「もう、やめにしようじゃないか」と、私は叫びたくなります。米国発の世界的金融混乱で、うまい儲け先を失った投機的資金がアフリカなどの未開発国の広大な耕作可能の土地を買いたたいて、しきりに買い占めているようです。米国、英国に加えて、インド、中国、韓国の名前が挙がっています。私が知らないだけで、日本もやっているのでしょう。英国のガーディアン紙によれば、この6ヶ月間だけでも、2千万ヘクタール(1ヘクタール=1万平方メートル)を超える農耕適地が売られたり、借地契約が結ばれたりしているようです。その広さは、ヨーロッパ全体の耕作可能面積の半分にも及びます。その土地では投資国の必要に応じた農産物が栽培されることになっていますが、それ以前に、跳梁跋扈する国際的投機資金の一儲けの舞台になることは間違いありますまい。名もないアフリカの農民たちが、知らぬ間に足下の土地を奪われ、追い出されるか、奴隷的労働を強いられることになるのでしょう。物質的富を求める人間の強欲には限りというものがないのか。人間の人間に対する残忍さというものは、かくも限りのないものなのか。「もう、やめようじゃないか!」と叫ばずにはおれません。
アメリカ史学者山本幹夫氏の『ジェファソン』の中に、アメリカの「建国の父祖(ファウンディング・ファーザーズ)」の人間的本質を見事に摘出した箇所がありますので、引用させてもらいます。:
■ ここに一通の手紙がある。1786年8月12日、マディソンがジェファソンに宛てて書いたものである。
曰く、「今度のニューヨーク旅行は、もっぱらモンロー大佐とわたしとで練ったモホーク川沿いの土地買収計画によるもので、二人でその土地に往ってみて、すっかりほれ込んでしまった。
土質はケンタッキーとほとんど優劣つけ難いし、大西洋諸州の範囲内にあって、(インディアンのいる)あらゆるフロンティアから安全な距離のところに位置しているうえ、潮水地帯へ航行可能な・・・・ハドソン川の支流に近く、かつ地価がエーカー当り、8~10ポンドの、人口の多い入植地から10~20マイルほどのところにある。
先般、ワシントン将軍と同地方のことを話し合ったが、かれもモンローやわたしと同じ考えで、金の余裕があれば土地登記をやりたいが、あそこは合衆国中で自分の好みに一番の土地だと話していた。
モンローと二人で少々の買い付けをしたが、大きな地所を買い付けられなかったのは、ひとえに、十分な金を用意するのが難しかったからだけのことである。
そこで相談だが・・・・ 次のようなやり方はどうか。貴下の個人的な財力の信用を利用して4000~5000ルーイを借り出す。貴下の保証付きでモンローとわたしが支払いの義務を負う。・・・・ 年賦払いで利子は年6パーセント以内とし、元金償還は8~10年以内とする。・・・・恐らく、貴下が財産を増やす正当な手段として、これほど適切なやり口は他にありえないであろう。・・・・ 金利以上の土地の値上がりによる儲けの見込みについては、われわれは、土地の実質的な価値そのものに内在している高低差などをまるで問題にせず、開拓地と無住地とのあいだの現時点における価格差を念頭に置いているのだ。
同地方の開拓地は、既述のように、エーカー当りは8~10ポンドで取引されているが、この無住地は、少しばかり川の上手で、まだ人が住んでいないというただそれだけのことで差をつけられ、われわれは1ドル50セントで買い付けた。もっと大面積を買い付ければ、値段はもっと下がることは間違いない。同地が他にくらべて安いということは、以上のようなアクシデンタルでかつ一時的な二、三の原因によるものだ。
われわれが目を付けている土地は、主に、大面積を所有しながらも負債を抱えているか、都市に居住しているかして、土地売却よりほかに借金対策が出来ないか、あるいは、資金を要する取引をしているかいずれかの、複数の連中の所有地なのだ。現時点での地価の安さの大きな要因である正貨不足ということもまた、おそらくは一時的なものであろう。・・・・
もうひとつだけつけ加えておきたい。良質の新しい土地、立地条件の良い土地の買収が、かつて冒険者たちに良き報酬をもたらさなかった例はほとんどなかった、と。われわれの決断を決定づけるこれら諸々の見解を付して、このプロジェクトを貴下の前向きの考慮にゆだねるものである。・・・・
親愛なるともにして傾倒者、ジェームズ・マディソンより」と。
これは、アダムズ(第二代大統領)という飛車を欠いだだけの、「建国」将棋における大駒たちの矢倉模様である。ワシントン(初代大統領)とジェファソン(第三代大統領)とマディソン(第四代大統領)とモンロー(第五代大統領)とが、土地の買い占め、地上げと土地転がしの相談をしているさまは、それだけで絵になる。■
信じられますか?これが、あの麗々しい独立宣言を世界に向かって行い、アメリカ合州国の独立に成功した、いわゆる「建国の父祖」たちの実像なのです。これが、人間としての彼等の「たち(質)」なのです。そして、アメリカ合州国という国は、その「建国の父祖」に発する伝統を今日まで脈々と継承してきました。現在、アフリカの格安の土地を買いあさっている大投機屋たちの間でも、「建国の父祖」たちと同じようなやり取りがあっても何の不思議もありません。
去る7月11日(土)、オバマ大統領は、ガーナの首都アクラで、アフリカ全体に向けた講演を行いました。これも「建国の父祖」以来の伝統に則った極めて注目すべき内容ですので、体力が許せば、次回に、詳しく読んでみたいと思います。
藤永 茂 (2009年8月26日)
アメリカ史学者山本幹夫氏の『ジェファソン』の中に、アメリカの「建国の父祖(ファウンディング・ファーザーズ)」の人間的本質を見事に摘出した箇所がありますので、引用させてもらいます。:
■ ここに一通の手紙がある。1786年8月12日、マディソンがジェファソンに宛てて書いたものである。
曰く、「今度のニューヨーク旅行は、もっぱらモンロー大佐とわたしとで練ったモホーク川沿いの土地買収計画によるもので、二人でその土地に往ってみて、すっかりほれ込んでしまった。
土質はケンタッキーとほとんど優劣つけ難いし、大西洋諸州の範囲内にあって、(インディアンのいる)あらゆるフロンティアから安全な距離のところに位置しているうえ、潮水地帯へ航行可能な・・・・ハドソン川の支流に近く、かつ地価がエーカー当り、8~10ポンドの、人口の多い入植地から10~20マイルほどのところにある。
先般、ワシントン将軍と同地方のことを話し合ったが、かれもモンローやわたしと同じ考えで、金の余裕があれば土地登記をやりたいが、あそこは合衆国中で自分の好みに一番の土地だと話していた。
モンローと二人で少々の買い付けをしたが、大きな地所を買い付けられなかったのは、ひとえに、十分な金を用意するのが難しかったからだけのことである。
そこで相談だが・・・・ 次のようなやり方はどうか。貴下の個人的な財力の信用を利用して4000~5000ルーイを借り出す。貴下の保証付きでモンローとわたしが支払いの義務を負う。・・・・ 年賦払いで利子は年6パーセント以内とし、元金償還は8~10年以内とする。・・・・恐らく、貴下が財産を増やす正当な手段として、これほど適切なやり口は他にありえないであろう。・・・・ 金利以上の土地の値上がりによる儲けの見込みについては、われわれは、土地の実質的な価値そのものに内在している高低差などをまるで問題にせず、開拓地と無住地とのあいだの現時点における価格差を念頭に置いているのだ。
同地方の開拓地は、既述のように、エーカー当りは8~10ポンドで取引されているが、この無住地は、少しばかり川の上手で、まだ人が住んでいないというただそれだけのことで差をつけられ、われわれは1ドル50セントで買い付けた。もっと大面積を買い付ければ、値段はもっと下がることは間違いない。同地が他にくらべて安いということは、以上のようなアクシデンタルでかつ一時的な二、三の原因によるものだ。
われわれが目を付けている土地は、主に、大面積を所有しながらも負債を抱えているか、都市に居住しているかして、土地売却よりほかに借金対策が出来ないか、あるいは、資金を要する取引をしているかいずれかの、複数の連中の所有地なのだ。現時点での地価の安さの大きな要因である正貨不足ということもまた、おそらくは一時的なものであろう。・・・・
もうひとつだけつけ加えておきたい。良質の新しい土地、立地条件の良い土地の買収が、かつて冒険者たちに良き報酬をもたらさなかった例はほとんどなかった、と。われわれの決断を決定づけるこれら諸々の見解を付して、このプロジェクトを貴下の前向きの考慮にゆだねるものである。・・・・
親愛なるともにして傾倒者、ジェームズ・マディソンより」と。
これは、アダムズ(第二代大統領)という飛車を欠いだだけの、「建国」将棋における大駒たちの矢倉模様である。ワシントン(初代大統領)とジェファソン(第三代大統領)とマディソン(第四代大統領)とモンロー(第五代大統領)とが、土地の買い占め、地上げと土地転がしの相談をしているさまは、それだけで絵になる。■
信じられますか?これが、あの麗々しい独立宣言を世界に向かって行い、アメリカ合州国の独立に成功した、いわゆる「建国の父祖」たちの実像なのです。これが、人間としての彼等の「たち(質)」なのです。そして、アメリカ合州国という国は、その「建国の父祖」に発する伝統を今日まで脈々と継承してきました。現在、アフリカの格安の土地を買いあさっている大投機屋たちの間でも、「建国の父祖」たちと同じようなやり取りがあっても何の不思議もありません。
去る7月11日(土)、オバマ大統領は、ガーナの首都アクラで、アフリカ全体に向けた講演を行いました。これも「建国の父祖」以来の伝統に則った極めて注目すべき内容ですので、体力が許せば、次回に、詳しく読んでみたいと思います。
藤永 茂 (2009年8月26日)