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本当に血尿だったのか~4

2007年05月21日 18時15分11秒 | 法と医療
僻地外科医先生からコメントを頂戴しまして、長くなるので記事にしました。

続々・本当に血尿であったのか


コメント頂き有難うございます。僻地外科医先生のご指摘は勉強になります。
ただ、若干の疑問点がございます。

①透析用Wルーメンカテーテルについて:

先生の想定では、血液吸着の為に挿入されたであろうWルーメンの存在を前提とされておられるのであろうと思います。これは事実なのでございましょうか?先生の仰る説明を総合しますと、右大腿静脈(?)に挿入されていた透析用Wルーメンの「カテ先で血管壁を穿通しピンホール大の損傷があった」ということかと思います(同側同部位でなければ、CT像の血腫形成の説明にならないと思いますので)。
仮定として、血液吸着前に挿入されたとされる透析用カテの穿刺を「穿刺1」とし、判決文にもあった午後4時45分頃の中心静脈カテ挿入の為の穿刺を「穿刺2」とします。

a)判決文には穿刺1のことについて一度も記述がない
b)鑑定の記述(「右橈骨静脈にルート確保」の記述は見られた)からも判決で触れられてない
c)穿刺1でブラッドアクセスがあったなら、同側同一血管にCVを入れる意味とは何か(想定し難いのでは)
d)穿刺2の血管損傷の有無について検討され、判決や鑑定で穿刺1を全く問題としないのは疑問
e)ピンホール大の穴が痙攣発作で形成され、10ml/分程度の出血が継続すれば、CT像で約1000ml程度分の血腫が確認できうるのでは
f)判決文(P16)で「カテーテル留置後血尿ないし血腫が生じるまでの間に、痙攣が起きたことを認めるに足りる証拠もない」として被告側主張を退けていることから、もし穿刺1の留置があったのであれば被告側主張は検討され判決中で述べられるはずでは

これら疑問点があるので否定的なのではないかと思えましたが、透析用カテが入っていたという別な情報があるのであれば、判決しか読んでないので私には判りません。少なくとも血管穿刺について、穿刺1の「ミスがあったのか、なかったのか」ということを一度も述べないというのは不自然です。そもそも最初の穿刺時に問題があれば、穿刺2のみで問題の有無を検討したとして「過失がなかった」という結論が出ても、本来的に過失検討の意味がないからです。もし穿刺1が行われていたとすれば、必ずその検討はなされなければならずであり、それが判決文中に一度も記述がない、などということはないのではないかと思えます。


②CT像の血腫について:

これは先生のご指摘のように、若干ながら見られていました。判決文にあったのを見落としておりました。判決文中のP14のH意見書(H医師によるもの)から、次のように書かれておりました。
『膀胱周囲の後腹膜付近に新しい出血に一致する血管外の造影剤の溜まりがあることからすれば、出血部位は上記部位であったと考えられること』

カテ周囲の血腫様の像については解釈が分かれるものの、仮に穿刺2での血管損傷があったにせよ(試験穿刺を行っているなら確実にピンホールより大きな穴(22Gくらい?)が開くのではないかと思います…)、そこからの出血よりも後腹膜の出血の方が主原因であるということを主張するのは可能であるように思われます。


③テオフィリンのPDE阻害作用について:

この記述は誤りを含むものでした。PDE阻害作用は、非特異的作用であるようです。またPDEのタイプは11種発見されていた、ということのようです。

Q4-2 PhosphodiesterasePDE阻害作用とAdenosine拮抗作用

FPJ : Vol. 126 (2005) , No. 2 121-127

論点としては有り得ると思いますが、ペーパー上でのことですので、どう評価されるかは判りません。
アデノシン拮抗作用がどう捉えられるか、というのも、何とも言えないです(血中濃度が高くでも凝集抑制作用はさほどでもないのでは、と言われる可能性はあるかもしれません)。


④現象の説明として

後腹膜血腫については
・外傷がなくても原因不明に起こること
・出血源は不明である場合が多いこと
・出血傾向ではなくても起こること
以上から、カテ挿入に伴う血管損傷の有無には無関係に(後腹膜腔に)「出血し得る」でしょう(H医師の意見書とも整合的です)。
即ち、剖検時の血腫の存在はこれで説明可能(CT像でカテ周囲の血腫は血管損傷であったかもしれませんが)、
というのが私の立場です。
これに、凝固異常の存在(活性炭の影響、テオフィリン中毒?…等々)があれば(ヘパリンも5時10分頃に5000Uをbolusで入れるようですし)、「なお一層止血困難な後腹膜出血」となるのは不思議ではない、ということです。出血を助長する要因が存在したので、大量出血となったのであろうな、と。それがなければ、途中で出血の勢いは弱まっていた可能性はあったのではないかな、と。

血尿については、中心静脈穿刺や腹腔内出血の存在とは無関係に、ミオグロビン尿で説明できます。たとえ横紋筋融解症ではなかったとしても、痙攣後ですので有り得なくはないのでは、と。血管損傷で漏れた血液が”膀胱内に戻って”尿中に出る、という想定よりも説得的です。実際、痙攣を起こすまでは「血尿」は認められていませんでした。
原因薬物はテオフィリンか他薬剤なのかは不明ですが、テオフィリン中毒による痙攣に備えて多分ジアゼパムを痙攣発作前から入れていたと思われます。判決文中P4の争点2において、原告側主張(カテ挿入前に薬を入れておけ)に対して被告側は『挿入以前に相当量の抗痙攣薬が投与されていた』と述べており、午後4時20分より前までに使用されていたのであろうと思われます。そしてP11では、『午後7時頃から全身性の痙攣が見られたが、セルシンの投与により改善した。』と述べられているので、多分、この時以前にもセルシン(ジアゼパム)を使っていたのではないかな、と推測しています(ミダゾラムのような別なベンゾジアゼピン系かもしれませんが)。これも横紋筋融解症(それとも悪性症候群?)のリスクとなっているのであれば、原因薬物を特定できないにせよ、現象の説明としては採用可能であると思います。