是非ご覧ください。

 

藤永茂(2021年12月10日)


ホンジュラス

2021-12-06 20:45:39 | 日記・エッセイ・コラム

 中部アメリカの中ほどにあるホンデュラスから大きな朗報です。2009年の軍部によるクーデターで政権の座から追放されたホセ・マヌエル・セラヤ前大統領の妻であるシオラマ・カストロ・デ・セラヤが初の女性大統領に就任する事がほぼ確実になりました。その報道記事の一つを私なりに訳出します:

https://libya360.wordpress.com/2021/11/29/honduras-xiomara-castro-de-zelaya-proclaimed-president-elect/

ホンジュラスの次期大統領に選ばれ、女性として初めてホンジュラスを統治することになるシオマラ・カストロ氏は、この日曜日、投票での勝利を祝い、「和解」と「平和と正義」の政府を樹立すると発表した。投票結果の審査は続いているが、自由党の候補者である彼女が、現政府政党である国民党の候補者に大きく差をつけている。

「我々はホンジュラス全土で、参加型の直接民主主義を保証するためのプロセスを開始するつもりです。それが統治のルールになるでしょう」と、カストロ氏は自由党本部で行ったスピーチで述べた。

次期大統領は、2009年にクーデターで退陣したホセ・マヌエル・セラヤ前大統領の妻であり、汚職で疑惑を持たれ、12年間政権を維持した後に解任されるフアン・オルランド・エルナンデス氏の後継者となる。

カストロ氏は、「私には敵がいないので、反対派にも手を差し伸べます。明日からホンジュラス国民のすべてのセクターとの対話を呼びかけ、一致する点を見つけ、次期政権の最低限の基盤を形成できるようにしたい。我が党員は、今とは違う国、公平で公正な国、多くのニーズに応えることができる自由で独立したホンジュラスを保証するために、魂と命と心を捧げる」と述べ、「戦争も、憎しみも、死刑執行人も、汚職も、麻薬密売も、ホンジュラスにはもうない。ホンジュラスの貧困と惨めさはもうない。いつまでも勝利を」と締めくくった。(翻訳終わり)

 今回のホンデュラスの選挙関連の記事をもう一つ挙げておきます:

https://libya360.wordpress.com/2021/11/29/xiomara-castro-brings-hope-to-hondurans/

この記事は次の文章で終わっています;

In Honduras for the first time, a woman is going to be president and the current president could end up in prison.

 2009年のクーデターの当時、私は、このホンデュラスの事態に対するメディアや専門家たちの態度、その背後にいた米国政府の言語道断の欺瞞性に驚き、腹を立てて、2009年の後半に4つのブログ記事を書きました。時間があれば目を通してください:

『ホンジュラスの憲法』(2009-07-08)

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/72b0e119cd85d71e1298e85140e2461f

『ホンジュラスの憲法(続)』(2009-07-15)

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/eafaefb45a10c83b101817a41e91eeb

『なぜホンジュラスにこだわるのか』(2009-11-08)

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/b704d551fd47bede2720ab95e8b2c766

『ホンジュラス、米国健康医療蚕業、そしてオバマ』 (2009-12-02)

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/8bfe5f9162a12ff86696a4ade4cc6d20

 ホンジュラスの反動勢力による暴力的クーデターが起った時、オバマ大統領は「合法的に選出された大統領を追放するのは宜しくない。セラヤ大統領の速やかな復権をアメリカ政府は要請する」という内容の驚くべき欺瞞声明を発しました。このクーデターの背後には米国がいたのは現在では明明白白の事実ですから、俗な言い方をすれば、「あいた口が塞がらない」ひどさです。

 私がこれらのブログ記事で見据えようとした中心のポイントは米国(政府、為政者)の真の姿です。米国という国の本当の姿を見定めることは、今や、我々日本人にとって文字通り“生きるか死ぬか”の喫緊の問題になっています。

 

藤永茂(2021年12月6日)


報道写真の客観性

2021-12-01 21:05:45 | 日記・エッセイ・コラム

 現在の米国の権力機構の代表的な代弁新聞であるワシントンポストの2021年11月16日版に

『They survived ISIS and war. Now a growing number of Syrian kids are forced to work to get by.(彼らはISISと戦争をなんとか生き延びた。しかし、今や、何とかその日その日を生き延びる為に労働を強いられるシリアの若者たちの数がどんどん増えている。)』

という見出しで、16頁の写真と12頁の説明からなる記事が出ました。

https://www.washingtonpost.com/world/interactive/2021/syria-child-labor/?utm_campaign=wp_todays_headlines&utm_medium=email&utm_source=newsletter&wpisrc=nl_headlines&carta-url=https%3A%2F%2Fs2.washingtonpost.com%2Fcar-ln-tr%2F354e81e%2F6194e0da9d2fdab56b901964%2F596cff3eade4e24119daa197%2F17%2F73%2F6194e0da9d2fdab56b901964

このかなり大掛かりな報道写真記事を見る人々はどの様なメッセージを受け取り、自分の世界観の中に組み込むでしょうか?この記事を制作したジャーナリストたちの心の中には、どの様な想いが走っていたか、これを考えながら、私は繰り返しこのドキュメンタリーを観ています。

 改めて、ネット上で見ることのできるシリアについての情報を調べてみました。一般向きで最も組織的なのはウィキペディアの『シリア』:

https://ja.wikipedia.org/wiki/シリア

でしょう。「国境なき医師団」という組織の記事である『特集 シリア内戦10年』

https://www.msf.or.jp/syria10/

もあります。

新しいところでは東京外語大学教授の青山裕之さんの

『シリアの「空」(Sama)は誰のものか?:執拗に爆撃を続ける諸外国のドローン』という興味深い動画もあります。

https://news.yahoo.co.jp/byline/aoyamahiroyuki/20211201-00270643

 シリア問題に対する私の視野の重心はクルド人問題にあります。この立場をとる人間として、上のワシントンポストの報道写真記事を怒りと悲しみをもって凝視しないわけには参りません。現在、米国はシリア・アラブ共和国の総面積の約(1/3)を占める北東部を、SDFと呼ばれるクルド人武装勢力を傭兵として懐柔して利用し、宣戦布告もなしに不法に占領していて、それ以外の国土をほぼ支配しているアサド政権に対して厳しい封鎖制裁を課しています。米国が国際法的に全く不法に占領支配しているこのシリアの北東部は、シリアの油田地帯であり、また豊かな農業地帯でもありますが、アサド政権を苦しめる為に、石油も農産物も強奪しているということです。ワシントンポストの記事を知る前には、この米国占領下の土地の住民たちは、シリアの他の地域よりは、少しは、マシな生活をしているものと何とはなしに想像していたのですが、私の空想は全く見当違いであったことを、はっきりと悟りました。

 報道写真の客観性とは一体何でしょうか。ユージン・スミスの写真集『MINAMATA』の冒頭に次の文章があります:

This is not an objective book. The first word I would remove from the folklore of journalism is the word objective. That would be a giant step toward truth in the “free” press. And perhaps “free” should be the second word removed. Freed of these two distortions, the journalist and photographer could get to his real responsibilities.

(これは客観的な本ではない。ジャーナリズムのしきたりからまず取りのぞきたい言葉は「客観的」という言葉だ。そうすれば、出版の「自由」は真実に大きく近づくことになるだろう。そしてたぶん「自由」は取りのぞくべき二番目の言葉だ。このふたつの歪曲から解き放たれたジャーナリストと写真家が、そのほんものの責任に取りかかることができる。)(訳者 中尾ハジメ)

 このブログをお読みの方は、ユージン・スミスの原文の深い味わいを自分自身でお読み取り下さい。これは真に信頼に値する一人のジャーナリスト・フォトグラファーの断固たる信条宣言です。

<付記>

 このブログで幾度も取り上げて来たクルド民族の指導者アブドゥッラー・オジャラン(1948年生まれ)は1999年以来トルコで投獄され、今もイムラル島の独房に収監されて、近年は、弁護士とも家族とも面会が許されていません。オジャランの提案する「クルド問題」の解決方法は、以前にこのブログで解説した通り、とても分かりやすく明快なものです。数日前、クルド人贔屓の女性フランス人活動家 Sylvie Jan は、「今や、クルド“問題”を語る時ではない。クルド人たちが提案している“解決”案についてこそ語るべきである」という意味の発言をしています:

https://anfenglish.com/news/french-activist-jan-kurds-represent-the-new-world-56508

 

藤永茂(2021年12月1日)