私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

8月21日にサリンを使ったのは

2013-09-23 11:30:41 | 日記・エッセイ・コラム
 8月21日、シリアの首都ダマスカスの郊外で、サリンを使って千人以上の一般市民を殺したのは、政府側か、反政府側か。日本を含めて世界の主要メディアは政府側を示唆する口ぶりですが、私は反政府側だと確信しています。その判断は9月20日付けのロバート・フィスクの報道記事(ガーティアン紙)で、私としては、決定的なものになりました。

http://www.zcommunications.org/assads-troops-may-be-winning-this-war-in-syrias-capital-untouched-by-obamas-threats-by-robert-fisk.html

しかし、早合点しないで下さい。この一つの記事に反政府側が使ったという決定的証拠が提出されているのではありません。そうではなくて、私の確信は、この記事を書いたロバート・フィスクというジャーナリストその人に対する私の信頼、長い時間をかけて私の中に沈殿してきた信頼に基づいています。この人に就いては、一年ほど前に私のブログ記事『シリアとリビア(1)』(2012年8月29日)に、次のように書きました。:
■ Robert Fisk(1946年生)という大変著名な英国人ジャーナリストがいます。この人は1970年代からレバノンの首都ベイルートに住み、アラビア語も達者、中東、北アフリカについての彼の記事を、私は一種の注意深い信頼を持って読み続けています。彼は、平和主義者としての立場を公に表明しながら、一度も職業的に躓かず、これまで数えきれないほどのジャーナリスト賞を受賞してきました。
 私が手放しの全面的信頼をこの有能で明敏なジャーナリストに、心情的に、置けないのは、彼の特異な文章、絶えず「行間を読め」と告げられているような、どこか煮え切らないような文体にあります。これは、あまり自信の無い私なりの憶測ですが、フィスク氏の文体は、ジャーナリストとして活躍を続けるための保身術的バランス感覚から来ているのだろうと思います。世界中の何処へも出かけて取材が出来ることは、ジャーナリストとして、最も望ましいことに違いありません。
 フィスク氏は今シリアの政府側に入り、首都ダマスカスやアレッポの現地から、連日、記事を英国紙インデペンデントに送っています。ジャパンプレスの山本さん/佐藤さんは反体制派の導きでアレッポに入って取材して日本に伝えたわけですが、両方の報道を合わせて読むと実際に起っている事のかなり正しい有様が分かります。もっとも、佐藤和孝氏の報道のトーンとは違い、フィスク氏は、一般市民を痛め続けるシリア国軍と自由シリア軍の双方をバランス良く非難しています。NHK の特派員がダマスカスに居る筈ですし、もちろん、インデペンデント紙のウェブサイトに連日出ているフィスク氏の記事の内容を熟知の筈ですから、そのことが何らかの形でNHKの視聴者に伝わるようなテレビ報道をしてもらいたいものです。■
 フィスク氏についてこう書いた昨年夏以後も、私は彼の記事を数多く読み続け、彼の記事の読み方を身につけ、彼に対する信頼を深めて来ました。その総合的結果が「8月21日にサリンを使ったのは反政府側だ」という私の最終判断です。ロシア政府がその決定的な証拠を持っていて、それを国連に伝えたが、国連はそれを公開しようとしないと囁かれています。興味はありますが、私の確信はそれを必要としません。出来るだけ個人的な偏見や希望的観測を排して、長い時間をかけて考え続ければれば、私どものような市井の一老輩でも、世界の事象の真相、真理を把握出来る場合があるというのは、何と言っても、インターネットのお蔭だと認めざるを得ません。
 しかし、今私が直面している本当の問題は、「8月21日にサリンを使ったのは誰か」という事ではありません。国家権力が、その政治的目的を達成する軍事行動を開始するための口実として、信じられないような残虐行為を行ないうるという事実を、私の心の中での問題としてどう処理すればよいのか??これが私の問題です。3年ほど昔、私のブログ『マドレーヌ・オールブライトの言葉』(2010年12月8日)の中で「9月11日の決死の攻撃をアメリカに仕掛けた人々の胸の深みにオールブライトの「the price worth it」という許し難い言葉が沈潜していたとしても何の不思議もありません。」と書いたのに対して、池辺幸惠さんから「あら、まっ、藤永先生は、9.11がチェイニー・ブッシュたち軍参共同体による確かな“陰謀”であるとはお思いではないのでしょうか?それは、陰謀説でなどはなく、たしかな陰謀ですよ。・・・・・」というお叱りのコメントを頂きました。それ以来、ニューヨークの2001年9月11日事件は私に与えられた重い宿題としてあり続けています。是非そのうちに取り上げたいと思っています。

藤永 茂 (2013年9月23日)


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ダマスカスの人々は今

2013-09-07 14:30:52 | 日記・エッセイ・コラム
 米国上院外交委員会は3日、シリアへの軍事介入に関してオバマ大統領が提示した武力行使容認決議案を修正して、攻撃期間を当面60日とし、議会の承認があれば30日の延長が出来ることにして、4日に委員会で、賛成票10、反対票7、棄権(居ただけで投票しないのを、present というのだそうです)1で、採決承認しました。決議案の内容を読んでいると吐き気を催します。

http://big.assets.huffingtonpost.com/SFRCSyriaAUMF.pdf

翻訳する気になりませんので、始めの部分のコピーに止めます。

■To authorize the limited and tailored use of the United States Armed Forces against Syria.
Whereas Syria is in material breach of the laws of war by having employed chemical weapons against its civilian population;
Whereas the abuses of the regime of Bashar al-Assad have included the brutal repression and war upon its own civilian population, resulting in more than 100,000 people killed in the past two years, and more than 2 million internally displaced people and Syrian refugees in Turkey, Jordan, Lebanon, and Iraq, creating an unprecedented regional crisis and instability;
Whereas the Assad regime has the largest chemical weapons programs in the region and has demonstrated its capability and willingness to repeatedly use weapons of mass destruction against its own people, including the August 21, 2013 attack in the suburbs of Damascus in which the Assad regime murdered over 1,000 innocent people, including hundreds of children; ■

この決議案は9日以後に上院本会議と下院本会議で可決されることが必要ですが、オバマ大統領は米国国会で承認されなくてもシリアを攻撃すると言っているのですから、間もなく、少なくとも60日(もしそれで不足ならば90日)にわたるシリア空爆の幕が切って落とされるのはほぼ確実です。アサド政権が国際法を破って化学兵器を使って自国民を殺しまくっているから他の独裁政権国家への見せしめのために、アサドにしっかりとお灸を据えなければ、と米国は言いますが、これほどナンセンスな戦争開始の口実は人類の戦争史上滅多に見つかるものではありません。
 いまや完全に腐り切ったワシントン・ポストの一記事では

http://www.washingtonpost.com/world/national-security/reviewing-potential-syria-targets/2013/09/04/4fb0d694-1568-11e3-be6e-dc6ae8a5b3a8_story.html?wpisrc=nl_politics

米空軍のミサイルがまず何処に降り注ぐかの予想が行なわれています。リストのトップは首都ダマスカスの北西の外辺地域ジャラマーナ(Jaramana) にある防衛省関係の諸施設だそうです。その中でもNO.1 は、英語でScientific Studies and Research Center (SSRC)、米国で言えば、原爆製造の聖地ロスアラモス研究所にあたる施設です。そしてこの地域には他の重要な軍事施設もあり、今回の毒ガスが準備された情報が攻撃三日前にスパイされたのもこの辺りなのだそうです。オバマはこれを口実にしてミサイル攻撃を開始するわけですが、せめてその傍受のでっち上げ“証拠”くらいは世界に示すのが礼儀なのに、それすら行いません。
 去る8月7日、この第一目標のジャラマーナ地域で、反政府軍側が車に仕掛けた爆弾で一般市民18人が一挙に粉々になりました。西側では殆ど報道されなかった事件ですが、起ったのは確かです。(子供たちも殺されましたが、私個人としては、特別わざわざ、子供が、子供が、と言いたくありません。子供も人間、大人も人間です。)この事件を、アムネスティ・インターナショナルも、ヒューマン・ライツ・ウォッチも、「国境なき医師団」も、何故取り上げないのか。私のおぼろげな記憶ながら、昔は、医者は敵の負傷兵でも手当を施したものです。八路軍だって傷ついた日本兵捕虜の手当をしてくれたものでした。米国側につくものの命だけが尊いのではありますまい。アムネスティ・インターナショナルも、ヒューマン・ライツ・ウォッチも、「国境なき医師団」も、創設のはじめには、高い志を持った人々の集団であった筈です。今でもその生き残りがいるでしょう。しかし、現在こうしたNGOを動かしている人たちを、一人一人、よく見て下さい。彼らが、依然として、一般の人々からの浄財をつのり、政治的中立を標榜しているとすれば、我々には、彼らの組織の財政報告を要求する権利があります。直裁に言えば、米国からどれだけの金を貰っているか、有能幹部の給料はどのようなレベルの額か、などなどです。
 ダマスカスの人々は今、60日、90日という地獄の日数を反芻しながら、息をひそめて殺人鬼オバマの動向を凝視していることでしょう。カダフィのリビアで何が起ったかをまざまざと想起しているに違いありません。2011年3月19日に開始されたNATO空軍によるリビア空爆は10月31日に公式に終了が発表されるまでの7ヶ月間に、5900の軍事的標的に対して9600回を超える空襲攻撃が行なわれました。この公式発表をまともに信じる理由はありませんが、欧米軍は想像を絶する猛烈さでリビアの国民650万に襲いかかったことをこれらの数字は証言しています。民間人は何人殺されたか。NATO の発表によると民間人の犠牲者は少なくとも72人に上り、ヒューマン・ライツ・ウォッチはその犠牲者の中に女性20人と子供24人が含まれると注釈を付けました。(Here goes again! No more“women and children,” please !)冗談じゃない。私はNATO が空爆で殺した一般市民の数は約5万人、職業軍人でない兵卒を含めれば20万にも達し得たと推定しています。この問題に就いてはブログ『横板に雨垂れ』に優れた記事があります。

http://yokoita.blog58.fc2.com/blog-entry-208.html

 2011年4月30日、NATOはリビアの首都のカダフィ一家の住居を爆撃し、カダフィの一番若い息子とその3人の子供を殺害しました。明らかにカダフィ殺害を狙ったのでしたが、彼とその妻は敷地内の家畜小屋を訪れていて命拾いをしました。宮城のような広大な屋敷に住んでいたのかと思っていましたら、そうではなく、クリントン夫妻の邸宅より狭いように見えたと元米国国会議員で私が信頼するCynthia McKinney は報じています。米国がカダフィを殺そうとしたのは、これが初めてではありませんでした。1986年にも狙われてその時は彼の娘さんが殺されました。先述のワシントン・ポストの記事では、爆撃のターゲットとしてアサド大統領を挙げてはいませんが、アサドの名がオバマ大統領の有名なキル・リストのトップを占めていることは疑う余地がありません。アサド大統領がどんな所で寝起きしているのか知りませんが、深い地中の部屋に居るとなると、オバマは貫通力に秀でた劣化ウラン弾やあるいは特殊のバンカー・バスターを使うかも知れません。
 しかし、私の想いは圧倒的にダマスカスから脱出したくても動きようのない無数の一般市民の上にあります。1945年6月19日から20日にかけて福岡市は米空軍B-29 爆撃機239機による爆撃を蒙りました。約2時間続いた焼夷弾攻撃によって、死者902人、行方不明者244人、重傷者586人、福岡市の家屋の三分の一が罹災しました。その時の記憶は今も生々しいままです。破壊力の強大な各種ミサイルが無数に打ち込まれるであろうダマスカスの在留市民の味わう恐怖と悲惨は私の経験を遥かに上回るに違いありません。

藤永 茂 (2013年9月7日)


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