漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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黒野伸一「幸せまねき」覚書

2010-10-06 | 
「幸せまねき」ね~・・・
こういう、つまらぬ願望とか、すがる気分(失礼)のものを
わざわざ読もうとは思わないひねくれ者だけど、
前回の本「犬身」の次ということもあって、かなり犬づいており
(まあ、そもそも犬は嫌いではない)このカバーにくぎ付けになった。


そしてこの本の内容は、犬好き、猫好きにとっては『イチコロ』モノだ。

登場する中山家は40代の夫、30代後半の妻、その子供は思春期のど真ん中
17歳の娘とイジメで苦しむ小学校5年の息子の4人家族。
家族としては実に微妙な時期で、まさにバラバラに崩壊しつつある。
ここに飼われているのは猫のミケとコーギー犬タロウだ。
そして、
家族の危機の中、結局は、家族を心から大切に思うこの2匹によって
救われる、という物語。考えようによってはちょっと皮肉な話でもある。

気持ちが通じ合わない人間たちが、それぞれ悩み、気持ちが孤立していく中、
なぜか、これまで邪険に扱っていたタロウを、心のどこかで慕う感情が
芽生えてくるのが面白い。

ミケから「ばかな犬」とつぶやかれているタロウは、
家族にどんな扱いを受けようとも、いつもいつも尻尾じゃなくてお尻を振って
うれしさをめいっぱい表現して家族にまとわりつく。
そんな健気なタロウの最後の一撃は、まさに熱血漢だった。
タロウの熱い気持ちに、くーっと泣いた。

あれこれ迷わない、肝心なところがブレない、
いつもまっすぐな気持ちの犬猫を通しているからこそ、そんな大事なことに気づかされる。

黒野伸一 1959年神奈川県生まれ