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詩的断章「椎の木への手紙」







椎の木への手紙





樹齢六百年という時間は
うすぼんやりと想像はできる
いままでの人生の倍で百年
それが六回あると思えば
なんとなく

時間は過去へ一直線に伸びてゐる
わけではなく
高さがあり(十三メートル)
回りがあり(根回り 七メートル)
張りがあり
(根張り 南北十七メートル
東西十四メートル)

必死のいまと
必死のあした
ふと気がつくと
六百年が流れた
働いたなぁ

アメリカ大陸も
世阿弥も流れた
芭蕉も
マルクスも流れた
何度も何度も戦争が流れた

火が流れ
水が流れ
風が流れた
その果てに
名もない俺も流れて
いま
乾いた椎の木肌を撫でてゐる

椎よ 椎よ
しづかな
椎よ
ことばが
愛の実現に使われた
試しがあったろうか

幹の影が西日に伸びて
油蟬が啼いてゐる
帰る家を
作らなきゃな




初出「浜風文庫」





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一日一句(1586)







百日紅赤の翳りのありにけり






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