延命の願――坂村真民

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生まれたときから体の弱かったわたしが、父の齢を越えることができたとき、これからの生は余生だと思いました。だから自分のことだけを考えていってはいけない。他の人のために生きる自分というものを見いだしてゆかねばならないと思いました。


◆延命の願

『随筆集　念ずれば花ひらく』
（ 坂村真民、サンマーク出版 (2002/3/13)、p280 ）

わたしの詩に「延命の願」というのがあります。

延命の願

わたしは延命の願（がん）をしました
まず始めは啄木（たくぼく）の年を越えることでした
それを越えることができた時
第二の願をしました
それは子規の年を越えることでした
それを越えた時
第三の願をしました
お父さん
あなたの年齢をこえることでした
それはわたしの必死の願いでした
ところがそれも越えることができたのです
では第四の願は？
それはお母さん
あなたのお年に達することです
もしそれも越えることができたら
最後の願をしたいのです
それは世尊と同じ齢（よわい）まで生きたいことです
これ以上は決して願はかけませんからお守り下さい

という詩です。啄木は二十七、子規は三十五、父は四十一、母は七十三、世尊は八十で亡くなられました。

生まれたときから体の弱かったわたしが、父の齢を越えることができたとき、これからの生は余生だと思いました。だから自分のことだけを考えていってはいけない。他の人のために生きる自分というものを見いだしてゆかねばならないと思いました。しかし他に何一つこれといってできるもののないわたしは、つたなくてもいい、わたしにできる詩を書いて、父母への恩返しをしようと思いました。そういう意味で他の詩人とはちがった生き方をしております。