7月の末にロバート・フィスクが「シリア紛争の最終戦」と呼んだ戦闘が今や始まろうとしています。シリア北西部、トルコ国境に接するイドリブでの戦いです。イドリブ県は今やシリア反政府勢力の「最後の砦」ともいうべき地域になっています。
https://zcomm.org/znetarticle/are-we-about-to-see-the-final-battle-of-syria/
イドリブの北に位置するアフリンをトルコに占領されたロジャバのクルド人軍事勢力YPG/YPJ(クルド人民防衛隊)は、今もアフリン奪還のゲリラ戦を展開していますが、彼等(彼女等)がシリア政府軍のイドリブ攻撃に参加しようとしているという報道がしきりに行われています:
https://southfront.org/1300-kurdish-fighters-will-participate-in-upcoming-attack-of-syrian-army-in-aleppo-report/
https://syria360.wordpress.com/2018/08/14/alliance-between-syria-and-ypg-deepens-ahead-of-idlib-offensive-provoking-an-unpredictable-turkey/
上の記事に見られるように、シリア北西部を実質的に侵略支配しているトルコの対米、対ロシア関係の複雑さを思うと、イドリブでシリア政府軍が勝利することでシリアをめぐる争乱が円滑に終息に向かうとは到底思えません。最大の問題は米国です。米国は戦争を続けていたいのです。IS(イスラム國)が固有の国土の確立を求める過激宗教思想集団などではなく、実質的に米国が操る傭兵軍団であることは、現在、米国がSDF(シリア民主軍)を傭兵地上軍として占領した地域の中でISの支配地区(ポケット)が米国によって温存され、支持され続けていることで、否定の余地なく明示されています:
https://www.globalresearch.ca/un-report-finds-isis-given-breathing-space-in-us-occupied-areas-of-syria/5650819
現在、米国が米軍とSDFの軍事勢力によって占領支配している面積はシリア国土の約四分の一(約三分の一という見積もりもあります)に及び、米国の今後のシリア政策の選択肢の一つとして、その地区を事実上独立させて米国の支配下にとどめて地域内の米軍基地を今のまま保持し続け、シリアの分解を試みることが考えられます。これにはイラク戦争終息後のイラク・クルド人自治区とその自治政府の先例があります。しかし、もし米国がこの選択肢を選ぶとなれば、これに対して、ロジャバの革命勢力は強い反対行動に出るだろうと私は考えます。
1984年8月15日、クルド労働者党(PKK)はトルコ政府軍に対して武力抗争に蜂起しました。それから34年目の記念日を機会に、PKK幹部の発言が目立ちます:
https://anfenglish.com/features/karasu-august-15-changed-the-destiny-of-middle-eastern-peoples-28975
https://anfenglish.com/features/pkk-s-kalkan-tells-how-15-august-1984-actions-were-planned-28973
https://anfenglish.com/features/kck-s-altun-turkey-us-crisis-is-very-serious-29085
PKKが武装蜂起に踏み切ったのは、クルド人に対するトルコ政府の極端な暴力的同化政策に反抗してのことでしたが、今日までに、クルド人側の損害は死者数4万人に及んでいます。しかし、34年のPKKの武力闘争の故にこそ、「クルド問題」は単にローカルな中東問題としてではなく、世界的な問題となったのであり、その闘争の成果は、トルコの政変という形で近い将来に挙げられるとして、PKKの士気は高く、刮目すべきものがあります。しかし、ここで忘れてならないポイントは、トルコのエルドアン大統領が権力を失っても、トルコ東南部のクルド人たちは、現在のイラク北部のクルディスタン自治政府が試みたように、トルコ東南部にクルド人の独立国家を樹立しようとはしないであろうということです。現在のPKK(クルド労働者党)は、オジャラン/ブクチンの革命思想を奉じて、原則的に国民国家のイデオロギーを否定しますが、現実の世界情勢に鑑みて、まずは、現在のトルコの国土の枠内で、一定の自治権を保有する共同社会連合体の樹立を目指すことになるでしょう。つまり、シリア北部、北東部で今ロジャバ革命勢力が達成しようと努力していることと同じです。少し、クルド人人口の復習をしておきます:クルディスタン(クルド人の地)と一般に呼ばれている土地はトルコ東部、イラク北部、イラン西部、シリア北部にまたがり、クルド人の総人口は2500万を越えるとされています。トルコ(総人口約8000万)には約1500万、シリア(総人口約1800万)には約150万のクルド人がいます。
7月26日に、アサド政権側とMSD(シリア民主評議会)の正式会合がシリアの首都ダマスカスで行われたことは、先日の記事『ロジャバ革命は死んでいない(2)』で報告しました。その第2回目がダマスカスで行われたという報道が8月15日に現れました:
http://syrianobserver.com/EN/News/34634/Syrian_Democratic_Council_Holds_New_Talks_with_Assad_Regime
シリア民主評議会(MSD、英語綴りではSDC)の代表は、今回は、Ryad Derar (Riad Dararとも綴る) です。このニュースのソースは The Syrian Observerという反政府系の報道機関です。短いので英訳全文を掲げておきます:
**********
The joint head of the Syrian Democratic Council (SDC), Riad Darar, said that the council had held a second meeting in Damascus with officials from the Assad regime, saying that they focused on the concept of “local administration, the possibility of their participation, and the future outlook for the concept of decentralization.”
On Tuesday, Darar told the pro-regime Al-Watan newspaper that delegations from the SDC, which is the political wing of the Syrian Democratic Forces (SDF) militia, of which the Kurdish People’s Protection Units (YPG) are the biggest part, said that “all discussions which are now underway are to learn the other’s view on the issues that can be implemented.”
Darar said that the Assad regime in his opinion started with the subject of local administrative elections “by virtue of the fact that there is a trend toward decentralization and how it can be implemented, and this requires understandings about how this can be implemented in these areas.”
In an indication that there are many issues around which the SDC and the regime had not reached agreement, Darar said: “There are discussions which will require a great deal of attention before decisions are to be taken, and therefore they were left for other meetings.”
The discussions between the SDC and regime have raised questions about American policy in Syria, especially given that Washington is one of the SDF’s biggest backers, as well as the fact that American forces are deployed in SDF-controlled areas.
The Assad regime had previously raised the prospect of using force against the SDF and has called the American forces which support them “occupying forces,” and demanded that they leave Syria.
The SDF controls about 28 percent of the country’s territory, making them the second strongest power on the ground after the Assad regime and Iran-backed militias.
**********
ここに報道されていることが真実でしたら、シリアの近未来に希望が持てます。
藤永茂(2018年8月19日)
https://zcomm.org/znetarticle/are-we-about-to-see-the-final-battle-of-syria/
イドリブの北に位置するアフリンをトルコに占領されたロジャバのクルド人軍事勢力YPG/YPJ(クルド人民防衛隊)は、今もアフリン奪還のゲリラ戦を展開していますが、彼等(彼女等)がシリア政府軍のイドリブ攻撃に参加しようとしているという報道がしきりに行われています:
https://southfront.org/1300-kurdish-fighters-will-participate-in-upcoming-attack-of-syrian-army-in-aleppo-report/
https://syria360.wordpress.com/2018/08/14/alliance-between-syria-and-ypg-deepens-ahead-of-idlib-offensive-provoking-an-unpredictable-turkey/
上の記事に見られるように、シリア北西部を実質的に侵略支配しているトルコの対米、対ロシア関係の複雑さを思うと、イドリブでシリア政府軍が勝利することでシリアをめぐる争乱が円滑に終息に向かうとは到底思えません。最大の問題は米国です。米国は戦争を続けていたいのです。IS(イスラム國)が固有の国土の確立を求める過激宗教思想集団などではなく、実質的に米国が操る傭兵軍団であることは、現在、米国がSDF(シリア民主軍)を傭兵地上軍として占領した地域の中でISの支配地区(ポケット)が米国によって温存され、支持され続けていることで、否定の余地なく明示されています:
https://www.globalresearch.ca/un-report-finds-isis-given-breathing-space-in-us-occupied-areas-of-syria/5650819
現在、米国が米軍とSDFの軍事勢力によって占領支配している面積はシリア国土の約四分の一(約三分の一という見積もりもあります)に及び、米国の今後のシリア政策の選択肢の一つとして、その地区を事実上独立させて米国の支配下にとどめて地域内の米軍基地を今のまま保持し続け、シリアの分解を試みることが考えられます。これにはイラク戦争終息後のイラク・クルド人自治区とその自治政府の先例があります。しかし、もし米国がこの選択肢を選ぶとなれば、これに対して、ロジャバの革命勢力は強い反対行動に出るだろうと私は考えます。
1984年8月15日、クルド労働者党(PKK)はトルコ政府軍に対して武力抗争に蜂起しました。それから34年目の記念日を機会に、PKK幹部の発言が目立ちます:
https://anfenglish.com/features/karasu-august-15-changed-the-destiny-of-middle-eastern-peoples-28975
https://anfenglish.com/features/pkk-s-kalkan-tells-how-15-august-1984-actions-were-planned-28973
https://anfenglish.com/features/kck-s-altun-turkey-us-crisis-is-very-serious-29085
PKKが武装蜂起に踏み切ったのは、クルド人に対するトルコ政府の極端な暴力的同化政策に反抗してのことでしたが、今日までに、クルド人側の損害は死者数4万人に及んでいます。しかし、34年のPKKの武力闘争の故にこそ、「クルド問題」は単にローカルな中東問題としてではなく、世界的な問題となったのであり、その闘争の成果は、トルコの政変という形で近い将来に挙げられるとして、PKKの士気は高く、刮目すべきものがあります。しかし、ここで忘れてならないポイントは、トルコのエルドアン大統領が権力を失っても、トルコ東南部のクルド人たちは、現在のイラク北部のクルディスタン自治政府が試みたように、トルコ東南部にクルド人の独立国家を樹立しようとはしないであろうということです。現在のPKK(クルド労働者党)は、オジャラン/ブクチンの革命思想を奉じて、原則的に国民国家のイデオロギーを否定しますが、現実の世界情勢に鑑みて、まずは、現在のトルコの国土の枠内で、一定の自治権を保有する共同社会連合体の樹立を目指すことになるでしょう。つまり、シリア北部、北東部で今ロジャバ革命勢力が達成しようと努力していることと同じです。少し、クルド人人口の復習をしておきます:クルディスタン(クルド人の地)と一般に呼ばれている土地はトルコ東部、イラク北部、イラン西部、シリア北部にまたがり、クルド人の総人口は2500万を越えるとされています。トルコ(総人口約8000万)には約1500万、シリア(総人口約1800万)には約150万のクルド人がいます。
7月26日に、アサド政権側とMSD(シリア民主評議会)の正式会合がシリアの首都ダマスカスで行われたことは、先日の記事『ロジャバ革命は死んでいない(2)』で報告しました。その第2回目がダマスカスで行われたという報道が8月15日に現れました:
http://syrianobserver.com/EN/News/34634/Syrian_Democratic_Council_Holds_New_Talks_with_Assad_Regime
シリア民主評議会(MSD、英語綴りではSDC)の代表は、今回は、Ryad Derar (Riad Dararとも綴る) です。このニュースのソースは The Syrian Observerという反政府系の報道機関です。短いので英訳全文を掲げておきます:
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The joint head of the Syrian Democratic Council (SDC), Riad Darar, said that the council had held a second meeting in Damascus with officials from the Assad regime, saying that they focused on the concept of “local administration, the possibility of their participation, and the future outlook for the concept of decentralization.”
On Tuesday, Darar told the pro-regime Al-Watan newspaper that delegations from the SDC, which is the political wing of the Syrian Democratic Forces (SDF) militia, of which the Kurdish People’s Protection Units (YPG) are the biggest part, said that “all discussions which are now underway are to learn the other’s view on the issues that can be implemented.”
Darar said that the Assad regime in his opinion started with the subject of local administrative elections “by virtue of the fact that there is a trend toward decentralization and how it can be implemented, and this requires understandings about how this can be implemented in these areas.”
In an indication that there are many issues around which the SDC and the regime had not reached agreement, Darar said: “There are discussions which will require a great deal of attention before decisions are to be taken, and therefore they were left for other meetings.”
The discussions between the SDC and regime have raised questions about American policy in Syria, especially given that Washington is one of the SDF’s biggest backers, as well as the fact that American forces are deployed in SDF-controlled areas.
The Assad regime had previously raised the prospect of using force against the SDF and has called the American forces which support them “occupying forces,” and demanded that they leave Syria.
The SDF controls about 28 percent of the country’s territory, making them the second strongest power on the ground after the Assad regime and Iran-backed militias.
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ここに報道されていることが真実でしたら、シリアの近未来に希望が持てます。
藤永茂(2018年8月19日)