去る3月14日午後10時からNHKBS1の『国際報道』で「進展は?シリア和平協議再開へ」という特集がありました。最初に2011年初めから次第に激化していったシリア国内の反アサド政権の騒乱で政権側の制圧の暴力的画面が紹介され、続いて、これまで反政府運動の多数の団体の間での連携が良く取れてなかったのが、ジュネーブでの和平協議の直前になって一致団結の機運が高まっているという説明がありました。トルコとの国境に近いアレッポあたりの地図が示されて、その絵に10個ほどの反政府団体のマークが書き込まれ、それらが結束を固めようとしている様子が、NHK特派員の現地特別取材として放映されました。
一般視聴者が受け取る圧倒的な印象は、アサド政権の容赦なき市民弾圧とそれに立ち向かう組織化不十分の反政府シリア国民の苦衷という絵柄でしょう。あまりにひどい偏向番組に呆れて、翌日のシリア特集の続き「シリア・戦争孤児の過酷な現実」は全く見る気を失ってしまいました。アサド大統領の残酷さをことさら強調するためのお涙頂戴番組など見たくはありません。もしも見させてもらえるものならば、このような宣伝番組がどのようなプロセスで出来上がって行くものなのか、現場の人たちがどのような自己嫌悪に耐えてこうした仕事をやっているのか、その鱗片でも見てみたいものです。
NHK記者の取材を受けた反政府勢力の名前の一つは、なになに旅団とか言っていましたが、それは前前回のこのブログに挙げておいた記事:
https://syria360.wordpress.com/2016/03/08/ypg-general-command-statement-regarding-deadly-sheikh-maqsood-attacks/
の中に列挙してある、英語で、battalion とあるものを指しています。
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The factions and battalions that belong to the Syrian Coalition (Islamic Movement of Ahrar ash-Sham, al-Jabha al-Shameea, Brigade of Sultan Murad, Sultan Fatih Battalions, Fa Istaqim Kama Omirt Battalions, Nour ad-Deen Zinki Battalions, 13 Brigade, al-Fauj al-Oal (1st Regiment), 116 Battalion and Abu Omara Battalions), centered in Al-Jandoul rotary, Ristam Basha neighborhood, Bani Zeid, Al-Sakan al-Shababi and Kastello; together they are daily shelling Sheikh Maqsood neighborhood with mortar shells and homemade rockets hell cannons – their snipers are committing most egregious crimes against civilians, women and children, and destroying houses upon its populated civilians.
*****
上の記事にあるシリア連合(Syrian Coalition、あるいは、Syrian National Coalition, SNC)という反アサド政権の勢力連合体の歴史はシリア紛争の初めに戻って語らなければなりませんが、簡単に言えば、アサド政権転覆を目指すトルコが画策したもので、直接的には北イラクのKRGのバルザーニが操っています。エルドアン大統領と北クルディスタンのバルザーニ大統領はイラク北部で産出する石油の商売でも密接な関係にありますし、エルドアン大統領の不倶戴天の敵であるオジャランのPKKに対してもバルザーニ大統領は、テロリストと見做して、敵対の姿勢を取っています。今回、NHK記者が取材したのはSNCの現地下部組織であるSyrian Kurdish National Coalition(ENKS)に属する“旅団”で、実は、驚くべきことに、このENKSという連合体は、クルド人の代表として、ジュネーブでの和平協議に参加資格を獲得しているのです。ですから、ロシアが主張しているのは、このエルドアン大統領の回し者のENKSに加えて、ロジャバのクルド人の代表も出席させるべきだ、ということです。
こういうわけですから、オジャランの教えを体するロジャバのクルド人たち(PYD, YPG, YPJ)とENKSのクルド人たちがうまく行く筈がありません。上に引いてあるウェブサイト記事をお読みになれば、停戦協定を破って、ENKS側がSheikh Maqsood (Şêx Meqsûd)の近郊で、ロジャバのクルド人一般住民に砲火を浴びせてきたことを報じたものです。次の記事は、この事件についてのロジャバのクルド人の女性指導者の一人による言明です。これによると、一般市民に攻撃をかけた部隊にはISも含まれていたようです。それが真実だとすると、ISがエルドアン大統領の手先として働いている場合の実例が、また一つ、得られたことになります。
https://syria360.wordpress.com/2016/03/17/ayse-efendi-ypj-and-ypg-are-the-defense-shield-of-the-people/
実は、この後、シリア北西部のIS支配地域がシリア軍やロジャバ軍によって奪還されるにつれて、敗走した後のIS組織の拠点から、石油取引、負傷兵収容などに関して、トルコとISとの密接な連携を明示する文書が続々発見されています。これらの証拠書類はロシアによって国連に提出されていますから、「もしトルコがISと石油の取引をしているという確かな証拠があれば、私は大統領の席から降りる」と国際的に約束したエルドアン大統領は辞任しなければならないはずですが、勿論、そんな気配はありません。
これは私の個人的推測ですが、今回のブログの始めに言及したNHK特派員の現地特別取材は、エルドアンのトルコ政府が東京のトルコ大使館を通じて持ちかけてきた要請に始まったものであったと思われます。取材が行われた地区と反政府勢力の性格は、そのまま、シリア紛争が直接的にエルドアン大統領によって推進されてきたことを明らかに示しています。もしシリア内の取材地区がトルコとISを含む反アサド勢力の連絡接触地区として使うことが出来なかったとしたら、シリア紛争は始まらなかったでしょう。この戦争が引き起こした悲劇の規模を考えると、やがて、国際法廷が戦争犯罪者としてエルドアン大統領を厳しく裁く日が到来すべきであります。そうでなければ、最近カラジッチに厳しい判決を下した国際法廷は解体されなければなりません。
藤永茂 (2016年3月31日)
一般視聴者が受け取る圧倒的な印象は、アサド政権の容赦なき市民弾圧とそれに立ち向かう組織化不十分の反政府シリア国民の苦衷という絵柄でしょう。あまりにひどい偏向番組に呆れて、翌日のシリア特集の続き「シリア・戦争孤児の過酷な現実」は全く見る気を失ってしまいました。アサド大統領の残酷さをことさら強調するためのお涙頂戴番組など見たくはありません。もしも見させてもらえるものならば、このような宣伝番組がどのようなプロセスで出来上がって行くものなのか、現場の人たちがどのような自己嫌悪に耐えてこうした仕事をやっているのか、その鱗片でも見てみたいものです。
NHK記者の取材を受けた反政府勢力の名前の一つは、なになに旅団とか言っていましたが、それは前前回のこのブログに挙げておいた記事:
https://syria360.wordpress.com/2016/03/08/ypg-general-command-statement-regarding-deadly-sheikh-maqsood-attacks/
の中に列挙してある、英語で、battalion とあるものを指しています。
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The factions and battalions that belong to the Syrian Coalition (Islamic Movement of Ahrar ash-Sham, al-Jabha al-Shameea, Brigade of Sultan Murad, Sultan Fatih Battalions, Fa Istaqim Kama Omirt Battalions, Nour ad-Deen Zinki Battalions, 13 Brigade, al-Fauj al-Oal (1st Regiment), 116 Battalion and Abu Omara Battalions), centered in Al-Jandoul rotary, Ristam Basha neighborhood, Bani Zeid, Al-Sakan al-Shababi and Kastello; together they are daily shelling Sheikh Maqsood neighborhood with mortar shells and homemade rockets hell cannons – their snipers are committing most egregious crimes against civilians, women and children, and destroying houses upon its populated civilians.
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上の記事にあるシリア連合(Syrian Coalition、あるいは、Syrian National Coalition, SNC)という反アサド政権の勢力連合体の歴史はシリア紛争の初めに戻って語らなければなりませんが、簡単に言えば、アサド政権転覆を目指すトルコが画策したもので、直接的には北イラクのKRGのバルザーニが操っています。エルドアン大統領と北クルディスタンのバルザーニ大統領はイラク北部で産出する石油の商売でも密接な関係にありますし、エルドアン大統領の不倶戴天の敵であるオジャランのPKKに対してもバルザーニ大統領は、テロリストと見做して、敵対の姿勢を取っています。今回、NHK記者が取材したのはSNCの現地下部組織であるSyrian Kurdish National Coalition(ENKS)に属する“旅団”で、実は、驚くべきことに、このENKSという連合体は、クルド人の代表として、ジュネーブでの和平協議に参加資格を獲得しているのです。ですから、ロシアが主張しているのは、このエルドアン大統領の回し者のENKSに加えて、ロジャバのクルド人の代表も出席させるべきだ、ということです。
こういうわけですから、オジャランの教えを体するロジャバのクルド人たち(PYD, YPG, YPJ)とENKSのクルド人たちがうまく行く筈がありません。上に引いてあるウェブサイト記事をお読みになれば、停戦協定を破って、ENKS側がSheikh Maqsood (Şêx Meqsûd)の近郊で、ロジャバのクルド人一般住民に砲火を浴びせてきたことを報じたものです。次の記事は、この事件についてのロジャバのクルド人の女性指導者の一人による言明です。これによると、一般市民に攻撃をかけた部隊にはISも含まれていたようです。それが真実だとすると、ISがエルドアン大統領の手先として働いている場合の実例が、また一つ、得られたことになります。
https://syria360.wordpress.com/2016/03/17/ayse-efendi-ypj-and-ypg-are-the-defense-shield-of-the-people/
実は、この後、シリア北西部のIS支配地域がシリア軍やロジャバ軍によって奪還されるにつれて、敗走した後のIS組織の拠点から、石油取引、負傷兵収容などに関して、トルコとISとの密接な連携を明示する文書が続々発見されています。これらの証拠書類はロシアによって国連に提出されていますから、「もしトルコがISと石油の取引をしているという確かな証拠があれば、私は大統領の席から降りる」と国際的に約束したエルドアン大統領は辞任しなければならないはずですが、勿論、そんな気配はありません。
これは私の個人的推測ですが、今回のブログの始めに言及したNHK特派員の現地特別取材は、エルドアンのトルコ政府が東京のトルコ大使館を通じて持ちかけてきた要請に始まったものであったと思われます。取材が行われた地区と反政府勢力の性格は、そのまま、シリア紛争が直接的にエルドアン大統領によって推進されてきたことを明らかに示しています。もしシリア内の取材地区がトルコとISを含む反アサド勢力の連絡接触地区として使うことが出来なかったとしたら、シリア紛争は始まらなかったでしょう。この戦争が引き起こした悲劇の規模を考えると、やがて、国際法廷が戦争犯罪者としてエルドアン大統領を厳しく裁く日が到来すべきであります。そうでなければ、最近カラジッチに厳しい判決を下した国際法廷は解体されなければなりません。
藤永茂 (2016年3月31日)