電脳筆写『 心超臨界 』

明日死ぬものとして生きろ
永遠に生きるものとして学べ
( マハトマ・ガンジー )

かけがえのない家族 《 カバこそぼくの人生——西山登志雄 》

2024-08-07 | 06-愛・家族・幸福
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東京裁判史観の虚妄を打ち砕き誇りある日本を取り戻そう!
そう願う心が臨界質量を超えるとき、思いは実現する
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  世の中でいちばん大切なものは家族と愛
  ( ジョン・ウッドン )
  The most important thing in the world is family and love.
  ( John Wooden )


◆カバこそぼくの人生―― 東武動物公園初代園長・西山登志雄
韓国図書「中学校教科書選」、多楽院、p14 )

ぼくはカバが大好きである。カバもぼくが好きである。ぼくがキリンを飼っていたら、もう少しスマートだったかな(現在ぼくの体重は70キロ)という気がしないでもないが、ほかの人から「西山さん、カバに似てるね。」なんて言われると、わけもなくうれしくなるのだからしかたがない。

飼育係となって30年、カバとのつき合いは、うちの家内とのつき合いより長い。いつもおどかされ、教えられ、新しい発見の連続だった。ぼくは、最近つくづくカバと出会えてほんとうによかったと思う。「そんなことを考えるようでは、西山さん、あんたも年だね。」こんな声が聞こえないでもないが、カバこそぼくの人生、ぼくはまさしくホモ・ヒポポタマス(カバ的人間)である。

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デカオのふるさとはアフリカのケニアである。首都ナイロビの北30マイルの所にある。ジュジャという町の川で捕えられた。その辺りは、池といわず沼といわず、小さな水たまりまでカバでいっぱいのカバ天国らしい。用心深いカバを生け捕るのに、さんざん知恵をしぼった人間たちは、川の近くに特別のさくを作ることを考えついた。一方からのぞくと、向こうの側に通り抜けられるように見えるさくで、中にカバの好物の牧草が点々としいてあるのだ。それでもカバは、最初は入り口まで来て引き返し、次の日は2、3歩さくの中に入り、といった調子で下見を続け、大きな体が、すっぽりさくの中に入ってしまうには、何日もかかるらしい。デカオもこんなふうにして捕えられたのだが、これと同じようなことが、動物園での引っ越しの時に起こった。ずっと前に、デカオを新しいカバ舎に移すことになった時のことである。大きな木の箱を作って中にえさを入れ、デカオを誘いこもうとしたことがあった。仲良しのぼくがついていたにもかかわらず、デカオが箱に入るのに、なんと10日間もかかったのである。

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デカオとのつき合いで、ぼくがいちばんおどろき、かつ困らされたのは、彼がカバ舎のあちこちにうんちをまき散らすことであった。どういうわけか雄のカバは、水から上がってふんをする。あの短い尻尾を左右にふりながら、プッ、プッ、プッとだしていくのだからたまらない。カバ舎は、壁から天井までうんちだらけ。掃除するぼくは、雌のカバ舎の何十倍かの労力を使って毎日ごしごしやるわけで、いやになるというよりも「よくぞここまで飛ぶものだ。」とあきれ返ってしまったものだ。

言うまでもなく、ふんこそは、すべての動物(人間もだよ)の健康のバロメーターである。快食であれば健康であるのは言うまでもない。それゆえ、われわれ飼育係は、せっせと仕事に励んでいるわけだ。

ところでカバのうんちについて、アフリカの原住民であるアサンデ族の民話にこんな話がある。

昔々、神様が地球上の動物だちを一堂に集めて、すみかを決めた時のこと。でぶで動きの鈍いカバは、その集まりにすっかりおくれてしまった。やっと神様の前に出て「あたしは太っているから水の中にすませてください。」と願い出ると、神様は「おまえはでかいし、水の中にすむことになったほかの動物たちのじゃまになろう。」と首をかしげられた。しかし、あんまりカバがたのむので、かわいそうになった神様は、ほかの動物を傷つけたりしないと約束するならという条件で、水の中にすむことをお許しなった。そこでカバ君、ウンチの時には必ず水から陸(おか)に上がり、「神様、ほらごらんください。あたしゃ魚など全然食べていませんよ。」とうんちをまき散らして、身の潔白を証明し続けているのだというのだ。

ぼくは、あのカバのうんちから、こんなにすてきな話を作り上げた現地の人たちの優しい心根にはほとほと感心した。

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つき合いが長かったせいか、ぼくはカバに対して、多少身びいき的なところがあって、みんなバカだバカだというカバも「いや、なかなかりこうだよ。」と断言している一人なのである。

だいぶ前、ザブコというカバが死んだことがあった。このカバは戦後初めてアフリカから日本に来たカバで、入園以来、17年余りもぼくが苦楽を共にしてきた仲であった。
サンゴの肥立ちが悪くてとうとう糖尿病にかかり、死んでしまったのだが、そのザブコを解剖した時のことである。体重205キロ(これは闘病生活で、ふつうのカバの半分にやせていたため。)、腸の長さ42メートル、また胃は単胃であることがわかった。肝臓はなんと24キロ、心臓10キロと、その図体に全くふさわしいものであった。皮膚の厚さはというと、胸部は皮下脂肪を入れて5.5センチ、しりの部分では8.2センチもあり、ザブコの場合、特別長い注射針を使用したものの、やはり筋肉まで液体が届かず、それも死因の一つになったということがわかった。

ところで、ザブコの脳は、おどろいたことに他の部分の偉大さに比べ、たった6百グラムしかなかったのである。そして、多ければ多いほどよしとされているしわが、全くなく、まるで豆腐の表面のようにのっぺりしていた。

それを見たえらい解剖学の先生がたが「西山さん、カバはやっぱりバカですよ。」と言ってゲタゲタ笑い出した時、ぼくがどんなに腹が立ったか。なるほど、脳重6百グラムといえば、生後2、3カ月の人間の赤ちゃんの脳重とほぼ同じである。そしてカバは人間のように話すこともできなければ、難しい計算もできない。そういう比べ方をすると、バカと言われてもしかたがないかもしれない。だが、しかしである。そのカバの脳みそを前に大笑いをしている人間は、ぼくに言わせれば、そのほうがよっぽどバカに見えた。

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ぼくはカバのお産が始まると、短い時で二十日間、長いと一か月、湿気の多いカバ舎にふとんを持ちこんで、食事以外は人間と接触を断ち、「いつ生むか」と朝から晩までカバのおしりを見てくらすのである。おもしろいもので、そういう生活が続くと自分の感情までカバそっくりになってしまうのか、二つのカバ舎の中間の通路に寝ているぼくは、一つのほうで「ブブブー」「ブブブー」と夜鳴きが始まり、次々カバが連鎖反応を起こして鳴き声をあげていく時など、右から左に伝えるのに、真ん中のぼくがだまっていたのでは伝わらないのではないかという気になって、つい「ブブブー」と言ってしまったこともあった。

カバのお産でおもしろいのは、カバがしっぽから生れるか頭から生れるか、わからないことである。ぼくの体験によれば、しっぽからが六回、頭からが六回、どっちからかよくわからなかったのが六回ある。ほかの陸生ほ乳類では、ライオンでもキリンやサイでも頭から生れるのが正常とされているが、カバの場合は全くカバ流と言えよう。

お産をしたあと、カバは、子供をいつも目の届く頭の周りに置いておく。後ろにいたのでは首が回らないため危険だからである。そして子カバが水中に入ると、親もいっしょに水の中に入って子を守る。これが野生のカバの習性であった。

ところが、上野動物園で育った二代目の江戸っ子カバは、子カバが水に入っても、自分は水に入らない。「あれ、どうするつもりかな。」興味を持ったぼくは、彼女の行動をじっと見ていた。すると、口いっぱいにえさの干し草をくわえてきて、せっせと子カバのいる水の中に落とし始めたのだ。子カバは、水に浮いた草にかくれて、目と鼻だけがちょんと、水の中からのぞいている。「そうか、こいつ、こういう方法で、子供を守るつもりか。」ぼくは、すごいなあと心に叫んだ。なんて細やかな愛情だろう。カバにめためたにほれて、彼らのやることなすことなんでもよく見えて困るぼくだけど、この時もまた、じいんとまぶたが熱くなってしまったのだ。
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