マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『罪の声』(著:塩田武士 出版:講談社)再読

2020年07月11日 | 読書

 本書を3年ほど前に読んだ。「グリコ・森永事件」をモチーフにしたミステリーで、実に面白く、一刻も早く結末を知りたくて読み急ぎ、細部は記憶に残っていなかった。少なくも8月末まで勤務がないことが確定した現在、時間は十分にある。映画化も決まったことだし、じっくり味わおうと再び本書を手に取った。








 主人公は二人いる。一人は京都市内で紳士服テーラーを営む曽根俊也。彼はある日、父の遺品の中からカセットテープと黒皮のノートを発見する。テープを再生すると「ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの・・・」、それは幼いころの自分の声だった。黒皮のノートに書かれた“ギンガ”と“萬堂”からパソコン検索をする。それは31年前、大手製菓メーカーのギンガと萬堂をはじめ食品会社数社が脅迫・恐喝された「ギンガ萬堂(ギン萬事件)」の脅迫犯の音声と全く同じものだった。自分の声だ。疑念は確信に変わって行った。何故自分の声が!
 父の代から親交のある堀田信二にこの事を打ち明け、二人してこの謎を解こうと行動を開始する。(実際のグリコ・森永事件は本書では、ギンガ・萬堂事件となっている)

 もう一人の主人公は大日新聞本社文化部の記者阿久津英士。社会部の企画する「昭和・平成の未解決事件の特集」に応援要員として駆り出された。事件について詳しいことを何も知らない阿久津は当時の2年分の縮刷版を読み込み、かつての現場を歩くことから始めるが何ら新しいネタを掴めないでいた。そんなとき、元社会部次長で「ギン萬事件」を担当し、現在は「大坂大日広告」社長の水島から詳しい資料を見せてもらい、これを頼りに情報蒐集に全力を入れ始める。
 曽根は自分の伯父が犯人の一人ではないかと確信し始め、叔父達が使っていた料亭「し乃」に辿り着く。阿久津も長い取材の果てに「し乃」を知る。かくして二人の軌跡は交差し、真実に近づき始めるのだ・・・。
 
 本書は2016年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位に輝き、第7回山田風太郎賞を受賞した。阿久津の現場での取材活動や水島ノートによってグリコ・森永事件という史実が見事に再現され、臨場感を持って読み進むことが出来た。
 一方、犯人側の家族、とりわけその子どもたちに大きな悲劇が起こっていた。著者がこの物語の構想を得てから相当の年月を要したらしい。熟成された見事な作品で、一読をお勧めしたい。
 映画では曽根役を星野源が、阿久津役を小栗旬が演じる。


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