英国ガーディアン紙(6月19日)に出たナオミ・クラインの“Gulf oil spill: A hole in the world”を読んで、米国のオクシデンタル・ペトローリアムという石油会社(Oxy)に対する南米コロンビアの原住民ウワ(U’wa)族の戦いの話を知りました。とにかく、知らないことが多すぎて恥じ入っています。インターネット上に多数の記事があり、身の危険を省みず石油会社に対するウワ族の戦いを支援した人々もいたようです。
ウワ族の占める土地はコロンビアの北東部のベネズエラに接する山岳雲霧林地帯に位置しています。1992年4月Oxy は、ウワの知らない間に、ウワの土地内で石油探索を行なう契約をコロンビア政府と結びました。この事をウワが知ったのは3年後の1995年、それからOxy に対するウワの人々の激しい抗議の戦いが始まります。大地を大いなる母と崇め、石油をその聖なる血と考えるウワは、もし、Oxy が石油採掘を強行すれば、ウワ族の数千人が高さ400メートル以上の断崖絶壁の頂上から飛び降りて集団自殺を遂げることを宣言しました。この脅しは空言ではなかったのです。17世紀、ウワの土地がスペインに侵略されたとき、スペイン王の配下に入ることを拒否して数千人のウワが絶壁から身を投じて果てたと伝えられているからです。このウワ族の必死の抵抗は世界中の環境保護団体の注目と同情を集め、その協力もあって、Oxy (ロサンゼルスに本社のあるオクシデンタル・ペトローリアム)はウワの土地から手を引く声明を出し、一応は、ウワ族の勝利に終りました。ナヴァホ・インディアンのウランに並ぶ、もう一つのアバター物語の結末です。しかし、映画『アバター』の結末と同じく、これらの尻切れトンボのお話は、このままでは済みますまい。
クリントン政権の副大統領であったアル・ゴア氏は、環境保護に貢献したとして2007年ノーベル平和賞を受賞しましたが、これには実に皮肉な裏話が隠されていたのです。ゴア家はオクシデンタル社の大株主で父親の時代から、まあ、一心同体のような関係にあります。石油会社と政治家の持ちつ持たれつの関係は、アメリカの伝統ある雑誌「The Nation」の2000年5月号に出た Ken Silverstein の記事:
“Gore’s Oil money: What’s Good For Occidental Is Bad For Colombia’s U’was ”
に詳しく描かれています。信憑性十分の記事であると思われます。メキシコ湾の深海油田からの石油噴出の大惨事(つまり、クラインさんの云うように地球に穴が空いて塞がらなくなってしまった状態)に直面して、アメリカ合州国は手の届く陸地での石油採掘にあらためて力を尽くすでしょうから、ウワの聖地に、またまたOxy か、または同じようなアメリカの石油会社の発掘隊がなだれこむのは、おそらく、時間の問題でしょう。
南米大陸の北部に位置するコロンビアは今やアメリカ合州国の完全な植民地の様相を示し、この国がアメリカ合州国の軍事的、政治的、経済的な中南米支配の最重要拠点になったことは明らかです。2009年10月30日、オバマ政権はコロンビアと今後10年間有効の軍事協定を結び、その下でアメリカは強力広大な軍事基地システムを構築し、ラテンアメリカの全域に軍事介入の睨みを利かそうとしています。ある意味で、その状況は、次回から取り上げるアフリカ中東部の国ルワンダを連想させます。
<付記> 2、3日前から、ヘンリー・ミラー(Henry Miller)の“The Air-Conditioned Nightmare”を夢中で読んでいます。この本の存在も知りませんでした。1945年の出版ですが、この頃しきりに出版されるアメリカ論関係の類書(もちろん拙著『アメリカン・ドリームという悪夢』も含めて)の遠く及ばない切れ味です。もともと、小説家という人種に深い尊敬の念を抱いている私ですが、この「アメリカのセリーヌ」ヘンリー・ミラーにあらためて脱帽し、世の小説家さんたちに声援を送りたいと思います。
藤永 茂 (2010年6月23日)
ウワ族の占める土地はコロンビアの北東部のベネズエラに接する山岳雲霧林地帯に位置しています。1992年4月Oxy は、ウワの知らない間に、ウワの土地内で石油探索を行なう契約をコロンビア政府と結びました。この事をウワが知ったのは3年後の1995年、それからOxy に対するウワの人々の激しい抗議の戦いが始まります。大地を大いなる母と崇め、石油をその聖なる血と考えるウワは、もし、Oxy が石油採掘を強行すれば、ウワ族の数千人が高さ400メートル以上の断崖絶壁の頂上から飛び降りて集団自殺を遂げることを宣言しました。この脅しは空言ではなかったのです。17世紀、ウワの土地がスペインに侵略されたとき、スペイン王の配下に入ることを拒否して数千人のウワが絶壁から身を投じて果てたと伝えられているからです。このウワ族の必死の抵抗は世界中の環境保護団体の注目と同情を集め、その協力もあって、Oxy (ロサンゼルスに本社のあるオクシデンタル・ペトローリアム)はウワの土地から手を引く声明を出し、一応は、ウワ族の勝利に終りました。ナヴァホ・インディアンのウランに並ぶ、もう一つのアバター物語の結末です。しかし、映画『アバター』の結末と同じく、これらの尻切れトンボのお話は、このままでは済みますまい。
クリントン政権の副大統領であったアル・ゴア氏は、環境保護に貢献したとして2007年ノーベル平和賞を受賞しましたが、これには実に皮肉な裏話が隠されていたのです。ゴア家はオクシデンタル社の大株主で父親の時代から、まあ、一心同体のような関係にあります。石油会社と政治家の持ちつ持たれつの関係は、アメリカの伝統ある雑誌「The Nation」の2000年5月号に出た Ken Silverstein の記事:
“Gore’s Oil money: What’s Good For Occidental Is Bad For Colombia’s U’was ”
に詳しく描かれています。信憑性十分の記事であると思われます。メキシコ湾の深海油田からの石油噴出の大惨事(つまり、クラインさんの云うように地球に穴が空いて塞がらなくなってしまった状態)に直面して、アメリカ合州国は手の届く陸地での石油採掘にあらためて力を尽くすでしょうから、ウワの聖地に、またまたOxy か、または同じようなアメリカの石油会社の発掘隊がなだれこむのは、おそらく、時間の問題でしょう。
南米大陸の北部に位置するコロンビアは今やアメリカ合州国の完全な植民地の様相を示し、この国がアメリカ合州国の軍事的、政治的、経済的な中南米支配の最重要拠点になったことは明らかです。2009年10月30日、オバマ政権はコロンビアと今後10年間有効の軍事協定を結び、その下でアメリカは強力広大な軍事基地システムを構築し、ラテンアメリカの全域に軍事介入の睨みを利かそうとしています。ある意味で、その状況は、次回から取り上げるアフリカ中東部の国ルワンダを連想させます。
<付記> 2、3日前から、ヘンリー・ミラー(Henry Miller)の“The Air-Conditioned Nightmare”を夢中で読んでいます。この本の存在も知りませんでした。1945年の出版ですが、この頃しきりに出版されるアメリカ論関係の類書(もちろん拙著『アメリカン・ドリームという悪夢』も含めて)の遠く及ばない切れ味です。もともと、小説家という人種に深い尊敬の念を抱いている私ですが、この「アメリカのセリーヌ」ヘンリー・ミラーにあらためて脱帽し、世の小説家さんたちに声援を送りたいと思います。
藤永 茂 (2010年6月23日)
今、手もとにあるのは、「ローズダスト」福井晴敏
現代のテロリズムの恐怖と北朝鮮とを、うまくつなげています。こんなのだから、ますます北朝鮮怖いよのになるんだろうなと、とても悲しく思いながらもこの七面倒くさいのを今少しずつ読んでいます。
ヘンリー・ミラーですか、アメリカものはあんまり読んでいません。少女時代のオルコットやモンゴメリは別として。^^
あ~~あ、世の中 裏を知らないままの平和ボケだったら、うらうらと幸せにおれるのだろうに・・・と、何も知らなかった頃がなつかしい思いです。
でも、それでは、おバカさんだね・・と今は知ってよかった、まだまだいろんな真相を知りたいと思っています。
今回のウワ族の集団自殺・・・・衝撃、南米のあの断崖絶壁ですね、ロストワールドみたいな・・・・そこから数千人が飛んでゆく・・・壮絶と同時になにかしら・・・いえいえ、やはりこんなことはあってはならないことです。沖縄のサイパンのバンザイ岬なんて、人間はほんとうに悲しいものです。