私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

マスコミに載らない海外記事

2013-06-23 20:57:29 | 日記・エッセイ・コラム
 前回の私のブログ『狼野郎アメリカ』に対して、ブログ『マスコミに載らない海外記事』から極めて貴重なトラックバックを提供して頂きました。
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-043b.html
ここには、Paul Craig Robertsのブログの記事
http://www.paulcraigroberts.org/2013/06/17/washington-is-insane-paul-craig-roberts/
の和訳とその内容が日本にとって持つ意義に就いての必読のコメントが展開されています。このブログ『マスコミに載らない海外記事』には、日本人にとって重要な“マスコミに載らない”長文の海外論考が次々に訳出されていて、それだけでも、こうした翻訳仕事の大変さを自らも経験している私は、いつも頭の下がる思いで読ませて頂いています。加えて、日本の国内事情に就いて目配りの足らない私にとって、翻訳された記事のあとに付けられた論評は栄養たっぷりなfood for thoughtです。
 私の『狼野郎アメリカ』が舌足らずであるにくらべて、Paul Craig Roberts 氏の論説は精密にしてしかも截然、ぜひお読み下さい。氏は最新のブログ記事で、核兵器の削減を唱ったオバマ大統領の「ベルリン講演」の偽善性と虚偽性を、将に、完膚なきまでに暴き切っています。
http://www.paulcraigroberts.org/2013/06/21/stasi-in-the-white-house-paul-craig-roberts/
これは、私の目には、これまでで最も優れて鋭敏なオバマ論の一つに映ります。日本でアメリカ論の専門家と看做されている人々の多数が、好き嫌いは別として、Paul Craig Robertsのブログを読んでいると私は推測するのですが、彼らに是非このオバマ論の感想を聞いてみたいものです。オバマ評価といえば、最近、もう一人の有名人ラルフ・ネーダーも「Obama is the greatest conman who ever made it to the White House(オバマはホワイトハウスに乗り込みをはたした最も偉大な詐欺師だ)」と言ったそうです。
 私が『マスコミに載らない海外記事』にそれほど恩義を感じているのならば、私のブログにリンクを付けるべきだとお考えの向きも多いでしょう。そうしないのは私の生来の自閉症傾向のなせる業で申し訳ありません。「こちらにもどうぞ」のコラムには私のもう一つのブログ『トーマス・クーン解体新書』と電子版へのリンクが挙げてありますが、電子版は、ブログ『私の闇の奥』のreadershipを拡大することを目指して奇特な方が着手された事であって、商業的な関係はありません。
 『私の闇の奥』というタイトルを意味ありげなものとして受け取られる向きもあるかもしれませんが、タイトル欄に付記してあるように、このブログの当初の目的は、拙訳を果たしましたコンラッドの小説『闇の奥』について、訳文の改正を含めて、あれこれ書き続けることにありました。今でも初心に戻りたい気持が消えてしまったわけではありません。
 リンクと言えば、毎水曜(日本時間では木曜になってから)私が待ちかねるようにして見ているサイトがあります。それは、Glen Ford という人が主宰する Black Agenda Report です。
http://www.blackagendareport.com
これはかなり激烈なサイトです。まず、バラク・オバマを最も早く(大統領に当選する前)から明確に厳しく批判し続けています。米国のアフリカ政策、特にコンゴ/ルワンダ政策、ハイチ政策、キューバ/べネズエラ(中南米)政策に対する一貫した攻撃批判にも、この数年間、些かのブレもありません。グレン・フォード氏のリビアやシリアの問題に対する見解も全く私のそれに重なります。いや、この言い方は私の思い上がりで、本当の意味でマーチン・ルーサー・キングやマルコム・Xの思想と志を継承するこの黒人思想家から、私は物の考え方を教えてもらっているというべきでしょう。ただ、時おり、彼の舌鋒のあまりの鋭さに驚き、Black Agenda Report の活動が口を封じられる日が来るのではないかと心配になります。口封じと言えば、私が日頃から尊敬し、ひそかに教示を受けていた一つのサイトにアクセス出来なくなりました。それは
http://sgwse.dou-jin.com
というサイトです。このサイトの主人公の舌鋒の鋭さもグレン・フォード氏のそれに勝るとも劣らず、時おり、ついて行くのに苦労することもありましたが、この人物がフォード氏と同様の見事な integrity を持った御仁であることは否定の余地がないと、私には思われます。もっとも、私がアクセス出来ないのは、単に、インターネットのアクセス事情に疎い私の側の落ち度かも知れませんが、もし、そうであれば、アクセスの方法をどなたからか教えて頂きたいと願っています。

藤永 茂 (2013年6月23日)



狼野郎アメリカ

2013-06-19 22:11:51 | 日記・エッセイ・コラム
 イソップの狼少年の話なら誰でも知っています。ブッシュやオバマは少年ではないので狼男にしようかと思ったのですが、狼男はホラー映画で知られた怪物、ヘンな月夜になるとヘンな顔毛が生え出し、牙が伸びてくる男なので「狼が来た!!」と叫んで人を騙す役には嵌りません。もっともブッシュやオバマの狼男への変身ぶりを想像するのも一興ですが。で、やむなく狼野郎ということにしました。
 「イラクのフセインは大量破壊兵器を持っている!!」、「リビアのカダフィは国軍の男性兵士にバイアグラを配って自国の女達をレイプさせている!!」、そして今度は「シリアのアサドはサリン毒ガスで反アサドの自国民を殺した!!」驚くべきことに、この国際的“狼が来た!!”は何と2度目まで見事に成功したのです。国連でのカダフィ非難決議に、おそらく安易な外交計算から賛成したロシアも中国も、その直後から開始された出撃回数1万回におよぶNATO空軍によるリビア諸都市の戦略猛爆には予想が及ばなかったのだと思います。しかし、この3度目は違います。マスメディアの語り口をそのまま鵜呑みしている人々(困ったことに、あるいは、都合のよいことに、米国人や日本人の多くが含まれるかも知れませんが)を除けば、3回目の“狼が来た”に騙される者は居ない筈です。あまりにも見え透いた虚言ですから。シリアでのサリン毒ガス使用については今年の5月8日付けのブログ『巨悪アメリカ』で取り上げましたが、今回のアメリカの行動は十分予期されていたものです。ですから、問題は話にもならない言いがかりを傲然と世界に押し付けてくるアメリカというテロ国家の傲慢にあり、またその傲慢に諾々として追随するマスメディアの人たちにあります。

藤永 茂 (2013年6月19日)



黒人と女性が米国を滅ぼす

2013-06-12 20:54:32 | 日記・エッセイ・コラム
 奇矯なタイトルですが、奇を衒ったのではなく、本気で考えていることです。私は、以前、歴史的に破天荒な事件として出現した黒人大統領バラク・オバマに対する余りもの失望から、「バラク・オバマは、アフリカ大陸の暗黒の怨念が米国を破滅の淵に引き込むためにアメリカに送り込んできた使者」という意味のことをこのブログで口走ったことがありました。黒人を米国大統領に祭り上げてそれを操るというアイディアを支配権力が思いついたのは何時であったかは特定困難ですが、このアイディアがこれほど大当たりするとは想定していなかったでしょう。大統領が黒人であるというだけで、米国人の批判的精神、政治的批判勢力は物の見事に切り崩され、萎縮してしまいました。それはアフリカ系アメリカ人の場合に就いて最も明らかに痛々しく確認されます。同じく誠に痛々しいのは白人の進歩的知識層の瓦解です。憲法を含む国内法の蹂躙に加えて、オバマ政権の国際法無視違反のレベルは将に瞠目すべきレベルに達していますが、追従の声ばかりが空しく響き渡り、抗議の声は息も絶え絶えの有様です。バラク・オバマの稀代のコン・マンとしての性格的適性と知的能力の卓越さが、この恐るべき国内国外テロ行為の成功に拍車をかけています。
 しかし、この“成功”がアメリカ帝国の終焉を加速することに大きく貢献していると私は考えます。そう考えなければ人類に絶望する以外にないという気持もありますが、決してそれは単なる一片のwishful thinking ではないつもりです。悪の巨大帝国アメリカを滅びの道に誘うために、暗黒アフリカ大陸の積年の呪いがさし向けた使者がバラク・オバマだ、という私の語り口は必ずしも荒唐無稽のジョークではないのです。
 ほんの一週間前、スーザン・ライス、サマンサ・パワーという二人の女性がオバマ政権の重要な地位を占めることになりました。まずは次の記事を読んで下さい。:
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(ワシントン時事)オバマ米大統領は5日、ホワイトハウスで記者会見し、トーマス・ドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)(58)の後任にスーザン・ライス国連大使(48)を充てる人事を正式に発表した。ライス氏はドニロン氏が退任する7月上旬に就任する。新たな国連大使には、ハーバード大教授のサマンサ・パワー氏(42)を指名した。? 大統領はライス氏について「情熱的であると同時に実務的だ。非の打ちどころのない公僕であり、大胆で不屈だ」と強調。さらに、国連大使としてイランや北朝鮮に対する安全保障理事会の制裁決議採択に尽力したなどと紹介し、「ライス氏は米外交の最良の伝統を体現している」と称賛した。? ライス氏は「経験豊かな与野党の指導者と親しく働ける日を心待ちにしている」と抱負を語った。(2013/06/06-06:01)
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これは今後のオバマ政権の世界テロ作戦の行方を占う点で、極めて重大な人事ニュースですが、ここでその分析検討は行ないません。その代わりに、この女性登用人事が象徴するもっと大きな枠組を考えてみましょう。それは、「黒人政治家の重用」が一般アメリカ人の人心操作に極めて有効であったと同じく、「女性政治家の重用」によっても、一種の批判精神の口封じを可能にし、自動的に一定の政策支持人口を確保できるという狙いの存在のことです。
 私は、私なりに、いわゆるフェミニズムの問題に持続的な強い関心を持ち続けています。これは、昭和の全時代と平成の25年間を生きてきた一日本人男性として、ほとんど必然的なことでありましょう。私たちには大いに反省すべき問題が山ほどあります。このブログ『私の闇の奥』でも、これまで多数の個所でこの問題に触れてきました。中でも「現代アメリカの五人の悪女(1)~(3)」(2011年7月13日~27日)ではシリーズ初回(1)を次のように始めました。:
■ ここでの悪女は“bad girls”ではなく“evil women”です。“bad girls”と言う言葉が含みうる愛嬌など微塵もありません。多くの無辜の人々を死出の旅に送っている魔女たちです。マドレーヌ・オールブライト,サマンサ・パワー、ヒラリー・クリントン,コンドリーザ・ライス,スーザン・ライスの五人、はじめの三人は白人、あとの二人は黒人です。サマンサ・パワーについては,『サマンサ・パワーとルワンダ・ジェノサイド』で、オールブライトについては『マドレーヌ・オールブライトの言葉』で、以前取り上げた事があります。二人のライス嬢についてもあちこちで言及しました。■
米国の次期大統領として、ヒラリー・クリントンの名が広く囁かれていますし、他の女性大統領候補の名も語られています。黒人にとっては、オバマが黒人だからということが票を投ずるオートマティックな動機と理由になったように、次の選挙では候補者が女性であるという事実が女性票と“進歩的”男性票の帰趨を大きく左右することでしょう。支配権力としては、そうした投票判断の甘さに乗じて、権力側の眼鏡にかなう女性を大統領の地位に据えることが出来ることになります。今回のスーザン・ライスとサマンサ・パワーのように支配権力機構にしっかりと組み入れられた女性たちは、現時点では、支配権力が求める方向に巨大テロ国家アメリカを有効に動かして行くでしょうが、これは最終的な破滅の淵への歩調を確実に早めることになると私は考えます。

藤永 茂 (2013年6月12日)



ホーキングの代打はクリントン

2013-06-06 19:50:16 | 日記・エッセイ・コラム
 前々回のブログ『スティーブン・ホーキングとイスラエル』で引用した毎日新聞の記事を再録します。:
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 【ロンドン小倉孝保】「車いすの天才理論物理学者」として知られる英国のスティーブン・ホーキング博士(71)が、イスラエルのパレスチナ人への対応に抗議し、エルサレムで6月に開かれる国際会議への出席を拒否することを決めた。アイルランドの学者らが呼びかける学術分野でのイスラエル・ボイコットに賛同した形だ。
 英ガーディアン紙によると、6月18日から3日間、学者や芸術家などが参加してシンポジウムなどが行われる。博士はイスラエルのペレス大統領から招待を受け、いったんは出席を伝えたが、先週、大統領に手紙を書き、出席取りやめを伝えたという。
 手紙の内容は明らかになっていないが、同紙によると、「パレスチナの状況を考え、(イスラエル)ボイコットを尊重し決定した」という。知人のパレスチナ人学者からアドバイスされたとみられている。
 アイルランドの大学教員などが4月、学術分野でのイスラエルとの交流拒否(ボイコット)を決め、他の欧州の大学教員などにボイコットを呼びかけている。ホーキング博士は過去に4回、イスラエルを訪問している。
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 まず、誤りの訂正。6月18日から3日間、ペレス大統領の生誕90歳を祝う集会を、“学者や芸術家などが参加してシンポジウムなど”と記述するのは誤りです。この“大統領主宰会議(Presidential Conference)”は学問や芸術のための集会ではありません。著名な学者や芸術家やエンターテイナーも出席しますが、本質的には広義の政治的会議です。ガーディアン紙も出席者としてトニー・ブレア、ビル・クリントン、ミハイル・ゴーバチョフ、ヘンリー・キッシンジャー、モナコのアルバート王子、芸能人バーバラ・ストライザンドなどを出席予定者として挙げています。
 6月3日、中国の新華通訊社は、大統領主宰会議(Presidential Conference)の基調講演者として前米国大統領ビル・クリントンが選ばれ、45分間の講演謝礼として50万米ドル(約五千万円)が既に支払われたと報じました。これは2日後にはイスラエルの内外で確認された事実です。信じられないような金額ですが、ビル・クリントンにとっては、驚くほどの額ではないようです。彼の2011年度の講演収入が公表されています。2012年には奥さんのヒラリー・クリントンがオバマ政権の国務長官を務めていたので、夫の収入も公表しなければならなかったのでしょう。2011年には、54回講演して総額US$13.4million(約13億)を稼ぎ、講演一回の最高額は、スウェーデンの通信機器メーカー、エリクソン(携帯電話地上固定設備の世界最大メーカー)に招かれて香港で懐にしたUS$750,000でした。
 今回のイスラエルでの講演謝礼五千万円は誰が払ったのか? 発表によると、Jewish National Fund (JNF, ユダヤ国民基金、あるいはユダヤ民族基金)という半官半民の組織体が五千万円を、クリントン個人への講演謝礼ではなく、彼が主宰する大慈善事業団体William J. Clinton Foundation への寄付として支払ったのだそうです。クリントン個人は今回の第五回大統領主宰会議(Presidential Conference)で、ペレス大統領から直々に名誉勲章を貰うことになっています。
 JNFについては日本でもネット上で十分の情報が(JNF自体のPRを含めて)得られますのでご覧下さい。JNFの中にKKL(イスラエル緑化基金)というものがあって、盛んに植樹活動を行っています。土地柄もあって、KKL-JNFが植えたオリーブの木は数千万本にも及ぶでしょうが、一方では、パレスチナ人たちが先祖代々大切にしてきた無数のオリーブ畑がJNFによって無惨に蹂躙接収されてきたことを忘れてはなりません。
 William J. Clinton Foundationについては、この財団がハイチで、そして、ルワンダで、何をしたか、何をしているかを知る私としては、言うべき言葉が見つかりません。この世にモンスターというものが存在するとすれば、William J. Clintonがその一人(一匹?一頭?)であることは間違いのない所です。
 JNFは世界各地に支部を置いて活動していますが、活動の重要な項目は一般からの募金です。クリントンに五千万円を与えるというJNF本部の今回の行為に対して、JNF-USAは反対を表明しています。五千万円あれば、イスラエルの荒れ地に沢山のオリーブを植えることが出来るというわけです。イスラエル国内のメディアにも批判の声がちらほら上がっています。90歳のペレス大統領ご当人も、5千人と見積もられている会議参加者から一人800ドル(8万円)の参加費を徴収すると聞いて、「会議の目的が寄付金集めなら、俺は欠席する」と言ったとか、言わなかったとか。
 私がカナダに移住してから4年目の1972年に『キャバレー』というミュジカル映画が評判になりました。その中でライザ・ミネリとジョエル・グレイが舞台で“Money”という歌を歌うシーンとその歌声が、いまだに頭にこびり付いていて離れません。ジョエル・グレイもなかなかの見ものです。「Money, Money, Money, Money,・・・・」 クリントンがせしめる法外な講演謝礼は、世界中に行き渡る愚劣極まるセレブ崇拝トレンドの産物ではありましょうが、金を動かしている人間たちは計算に合うことしか絶対にしませんから、この高額の謝礼でも確実に元は取れるのでしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=rkRIbUT6u7Q
 私の思いはスティーブン・ホーキングに戻って行きます。彼がスター・スピーカーとして招待に応じたとすると、一体どのような報酬が約束されていたのでしょうか。主宰者側が車椅子に乗って晴れの舞台に登場するホーキングに振り当てていた本当の役柄を想像すると沸々と怒りが込み上げてきます。物理学者とは、本来、物の道理に従うように考え、道理に従って行動すべき人間の筈です。ホーキングが「Money, Money, Money, Money,・・・・」の大合唱に加わらなかったことは、物理学者の末席をけがす私にも、大きな励ましと勇気を与えてくれました。

藤永 茂 (2013年6月6日)