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詩的断章「55」







55



知らなくていいことを知りすぎたな
こどもたちは完璧に隠れている
物の陰に ビニールハウスに 豚小屋に
知らない幸福がいつまでも続くように
わたしは
消えていこう

知らなくていいことを知りすぎた
渋柿も完熟すれば甘くなって食べられる
たとえば 
そんなことを知りたかった
花水木の真赤な実はいつまでも
渋い だから小鳥はぜったいに食べに来ない
たとえば
そんなことを知りたかった

知らなくていいことを知りすぎたよ
20歳のころ
世界を知りたいと
疼くように強く思った
いまもそうだろうか
55歳の誕生日を前にして自問してみる
不幸になることがわかっていて?

知らなくていいことを知りすぎた
歪んだ地球儀
穴のあいた冬の青空
55歳 知らなくていいことは
もはやなにもない
なにも




初出「浜風文庫」







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一日一句(1328)







小春日のパンツを畳む卓の上






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