漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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澤田瞳子著「若冲」・本当はどんな人だったんだろう

2015-07-23 | 
この表紙、美術本かと思ったら、若冲を主人公にした小説。若冲ファンなら素通りできませんね。



江戸後期、寺やら公家やら商売の大店やらとお金持ちが多く住まう京都には画家も多く暮らしており、伊藤若冲、池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁・・今では超有名な画家たちが、ふつうに登場して、京の通りを歩いているのです。こんな贅沢な物語があるでしょうか。

この物語は歴史的事件や事実の中に、澤田瞳子さんの壮大なフィクションが混じります。
若冲の妻として「お三輪」の自死、その義弟「弁蔵」(後に贋作画家、市川君圭)の若冲への恨み憎しみ、それらを語る妾腹の妹「お志乃」です。
そんな中で苦悩し自分を追い詰める若冲が生み出す絵は、異常なほど緻密、大胆、奇抜でそれは狂気的とも言える・・・

そこまで激しい負の動悸で憑かれたように絵をかくなんて!と物語的には面白くてのめり込みます。

だけど、そんな激しい物語を読んで改めて彼の作品を眺めてみても、
やっぱり、彼の、鳥も虫も花も草も枯れかけた葉さえも、自然が作り出す造形への畏敬の念と生命の感動にあふれた喜びの作品にしか見えない私は能天気なんでしょうか。

物語に登場した作品のいくつか。
南天雄鶏図(動植綵絵)

鳥獣花木図屏風
樹花鳥獣図屏風

石灯籠図屏風

若冲のこれらの作品はどれも思いのほか大きく、押し寄せる迫力に胸を打たれる。
鶏はそれこそ狂気的に緻密ながらも大胆にデフォルメされたこの形や構図が力強い。
樹花鳥獣図屏風と鳥獣花木図屏風は1センチくらいの正方形のマス目を一つずつ色を埋めて描かれた桝目描き
鳥獣花木図は贋作騒動が数年前に巻き起こったが、小説の中では若冲が白象の背に敷物を描くシーンがある。
石灯籠図屏風は石灯籠が点描で面白い。若冲作品にはめずらしく寂寥感がある

動植物を美しいモチーフで描く伝統的な技法から、本草綱目が江戸時代に中国から輸入されて以来、本草学(植物学)が隆盛の中、学術的な動植物の絵が求められるようになり、葉の枯れなども忠実に写し取る生写(しょううつし)という技法が広がったそうで、若冲は生写を学んだ画家だそうです。

澤田瞳子 1977年京都生まれ 歴史学者 小説家
     「若冲」は153回直木賞候補作品(東山彰良著「流」が直木賞獲得)