私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

衆愚

2016-05-23 22:11:06 | 日記・エッセイ・コラム
 最近、私の筆が滞りがちなので、それを助けてやろうというお気持ちからでしょう、桜井元さんという方から、中身のつまったコメントをいくつか続けて頂きました。たいへん読みがいのある内容なので、その一つをここに転載します。お読みください。
「ノースウッズ作戦」と「ホワイト・ヘルメット」 (桜井元)
2016-05-15 03:49:00
藤永先生がご紹介くださった諸々のネット情報をじっくり読んでみました。まず、ウクライナ上空での民間機撃墜に関するもののなかに、1962年に米国軍部がキューバに対して極秘裏に計画した「ノースウッズ作戦(Operation Northwoods)」のことが触れられていました。情報公開された同作戦の計画メモを National Security Archiveのサイト上で読むことができました。

ttp://nsarchive.gwu.edu/news/20010430/northwoods.pdf

キューバへの軍事侵攻を正当化するための偽旗作戦で、そこには様々な謀略が記されていました。

「グアンタナモ基地への攻撃」、「船舶の沈没」、「航空機のハイジャック」、「民間機の撃墜」、「米軍機の撃墜」、「米国を目指す亡命キューバ人を乗せた船の沈没」、「米国内のキューバ人を狙ったテロ」、「フロリダ州のほか首都ワシントンにおけるテロ」、「カリブ諸国での地下活動」などなど。これらを自作自演し、すべてをキューバのカストロ政権の仕業として非難し、国内世論や国際世論を味方につけ、軍事攻撃の正当化根拠にしていくというものでした。

F86戦闘機をミグ戦闘機のように偽装する方法や、撃墜されたと見せかけるための民間機のすりかえの方法をはじめ、パイロットがニセの遭難信号を発信したり、当該海域に機体の残骸をまいたり、ニセの葬式を行うこと等々まで、細かい謀略の手法が念入りに書かれていて、これらが米国統合参謀本部の幹部の間で合議され認可されたということに戦慄を覚えます。

国際法をここまで無視する米国こそ「ごろつき国家」「ならず者国家」の称号にふさわしく、さらに、ここまで統治機構が腐敗している米国こそ「失敗国家」の称号にふさわしいと言えるのではないでしょうか。

ところで、米国とキューバの国交正常化のニュースが流れた際、おなじみの池上彰さんがわかりやく解説をするというテレビ番組がありました。キューバ危機の歴史にまでさかのぼっての解説でしたが、「ソ連のミサイル配備」、「緊張を高めたキューバ」、「理性的に対応して危機を回避したケネディ」といった教科書的な内容でした。池上さんやテレビ局には「親米・反共」のバイアスをかけず、ありのままの米国・キューバ関係史を視聴者に伝えることを望みます。そうした番組のなかではもちろん「ノースウッズ作戦」に触れる必要があるでしょう。

次に「国境なき医師団への公開質問状」を読みました。この文書の中には様々なリンクがはられていますが、そのなかで同じ著者による「ホワイト・ヘルメット(White Helmets)」について書かれた記事に当たることができました。その名のとおり白いヘルメットをかぶり、勇敢にも戦場を駆け回り、瓦礫に埋まる人々を救出する民間の救助隊とされている団体です。しかし、この団体も、シリアにおけるプロパガンダの一環、巧妙な罠のようです。以下は、同記事の要約です。

ttp://dissidentvoice.org/2015/04/seven-steps-of-highly-effective-manipulators/

(要約はじめ)
Jeremy HeimansがCEOを務める国際PR企業「Purpose Inc.」が、シリアでの情報キャンペーンを2014年に立ち上げ、石油・ガス関連の億万長者Ayman Asfariの財団から資金を援助されます。このなかでホワイト・ヘルメットという団体がプロモーションされていきました。この団体はもともと英米が作ったもので、シリアの反政府支配地域の人たちに金を支払ってトルコに送りそこで訓練をさせており、その中心に元イギリス軍人で今はドバイに拠点を置く「Mayday Rescue」という会社のJames Le Mesurierという人物がいます。

ホワイト・ヘルメットは党派性はないと言いながらも実際には反政府側の支配地域で活動しており、ヌスラ戦線(アルカイダ系)と協力関係にあります。そして、アサド政権を悪魔のようにののしり、外国勢力による直接的な軍事介入を求めています。

ホワイト・ヘルメットの情報戦は巧みで、団体自身のサイトのほか、団体幹部がワシントンポストに投稿したり、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを駆使したりしています。きわめつけは、リビアへのNATO・米軍の軍事侵攻を正当化・代弁したニューヨークタイムズの記者Nicholas Kristofによるホワイト・ヘルメット礼賛のプロモーション記事です。この記者は、「撃たれ傷つき家を破壊されたリビアの人たちは、侵攻した外国勢力を恨まず、むしろ感謝している」という記事を書いたのですが、その彼が今度はシリアへの外国勢力による軍事侵攻を扇動しています。

前出「Purpose Inc.」のCEOであるJeremy Heimansらは、このほかに、オンラインのロビーイング団体「Avaaz」というものを立ち上げました。設立資金はジョージソロス財団が出していますが、この「Avaaz」は、かつてリビアでNo Fly Zone飛行禁止空域設定キャンペーンを実施し、今ではシリアで同様の主張を展開しています。

「マニピュレーション」というものは、事実にではなく、扇情的なイメージやメッセージに依拠するものです。マスコミは善玉・悪玉を単純化し誇張して伝えたがり、大衆は疑問をもたず自分で調べてみようともしません。マニピュレートする側はそうした両者の傾向にも依拠しようとします。今日、ソーシャルメディアの発達もあり、情報は瞬く間に広範に拡散するようになりました。それだけニセ情報にだまされる危険性は大きくなっています。
(要約おわり)

このホワイト・ヘルメットに「ノーベル平和賞」を与えてはいけないと、警戒・反対するキャンペーンがあることを知りました。佐藤栄作、キッシンジャー、オバマなどへの授賞を考えると、本当に有り得ないこととも言えず、洒落にならない話です。

ttps://www.change.org/p/nobel-prize-do-not-give-2016-nobel-peace-prize-to-syrian-white-helmets

「国境なき医師団への公開質問状」は、アレッポの反政府支配地域の被害(その病院の実在自体が疑わしいのですが)と政権支配地域の被害への「国境なき医師団」の対応・姿勢の落差を非難する内容でしたが、公開質問状の(9)の項目に、両者の被害状況とされる動画へのリンクがあり(いずれもyoutube)、これらを比較してみてほしいとありました。筆者は前者の「やらせ」と後者の真実性を示唆しているわけですが、そう言われるとそのような映像に見えてきます。映像の鮮明性、現場の緊迫感、人々の戸惑いや怒りや悲しみにも差があるように見えました。

このなかで⑥の動画は、視聴に年齢制限がかかっているものでしたが、腕を失った瀕死の重傷者を担架で運ぶシーンや、幼い子どもたちを含む犠牲者の遺体が次々と映ります。検死をした医師が幼い遺体にキスをしてシートで覆うシーンや、マイクを持った記者と思われる男性が遺体安置室で悲しみのあまり泣きじゃくるシーン、一人の男性が犠牲者の遺体を前にやり場のない感情に大声をあげて叫ぶシーンには、見ていて涙が止まりませんでした。この動画は、今のシリアの現状をまっすぐに伝えています。目をそむけずに見なければいけないと思いました。

(反政府支配地域の被害)
①ttps://www.youtube.com/watch?v=KqhymyjTCRw
②ttps://www.youtube.com/watch?v=kYZp8oiNauw
③ttps://www.youtube.com/watch?v=6R8WgsWDMDk

(政権支配地域の被害)
④ttps://www.youtube.com/watch?v=-vaGwrb1r40
⑤ttps://www.youtube.com/watch?v=Sc5UlQgn4MI&feature=youtu.be
⑥ttps://www.youtube.com/watch?v=6RXC3Yn45l8&feature=youtu.be
■(桜井さんのコメント終わり)
 5年ほど前に、私は『気楽に英文記事を読む習慣』と題するブログ記事の冒頭で
「前回の終りに掲げた英文記事の翻訳紹介を怠りましたら、桜井元さんが、前回のブログへのコメントの形で、その内容をまことに的確適切にまとめて紹介して下さいました。桜井さんはその中で「英和辞書を引きながら、わからない単語や表現は読み飛ばしつつ、なんとか大意はつかめたと思います」と申しておられますが、これは謙遜のお言葉でしょう。しかし、ここには私たちが英文記事を気楽に読むためのコツが述べられています。あとは慣れの問題です。とにかく、うるさがらず、好奇心を持って、ネット上に溢れる英文記事に目を通してみる習慣を身につけようではありませんか。すこし努力しながら続けているうちに、頭の中の英語の語彙は殆ど増大していないのに、いつの間にか、英文記事の内容が以前より随分と楽に読み取れるようになります。言葉というものに備わっている不思議さです。」
と書いています。私の勝手な、そして、おそらく失礼な想像ですが、桜井さんは、今は、5年前とは比べものにならないような気軽さで、あれこれインターネット上の情報源を読み漁りしておられるのでしょう。世界のマスメディアがほとんど完全にプロパガンダの道具と化してしまった今、我々一般大衆が世界で進行していることの真相を嗅ぎつけるためには、英文記事を忌避せずに読みこなすことが大変必要になっていると思います。
 衆愚という言葉があります。多くの愚かな人間たち、愚かな群衆、つまり、我々のことです。その一人である私は、時折、読者の方から叱られます。私が『マスコミはWMD(マス破壊兵器)と化した』の中で、MSF(国境なき医師団)は中立性を失って米国寄りになったと書いたのに対して、特命希望さんから「何を今さら」と叱られました。
MSFは朝鮮侮辱の前科があるのに (特命希望)
2016-05-08 12:40:20
何を今さら。
フォラツェンとかいう自称「北朝鮮」を知りすぎた医者とか言う輩が10年ほど前はびこっていたでしょう? ■
 だいぶん前のことですが、9.11 (世界貿易センタービル崩壊)を偽旗作戦とはっきり認めるのを渋っていた私は、平和運動家の池辺幸恵さんからお叱りを受けたことがありました。衆愚の間抜けさ加減に苛立ちを覚えている方々も少なくないかもしれませんが、我々の大部分は愚か者としての自覚が常に必要であり、マスメディアの圧倒的な喧伝攻撃を掻い潜って、真実を把握する努力をしなければなりません。
 上掲の桜井さんからのコメントの中に、ロビーイング団体「Avaaz」のことが出ています。私のメール箱にもAvaazからのメールが送られてきます。いつも正論、正義の味方の装いなので、この団体の署名運動に参加して献金なさる方々も多いことでしょう。まさに衆愚の行為です。最近の主題は「中国・玉林市の犬肉祭」でした。なぜ豚を食べるのは良くて、犬を食べるのは悪いのか? この問題は、時を改めて考えることにします。
 ウィキペディア(日本語)の「衆愚政治」の項には興味深いことが書いてあります。
■大衆論の見地によれば、大衆を構成する個々の人格の高潔さや知性にも関わらず総体としての大衆は群集性(衆愚性)を示現する可能性がある。衆議を尽くすことでしばしば最悪のタイミングで最悪の選択を合意することがあり、リーダーシップ論や意思決定における「合意」の難しさは重要な論点となる。近代民主主義制度においては意思形成(人民公会)と意思決定(執政権)を分離することでこの問題を回避しようとするが、独裁と民主的統制の均衡において十分に機能しないことがある。■
私が特に面白いと思うのは「大衆を構成する個々の人格の高潔さや知性にも関わらず総体としての大衆は群集性(衆愚性)を示現する」という所です。これについても、日を改めて検討してみます。

藤永茂 (2016年5月23日)
コメント (5)

一方的核軍備廃絶(Unilateral Nuclear Disarmament)

2016-05-17 21:08:15 | 日記・エッセイ・コラム
 外国語に限らず、一つの言葉が身につく、つまり、自分の言葉になる瞬間というものがあります。私が、その意味で、unilateralという英語をはっきりと理解した時のことをお話しします。
 核武装については、2010年4月21日から5月26日にかけて、『核抑止と核廃絶』と題するブログ記事(1)~(6)で論じましたが、その後も私の考えは変わっていません。5回目(5月19日付)の記事の一部を再録します。
**********
その頃のアメリカはソ連との冷戦とベトナム侵略戦争のドロ沼の中であえいでいましたが、丁度その擾乱の時代に、実に立派な若いアメリカ人夫妻と知り合いになりました。夫君の名前はダグラス・マクリーン、分子計算の分野では良く知られた量子化学者でした。夫婦でベトナム戦争反対の運動に身を挺し、奥さんはそのため拘束拘留されたこともあり、小学生の娘さんは小学校で、両親の“反愛国的行動”のために、イジメにも遭いました。スペインのバルセローナで量子化学の国際会議があった時、海沿いの道をダグラス君と二人で散歩中に、話題がたまたま核抑止と核廃絶に及びました。普段どちらかといえば口の重い彼が、突然、私にこう言ったのです。
「アメリカ人が勇気さえ出せば、核の廃絶は可能だ。アメリカが無条件で一方的に核軍備を廃棄してしまえばよい」
私はあっけにとられて
「そんなことをしたら、ソ連が核攻撃をかけて来てアメリカを占領してしまう」
というと、彼は
「いや、そんな事はしないだろう。出来ないだろう。ソ連がアメリカに勝つために水爆で一億の人間を殺すのなら、もし、人間というものがそんなことを実際に実行するものであるならば、そんな世界は生きるに値しない」
と答えました。私が聞いていたのは冷笑的なニヒリストの声ではなく、あくまで人間のサニティを信じて、奥さんと共に体を張ってベトナム戦反対運動に参加している男の力強い声であったのです。
 現実には絶対に起こりえないことですが、一つの空想が私の心を駆り立てます。ある日、突然、オバマ大統領が「核兵器のない世界を実現するために、アメリカ合州国は、一方的に(unilaterally)、無条件に(unconditionally)、あらゆる核兵器を廃棄する」と宣言するのです。ロシアはどう動くか。中国はどう動くか。イスラエルはどうするか。
 ダグラス・マクリーンにしたがって、人類の究極的な正気を私も信じます。オバマ大統領にそれだけの勇気があれば、世界の非核化の機運は一挙に進むでしょう。アメリカ国内ではオバマ大統領の精神病院への収容が真剣に討議され、要求されるかもしれませんが。
**********
「無条件で一方的に核軍備を廃棄する」というマクリーンの言葉はそのまま私の心の中に住み着いてしまいました。こうして unilateral という英単語が私の言葉の一つになったのです。
 私のこの思い出話を子供の夢物語みたいな核廃絶の提案として聞き流さないでください。我が友マクリーンの胸にあったものは「人類にとって核兵器とは何か」という問いに対して敢然と答える一つの思想であった筈です。
 オバマ大統領の広島訪問という、実に忌々しい政治的見世物を炯炯たる眼光で見据える日本の若者たちの中から、真に揺るぎない核廃絶の思想を確立する大思想家が出現してくれることを、私は願ってやみません。アドルノ、ベンヤミン、アレント、などなどを超える広さと深さを備えた敢然たる思想家でなければなりません。

藤永茂 (2016年5月17日)
コメント

マスコミはWMD(マス破壊兵器)と化した

2016-05-07 22:16:27 | 日記・エッセイ・コラム
 人生90年を閲して、今、しきりに思うことは、人間世界の強者たちが、集団として、弱者たちに対して示す余りもの残忍さです。彼らは、自己の利益と快楽を追求するためには、世界中の無辜の民を数限りなく殺戮するのに何らの躊躇もしません。強者とは、歴史的にヨーロッパという一語に象徴される人間集団であり、現世界で具体的には、米国を牛耳る権力者集団です。
 2016年4月30日付の『マスコミに載らない海外記事』にPaul Craig RobertsのFrom The Archive: MH-17(過去記事から、MH-17の話題)が訳出されています。そこには:
■ マレーシア旅客機MH-17がウクライナ領空で撃墜されてから、ほぼ三年だ。アメリカのジョン・ケリー国務長官は、即座に、アメリカはロシアが関与している完璧な証拠をもっていると発言した。ケリーは決して“証拠”を公表しなかったが、これはアメリカ国務長官が、またもや世界にウソをついたことを示している。
ブラック・ボックスは無傷で回収された。ところが、調査は、独立した国際機関、国際民間航空機関(ICAO)の手から奪われ、多数の犠牲者がオランダ人だったからという理由のアメリカ政府の主張で、オランダにまかされた。
本当の理由は、アメリカ政府にとって、オランダを支配するのが容易だからだ。三年たっても、結論報告はいまだに出ていない。その間に、アメリカ政府は、プロパガンダによって、ロシア分離主義者と、プーチンのせいにするのに成功した。 ■
とあります。
 この撃墜で殺された乗客・乗員の総数は298、そのうちオランダ国籍は192でした。この惨劇が米国による偽旗作戦であったという発言はネット上に多数ありますし、

http://www.dcsociety.org/2012/info2012/140808.pdf

Paul Craig Roberts がアーカイブという適語を使って我々の注意を喚起するように、3年も経てば、大抵のことは真偽がはっきりしてくるものです。もし米国が「ロシアが関与している完璧な証拠をもっている」ならば、今日までそれを発表しない理由が一体あり得るでしょうか?
 サダム・フセインのイラクがWMD(核兵器、化学兵器)を持っているという大嘘を理由にして、イラクという国を破壊し、サダム・フセインを殺してしまったことは、世界史に永久に書き込まれましたが、その歴史の中には、NYT(ニューヨーク・タイムズ)を始めとするマスメディアが一斉にこの侵略戦争を支持し、子供達だけでも百万のオーダーの虐殺が結果した事実も含まれています。
 リビアが今どうなっているかをご存知ですか? ほんの数年前(2011年)まで、国家としてアフリカ大陸で一番うまく行っていたリビアは、私の感覚では、言語道断の傲慢さと不潔さに溢れる幾つかの虚偽宣伝のもとに、文字どおり抹殺されました。この侵略戦争が始まって間もない頃、このブログで『リビアとハイチで何が見えるか』と題して6回連続で書きました。その(5)から、まず少し引用します:
■ カダフィが兵士たちにバイアグラを与えて反政府の女性たちの集団レイプを行なわせたというニュースを米国国連大使スーザン・ライスが国連で公式に取り上げたことをガーディアン紙が報じたのは4月29日でした。スーザン・ライスがあまりにも汚らわしく思えて、取り上げる気にもなりませんでしたが、6月8日になって国際刑事裁判所(ICC)の主席検事ルイス・モレノ‐オカンポが同じ罪状に加えてカダフィ自身もレイプを実行した疑いでカダフィを告訴したことを知って、もはや黙過できなくなりました。無法国家アメリカの暴虐もここに極まったと言わなければなりません。
 1990年の第1次湾岸戦争へ米国世論を駆り立てた事件として、米国下院の委員会で15歳のクエイト人女性がイラク軍兵士の野蛮行為の証言をしたことがありました。ボランティアの看護婦だった彼女は、サダム・フセインの兵士たちが産院に乱入して、保育器をひっくり返して赤ん坊たちを床に落として殺してしまうのを目撃したと証言したのです。ところが、後で、これは大変なヤラセであり、その女性は当時ワシントン在住のクエイト大使の娘でワシントンを離れたこともなかったことが明るみに出てしまいました。
 去る3月26日、リビアの首都トリポリの最高級ホテル「リクソス」のダイニング・ホールに一人の若いリビア人女性が飛び込んで来て、リビア政府の警備要員たちが二日間にわたって彼女を集団レイプしたとホテルの客たちに訴えました。このホテルには、リビア政府の指令で集団的に多数の外国人記者が宿泊していました。彼女の名はEman el?Obeida、3月28日のFT.com (Financial Times) には彼女の写真と詳しい話が出ています。また、心理学者Seham Sergewa博士なる人物が出てきて、レイプの犠牲者140人のインタビューを行なったと言い、これが最も具体的な証拠になっているのですが、アムネスティ・インタナショナルの女性要員が犠牲者に会わせてくれと言っても「もう何処にいるのか分からないから、無理だ」との返事しかしないようです。これら二人の女性たちもクエイト大使の娘さんのように誰かに頼まれての偽証言者である疑いが濃厚だと思われます。実は、カダフィのバイアグラ事件の方も、それが捏造されたものであることが、複数の国際人権団体によって、すでに示されているのです。■
 ご存知のように、スーザン・ライスは、今は、オバマ大統領の最高の側近の一人です。当時の米国国務長官ヒラリー・クリントンの発言について、私は次のように書きました:
■カダフィとカダフィのリビアは、その明瞭な実像を私が見据えることが出来る前に、the dustbin of history の中にその姿を消そうとしています。しかし、このリビアで、アメリカの臆面もない虚偽性が白日の下に晒されました。それを証する第一級の歴史的資料をお目にかけましょう。それは米国の対リビア、中東、北アフリカ政策を正当化することを目的とした国務長官ヒラリー・クリントンによる公式声明です。訳出は、稿を改めて次回に行ないます。

# 『Sexual Violence in Libya, the Middle East and North Africa』

Press Statement
Hillary Rodham Clinton
Secretary of State
Washington, DC
June 16, 2011

声明の訳文を以下に転載します:
■ 『リビア,中東、北アフリカにおける性的暴力』
 公式報道声明
 ヒラリー・ローダム・クリントン
 国務長官
ワシントン,DC
6月16日、2011年

米国はリビアでの大規模レイプの報道に深く憂慮している。3月26日、トリポリのホテルにエマン・アル・オベイディが駆け込み、カダフィの警備隊員にレイプされたことを勇敢に暴露して以来、他の勇気ある女性たちも彼女たちが経験した恐怖の残忍性について進んで証言してきた。最近、国際刑事裁判所は、リビアでのレイプは広汎かつ組織的に実施されているというショッキングな証拠を取り上げるに到った。この件について、罪を犯した者どもを逮捕して裁くために綿密な捜査が求められる。
 我々はまた中東と北アフリカの全域にわたって、民主的改革要求の声をあげる人々を脅迫し罰するために、政府が性暴力を用いているという報告を深く憂慮している。レイプ,暴力による脅迫、セクハラ、さらにはいわゆる“処女テスト”さえが、この地域全体の国々で生じている。これら言語道断の行為は基本的な人間の尊厳の侵害であり、地域全般にわたって勇敢に表明されている民主主義的願望と正面衝突するものである。                        
 カダフィの警護隊やその地域の他の集団は婦女子に対する暴力やレイプを戦争の道具として、人民を分裂させようと試みており、米国はそれを最強の言葉で抗議非難するものである。それは基本的人権を尊重し、暴力のない社会で生活することを希求するすべての人々に対する公然たる侮辱である。我々はすべての政府が直ちにこれらの犯罪行為申し立ての透明性ある捜査を実行して、有罪が判明した者に対して犯罪の償いを要求することを強く促すものである。■
このような傲慢不遜の虚言を臆面もなく全世界に向かって発する女性が米国次期大統領になる可能性が十分あります。恐ろしいことです。
 シリア侵略戦争の初期、9月23日付のこのブログの記事『8月21日にサリンを使ったのは』で、私は次のように書きました:
■ 8月21日、シリアの首都ダマスカスの郊外で、サリンを使って千人以上の一般市民を殺したのは、政府側か、反政府側か。日本を含めて世界の主要メディアは政府側を示唆する口ぶりですが、私は反政府側だと確信しています。■
この場合も例に漏れず、米国は「アサド政権が自国民を虐殺するのを許せない」としてシリアの制空権を奪取しようとしましたが、ロシア政府の介入で何とか制止されました。現在では、サリン・ガスを使ったのは反政府側(米国側)であったことが、ほぼ最終的に立証されています。
 現時点のシリアで、またもや同類の企みが進行中です。シリア北部の大都市アレッポで、MSF(国境なき医師団)が支援する病院が空爆を受け、2人の医師を含む十数人が死亡した事件です。まずMSFの公式報道と典型的な記者報道を読んでください。

http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000331.000004782.html

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20160429-00057182/

アレッポ市についてMSFの公式報道には次のように書いてあります:
「アレッポ市は常に紛争の最前線に置かれ、空爆が起きる以前から状況は最悪の様相を呈していた。推定25万人が今も市内に残り、最近数週間は激化する爆撃と戦闘にさらされている。」
個人記者の記事にも同じようになっています。一般の読者がこれを読めば、シリア最大の都市アレッポ(戦前人口約230万)の90%がどこかに行ってしまったと思うでしょうが、現在でも80%以上の市民が政府の管轄地域で居住しています。これだけからも、MSF(国境なき医師団)が、もはや、国境を超えた中立公平の医師団ではないことが強く臭ってきます。このアレッポの病院攻撃については、ネット上に多数の記事が出ていますので出来るだけ広く漁っていただきたく、その一つとして、Rick Sterlingというカナダ人が書いたMSF宛ての公開質問状を紹介します。

http://dissidentvoice.org/2016/05/about-bias-and-propaganda-on-syria/#more-62556

タイトルは
“About Bias and Propaganda on Syria Open Letter to MSF/Doctors without Borders”
です。それは
「MSF会長ジョアン・リュー様
あなたの団体は人々の尊敬を集め強い影響力を持っています。多数の良き人々がMSFのために働き、支援していることを私はよく存じています。しかしながら、シリアにおけるあなた方のお仕事の独立性とその影響について、お尋ねいたしたく存じます。客観的に見ると、あなた方は、ある地域では援助の手を差し伸べていますが、他の地域では害を及ぼしているように、私には思われます。」
という文章に始まって、13の事項について詳細な質問が述べられています。
リック・スターリングは明らかにシリア政府贔屓の考えを持った人ですから、それを十分意識して、この人の意見を読む必要がありますが、MSFという今では強大な国際的NGO団体の支援資金のソースが圧倒的に反アサド政権の立場を取っている事実は何人にも否定できませんし、この資金源の性格がMSFの中立公平性を損なうであろうことも、これまた、否定できません。
 今、シリア政府とロシア政府に対する熾烈な宣伝戦争の中核の一つになっているアレッポのMSF病院攻撃事件についての私の判断は、バイアグラ事件、サリン・ガス事件などと同じく、またしても米国側の仕組んだ偽旗作戦事件だということです。今度の場合は、宣伝戦の手口も仲々手が込んでいます。2015年10月3日、アフガニスタンのMSFのクンドゥーズ病院を米空軍が爆撃しました。誤爆だったのでしょうが、米空軍は素直に認めて謝罪することを渋り、空軍内での処罰もいい加減なものでした。ところが、アレッポのMSF病院攻撃事件が起こるや否や、米国政府は「クンドゥーズ病院の場合、我々は素直に罪を認めて謝罪した。ロシア政府とシリア政府は我々のように素直に己が罪を認めて謝罪すべきだ」と声高に叫び出したのです。西側のマスコミは声を揃えて合唱を始めていますから、これはロシアとシリアが犯した許すべからざる戦争犯罪だと、西側の一般大衆は思いこむでしょう。米国は、これを口実に、シリアの代理戦争テロ軍団に地対空ミサイルを含む大規模な武器増強補給を行おうとしています。
 シーモア・ハーシュ(Seymour Hersh, 1937~)という高名な調査報道ジャーナリストがいます。ベトナム戦争中、1969年、ソンミ村虐殺事件を報じて一躍有名になりました。1968年、カナダに移住したばかりだった私は、米国雑誌『ザ・ニューヨーカー』に掲載された記事を切り抜いて、今も書斎のどこかにその切り抜きを保存しているはずです。彼はこれまで数々の重要なスクープ記事を発表してきました。シリアのサリン・ガス事件についての記事もその一つです。

http://www.strategic-culture.org/news/2016/04/28/seymour-hersh-hillary-approved-sending-libya-sarin-syrian-rebels.html

その“偉大なる” シーモア・ハーシュもとうとう米国のマスメディアから締め出しを食らったようです。

http://www.counterpunch.org/2016/05/06/when-liberals-run-out-of-patience-the-impolite-exile-of-seymour-hersh/

藤永茂 (2016年5月7日)
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