マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『花咲か』(岩崎京子著)を読む

2009年09月11日 | 読書

 野間児童文芸賞受賞作品の岩崎京子著『花咲か』ー江戸の植木職人ー(石風社)を読みました。
 妻の友人のTさんが「お宅近辺の地名が沢山出てくる物語よ」と貸して下さった本、妻が読了後、同じような事を語って、私に又貸しです。

 著者の岩崎京子さんは児童文学の世界では有名な方の様ですが、私は全く知りませんでした。巻末の解説からの抜書きですが、『岩崎さんは、1922年(大正11年)に東京に生まれ、東京で育った生粋の東京人で、昭和34年短編「鷺」で児童文学協会新人賞を受賞。いまや日本の現代児童文学を代表する作家の一人となりましたが、とりわけ野間児童文芸賞と芸術選奨文部大臣賞を受けた「鯉のいる村」は、動物を素材としに、主としてそのその動物にかかわる人間が描かれている短編集ですが、とくに、それらの人間のなかでも、一種職人気質とでもいえる性格の描写は見事なもので、それはこの「花咲か」にもさらに発展した形でひきつがれていますが・・・
』とあります。

 その「花咲か」、一口で言えば、江戸時代に”お富士さん”(今の駒込富士神社。マーちゃんが毎日通うラジオ体操会場)付近の植木屋に住み込んだ少年が”ソメイヨシノ”の桜を江戸中に咲かせるまでの物語です。
 物語の”筋”は単純ですが、構成はやや複雑です。本物語の主人公の常八少年が書いた覚書を基に、著者がその覚書に書かれている場面や生活を再現します。更にそこで書かれた地名や社会現象などを、現代の視点に立って、例えば「江戸名所花暦」や「駒込富士神社周辺之図説」などで検証するという構成を取っています。著者は江戸時代と現代の二つの視点を持ち、自由自在に時代を行き来します。「江戸重ね地図」の様に、時代をいとも簡単に飛び越えて物語を綴ります。

 植木屋源吉に弟子入りした常八の生活描写から物語りは始まります。植木屋への世界に入って一人前の職人として成長する過程が物語りの中心ですが、常八はじめ親方・先輩達の職人気質独特の気風・性格が丹念に描かれていきます。
 物語は後半で、キク造りが高じて見世物の様な菊人形づくりが流行り、廃れる有様が語られます。やや成人した常八青年の心は何時しか桜に移っていきます。伊豆の山から持ってきた苗から育てたサクラ、著者はこれをソメイヨシノの”源流”と見立て、常八の丹精によって作られた多くの苗、その苗木で江戸中をソメイサクラの花にするという望みを、常八が実行に移しはじめるところで物語は終わります。常八48歳の時です。

 今朝5時に起床、後半部分が特に面白く一気に読み終わりました。妻の友人が語ったように駒込神社近辺の地名が沢山登場して来る部分がとりわけ面白い。常八の住まいは駒込神社裏の植木屋。名主屋敷や妙義坂、神明神社なども登場します。マーちゃんが散歩する個所とも重なり面白さがいや増します。今朝の散歩で名主屋敷を訪ねると、高木と書かれた小さな表札を発見、未だ高木家が続いている事を知りました。
 更に興味を抱いたのは次の件(くだり)です。
 『文化10年、この正月には駒込の名主、富士神社の別当の住職、それから富士講の人びとの肝入りで、江戸堺町の中村座から、松本幸四郎、岩井半四郎、市川海老蔵、中村芝翫などの一行を招いて、お富士さんの境内で歌舞伎狂言をもようした。・・・

 『お富士さんは、古墳の上に、岩や土をもりあげた、高さ15メートルほどの人造富士である。いまは23段の急な石段がついていて・・・』毎日この急な石段の段数を数えながら上るマーちゃんは、そうだ間違いないと頷いたのでした。


          (染井霊園近辺にある石の塔)
 
 


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3 コメント

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土地の歴史 (Kariya)
2009-10-29 08:52:26
 そこの土地が辿って来た歴史のようなものが街に残っていることって、文学や、もちろん美術にも本当に大切で、意味のあることなのだなあと感じました。
 駒込は両親が結婚して最初に住んだ場所で、母が亡くなってから母がしていた昔語りを頼りに何度も歩きまわったことがあり、染井霊園をぬけて巣鴨のほうまで幾度か散歩しました。
 「花咲か」ぜひ読んでみたいと思います。
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花咲かの石の塔もあるんですね。 (シズコ)
2013-09-16 23:41:11
初めまして、シズコと申します。「花咲か」小学校の時母に買ってもらい、妙に大人向けの、どこか悲しい小説だと心に刻まれていました。でも今回、もう一度読み直して、ネットの古書で探し、今注文中です。「花咲か」のブログを書いてらっしゃる方がおられるのが、とても嬉しくてコメントさせていただきました。石の塔もあるのは初めて知りました。ありがとうございました。
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石の塔 (マーちゃん)
2013-09-17 14:59:16
 石の塔は駒込から染井霊園に向かう、長い直線道路の右側にありました。機会がありましたら、尋ねられては如何でしょう。江戸時代、この道沿いに多くの植木屋さんが軒を並べていたそうです。
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