私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

彭湃と湧き上がるアフリカの声

2023-09-27 18:33:57 | 日記・エッセイ・コラム

 故意に消されたと思われる記事に替わるかのように、また、Libya360wordpress.com というウェブサイトに良い記事が出ました。ぜひご覧ください:

https://libya360.wordpress.com/2023/09/26/african-leaders-demand-united-nations-reforms-and-reparations/

この記事の見出しは『アフリカの指導者達は国連の改革と賠償を要求』となっていて、ガーナ大統領Nana Akufo-Addo の発言が紹介されています。その冒頭のところを訳出します。

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アメリカとヨーロッパは奴隷貿易の「汗と涙と血と恐怖」の上に築かれた、とガーナ大統領が国連で語る。 

奴隷貿易の惨禍をアフリカに償うには、いくら金を積んでも足りない。しかし、犯罪を認めるものとして、西側諸国は賠償金を支払わなければならない、とガーナのナナ・アクフォ=アド大統領は国連総会で述べた。

「世界は、アフリカ大陸が現在経験している経済的・社会的問題が、世界の構造を形成してきた歴史的不公正と無関係であるかのように装うべきではない」とアクフォ=アドは水曜日、ニューヨークで世界の指導者たちを前にして語った。

「ヨーロッパとアメリカの大部分は、大西洋横断奴隷貿易(16世紀から19世紀の間)と何世紀にもわたる植民地搾取による汗と涙と血と恐怖から収穫された莫大な富によって築かれた」と彼は述べた。

アフリカ諸国は、長い間、「天然資源を略奪され、国民を商品として取引されてきた」のだから、豊かな社会を築くのに苦労しているのに何の不思議もない」と大統領は付言した。(以下、翻訳省略)

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私が、是非、視聴して頂きたいと思うのは、この記事に続いて掲載されている五つのYouTube 動画です。前に消去された四つの動画に替わるものであるような気がしてなりません。最初のもの(ブルキナ・ファソ)は前回のこのブログで紹介した講演と同じですが、今回のものの方がより完全な英語音声がついています。もう一度聞き入ってみて下さい。

 アフリカの目下の状況は、依然として、深い苦難の中にあると言わなければなりません。ルワンダとコンゴのことを考えるだけでも、前途、いまだ多難であることは明白です。しかし、これらの動画から立ち上がってくるアフリカの声は一つです。過去と現在を明確に見据え、将来のあるべきアフリカを創造する決意に満ちた宣言です。私はこのアフリカの声を聞くことが出来たことを大変幸せであったと思っています。

藤永茂(2023年9月27日)


各国首脳の国連演説を視聴しよう

2023-09-25 19:49:08 | 日記・エッセイ・コラム

この数日、第七十八回国連総会で各国首脳の演説が行われていました。いろいろな意味でなかなか面白いので、その一部を紹介しようと思って、4日ほど前に取っておいた、Brazil, Bolivia, Colombia, Cuba の4国の代表の講演動画を集めたLibya360wordpress.com という私のご贔屓のサイトに出ていた記事のアドレスをクリックしてみたら、無くなっていました。探してみましたが見つかりません。消えてしまいました。何者かの仕業と思われます。

 しかし、個別に探せば出て来ます。例えば、Brazil, President Address, UN として探すとブラジルのルーラ大統領の演説を視聴することが出来ます。四つの講演はそれぞれに大変聞きがいのある内容です。キューバの大統領は静かな語調でこれまで六十数年続いて来た米国による経済制裁がいかに理不尽なものであるかを、切々と、世界の人々に訴えます。まさに傾聴に値します。  Honduras の女性大統領シオラマ・カストロの講演も聞いてください。彼女は2009年のクーデターで大統領の座を追われたマニュエル・セラヤの妻です。この夫婦については2021年12月6日付の記事『ホンジュラス』:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/8c4f0091d7f4be9cd7ad452140647698

で論じましたのでご覧になってください。その中で引用したブログ記事:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/8c4f0091d7f4be9cd7ad452140647698

の中で私は次のように書きました:

「オバマ大統領の世界非核化宣言も、「広島、長崎を訪れることを名誉に思うだって、なかなか良いこと言うじゃない!」と日本人をうならせる始めのステージにあります。しかし、ヒロシマ・ナガサキといえば、パールハーバーと返してくるアメリカの心から、非核、反核の一体なにが期待できるでしょうか。私は、広島、長崎の人々、日本人全体が、この史上稀に見る大コン・マンに信頼(コンフィデンス)を置いて、後になってから、「ああ、やられた」と後悔することがないように、祈ってやみません。」

 数ある国連総会演説の中で、私が皆さんに特に視聴して貰いたい講演があります。ブルキナ・ファソの国務大臣マツルバ・バシの35分にわたる激烈な発言です:

https://www.youtube.com/watch?v=oBcp0dSjLDI

フランス語ですが、明瞭な英語に翻訳されています。画面の半分には、赤いベレー帽のイブラハム・トラオレの像が掲げられています。講演の内容はトラオレによるものありましょう。ここに、今、アフリカ大陸に(特にアフリカの過去と現在の状況をはっきりと見据えた若者たちの間に)漲る、アフリカ大陸独立の雄叫びを聞くことが出来ます。

スピーチは、米欧がニジェールを第二のリビアにしようとしたという発言で始まります。ムアンマル・カダフィは何をしようとした男だったのか?この歴史的問題は今からますます大きくなって行くに違いありません。これと共に、バラク・オバマとその政権の国務長官を務めたヒラリー・クリントンの名は汚辱の中に埋没して行くことでしょう。

藤永茂(2023年9月25日)


リビア洪水死者2万は人災である

2023-09-16 14:45:58 | 日記・エッセイ・コラム

リビアの洪水で2万人を超える死者が出ています。これは人災です。事の始まりは、メディケーンと呼ばれる、我が国の台風の様な暴風雨現象の発生で、地中海で起こるハリケーンというのでこの名前で呼ばれているのだそうです。我々が普通に考える異常気象予報、防災避難アラームが該当地域に行き渡る様に発せられていれば、この様な大量の死者を出す筈はなかったのです。しかし、リビア東部にはその当然のことを行う行政機構が存在しません。何故か? アフリカ大陸で一番立派にやっていたリビアという国を、2011年春、オバマ大統領が率いる米国を先頭にした猛烈な軍事侵攻で壊滅させてしまったからです。

 2005年、名古屋で「愛・地球博」という正式愛称の国際博覧会が開催されました。その時のリビア館の案内文には次の様に書いてあります:

「グローバル・コモン3にあるリビア館が1日、オープンしました。入り口をくぐると、まず砂漠のポスターが目に入ります。国土の90%以上が砂漠であるリビアのテーマは“Yellow and Blue is Green”。砂漠の黄色と水の青。リビアを語るのに欠かせない砂漠と水の関係を、パビリオンで見ることができます。パビリオンの真ん中に大きく展示されているのは、大人工河川計画に使われたパイプの模型。このパイプは4000キロにも及ぶ大規模なもので、映像で工事の様子を見て、リビアの水事情に触れることができます。出口付近では、色鮮やかな刺しゅうや織物など、リビア土産が並んでいます。一通り見た後は、ターバン姿の若者がいれてくれるリビアティーを飲んで、アラビア音楽を聞きながら、一息つくこともできます。」

 名古屋万博の当時、このリビアの誇る治水事業について、リビア政府のもっと詳しい報告を読んだ記憶が私にはあります。4000キロにも及ぶ大規模治水計画は、ほんとに、リビアの国家的誇りであったのです。日本の治水政策の専門の方々もきっと記憶していられると思います。それに今度大雨で決壊した二つのダムについては現地でもその安全性が問題になっていました。そうした事を日本国内では誰も語ってくれませんでした。何故ですか?語られているのは、リビアの石油輸出が滞って、日本のガソリン価格がさらに高騰する心配だけです。その間にも無数の死体が地中海の波間に消えていきます。

<付随文献>

 リビアの洪水については日本語の記事が幾らも見つかります。例を三つ:

https://www.bbc.com/japanese/66805352

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1452Y0U3A910C2000000/

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230913/k10014194291000.html

次のCNNの記事は、普通の災害予報システムが作動していれば、死者は殆ど出ずに済んだだろうと言っています。残念です:

https://edition.cnn.com/2023/09/14/world/libya-floods-un-deaths-intl/index.html

“If there would have been a normally operating meteorological service, they would have issued the warnings and also the emergency management of this would have been able to carry out evacuations of the people and we would have avoided most of the human casualties,” Petteri Taalas, the UN’s World Meteorological Organization (WMO) secretary-general, told reporters in a news conference in Geneva on Thursday.

米国政府の正式言及は次の通り、何という白々しい冷酷さ!

https://www.state.gov/flooding-in-libya/

前回のこのブログで、ウィキペディアの偏向のことを述べましたが、2011年の米欧による猛烈なリビア壊滅軍事侵攻についての次のウィキペディアの記事は偏向とプロパガンダの典型です:

https://ja.wikipedia.org/wiki/2011年リビア内戦

次の記事の後半には、名古屋万博のリビア館の展示の目玉だったに違いない巨大な治水計画のことが説明されています。これこそが、日本の皆さんに、今、是非、思い起こしていただきたいと願うカダフィのリビアのありし日の姿です。この中に「アフリカ合衆国」という文字が、既に、出ています!:

佐山与太郎のどですかでん

https://ameblo.jp/sayamayotarou/entry-11473831693.html

今回の大災害の遠因をなす政治的背景については次の記事が良い参考になります:

https://www.wsws.org/en/articles/2023/09/14/zlnn-s14.html

同じウェブサイトの次の記事もお勧めです:

https://www.wsws.org/en/articles/2023/09/15/glxz-s15.html

<以上>

藤永茂(2023年9月16日)


新しいUSA :The United States of Africa

2023-09-12 11:28:23 | 日記・エッセイ・コラム

 私はその実現に立ち会うことは出来ませんが、これは希望的観測でも夢でもありません。確実に起こることだと考える十分の理由があります。その第一の理由は、今アフリカのサヘール地域で起こっていることの本質が、一連の旧フランス植民地での単なるクーデター騒ぎではなく、アフリカ大陸の一般住民、とりわけ、若者たちの意識の地殻変動的な変化の現れであることです。近頃のソーシャルメディアを通しての若者たちの間の相互接触も大きく貢献していると思いますが、この数年の間に、特に2022年に、数多くのアフリカの運動団体によって遂行された地道な努力の積み上げの結果であるとも言えます。現在、最も表面化している問題点は、ネオコロニアリズの宗主側に魂を売り渡してしまったアフリカ黒人指導者側とその支配に反抗する側との抗争です。ニジェールのクーデター勢力との抗争がその一例です。この問題は、あまり遠くない将来、ルワンダのポール・カガメ勢力とM23によるコンゴ地域からの地下資源収奪とそれに反対する現地の若者を主体とする勢力との激烈な抗争の形を取って世界の耳目をさらう事になりましょう。「実際の状況は複雑だ」と専門家たちは言うでしょうが、ポール・カガメが米国の手先となって、現地のアフリカ人を奴隷として酷使して地下資源を国外に持ち出しているという単純な基本的事実は全く否定の余地はありません。

およそ150年前、ベルギー国王レオポルド二世の私的植民地として始まり、今日までに二千万人に近い現地アフリカ人が犠牲となったコンゴ地方からの自然資源略奪の問題の解決が、新しいUSA誕生の戦いの天王山になることも見通せます。

 現在のニジェールのクーデターを中心とした報道では、例えば、これはサヘール地域のフランスの支配を米国が横取りする動きだと言うような、如何にも穿った見方が示されたりしていますが、奇妙なほど欠落しているのはブルキナ・ファソの過去の歴史と現在の状況についての報道です。いま彭湃として起こっているアフリカ大陸の真の目覚めはトーマス・サンカラを起点としていると、私は考えます。ブルキナ・ファソのトーマス・サンカラについてはこのブログで何度か取り上げました。今回、改めて、ウィキペディアを覗いて見ましたら、トーマス・サンカラと、その朋友であったのにトーマス・サンカラとその部下十二人を殺害してブルキナ・ファソの政権を奪取したブレーズ・コンパオレについてのかなり詳しい記事が出ていましたので、興味のある方はご覧ください。もっとも、ウィキペディアの記事も米国のプロパガンダ機構(CIA)の統制下に入ってしまったようです。ブレーズ・コンパオレも米国に魂を売ってしまったアフリカ人の代表的な人物の一人ですが、ウィキペディアにはそうは書いてありません:

https://www.unz.com/aanglin/the-cia-is-running-wikipedia-wow-what-a-shocker/

しかし、少し探せば、トーマス・サンカラについての信頼できる記事がいくらも見つかります。その一例:

https://libya360.wordpress.com/2022/11/07/thomas-sankara-decolonization-love-and-trust-in-the-people-a-new-humanity-for-ending-oppression/

フランスのネオコロニアリズム政策に対するアフリカのサヘール地域での今回のクーデター騒乱の中核の事件は、2022年9月30日のブルキナ・ファソで起こったクーデターです。それを率いたのは34歳の若いイブラヒム・トラオレ大尉で、10月5日には正式に大統領に就任しました。トーマス・サンカラの治世は1983年から1987年までですから、サンカラが亡くなった時には未だ生まれてもいませんでした。トラオレはサンカラの熱烈な崇拝者で、出来ることなら、自分がサンカラの再来でありたいと願っているのでしょう。サンカラとおなじ赤いベレー帽を被り、サンカラほどイケメンではありませんが、なかなか見栄も良い若大将で、やがて民政への移行も約束しています。

 ブルキナ・ファソの首都ワガドゥグー(Ouagadougou) には、2021年10月に開所した「アフリカの解放と統一のためのトーマス・サンカラ・センター (Thomas Sankara Center for African Liberation and Unity) 」という教育と情宣活動の施設があります。そこでは若い市民たちの教育が盛んに行われているようです:

https://barnard.edu/magazine/fall-2022/revolution-thought-west-africa

センターから発信された次のような記事もあります:

https://libya360.wordpress.com/2023/09/08/55-pan-african-organzations-oppose-sanctions-on-niger/

同じく、センターから発せられた記事:

https://hoodcommunist.org/2023/03/02/the-homeland-or-death-accomplishments-of-the-traore-government-in-burkina-faso/

の中には、The United States of Africa という呼び名が首都ワガドゥグーでは既に広く語られていると書いてあります:

Finally, and perhaps most importantly, the direction of the new administration in Burkina Faso can be measured by its adamant support for the creation of a federation of African states. “The United States of Africa” is a term heard all over the streets of Ouagadougou these days and Prime Minister Kyélem de Tambèla is convinced by the vision. 

この記事の結語の部分に次の文章もあります:

In the short time that President Ibrahim Traoré has been in power, he and his cabinet have demonstrated profound admiration for Thomas Sankara. Sankara, along with the 12 other revolutionaries that were assassinated alongside him, was given proper burials at the Thomas Sankara memorial site on February 23rd, 2023. According to Mousbilla Sankara, Thomas Sankara’s uncle, “[This burial is] the first time I’ve seen Catholics, Protestants, and Muslims perform the same ceremony for corpses. It means that it is a sign of union.” The intimate event was reserved for close family members and friends of Sankara but a large public event is planned for October 15th, 2023, the anniversary of Sankara’s assassination. Sankara’s body had been extracted from his modest makeshift tombstone eight years ago for legal reasons. Now he rests in an appropriate location where Burkinabé, Africans, and people around the world can pay him respect.

ブルキナベというのはブルキナ・ファッソの住民のことです。来月10月の23日、サンカラ暗殺から36年目の記念の日に、大きな記念集会が企画されているようです。私たちも、今は亡きトーマス・サンカラに遠く想いを馳せながら、この日を迎えましょう。

藤永茂(2023年9月12日)


NHK・BSスペシャルに感謝:『無法松の一生』(1943年)

2023-09-02 15:20:52 | 日記・エッセイ・コラム

 

 8月31日午後1時から2時40分までNHKのBSスペシャルで「『無法松の一生』(1943年)―その数奇な運命―」という番組が放映されました。稲垣浩監督、伊丹万作脚本、宮川一夫撮影、主演者は阪東妻三郎、園井恵子、その他・・・。映画そのものの長さは80分、後は今回NHKのスタッフによって新しく作られたドキュメンタリーです。

 1943年といえば、1945年敗戦の2年前、よくぞこの映画を創ってくれたと、遅まきながら、これらの映画芸術家達に尊敬と感謝の気持ちを表明せずには居れません。この映画が、内務省の厳しい検閲とカットの要求に苛まれながら、ともかくも公開された頃、私はそんなことは何も知らず、学徒として動員され、神戸製鋼という会社の門司工場で一生懸命高射砲砲弾の薬莢を作っていました。宿舎で魚の「はらわた」100パーセントのハンバーグのような物を食わされ、ペコペコの空腹だったとはいえ、その苦さ不味さに辟易したことを今もよく憶えています。そんな時に、稲垣さんたちは、この“人間讃歌”を歌い上げたのです。これは見るものの臓腑に染み渡る反戦の歌です。

 映画としても日本映画史上に燦然と輝く名作として一般に讃えられているようで、当然のことです。しかし、私はこのNHKの番組で初めて見ることができました。三船敏郎/高峰秀子出演の1958年のリメークも私の大好きな映画ですが、今回、1943年のオリジナル版で、阪東妻三郎と園井恵子の熱烈なファンになってしまいました。

 しかし、それだけではありません。後半のドキュメンタリーを制作した人達も稲垣さんのチームと同一の高い志を持った芸術家たちです。志もメッセージも全く同じです。想を凝らし丁寧綿密に創り上げられています。NHKが置かれている現在の環境を考えると、この仕事は我々の深い感謝に値します。この1時間40分のプログラムを視聴する手段をお持ちの方々は是非ご覧ください。

私は園井恵子という俳優さんにすっかり惚れ込んでしまいました。国書刊行会という出版社から『園井恵子 原爆に散ったタカラジェンヌの夢』(千和裕之著、2023年)という本が出ています。そのうちに読むつもりです。

藤永茂(2023年9月2日)