マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

民藝「静かな落日」を観る

2012年02月25日 | 映画・美術・芝居・落語


 マレーシアから帰国した翌々日の2月14日(火)、新宿サザンシアターで民藝公演「静かな落日」を観て来ました。辛うじて千秋楽に間に合いました。”静かな落日”は作家広津和郎の穏やかな死を象徴しています。
 広津和郎は松川事件の被告たちの文集「真実は壁を通して」を読み、ペン一本で被告全員の無罪を勝ち取る為、裁判闘争を闘いぬいた作家。後世、彼の活動無しに松川事件の無罪判決はなかったとまで言われています。





 作者は吉永仁郎。歴史jの、忘却の彼方にうずもれていた人々の思いを掬いあげ、作品の中に蘇らせる、反骨精神旺盛の戯曲家として有名で、私が観た作品には、噺家円遊を主人公とする「すててこてこてこ」がありました。
 この「静かな落日」は、初演の2001年以来地方巡業を続けてきていました。作品の副題が”広津家三代”とあるように、”松川事件”からの視点の物語では無く、広津家三代にわたる物語ですが、私には、
和郎の娘桃子から見た和郎像、あるいは桃子と和郎の葛藤の物語と思える舞台内容です。


 舞台は、父和郎(伊藤孝雄)亡き後、山積された書物の傍らで本に視線を落とす桃子(樫山文江)を、和郎の友人志賀直也(水谷貞雄)が訪れるところから幕が空きます。和郎は志賀直也とも親交があったのかと、まずは驚かされます。
 戦前、中国との戦雲がきざしてくると、和郎は”散文精神”を説き、時流に流されまいと何も執筆しないばかりか、麻雀や骨董品あさりに明けくれ、母とは別居し家を出て行ってしまいます。娘から見て決して褒められた姿ではない父親です。 
 しかし戦後、松川裁判をペン一本で粘り強く闘う父のうしろ姿に、桃子はだんだんと父への理解と愛情を深めていきます。桃子の思いの変化が丹念に演出され、この芝居の見どころ。この父と娘のおかしくもせつない家族の物語。桃子は病身の父を最後まで支え続けたのでした。


 戦後最大の冤罪事件松川事件については一幕で触れられるだけです。松川事件を”政治闘争”としてではなく、あくまで刑事事件として闘うおうとする姿勢を通じて、和郎の聡明さも浮き彫りにされますが、父と娘の物語を主軸としたことで、味わい舞台となりました。観終わってのほのぼのとした余韻を感じました。男の色気漂う伊藤孝雄と娘らしさが匂う樫山文江。「好きよ、お父さんが好き・・」で幕となりました。民藝の両看板俳優の演技が光る名舞台でした。
 広津家の墓所は谷中霊園内にあるそうで、近々に、散歩の足を少し延ばし訪れて見たいと思います。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。