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漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
http://kampo.no.coocan.jp/

梨木香歩作品覚書

2006-12-26 | 
春になったら苺を摘みに

梨木さんは実際イギリスに住んでいたことがあるそうだ。
その経験が、彼女の原点になっているということがわかる作品。

よその国がすぐ鼻の先にある、そして歴史的にも多くの国と交わってきた、
そんな人々は、日本人とかなり発想が異なる。

「分かり合えない、っていうのは案外大事なことかもしれない」

分かり合えなくても、それをまるごと受け入れてしまおうとする
イギリスの下宿の女主人。
ものさしがまったく異なる人種がたくさんいる。それが世界だ。
無理に理解することなんてできない、だけど分かり合えないから
とりあえず受け入れちゃう。
すごい。
こんな人がたくさんいたら、きっと戦争は起きないだろうと思う。

日本の中だけに暮らしていると異文化に触れることがないので
知らない、わからない
だから、
ただおびえる、または徹底的に排除する
となるに違いない。
いまはやりの「いじめ」もそんな視野の狭さから起こるのかもしれない。


西の魔女が死んだ

昨日、NHKテレビで観た「ターシャからの贈りもの」。
イギリスの山の中でガーデニングに勤しみ、絵本を描きつづける
彼女は、まさにこの物語のにその魔女そのまま。

自然に抱かれ、その中で生活することによって
すべてを受け入れる心の余裕がはぐくまれる。


エンジェル エンジェル エンジェル

ばあちゃんの夜のおしっこの面倒をみるという約束を条件に
コウコは念願の熱帯魚を飼うことに。
だけどエンジェルフィッシュとネオンテトラを一緒の水槽で飼ったら
じわじわと、天使の名にそぐわない恐ろしい結末に・・・

認知症気味の祖母は、時々昔にタイムスリップしているらしく
孫と同年代のように話を交わす。でも「コウちゃん」と祖母が
呼ぶ相手は実は、孫のコウコではなくて・・・
3っつの物語が交差しながら、読み進むうちにどんどん集結してくる

『天使さまは、悪かったねって謝ってくれるかしら・・・』

ちょっとつらい人生を歩んだ祖母のひとこと。


リカさん

リカちゃんが欲しいと頼んだようこに、おばあちゃんから贈られたのは
黒髪の市松人形で、名前がりか。
ところがこの「りかさん」、ようこにしゃべる。テレパシーで伝えてくる。
まるで映画を観ているように、おどろおどろしい場面が文章でばんばん
伝わってくる。
ちょっとやりすぎかな~。










「家守綺譚」梨木香歩覚書

2006-10-13 | 
こんなに文章が楽しくて、何回も読みたい、表現を全部覚えてしまい
たいと思ったのは初めて。

エピソードごとに植物の名前が題名となっている。
目次にずらりと並んだその名前は、花好きにはたまらない。
読み進むうちに季節がゆるりと過ぎてゆく。

日常的な話のなかに、たぬきやきつね、河童や小鬼、そして
死んだ友人も登場し、「隣のおかみさん」のおかげもあって、
その珍現象を日常のこととして受け入れられてしまう。

思いやりとか、受け入れる許容の気持ちとか、はたまた
人としてどう生きるか
などなど、いろいろ感じ入るところが多い。

奇妙な話「奇譚」でありながら、美しい話「綺譚」。


主人公とその飼い犬ゴローとのやり取りが楽しい。
たとえば、

「野菊」から

庭のサルスベリの木にサルが座って物思いに耽っているのをみて

・・・私がびっくりして大声を出したので、場の静寂はあっというまに破られ、サルは塀を越え、退散していった。スベリもせず、身軽なことであった。ゴローはちらりとこちらを見たなり、ためいきをつき、視線を下に落とした。なんだかひどく無粋なことをしたような気になったが、庭にサルがいるのを見て驚かずにおれるものがあろうか。叫んで何が悪い。飼い犬から不当な非難を浴びたような気がして、内心愉快ではない。・・・

「檸檬」から

駅舎を出ようとしたら、雪が降っていた。それも世界を白く塗りつぶさんばかりの降りようで、その中を焦げ茶色の生き物が左から右へ通りかかった。よく見るとゴローである。忠犬よろしく私を迎えに来たのではあるまい。偶々散歩の途中に通りかかったのであろう。ゴロー、と呼ぶと、振り帰りざま、おおっ、という顔をしてお愛想に尻尾を振って見せた。それから、急ぎの用事がありますんで、とでもいうように、こちらを振り返りつつ、すまなそうに去っていった。ゴローに振られたのは初めてだった。ふん、と興がったのも最初のうちだけで、実は少し、気を落としていた。

秋の夜長に笑いが止まらない・・・

 梨木香歩 1959年鹿児島生まれ